仲間④
修哉は今までどうやったら佳奈は自分に心を開いてくれるのかということを考えていた。だがそもそもその考え方が傲慢だったのだ。ギャルゲーの主人公のようにかっこよく現れてフラグを積み重ねるなんてことは修哉にはできない。
――だったら俺は俺にできることをするしかないじゃないか。カッコよく凛としてるだけで女の子を魅了する役なんかは他の奴に譲ってやる。どうせそんな完璧になれないんだったらカッコ悪くあがいてやる‼
修哉は今まで佳奈に一方的に心を開かせようとしていた。
そのために明るい自分を、カッコいい自分を演出していた。だがそんなものは佳奈が創っている虚像と同じだ。
自分が真正面から向き合っていないのに相手が向き合ってくれるはずがない。
心の底では分かっていたのかもしれない。
自分がどうしてここまで佳奈に執着するのかを。
だけど認めたくなかった。
自分がそんな不純な動機で佳奈に近づこうしているだなんて。
だが、一度認めてしまうと、急に心が軽くなり、今まで感じていた焦りのようなものも霧消した。
――だからこそ、こっから先は正真正銘本気の双葉修哉だ。
「俺はお前のことがもっと知りたい。お前が何を考えているのか、何を感じているのか、それを知りたいんだ。お前とは正面から向き合える仲間になりたいんだ」
佳奈はわずかに肩を震わせゆっくりと顔を上げる。
「私のこと……?」
「そうだ。お前のことだ。それに……、お前の一人称は佳奈だろ? 俺はそれを媚びてるなんて思わない。だからせめて……、俺の前くらいではそうしろよ」
佳奈の一人称が自身の名前呼びであることはだいぶ前から気付いていた。だが佳奈がそれをしない理由。私という一般的な人称に矯正しようとしているのはその遠慮からだ。自身の名前を一人称にするとそれを媚びていると思って快く思わない人もいる。だから佳奈はそれを矯正しようとしていたのだ。
「俺はお前に対して怒らない。……いや嘘だ。何かしちゃいけないことをしたら怒るかもしれない。だけど怒られない人間なんかいるはずないんだ。完璧な人間なんかいない。だからいくらでも間違えていいんだ。それを糧にして進めばいいだけなんだ。――それに……俺はお前がいくら間違えても、変なことをしても絶対に愛想を尽かしたりしない。絶対だ!」
修哉は自分で何を言っているのか分からなかった。思考が追い付いていない。ただただ無我夢中で心の中をさらけ出してひとしきり叫んだ。
言い終わった後、修哉はかぁっと顔が燃えるように熱を帯びるのを感じた。今度は修哉が俯く番になり、佳奈の方を向けなくなった。
佳奈がどんな顔をしているのだろうか。呆れているのか、怒っているのか、答え合わせをしたいが羞恥によって真っ赤に破裂した思考はそんなことを許さない。
佳奈はくすっと空気が漏れたような声をこぼした。
笑い。
修哉はそれに引きずられるようにして顔を上げた。
「ありがとう」
ただその一言。
修哉の顔をまっすぐと見据えた佳奈の口から発せられた言葉。
頬に残っていた熱は再燃し再び体を焦がす。
「私は、佳奈は……」
そこで言葉を切った佳奈は一度視線を泳がせた後、まっすぐに修哉と視線を合わせた。
「少しだけ前に進める気がするよ」
6
「入るタイミングを逃してしまいましたが、……どうやら万事解決したようですね」
遊技場のドアにもたれかかって一人呟いたアラタは自分の部屋に戻ろうと足を一歩踏み出すがそこで陰から自分を見ている人物に気付いた。
アラタは一瞬逡巡するがそのまま角に隠れている彼女の横を通り抜けた。
「あんた性格悪いわね」
「否定はしませんよ」
彼女の横を通り抜けた時に背中からかけられた言葉。アラタは歩みを止めて冷静に言い返す。
「あんた気付いているんでしょ。私のこと」
「だとしたら?」
「協定を結びましょ」
その言葉に眉を僅かに動かしたアラタは振り返り、腕を組んで壁に寄りかかっている朱音に視線を移す。
朱音は目をゆっくりと動かしてアラタに鋭い眼光を向けると共に口を開いた。
「私はあんたに干渉しない。だからあんたも私に干渉しない」
「なるほど。いいですよ。僕としてもそれは望ましい」
朱音は軽く息を吐いた後、虚空を眺める。
「要領がよくて助かるわ」
「僕も生産性の無い友達ごっこをするのはごめんこうむりたいですからね」
アラタはそう言うと身を翻して再び自室に歩き出す。
「それじゃあまた明日。これからよろしくお願いしますね。神崎朱音さん」
「ええ、末永くどうぞ。上水流アラタ」




