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死にかけのダンジョンコアに拾われたので、清い水から生活インフラ迷宮を始めます  作者: 乾燥しいたけ


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第45話 呼ばれたAランクたち



ーーーーside プロンテラ冒険者ギルド


 プロンテラ冒険者ギルドの朝は、いつも騒がしい。


 依頼板の前で声を張る若手。


 報酬額を見て眉を寄せる中堅。


 酒の匂いを残したまま受付に並ぶ者。


 朝から元気すぎる者。


 朝だからこそ機嫌が悪い者。


 その全部を、受付の職員たちは慣れた顔でさばいていた。


 だが、その朝だけは、受付奥の一室が少し違った。


 机の上に、一通の文書が置かれている。


 差出人は、プロンテラ商業ギルド。


 連名で、清水の迷宮仮受付。


 件名。


【清水の迷宮第5層湯溜まり護衛依頼増加に伴う、Aランク冒険者派遣相談】


 読み上げ役の職員が、文書を開いた。


「清水の迷宮、第5層において湯溜まりを確認。髪、肌、手、爪、匂いの改善効果あり。傷治療、疲労回復、戦闘強化はなし」


 部屋にいた冒険者たちが、微妙な顔をした。


「湯?」


「美容か?」


「第5層まで行って、湯に浸かるのか」


 職員は続ける。


「第5層までの経路には、スチームウルフ、スチームバット、ミネラルクラブ、ロックエイプ、ホットウォーターリザードを確認。奥に門番、ホットスプリングガーディアン。大型人型。胸部コア。蒸気による視界遮断。重打撃。単独交戦不可」


 笑いかけていた空気が、少し変わった。


 湯。


 美容。


 清潔。


 そこだけなら、酒場の噂話で済む。


 だが、門番がいる。


 しかも、単独交戦不可とある。


 Aランクに文書が回ってくる理由としては、十分だった。


 職員は文書をめくる。


「現地対応冒険者として、Bランク剣士クレス、Cランク斥候カティア、Dランク冒険者メリダ、ほか複数名が第5層講習体制を整備中」


 その瞬間だった。


 部屋の扉が、勢いよく開いた。


「クレスさん!?」


 声が大きい。


 朝のギルドの騒音を、さらに上から叩くような声だった。


 飛び込んできたのは、少年だった。


 十六歳。


 軽装の剣士。


 目が明るく、背筋が伸びている。


 まだ顔には幼さが残っている。


 だが、腰の剣、足の運び、踏み込む前の重心は、ただの若手ではない。


 Aランク冒険者、カイル。


 年齢だけを見れば、場違いに見える。


 声の大きさだけを見れば、もっと場違いに見える。


 だが、討伐依頼の達成数、格上相手に食らいつく機転、崩れた戦場で味方を引き戻した救出実績。


 それらが、彼をAランクに押し上げていた。


 未熟ではある。


 だが、弱くはない。


 そして、彼の目は、机の上の文書に釘付けだった。


「今、クレスさんって言ったよな!? 清水の迷宮にクレスさんがいるのか!?」


 職員が眉をひそめる。


「カイル。ここは招集確認中だ。勝手に飛び込むな」


「でもクレスさんの名前があった!」


「だからと言って飛び込むな」


「行きます!」


「まだ説明が終わっていない」


「オレ、行きます!」


 職員は深く息を吐いた。


 その横で、静かな声が落ちた。


「落ち着いて。文書を最後まで読みなさい」


 カイルの後ろから、若い女性が入ってきた。


 黒に近い髪をまとめ、動きやすい装束の上に軽い防具を着けている。


 腰には短剣。


 背には細い杖。


 表情は硬い。


 声は低く、冷たいというより、余計な熱を削ぎ落としている。


 Aランク冒険者、ティア。


 戦闘だけではない。


 回復魔法、補助魔法、防御術、戦場での判断。


 支える力で、彼女はAランクにいる。


 ティアはカイルの肩を片手で押さえ、机から引き離した。


「名前を見ただけで結論を出さないで」


「でもティア、クレスさんだぞ!」


「分かっているわ」


「クレスさんがいるなら行くに決まってるだろ!」


「決まっていないわ」


「決まってる!」


「決まっていない」


「決まってるって!」


 ティアは少しだけ目を細めた。


「カイル」


「……はい」


 カイルはすぐに姿勢を正した。


 ティアの声は大きくない。


 だが、刺さる。


「あなたはAランクよ。だからこそ、文書を読まずに走るのはやめなさい」


 カイルの顔が、少しだけ不満そうになる。


「読めばいいんだろ」


「違うわ。読むだけではなく、何を求められているか考えるの」


 ティアは文書を指で叩いた。


「これは強い魔物を倒して終わる依頼ではない。貴族や商人を第5層へ連れて行く護衛体制の確認よ。戦闘力だけでは足りないわ」


 カイルは口を開いた。


 閉じた。


 また開いた。


「でも、門番がいるなら倒す必要があるだろ」


「それはそう」


「じゃあオレも役に立つ」


「役には立つわ。でも、役に立つことと、勝手に動いていいことは違う」


「勝手に動かないって」


 ティアは黙ってカイルを見た。


 カイルは少し目を逸らした。


「……たぶん」


「そこが問題なの」


 職員が文書を整えながら言った。


「今回の派遣候補は三名だ。ラハル殿、ティア殿、カイル。全員Aランクとして打診が来ている」


 カイルの顔が明るくなった。


「ほら! オレも入ってる!」


「入っているからこそ、落ち着けと言っている」


 ティアが即座に言う。


「あなたは戦闘力でAランクになった。討伐依頼の達成頻度も高い。格上相手の機転もある。戦場で人を救った実績もある。でも、護衛対象を連れて撤退判断をする依頼は、あなたの得意な形とは違う」


 カイルは唇を結んだ。


 認めたくない。


 でも、否定もできない。


 彼は前へ出る。


 誰かが危なければ飛び込む。


 それで救った命もある。


 だからAランクになった。


 だが、誰かを連れて引き返す判断は、まだ上手くない。


 彼自身も、それを薄々分かっている。


「……分かってる。考えなしだった。でも、クレスさんがいるなら、見たいんだ」


 ティアは少しだけ目を伏せた。


「それは依頼理由ではないわ」


「でも、オレの理由だ」


 カイルは文書を指さした。


「オレ、クレスさんに憧れて冒険者になったんだ。あの人がいる場所で、すごいことが起きてるなら、見ないなんて無理だろ」


 部屋が一瞬、静かになった。


 カイルの声は大きい。


 考えは浅い。


 勢いが先に走る。


 だが、その目だけはまっすぐだった。


「それに、納得いかないんだよ」


 カイルは文書の一文を指で叩いた。


「なんでクレスさんがBランクなんだよ。おかしいだろ。オレ、まだあの人に勝てない。全然勝てない。なのに、文書だとBランクって書いてある。そんなの違うだろ」


 ティアは少し黙った。


 職員は困った顔をした。


「ランクは、戦闘能力だけで決まるものではない。依頼実績、活動記録、ギルドとの関わり方、本人の希望も関わる」


「分かんないよ、そんなの」


 カイルは首を振る。


「強い人が、ちゃんと強いって見られてないなら、嫌だ」


 ティアが静かに言った。


「あなたの気持ちは分かる。でも、感情だけでランク制度は動かないわ」


「制度が間違ってることだってあるだろ」


「あるわ」


 その答えに、カイルは少し驚いた。


 ティアは続ける。


「でも、間違っているかどうかを確かめる前に走るなら、あなたも間違える」


 カイルは黙った。


 そこへ、部屋の外から重い足音が響いた。


 がしゃん。


 がしゃん。


 金属の塊が歩いてくるような音。


 扉の前に、巨大な影が落ちた。


「はっはっは! 朝から若造の声が響いておると思えば、やはりカイルか!」


 入ってきたのは、巨大な鎧だった。


 いや、鎧をまとった老人だった。


 重厚な肩当て。


 分厚い胸甲。


 背には巨大な戦槌。


 左腕には、扉のような大盾。


 顔の半分は兜の影に隠れているが、白い髭と大きな笑い声だけで、場の空気を押し返す。


 Aランク冒険者、老騎士ラハル。


 城門が歩いてきたような男だった。


「ラハル様」


 ティアが軽く頭を下げる。


 カイルは目を輝かせた。


「ラハルさん! クレスさんが清水の迷宮にいるんです!」


「聞こえておったわ」


 ラハルは机の前に立ち、文書を覗き込む。


 その指は鉄籠手に包まれており、紙を破らないか受付職員が一瞬ひやりとした。


「ふむ。第5層。湯溜まり。門番。護衛依頼。……ほう」


 ラハルの視線が、一つの名前で止まった。


「カティアもおるではないか」


 その声が、少しだけ柔らかくなる。


 ティアが横目で見る。


「お知り合いでしたね」


「知り合いどころではない。あの跳ねっ返りは、昔からよく噛みついてきてな。わしの盾の陰から飛び出そうとして、何度首根っこを掴んだことか」


 ラハルは豪快に笑った。


「今も元気に噛みついておるなら結構!」


 カイルが身を乗り出す。


「じゃあ、行きますよね!」


「行く」


「ですよね!」


「カティアがおるなら顔を見ねばならん。クレスもおる。門番もおる。湯もある。これで行かぬ理由を探す方が難しいわ!」


 職員が眉間を押さえた。


「皆さん、依頼内容の確認を」


 ラハルは胸を張る。


「確認しておる。護衛判断、撤退判断に優れたAランクを求む、であろう?」


「ええ」


「ならば、わしの盾が要る」


 ラハルは大盾を軽く叩いた。


 鈍い音が部屋に響く。


「味方の前に立つ者が必要なら、わしが行こう」


 ティアは文書をもう一度読む。


「私も行くわ。回復、補助、防御、視界阻害への対処。第5層の内容を見る限り、術者がいた方がいい」


 カイルも即座に言う。


「オレも行く!」


 ティアが見る。


「あなたは、行く前に条件を確認する」


「またかよ」


「またよ」


 ティアは指を一本立てる。


「一つ。勝手に前へ出ない」


「……はい」


「返事が遅い」


「はい!」


「二つ。クレスさんの前で見栄を張らない」


「それは」


「張らない」


「……はい」


「三つ。護衛判断に従う。撤退命令が出たら従う」


「でも、誰かが危なかったら」


「従う」


 カイルは唇を噛んだ。


「それで助けられなかったら?」


 ティアの声が少しだけ低くなる。


「あなたが勝手に飛び出して、助ける相手を増やす可能性もあるわ」


 カイルは黙った。


 その言葉は刺さった。


 彼はまだ、そこに弱い。


 困っている人がいたら助けたい。


 危険でも行きたい。


 それで本当に助けてきた。


 でも、そのせいで誰かに尻拭いをさせる可能性もある。


 Aランクになっても、そこは消えていない。


 ラハルが静かに言った。


「よいか若造。逃げるなとは言わん。だが、背を向ける理由だけは間違えるな」


 カイルがラハルを見る。


「背を向ける理由……」


「仲間を置いて逃げるためなら恥だ。だが、仲間を生かして戻すために退くなら、それは盾の役目よ」


 ラハルは自分の盾を軽く叩いた。


「英雄とは、前へ出る者だけではない。戻る道を残す者でもある」


 カイルは黙って、その言葉を飲み込んだ。


 ティアが少しだけ表情を緩める。


「それを見に行くなら、意味はあるわ」


 カイルの顔が、ぱっと明るくなった。


「じゃあ、行っていいんだな!」


「あなたはすでにAランクとして招集候補に入っているわ。問題は、行けるかではなく、どう行くかよ」


「どう行くか?」


「Aランクらしく」


 カイルは少し黙った。


 それから、真剣な顔で頷いた。


「分かった。オレ、ちゃんと見る。クレスさんの戦いも、第5層も、護衛のことも」


 ティアは頷く。


「ならいいわ」


 職員は文書に三名の名前を書き込んだ。


「派遣候補、ラハル殿、ティア殿、カイル。三名ともAランク。清水の迷宮側へ事前通知を出します」


 ラハルが豪快に笑う。


「よし!」


 カイルも拳を握る。


「よし!」


 ティアは二人を見て、小さく息を吐いた。


「声が大きい」


 カイルとラハルが同時に言った。


「すまん!」


「すまぬ!」


「余計に大きいわ」


 職員は少しだけ笑いをこらえた。


 ティアは文書をもう一度読んだ。


 その中の一文で、指が止まる。


「湯溜まり効果。髪、肌、手、爪、匂いの改善」


 カイルが首をかしげる。


「ティア?」


「何でもないわ」


 ティアはすぐに文書を閉じようとした。


 だが、カイルが覗き込む。


「今、ちょっと気になっただろ」


「気になっていないわ」


「髪とか?」


「任務に関係する効果を確認しただけよ」


「手荒れとか?」


「術者の手の状態は、魔法行使にも関わる場合があるわ」


「爪とか?」


「それ以上からかわないで。任務に戻るわよ」


 カイルはにやっとした。


「やっぱり気になってる」


 ティアの視線が低温になる。


「カイル」


「はい、黙ります」


 ラハルが腹を抱えるように笑った。


「よいよい! 若い者が湯に興味を持つのは自然なことよ!」


「ラハル様」


 ティアの声がさらに低くなる。


「おっと、わしも黙ろう」


 巨大な鎧の老騎士が素直に黙った。


 カイルはそれを見て、小さく笑った。


 職員は出発準備の紙を取り出した。


「出発は明朝。商業ギルドの馬車で途中まで、その後は乗合馬車を使います。ラハル殿の鎧と装備は別車両です」


 ラハルが豪快に笑う。


「わしの鎧は馬より重いからな!」


「笑い事ではありません」


 職員が真顔で言う。


 カイルは文書を見つめていた。


「清水の迷宮か……」


 その声は、もう半分どこかへ走り出している。


「クレスさん、驚くかな」


 ティアが言う。


「驚く前に、あなたが叱られるかもしれないわ」


「えっ、なんで」


「クレスさんの名前を見ただけで、扉を開けて飛び込んできたから」


「それは、もう反省した」


「本当に?」


「……少し」


「少しなのね」


 ラハルが大盾を持ち上げる。


「わしはカティアの顔を見るのが楽しみだ。あの娘、少しは素直になったかのう」


 部屋にいた職員が微妙な顔をした。


 カティアという名前と、素直という言葉が結びつかなかったのだろう。


 ティアも少しだけ首を傾げる。


「カティアが素直になる姿は、想像しにくいです」


「そこがよいのだ」


 ラハルは満足そうだった。


「強く出られぬ相手が一人くらいいた方が、若者は丸くなる」


 カイルが言う。


「カティアさんって、そんな人なんですか?」


「噛みつく短剣だ」


「えっ」


「だが、根は悪くない。噛みつき方を知っておるだけだ」


 ティアが静かに頷いた。


「分かる気がします」


 カイルは首をひねった。


「よく分かんないけど、強そうだな」


「強いわ」


 ティアが短く答える。


「そして、あなたより迷宮での判断は上よ」


「うっ」


「学びなさい」


「はい」


 カイルは素直に頷いた。


 クレスの名。


 カティアの名。


 第5層。


 湯溜まり。


 ホットスプリングガーディアン。


 貴族護衛。


 文書の中の言葉が、彼の胸で全部、冒険の形になっていた。


 ティアはそれを見て、少しだけ不安そうに目を細める。


 ラハルはそれを見て、楽しげに笑う。


 職員は、頭痛をこらえる顔で出発準備の紙を書き始めた。




 翌朝。


 プロンテラ冒険者ギルドの前には、二台の馬車が止まっていた。


 一台は人を乗せる馬車。


 もう一台は、荷と装備を積む馬車。


 ラハルの鎧と盾と戦槌が積まれた荷台は、それだけで一つの小さな武器庫のようだった。


 通りが少しざわつく。


「あれ、ラハル殿か?」


「Aランクの?」


「どこへ行くんだ」


「清水の迷宮らしい」


「水の迷宮か?」


「今度は湯が出たって話だ」


「湯?」


「あのカイルも行くぞ」


「本当だ」


「若いのにAランクの?」


「救出屋みたいに戦場を走るやつだろ」


「無茶ばかりするって聞いたぞ」


「でも助けられた奴も多い」


 カイルはその声を聞こえないふりをした。


 聞こえていないわけではない。


 無茶。


 若い。


 勢いだけ。


 そう言われることには慣れている。


 でも、助けられた奴も多い。


 その言葉だけは、少しだけ胸に残った。


 ティアは荷物を確認しながら言う。


「出発前から体力を使わないで」


「平気だって」


「平気と言う人ほど、道中で眠るわ」


「寝ない!」


「寝るでしょうね」


 ラハルが鎧姿で現れた。


 朝日を受けた巨大な鎧が、通りに重い影を落とす。


「待たせたな!」


 馬が少し怯えた。


 御者も少し怯えた。


 ラハルは大笑いする。


「はっはっは! 安心せい、馬よ! わしは敵ではない!」


 ティアが静かに言う。


「馬には伝わっていません」


「心で伝えるのだ」


「荷台に乗ってください」


「うむ!」


 ラハルが荷台へ上がると、馬車が少し沈んだ。


 職員が顔をしかめる。


「車軸、大丈夫か」


 御者が真剣に確認する。


「多分」


「多分で出発するな」


 カイルは空を見上げた。


 青い空。


 遠くへ続く道。


 その先に、クレスがいる。


 憧れた背中がいる。


 そして、自分がまだ知らない迷宮がある。


「オレ、行くよ」


 カイルは小さく言った。


 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。


 クレスへか。


 自分へか。


 まだ見ぬ清水の迷宮へか。


 ティアはその声を聞いていた。


「行くだけでは駄目よ」


「分かってる」


「見て、考えて、戻るの」


「うん」


「そして、勝手に走らない」


「……うん」


「返事が少し遅いわ」


「走らない!」


 ラハルが荷台から声を上げる。


「若造! 走るなら、まず誰の後ろを守るか考えろ!」


「はい!」


 カイルは大きく返事をした。


 その声に、通りの人々が振り返る。


 ティアは少しだけ額に手を当てた。


「声が大きい」


「ごめん」


「でも、悪い返事ではないわ」


 カイルは笑った。


 ティアは馬車に乗る。


 ラハルは荷台で盾を抱える。


 カイルは最後に乗り込み、もう一度だけ冒険者ギルドを振り返った。


 平凡な朝。


 いつもの街。


 いつもの依頼板。


 でも、彼の胸はもう、清水の迷宮へ向かっていた。


 馬車が動き出す。


 車輪が石畳を鳴らす。


 プロンテラの門が近づく。


 カイルは前を見た。


「クレスさん、待っててください」


 ティアが隣で言う。


「待っているとは限らないわ」


「それでも行く」


「そう」


 ラハルが後ろで笑った。


「よい顔だ、若造!」


 馬車は門を抜け、清水の迷宮へ続く道へ入った。


 Aランクの老騎士。


 Aランクの支援術士。


 そして、若すぎるAランクの少年。


 三人を乗せた馬車は、水の噂が流れる方へ進んでいく。


 清水の迷宮が、次に呼び寄せたのは、憧れと責任と古い騎士道を背負った者たちだった。


後書き

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回はAランク冒険者側の話でした。

若く未熟でも実績を積んだカイル、冷静なティア、豪快な老騎士ラハルが清水の迷宮へ向かいます。


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