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死にかけのダンジョンコアに拾われたので、清い水から生活インフラ迷宮を始めます  作者: 乾燥しいたけ


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第28話 戻る判断は外でも



 琥珀の雫を積んだ荷馬車は、宿場町へ向かっていた。


 荷馬車といっても、積み荷は少ない。


 革箱一つ。


 その中に、封をされた琥珀色の小瓶。


 琥珀の雫。


 酒に類する高品質嗜好品。


 正式鑑定のため、宿場町を経由してプロンテラへ送られる予定の品だ。


 護衛はザック組。


 片手斧のザック。


 弓使いのユーリ。


 盾役のゴート。


 それに、宿場町から来た使者と、酒を扱う宿屋の男バルムが同行している。


 街道は、普段ならそこまで危険な道ではない。


 ルスカ村と宿場町をつなぐ、荷馬車が通れる程度の道。


 左右には森があり、ところどころに低い茂みがある。


 雨が降ればぬかるむ。


 乾けば土埃が立つ。


 どこにでもある、田舎の街道だった。


 だが、その日の森は少し静かだった。


 鳥の声が少ない。


 風の音が、葉の間を抜ける。


 ユーリが弓を軽く握った。


「ザック」


「ああ」


 ザックも気づいていた。


 森の奥に、何かがいる。


 姿は見えない。


 だが、視線を感じる。


 ゴートが荷馬車の横へ寄った。


「止めるか?」


 ザックは街道の先を見る。


 宿場町までは、まだ少し距離がある。


 ここで止まれば、森から囲まれる。


 進めば、開けた場所に出られる。


「止めない。速度を上げる。ユーリ、左を見ろ。ゴート、荷馬車側」


「了解」


 バルムが革箱を抱えるように座り直した。


「おいおい、何だ」


「森狼かもしれねえ」


 ザックが短く答える。


 バルムの顔が引きつった。


「それ、荷馬車で会いたくないやつだな」


「俺たちも会いたくない」


 その時、左の茂みが揺れた。


 灰色の影が一つ。


 森狼。


 魔力を帯びた狼型の魔物。


 一頭ならEランクの冒険者複数で対処できる。


 だが、森狼は一頭で狩らない。


 群れる。


 そして、荷馬車や子ども、疲れた旅人を狙う。


 ユーリの矢が飛んだ。


 森狼の足元をかすめる。


 当てるためではない。


 牽制だ。


 森狼は茂みの中へ下がった。


 だが、逃げたわけではない。


 見ている。


 数を測っている。


 ザックは歯を食いしばった。


「追うな。荷馬車優先」


 ゴートが頷く。


「同感だ」


 森の奥で、低い唸り声がいくつも重なった。


 ザックは叫ぶ。


「走れ!」


 荷馬車が速度を上げる。


 車輪が土を噛む。


 ごとり。


 ごとり。


 ごとり。


 森狼の影が、しばらく並走した。


 しかし、開けた道に入ると、それ以上は追ってこなかった。


 荷馬車は無事、宿場町側の見張り小屋までたどり着いた。


 だが、ザックはそこで息を吐くより先に、宿場町の使者へ言った。


「早馬を戻せ」


「ルスカ村へですか」


「ああ。街道脇に森狼の群れがいる。数は少なく見積もっても六。多ければ十近い。プロンテラから鑑定人が来るなら、同じ道を通る」


 使者の顔が青くなる。


「分かりました」


 ザックは森の方を見た。


 追い払っただけだ。


 倒していない。


 そして、森狼は一度荷馬車を見た。


 次も狙う可能性がある。






 早馬が清水の間へ戻ってきたのは、昼前だった。


 清水の間では、第1層の新しい導線に人々が少しずつ慣れ始めていた。


 水汲みは左。


 冒険者の準備は右。


 報酬確認は奥の石机。


 商人や使者の相談は、さらに奥の石席。


 人は多い。


 だが、昨日より流れはましになっている。


 フィンが水場の横で靴紐を結び直していた。


「床の形ってすごいですね。みんな自然に分かれてる」


 マイラが記録板を抱えたまま頷く。


「人間は、分かりやすい道があると従う」


 サナが短く言う。


「従わない人もいる」


 リオが周囲を見る。


「そういうのは、たいていカティアさんに止められる」


 そのカティアは、琥珀水紋門の近くで腕を組んでいた。


 目が合ったフィンが、すぐ背筋を伸ばす。


「何もしてません」


「何かする前の顔だった」


「顔で止められる時代」


 そこへ、早馬の使者が駆け込んできた。


 息を切らし、革筒を仮受付の職員へ差し出す。


「宿場町側より急報です!」


 清水の間が静まる。


 仮受付の職員が封を切り、顔色を変えた。


「街道脇に森狼の群れ。琥珀の雫を運ぶ荷馬車は宿場町側へ到達。被害なし。ただし、森狼の群れが荷馬車を追跡する動きを確認」


 ざわめきが広がった。


「森狼?」


「街道に出たのか?」


「鑑定人が来る道だろ?」


 クレスが使者を見る。


「数は?」


「ザックさんの報告では、少なくとも六。多ければ十近いと」


 カティアの顔が険しくなる。


「群れだな」


 メリダが石席から立ち上がる。


「荷馬車を狙うなら、味を覚える前に確認した方がいいねえ」


 リオが一歩前へ出た。


「行きます」


 即答だった。


 サナも、フィンも、マイラも、ニーナも、同じように前を向いている。


 クレスは彼らを見た。


「討伐に行くのではない」


 リオは口を閉じた。


 クレスは続ける。


「まずは街道確認だ。足跡、数、移動方向、巣か狩り場が近いか。必要なら一部を追い払う。だが、群れの本隊を見つけても深追いしない」


 カティアが言う。


「分かってるか。目的は英雄ごっこじゃねえ。情報を持って戻ることだ」


 フィンが骨笛を確認した。


「偵察、帰還、報告」


 マイラが頷く。


「怪我をしても、ライトヒールを使うかは状況次第。森の中で魔力を使い切らない」


 ニーナは杖を握る。


「魔法も、撃つことより散らさないことを優先します」


 サナが短く言う。


「追わない」


 リオは息を吐いた。


「森狼を見ても、追わない。目的は確認と帰還」


 カティアが頷く。


「よし。あたしが後ろにつく。だが、基本はお前らで判断しろ」


 フィンが少し緊張した顔になる。


「カティアさんが後ろにいると、すごく安心で、すごく怖いです」


「正しい」


「正しいんだ」


 クレスはリオたちを見る。


「清水の迷宮で学んだことを、外で使ってこい」


 その言葉に、リオたちは一斉に頷いた。






 黒い水膜の内側で、俺はその様子を見ていた。


「外の魔物か」


『森狼ね』


「迷宮内の魔物と違って、生き物寄りなんだよな」


『ええ。空腹なら襲う。群れなら測る。失敗すれば逃げ、成功すればまた来る』


「嫌なリアルさだ」


『外とはそういうものよ』


 俺は水膜の向こうのリオたちを見る。


 迷宮の中なら見える。


 清水の間なら分かる。


 でも、外に出た彼らは、俺の目から離れる。


 清水の迷宮は、街道までは届かない。


 森狼と戦う彼らを、俺は直接助けられない。


「……ちょっと落ち着かないな」


『何が?』


「迷宮で訓練したやつらが、外に行く。こっちは見てるしかない」


『迷宮は外の森まで手を伸ばせないもの』


「分かってる」


『でも、迷宮で育てた判断は、外へ持っていけるわ』


 ヴェルティアの声は静かだった。


『第2層で足元を見た。第3層で戻る道を見た。第4層で欲を置いた。その判断が本物なら、森でも死ににくい』


「……そうだな」


 俺は少しだけ息を吐いた。


「行って帰ってこいよ、みんな」


 もちろん、声は届かない。


 でも、水音だけは、いつも通り清水の間に響いていた。






 街道脇の森は、湿った匂いがした。


 リオたちは、荷馬車が森狼に追われたという地点の手前で足を止めた。


 先頭はフィン。


 少し後ろにリオとサナ。


 中央にマイラとニーナ。


 一番後ろにカティア。


 ただし、カティアは口を出さない。


 見ている。


 その視線の圧だけで、フィンの背中が少し伸びていた。


 フィンはしゃがみ、土を見る。


「足跡、あります」


 リオも覗き込む。


 土に残った獣の足跡。


 普通の狼より大きい。


 爪の跡が深い。


 フィンは周囲を見た。


「一頭じゃない。こっちに三、向こうに二。あと、潰れてる足跡があるから、もう少しいるかも」


 サナが短く言う。


「少なくとも五」


 フィンが頷く。


「少なくとも五。たぶん七以上」


 ニーナが森の奥を見る。


「魔力の気配、薄くあります。でも散っています」


 マイラが言う。


「群れが広がってる?」


「はい。固まってはいません」


 リオは槍を握った。


「追えば、巣の場所が」


「目的」


 サナが短く言った。


 リオは止まる。


「街道確認、帰還、報告」


「そう」


 フィンは木の枝に引っかかった灰色の毛を見つけた。


「こっちに走ってます。荷馬車を並走して、開けた場所で止まった感じですね」


 マイラが記録する。


「荷馬車への追跡行動あり。開けた場所で追跡停止」


 ニーナが小さく言う。


「森の中では強いけれど、開けた場所は避けた?」


 フィンが頷く。


「たぶん。群れで囲むなら森の中の方が有利です」


 リオは街道の先を見た。


「鑑定人の馬車が通るなら、ここは危ないな」


 サナが森の奥を見た。


「まだ近い」


 その瞬間、フィンが手を上げた。


 全員が止まる。


 ぴたり、と。


 第3層で覚えた停止。


 第4層で磨いた停止。


 外でも、体が反応した。


 森の奥で、低い唸り声がした。


 一つ。


 いや、二つ。


 フィンは骨笛を口に当てた。


 ピー。


 一回。


 停止。


 全員が姿勢を低くする。


 茂みの間から、灰色の影が現れた。


 森狼。


 一頭は正面。


 もう一頭は左側。


 挟むつもりだ。


 リオが槍を構える。


 サナは左へ半歩ずれる。


 マイラはニーナの位置を確認した。


 ニーナは杖を握ったが、すぐには唱えない。


 森狼が動いた。


 正面の一頭が低く跳ぶ。


 リオが槍の柄で受ける。


 牙が木を噛む音。


 その瞬間、サナが左へ踏み込み、もう一頭の進路を塞いだ。


 斬るのではなく、止める。


 フィンの矢が飛ぶ。


 左の森狼の肩をかすめた。


 森狼が低く鳴く。


 ニーナが短く息を吸った。


「エアブラスト!」


 風が正面の森狼の鼻先を叩いた。


 吹き飛ばすほどではない。


 だが、一瞬、姿勢が崩れる。


 リオはそこで踏み込もうとした。


 サナが言う。


「深い」


 リオの足が止まった。


 踏み込みすぎれば、茂みの中へ入る。


 森狼の得意な場所だ。


 リオは槍を突き出すだけにした。


 森狼の前脚を浅く裂く。


 正面の森狼が下がった。


 左の森狼も距離を取る。


 追えば倒せる。


 リオの顔に、その考えが浮かんだ。


 だが、フィンが笛を鳴らした。


 ピー、ピー。


 二回。


 撤退。


 リオは舌打ちしかけて、飲み込んだ。


「戻る」


 サナが頷く。


「戻る」


 マイラが言う。


「ニーナ、魔力残量?」


「問題ありません。でも、奥に気配が増えています」


 フィンが森の奥を見る。


「本隊が近いです。今の二頭、誘いかもしれない」


 カティアが後ろで言った。


「続けろ」


 それだけだった。


 助けない。


 指示もしない。


 でも、見ている。


 リオたちは後退を始めた。


 背中を向けない。


 荷馬車の轍が残る街道へ戻る。


 その途中、右の茂みから三頭目が飛び出した。


 狙いはマイラだった。


 フィンの矢が間に合わない。


 ニーナの杖も遅れる。


 マイラは後ろへ倒れ込むのではなく、横へ滑った。


 第2層の泥ではない。


 だが、足元を見る癖は残っている。


 小さな石を避け、濡れた根を踏まない。


 森狼の牙が外套を裂いた。


 腕に浅い傷が走る。


「マイラ!」


 リオが叫ぶ。


「浅い!」


 マイラは即答した。


 ライトヒールは使わない。


 傷口を押さえ、位置を戻す。


 ニーナが杖を向ける。


「ウォーターバレット!」


 水弾が森狼の横腹を叩く。


 森狼がよろめく。


 サナが踏み込み、剣で地面を叩いた。


 金属音。


 森狼が一瞬ひるむ。


 フィンの矢が、その足元に刺さった。


 殺すより、離す。


 森狼は茂みへ下がった。


 奥から、複数の唸り声。


 深い。


 低い。


 数が多い。


 リオは槍を握りしめた。


 倒せるかもしれない。


 今なら一頭は。


 だが、奥には本隊がいる。


 目的は討伐ではない。


 確認と帰還。


「戻る」


 リオは自分で言った。


 サナが頷く。


 フィンが笛を二回鳴らす。


 マイラは傷を押さえたまま歩く。


 ニーナは後ろを見ながら、魔法を撃たない。


 森狼の唸りは、しばらく追ってきた。


 だが、街道の開けた場所に出ると、止まった。


 森の奥から、灰色の影がこちらを見ている。


 少なくとも八。


 大きな一頭がいる。


 群れの頭だろう。


 フィンは息を呑んだ。


「……多い」


 カティアがようやく前に出た。


「数は見たな」


「はい」


「戻るぞ」


 リオが頷く。


「戻ります」


 誰も、異論を言わなかった。






 清水の間に戻ると、空気が一気に動いた。


 フィンがまず仮受付に向かう。


 マイラは水場で傷を洗う。


 ニーナが横で布を出す。


 リオとサナは、その場に座らず、まず報告位置へ立った。


 カティアは後ろで腕を組んでいる。


 クレスが近づいた。


「報告を」


 フィンが息を整え、言った。


「街道脇の森に森狼の群れ。足跡は少なくとも七。目視で八以上。大きな個体一。荷馬車を追跡した痕跡あり。開けた場所までは出てきませんでした」


 マイラが続ける。


「接触、三頭。うち一頭に浅い傷を与え、撃退。こちらは私が浅い裂傷。ライトヒール未使用。水洗いと止血で対応可能」


 ニーナが言う。


「魔法使用、エアブラスト一回、ウォーターバレット一回。魔力残量あり。敵本隊確認後、追加魔法は使用せず撤退しました」


 サナが短く言う。


「追えば、囲まれた」


 リオが頷く。


「討伐はしていません。情報を持ち帰ることを優先しました」


 クレスは全員を見た。


 そして、静かに言った。


「正解だ」


 リオの肩から、少しだけ力が抜ける。


 カティアも頷いた。


「一頭二頭倒して、奥で食われるよりずっといい。森狼の群れは、森の中で追うな。特に頭がいる群れはな」


 メリダが横から言う。


「臆病者講習、外でも必要だねえ」


 フィンが苦笑する。


「良い匂いの次は、良い獲物を疑う、ですか」


「そうだねえ。倒せそうな一頭は、群れが置いた餌かもしれない」


 ニーナが小さく息を呑む。


「餌……」


 クレスは仮受付を見る。


「本格討伐を組む。Dランク複数、Cランク以上の引率。目的は街道の安全確保。プロンテラの鑑定人が来る前に、少なくとも街道脇から群れを剥がす必要がある」


 仮受付の職員が急いで記録する。


 森狼群れ。


 街道脇。


 頭あり。


 鑑定人通行前に対処必要。


 カティアがリオたちを見る。


「よく戻ったな」


 短い言葉だった。


 だが、それだけで十分だった。


 リオは小さく頭を下げた。


「清水の迷宮で、戻る練習をしたので」


 サナも頷く。


「外でも、同じだった」


 フィンが笛を見た。


「鳴らせました」


 マイラは傷口に布を巻きながら言う。


「魔法を使わない判断もできた」


 ニーナは杖を抱えた。


「撃てる時に撃たないのが、一番難しかったです」


 クレスは静かに頷いた。


「それを覚えているなら、次も帰れる」


 清水の間に、水音が響いた。


 ぽたり。


 ぽたり。


 迷宮の中で学んだことが、外の森で命を繋いだ。


 その事実が、静かに場に沈んだ。






 黒い水膜の内側で、表示が浮かんだ。


【外部依頼帰還報告を確認】


【森狼群れの情報が持ち込まれました】


【街道危険情報を確認】


【迷宮内訓練による撤退判断の外部適用を確認】


【恐怖、緊張、判断、撤退意識、帰還の安堵、誇りを獲得】


【獲得DP:178】


【現在DP:2736】


「外で戦った分は入らない。でも、学んで帰ってきた感情は入るのか」


『ええ。外で得た恐怖も、帰ってここへ流れれば迷宮の糧になるわ』


「なんか、ずるいような、ありがたいような」


『迷宮で育てた判断が、外で人間を生かしたのよ』


 ヴェルティアは水膜の向こうを見ていた。


 リオたちが、水を飲んでいる。


 マイラが傷を洗っている。


 フィンが笛を握りしめている。


 ニーナが魔力の残りを確かめている。


 サナが静かに森の方角を見ている。


「清水の迷宮で訓練した冒険者は、外でも死ににくい」


 俺は小さく呟いた。


『良い価値ね』


「うん。金になる報酬とは違うけど、かなり大事な価値だ」


『人間は、それにも値段をつけるのかしら』


「たぶんつける。講習代とか、護衛成功率とか、依頼料とか」


『本当に何でも値段にするのね』


「人間だからなあ」


 俺は苦笑した。


 清水の迷宮は、外の魔物を直接倒せない。


 でも、外で死なない冒険者を育てられる。


 それは、水や紅肌の雫や琥珀の雫とは違う、もう一つの報酬なのかもしれなかった。






 夕方。


 宿場町から、もう一通の知らせが届いた。


 プロンテラの鑑定人が出発した。


 商人ギルドの者も同行する。


 到着は数日以内。


 ただし、街道には森狼の群れが残っている。


 清水の間の空気が、また重くなった。


 琥珀の雫を鑑定する者が来る。


 紅肌の雫の流通を確認する者も来る。


 そして、その道には森狼がいる。


 クレスは静かに言った。


「明日、街道脇の森狼討伐を行う」


 カティアが頷く。


「若い連中も連れていく。ただし、前に出すとは限らねえ」


 リオたちは顔を上げた。


 悔しさではない。


 緊張でもない。


 今度は、分かっている顔だった。


 討伐は、突っ込むことではない。


 戻る道を持って、必要な分だけ進むことだ。


 エリオ神官は、それを静かに記録していた。


 トマが小声で言う。


「迷宮で学んだ者が、外の道を守るのですね」


 エリオ神官は頷く。


「そうです。清水の迷宮は、中だけで完結しなくなってきました」


 水音が響く。


 ぽたり。


 ぽたり。


 外では森狼が、街道を見ている。


 内では冒険者たちが、明日の準備を始めている。


 プロンテラからは、値段をつける者たちが近づいている。


 清水の迷宮で覚えた戻る判断は、今度は街道で試されようとしていた。


あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。


迷宮で覚えた「戻る判断」は、外の森でも命を救いました。


次は、街道を守るための本格的な森狼討伐です。


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