第32・33話 私立茜森高等学校。/早朝に多様な百合を眺めるものもいいですね?
私立茜森高等学校、私の通う高校。
港町にこそあるものの学校自体は少し山の上にあって周囲はそこそこの山林と一軒家中心の住宅地がメイン。
この港町全体が二〇〇〇メモリアル地域指定を受けているのもあってか、学校の周囲含めても建築水準は新しくても二〇〇〇年代の延長線上・古くて一九八〇年代前後あたりの風景と程よいレトロタウンとして親しまれてるっぽい。
他の地域にありがちな超高層建築や超大型複合建築や大型特殊施設などの類はなくて、高台から町全体を見通しやすい土地だと思う。
それでこの学校はバスや鉄道のアクセスも良くて、周辺に図書館や公園や小規模だけど動物園もあって繁華街にも歩いていける距離と立地条件は悪くなかったり。
でも私は鉄道に乗るほどでもなく、バスはもったいなく、路面電車に乗るのも大げさなので家と学校の距離もあって毎日徒歩通学だった。
そんな私立校な茜森高校の校風はおだやかというか寛容というか緩いというか、自由度が高い学校だとは思う。
伝統らしいセーラー制服・学ランに加えて生徒・親からの要望で取り入れられたブレザー制服も制服指定されている
よっぽど乱れた着こなしでもなければ咎められることはないし、亜人ゆえに必要な装備の付いた衣装なども問題ない……と思う、実際パーカーを着ている・少しデザインの入った補助用機械を身に着けるぐらいなら問題なさそう。
基本的に受け入れ環境さえ整えられれば来るもの拒まないスタイルだけに、大雑把に分ければ”異能持ち”を含む人間種七:他の種族三ぐらいと周囲の学校比でも多種族が学ぶ場所になってるらしい。
一応男女共学ではあるものの男女比は一:九とこちらは極端で、どういうわけか性別女子・メスが集まる傾向にあったりする。
……と言っても自分の都合か家庭の事情かそれとも学習上の理由か、はたまた”気分次第”で一人の性別や容姿が昨日今日で変わっていることも割とあるので単純な比率では測れないんだけど。
性別は女子になってるけど見た目は男子、その逆も……みたいのも普通にあるし、なんだったら外見年齢をぐっと下げて高校生をやり直しているおばあちゃんおじいちゃん世代や飛び級的生徒も混じっているのでとにかく自由な学校なんだと思う。
なので学校基準的には私が今更サキュバスハーフ種と判明したところで何があるわけでもなく、種族の公開も強制されていないので私が問題を起こさなければそのまま学校に通えることになる。
そう、私が問題を起こさなければ…………意図してないとはいえ起こしかけたんだけどね!
それに対応できる異能対策課が校門前でことを起こして数分と経たずに到着できたからなんとかなったけど……。
元に戻った風に見えてもまだ油断はできない私の身体、異能を抑制するシールド薬は朝一で飲んであるので大丈夫なはず……一日二回十二時間効き目想定だけど一日三錠までは許可された。
飲むタイミングが十二時間刻みだと微妙なので結局念のために朝・昼・夜飲めば問題ないということになった。
もう私は問題を起こさないぞ!!
私はまだ人気の少ない通学路をお姉ちゃんと二人手を繋いで歩き、そして学校に着いた。
まるで二つで一つになったような繋がる右手と左手、校舎が見えてくるようになり校門前を過ぎて昇降口に付くとお互いが力を弱めて手がほどけていく。
当たり前になっていた感触と体温が離れていく、ふと見たお姉ちゃんの表情には繋いでいた手への名残惜しさみたいなものがあった気がして。
「……またあとで」
「うん」
そうして生徒会室に行くお姉ちゃんに軽く手を振って昇降口で分かれる。
校門前の挨拶運動に参加するからと早い登校ということで時間は朝七時前、まだ授業が始まるまでは二時間近くあった。
この時間から開放されているのは図書室と自習室と食堂あたりかな? 食堂はさすがに自販機ぐらいの利用しか出来ないし、朝ごはんも食べて来たからそこは大丈夫だけど。
「こういう時は……!」
──百合ウォッチに限る!
昇降口からまっすぐ自分の教室には向かわず、学校中とまでは行かなくとも遠回りするように廊下をてくてく歩いていく。
生徒の姿もなく静まり返った廊下に、外からの鳥の鳴き声・風の音、自分の上履きが廊下のタイルを踏みしめる音だけが響く環境音だけの世界……かと思ってよく耳を澄ませば何かの掛け声のようなものも聞こえる。
朝も早い時間だけどこの時間に来て自習する生徒は少しだけどいるし、早めに登校して友人と遊んでいる生徒もいるし、運動部などの部活動の朝練はこの時間ぐらいから始まってもいるわけで。
「「おはようございます」」
「あ、おはようございます」
窓越しに見ていた外の景色に気を取られていると、誰かと気づかぬ内にすれ違おうとしていたらしい。
挨拶されたので私もその重なる声の主に顔を向けて私も挨拶を返す。
球を転がすような澄んだ声、それぞれソプラノ気味とアルト気味な寸分違わず揃った挨拶、この声の・この人たちの歌を聞いてみたい! と瞬時に思ってしまうような美声による挨拶の主は──マーメイド種の二人の女子生徒だった。
マーメイド、人魚とも呼ばれる半人半魚な水棲亜人の一種。
かつてのこの世界でも民間伝承に登場し、それをモチーフにしたおとぎ話・ファンタジーなども描かれていた。
上半身が人間の女性で下半身が魚類のようになっている容姿・美しい歌声が特徴的で、基本的には水辺を好むものの”変身”などで人間の下半身に化けることも出来たという。
この世界におけるマーメイド種は基本的には異世界出身、勇者パーティにもマーメイド種がいたこともあって少しながら理解は進み、それからしばらくしてこの世界に迷い込んだマーメイド種の難民を受け入れる形で定住した。
元の世界でも迫害され居場所がなかった上に放浪先で出現した異世界転移ゲートに巻き込まれる形でこの世界・惑星にたどり着いたのだという。
素のままでは下半身が魚類なので地上での移動が出来ず・下半身も人間体に”変身”することで二足歩行を可能とするもののエネルギー消費が激しく長期間の活動には向かないらしい。
ということで普段は下半身を水に浸けて過ごす、淡水・軟水・海水など水辺である程度清浄であれば場所は選ばないとのこと。
そして世界が変わった”あの日”以降の技術進歩により、自分の意思通りに移動が可能な水棲亜人向け移動式水槽が開発された。
水槽デザインのカスタマイズが可能で、基本的には水槽下部にある履帯によってある程度の高低差でも低速ながら移動が可能、階段などでも水が零れず・覆われた下半身部分も傾きに合わせて伸縮する構造を持っている。
そんな水槽の開発などもあって今では変身無しでもマーメイド種は陸上生活が日常的に送れるようになっている。
ちなみに水槽の内側にある自分の下半身をデザインで隠す人もいれば、ある程度スケルトン仕様な水槽で隠さない人もいるという。
尾ひれ・鱗などのある下半身を見せるかどうかは各々の感覚・趣向次第で、人間的に例えるなら靴下を履くか履かないかぐらい……? というのを聞いたことがあったり。
……と話は戻して。
出会った二人のマーメイド上級生は上半身は二人ともブレザー、一人が学校制服のスカートモチーフ・もう一人はデニム柄と楕円形水槽にデザインカスタマイズをしていた。
二人ともに金髪で一人は長い髪をポニーテールに、もう一人はセミショートに切り揃えている。
この時間から学校に来ているということは合唱部あたりの朝練があるのかもしれない、美声=合唱部という偏見かもだけど……この二人の声質のハモった歌声をいつか聞いたことがあるような気がするんだよなぁ。
お互いを信じて高音と低音を唄い、そしてさっきの挨拶のように揃ってハーモニーを演出する────これは実質百合ッ!
すれ違い様の一瞬とはいえ、メンタルポイント回復に寄与してくれる……うむうむよいよい!
また廊下をぶらついていると、陸上部が使い・体育の陸上授業にも使われる陸上トラックが窓越しに見える。
レーンの描かれた陸上トラックを駆ける小気味よいタタッ……タタッ……?
四本足にて凄い速度でトラックを駆けるケンタウロス女子の姿があった────
ケンタウロス、人馬とも呼ばれる半人半馬な亜人の一種。
民間伝承に存在したこと・そしてこの世界に定住しているのは異世界出身なことは多くの亜人種などに共通していることで、ケンタウロス種も例外じゃないみたい。
上半身は人間ながら細長い円錐型の尖った耳が頭頂部から生えていて、下半身は四本足と長い毛髪を持つ尻尾と馬のような容姿を持つ、耳が良く移動速度が速くて力も強いらしい。
見えたケンタウロス女子は四人ほど、ポリエステル素材の上半身を下半身を最低限覆う特製陸上ユニフォームを着ていた。
胸部はもちろん隠れているけど人のお腹周りは健康的に露になっていて、四つ足が入るというボトムスで下半身の背・腰・下腹にあたる部分もすっぽりと覆って尻尾の逃げ穴が付いている。
健康的に引き締まりながらも美しい毛並みが覗くモモから伸びる真っすぐな前足と少し屈折した後ろ足、そんな蹄があり甲高な足元に合うように作られたランニングシューズで足首……球節? の上あたりまでが覆われている。
そんなスタイルで合成ゴム素材だという陸上競技のトラックを四本脚による特徴的なテンポで駆けていく。
遠目に見えるのは栗色だったり黒色だったり銀髪だったり、そんなケンタウロス女子が走破後に息を切らせながら「今日も私が早かったですわね」「今日は本調子じゃないだけ!」と言い合っている。
言い合っているのに、お互いの尻尾同士をぶんぶんと振ってぶつけあっている…………これはライバルだけど実は仲良しを隠し切れずの百合判定で!
朝の学校は歩き回ればまばらに生徒はいるもので、校舎沿いにある色とりどりの花咲く花壇にジョウロで水をあげている女子生徒がいる。
この世界で人間こそ死ななくなったものの植物に関しては根腐れ・水切れ・日光不足・不適切な温度・栄養不足・虫害……などで枯れて・腐ってしまうのは今でも昔と変わらなくて。
ちゃんと手入れしないとすぐに不調をきたす種もあれば、放っておいても何千年も保つという種も存在するみたい。
そんな植物の、主に陸上植物の種子植物の被子植物……いわゆる”花”をメインに育てているのがこの学校の”園芸部で”。
ちなみに野菜など食用の植物を育てる”農業部”やコケを愛し育てる”コケ愛好会”などもこの学校にはあるらしい……。
そして園芸部が育てているカラフルで中央が濃い色に色づいたパンジーの花が咲き誇る花壇の前には見慣れた姿があって。
いつもの私ならほぼノーモーションで声をかけるのに、今日は少し緊張……ちょっと呼吸を整えて…………よし。
「おはよー」
昔から植物が大好きだった私の幼馴染、蒲田ミドリ。
私がサキュバスハーフだということを、そして私の今後のことを。
今日私は告白する。
<カクヨムでも連載中>
この作品舞台の町は無理矢理昔の風景のままを残してる的なニュアンスです?
そして通う学び舎は多様性のある校風ですね。
<異世界事変>の際に燃料の埋蔵量の激減・精製施設が壊滅した関係などで全世界的規模で石油などが超高級品のまま推移しまして。
結果本来の高度経済成長期のタイミングでも自家用車の類があんまり普及せずマイカーブームも訪れず、路面電車などの旧来の交通手段が淘汰されずに残った……みたいな感じです?




