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第14話 2/3

※本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズの一編です。

物語はいよいよ新たな局面へ入ります。

 饒舌になった縄手の言葉は、笑顔と共に止めどなくあふれた。


「いやー突然、わかったんですよ。」

「彼女、まだ内緒にしてるみたいなんですが、検査結果?診断書って言うんですか?見つけてもーて。」


 縄手が余計な事を口走る前に、出て行ってもらおうと、養護教諭は見つけた目薬を渡そうと差し出す。

 が、何故かその目薬も空っぽ・・・


 徐々に焦りが滲み出る養護教員を全く気にかけることもなく、縄手の浮かれ話は続く。


「どう思いますか?彼女が言い出すまで、知らんふりしといた方が良いですかね?」


 養護教員の口をつぐむジェスチャーが全く伝わらない。


「せや!名前も考えやな!なんて名前がええんやろ?」

「女の子やったらカグヤ?とか?ベタ過ぎるか・・・やっぱ人気の名前はやめた方がええんかな?」


 保健室まで届く蝉の大絶叫をものともせず、縄手の声は響き続けた。


「男の子やったらヤマトとか?かっこええやん!」

「先生どう思います?」


 ・・・・・・・・・

 突然、苦虫を潰したような顔で縄手の背後を指差した養護教員に気付き、縄手はのんきに振り返った。




 引かれていたカーテンが開き、その前には久米が大きく目を見開きこちらを向いて、立っていた。



「く、久米やんか!びっくりさせんなって!なんでこんなことにおるんや?」


 驚き顔から照れ笑いをする縄手は、久米に歩み寄った。


 養護教員はそんな背中から視線を外し、がっくりと肩をおとし、首を横に振る。



「どねんしたんや?大丈夫か?」

 何故か普段の雰囲気と違う久米の正面に立ち、熱を測るように自然に手を額へ伸ばした。



「先生・・・斎部さん、妊娠したんですか?」

 手を当てられながら落ち着いた表情になった久米は静かに言った。


「せやねん。まだはっきりとは聞いてないんやけどな。」

 あっさりと答える縄手に

「そうなんですね。おめでとうございます先生。」

 久米は歯を見せて笑顔になった。


 そんな表情に違和感をおぼえながら「ありがとう。」と手を離した。


 目を細める久米の瞳に恐怖を感じ始めた縄手は『あれ、またやってしまってるんじゃないか』と、その自責の念が、胸の奥を締め付けていた。


 空虚な笑顔の裏に見え隠れする荒ぶる気配。


 動けないまま言葉を失った沈黙を、悲鳴に似た蝉の大絶叫が埋めつくす。


 その時、昼休みの終了を告げるチャイムが沈黙を断ち切った。



「では、教室に戻ります。失礼します。」

 縄手と養護教員に頭を下げて、素早くドアを閉める久米。

「おう!午後も頑張れ!」

 縄手はその背中へ声をかけた。


 なんとか張り上げた言葉が精一杯だった。



 ――――――――――



 生い茂った木々が南風に揺れるたびに、針のように鋭い夏の日差しが降り注ぐ。


 瞼に刺さるような眩しさに眉をひそめた。

 頬を焦がす熱が、目を覚まさせる。


 まだ朦朧とする頭で、周りの状況を確認しようと、木之本は薄目を開けた。


『あれ?わたし・・・何してたんやったっけ・・?』


 木々が南風に吹かれる音が鼓膜に届く。


 白昼夢から目覚めたばかりのような感覚に包まれる。


『せや・・周先生を追いかけてきたんや・・・千塚公園や・・・』


 一匹の蝉の歌声が響きだす。


『毒や・・・毒に触ってもーてんや・・・んで・・死んだ・・』


 讃美歌のように、蝉の歌声が周囲を満たしていく。


『そうかぁ・・・ここは天国なんや・・・』


 木之本は再び諦めるように、開こうとした瞼を閉じた。


『・・・香月・・大丈夫かな・・わたしが守らんとあかんかったのに・・・ホンマは好きやねんで・・今でも』


 木之本は寂しさと悔しさで溢れそうになる涙をこらえ、大きく溜息をついた。


『・・ん?』


 大きく息を吸うタイミングで、何故か息苦しい状態に違和感がわく。


 もう一度息を吸い込んでみる。


 胸が押さえつけられているようで、息がしにくい。


『え??』


 木之本は目を開け、胸元を見た。





「そうなんや。カンダルパ研究所の車やったんや・・・なんでこんなとこに来たんやろ?」

「木之本さんって、新しく発生した魂で誰とも重なってないと思うで・・・。」

 北越智は、アスファルトの照り返しを避けるように木陰へ逃げ込み、スマホを耳に当てていた。


「・・・まあ木之本さん、大丈夫やろ。曲川先輩がなんとかしたみたいやし・・」

 近距離からの蝉の大合唱に眉をひそめながら、半袖のシャツの襟元をつまみ、首元に風を送っていた。


「うん、わかった。確かに気になってた施設やし・・・・。」

「でも、よっちゃん気ぃつけてや。すれ違ったとき、めっちゃヤバい感覚あったで。」

 足元の青々とした雑草で飛び跳ねた大きなバッタにビクつく。


 最高潮に熱を含んだ大気を揺らしながら、昼休みの終わりを告げる学校のチャイムが遠くに響く。


 そろそろ教室に戻らないと、教師に小言を言われそうだ。

 そんな鬱陶しさを引きずりながら、木之本のことが気になり、そちらへ顔を向けた瞬間だった。


「えっ・・・・・」


 曲川の頬を打つ音が、蝉の声を突き抜けた。木之本の怒鳴り声がそれに続く。


 慌てて駆け寄る北越智の瞳に 頬を押さえたまま尻もちをつき、目を白黒させている曲川の姿が映っていた。



「なんでお前が、か弱いワシの乳を気軽に触っとんねん!」

 すくっと立ち上がった木之本は、頬を押さえたまま顔を小刻みに横に振る曲川に詰め寄る。

「曲川!お前!正座や!」

 力強く指され、慌てて姿勢を正す。


「ちょっと!木之本先輩!」

 見たことのない怒りに、北越智は止めに入った。


 木之本の鋭い視線がこちらを捕らえる。

「コッラァァァァ!北越智!お前もグルか!」

「お前も並んで正座やれぇぇえや!」


「えぇ・・なんで巻き舌?」

 言われるままに首をひねり何故か素直に曲川の隣に座る。


 木之本は、腕を組んで上目遣いで様子をうかがう二人を見下ろした。


「おい!曲川!」

「・・・・・・・・・・」

「返事は!」

「は・・・・はい・・。」

 蝉の大合唱の中、混乱の幕が上がった。


「おい!曲川!気安ぅ乳触りよって!お前最近、性欲暴走しとんちゃうか?」

「お前が倒れた時、病室に付き添ってたワシに何しよーとしてたんや!ゆーてみ!」


 北越智にちらっと視線を送った曲川は、更に俯き

「いや・・・・あの・・・あの時は・・・」

 つぶやいた。


「はあ????聞こえんのんじゃ!男やったらハッキリシャキッとしゃっべってみぃー!」


「・・・・木之本さんに抱きつこうとしました!すいませんでした!」

 頭を地面に付け、土下座をする曲川に木之本は追い打ちをかける。


「お前!それだけちゃうやろ!なんも気付かんと思うなよ!コッラァァァァ!」


「ぁぁ・・・はい。本当にすいません!本当に自分が不甲斐ないです。」

「何したんかゆーてみ!」

「あ・・・・。はい!射精しました!」

 頭を地面にこすり付けながら叫ぶ。


「お前ちょけんとんか!次したら頭スコーンと割って、脳みそストローでチューチューしたろか!」

 何度も頭を下げる曲川の姿に、北越智は思わず噴き出してしまった。


 木之本の鋭い視線が、北越智の横顔に突き刺さる。


「クッラァー北越智!お前なんぼのもんじゃ!何ワロとんねん!」


「はぁ?」

 そのセリフにイラっとしながらも、面白そうな展開に乗ってみることにした。


「す、すいません。」

 慌てて笑顔を正す。


「お前もなぁー!」

「はい!」

「なぁーーーんも、バレてへんと思ってんちゃうやろなぁー」

「え?何がっすか・・」

 視線をゆっくり木之本に合わせる。


「お前!女の第六感なめんなよ!」

 北越智は首を振りながら

「なめてないっすよ・・。」

 瞳を潤ます。


「お、お前なぁ・・・そんな子犬のような可愛い目ぇしてもアカンぞ!」

「は・・はい・・・」

 チッと小さく舌打ちしながら、目を逸らす。


「お前・・・・男おるやろ!それも超絶イケメンマッチョ。」

「あーーぁ。はい・・・。」

 再び木之本の顔を見上げ頷く。


「なんでマネージャーのワシに報告ないねん!」

「いや・・・それって・・・。」


 なんで聞かれてもいないことを報告しないといけないのか、理不尽すぎるセリフに口を歪ませながらも

「すいません。以後気を付けます・・・。」 

 つぶやき

『京都育ちには、こーゆう大阪のノリ、ホンマにキツイ・・・』

 更に俯き顔をしかめた。


「ワシにもイケメンマッチョ紹ぉー介せーや!」

「こっちはフラれて寂しいんじゃ!」


「はい・・・すいません。」

 コクっと北越智は頷いた。


「ホンマ、お前ら頼むで!ちゃんとせーや!わかったか!」


「はい!」

 ふたりの元気な返事を聞いた木之本は、大きく頷き、ゆっくりと【こっち】に近付いた。


 そして左手で右肘あたりを支え、右手の人差し指を口の下にゆっくり持って行き


「怖かったぁーーー。」

 可愛く甘えた声で口をすぼませた。


 ズッコケる曲川と、戸惑いながらワンテンポ遅れて体を倒す北越智。


 木之本はそのまま意識を失い、地面に崩れ落ちた。

 その瞬間、蝉の声が一度だけ止み、慌てて駆け寄る二人の声と共に再び、夏が鳴きはじめた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズとして連載しています。


★感想・評価・ブックマークをいただけると、とても励みになります。


また、本作の世界観をもとにしたAIドラマやイメージソングも制作しています。

ご興味のある方は、タイトル名や作者名で検索してみてください。


それでは、次回もお楽しみいただければ幸いです。

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