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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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8/10

8.まりえとバイト

「でも今日会えてよかった。あのさー、聞いてよ! ワルブレヒトにオンドレアのブローチ取られちゃってスラムに行けないんだよ!」

「ほう? そんな事態が起こりますか」

「ゴミ箱に捨ててないかと思って……、ゴミ漁りまでしたのにないし」


 フルーツサンドを食べ終わったわたしはまだでかいパフェを食べているイスマイルにことの顛末を話していた。最初は「スイーツの味がわからなくなるから生臭い話をするのは遠慮してほしい」と嫌そうにしていたイスマイルだが、パフェが溶ける前に食べることを優先させることにしたようでおとなしく聞いていてくれた。ちゃんとコメントも挟んでくれるし、多分彼ってまあまあいいひとなんだよな……。


「捨ててないと思いますよ」

「なんでそんなことわかるの?」

「あのブローチは捨てられないアイテムだからです。今まで見てきたマリエ・ス・カラカンがそう言っていました」


 捨てられないアイテム……ああ、確かにそんな項目あったな。『だいじなもの』ってやつだ……。この世界で最初から持ってるちっちゃいポシェットから物を出すとき、わたしの頭の中には中身のラインナップが浮かぶ。それは『アイテム』『武器・防具・装飾品』『だいじなもの』の三つに分かれていたはず。


「装飾品のくくりだと思ってた~、でも結局今わたしの手元にはないんだよ? 『だいじなもの』なのに変じゃない?」

「さあ……今までそのブローチを奪われたマリエとは話してないですからね。攻略方法によっては私はマリエと一度も会わずに終わることもありましたし。何かそういう、持ち物を奪われるようないわゆる『イベント』というものがこのゲームにあるならこういうこともあるのかもしれません」

「うーん。そんなイベントあったかなあ……。あ、あった。取られたアイテムを取り返すイベント!」


 材料を採取しに行くフィールドに出る盗賊に戦闘で負けるとそのまま捕まって、その時一番好感度の高い攻略対象が盗賊のアジトまで助けに来るイベントがあった。そのとき確か全部のアイテムを没収されて、そこにある箱を開けて回収するまで戻ってこないんだった。


「ありましたか。なら今回のことはその亜種だとは考えられませんか。盗賊であるなら奪ったお金や物品は徴収したり売却したりしてもおかしくないのに、後生大事に保管していてくれるだなんて、現実だったら不自然極まりない」

「ゲームのNPCのルールが攻略対象のワルブレヒトにも適用されてるってことね」

「理解が早い所はあなたの長所だ」

「ふふん」

「ふふんじゃないですよ。敵に重要アイテム奪われて。うかつすぎるでしょ。粗忽もの」


 パフェの最後の一口をすくったスプーンを口から出し、こちらにぴっと軽く突きつけながらイスマイルは睨んできた。う……。確かにそうなんだよね。王都に戻ってきたらすぐポシェットにしまっておけばよかった。


「で、どうするつもりなんです。これから」

「そうそう。そうだった。盗賊のイベントと同じなら、ワルブレヒトの部屋を家探ししたらブローチを取り返せるはず。それを試してみるのはどうかな」

「おやめなさい。危なすぎる。ワルブレヒトがブローチを捨てていないのは捨てられないというのもありますが、それ以外にも思惑があると思った方がいいですよ」

「……確かにそうかも」

「少なくとも部屋に入っても無事で出られる算段がつくまではそれはやめた方がいいです」


 部屋に入ったら抱かれたいと見なすってワルブレヒト昨日言ってたもんね。おんなじ家に住んでるわけだし、あんな凄い量の使用済みティッシュ排出なんかしないで、わたしの部屋まで襲いにくればいいのに、そうしてない。わたしからあいつの所に行くのを待ってるわけだ。怖いな。いい匂いのする食虫植物みたい。


「まあ、私はワルブレヒトの人となりは歴代のマリエから漏れ聞いた情報しか知りません。本来オンドレアのルート分岐後のNPCですしね。ですがこの手のゲームの男は嫉妬深くて独占欲が強いことがよくあると聞いています。多かれ少なかれ人間の男というのは好きな女に対してはそうだとかなんとか……」

「イスマイルってゲーム用語をよく使いこなしてるよねえ」

「過去にすごくやりこんでいるマリエが一人いたんですよね。そのマリエによく教わったので」

「その人って帰れたの?」

「いえ、その人はオンドレアのことがかなり好きだったので彼に囲われて終わりましたね。私はそこでまたリセットなのでその後の生死はわかりません」


 帰りたくなかったタイプか……。どうやって死んだかにもよるもんね。世をはかなんでの自殺とかだったら好きだった二次元のイケメンに死ぬほど愛されるのは嬉しいのかもしれない……。でもわたしはそうじゃない。二度死ぬのも擦り切れるような一生を過ごすのもごめんだ。


「ねえ、あなた時々この店に来るんだよね? しばらくわたしはスラムに入れないし、この店で待ち合わせして時々話そうよ」

「どちらにせよ10日に1回そちらの工房に利息を取りに行くつもりでいましたよ」

「ダメダメ! ワルブレヒトの奴、嫉妬深くて怖い予感するから……。うちには絶対来ないで」

「私はただのNPCですがね。そんなのにも嫉妬しますか。なんともはや……」


 するに決まってるでしょ……イスマイル、ひょっとして自分がイケメンだっていう自覚がない? 隣に並んだらアイドル級のワルブレヒトが見劣りするくらいの美形なのにな。そんなやつ漫画とかゲームの世界にしかいないよ。そっか。ゲームのキャラだったっけ。


「よーし、まずは頑張ってみる。まずはこの店でバイトできるかお店の人に聞いて、稼いだお金で武器防具揃えて採集と錬金。無傷でワルブレヒトの部屋を物色できるような方法が思いつくまでは地道に行こう。どうかな」

「いいんじゃないですか。では、私からひとつまりえさんに粗品を進呈しましょう」

「なあに? なんかくれるの? プレゼント?」

「お前の動向を見ているからなという意味で債務者に定期的に渡す粗品です。ワルブレヒトと一つ屋根の下で暮らしているのだから食事を共にすることもあるでしょう。媚薬などいかがわしい薬を混ぜてくることも考えられます。彼が用意したものを口にする前にこれをお飲みなさい」

「きれいな瓶。お薬?」

解毒剤アンチドートですよ。切らさないように今後はまとめて作っておきなさい」


 きらきらと光る小瓶を受け取ると、脳内で『解毒剤をつくれるようになりました』という文字がポップアップして弾けた。


「あ……ありがとう、イスマイル。レシピってこうやって増えていくんだ……」

「もたもたしていないでさっさといろんなものを作れるようにおなりなさいね。では私はフォンダンショコラに集中したいので……」

「わかった。じゃあ次もこの店でね」


 イスマイルは「はい頑張って」とわたしに軽く手を振った後スプーンに卓上塩をひと振りして舐め、舌をリセットしてからチョコのケーキにフォークを入れた。プロだ。プロの甘党だ。


「あの~、バイトとかって募集してたりしますか~?」


 イスマイルに別れを告げてフルーツサンドの代金を払った後店員さんに話しかけてみる。ゲームと同じで即採用。すぐに働けることになった。


「お待たせしました~。お持ち帰りのアップルパイでございます~」

「……有言実行ですね」


 フォンダンショコラを食べ終えたイスマイルは、普段男性向けゲームを手掛けているイラストレーターがデザインしたぶりぶりの猫耳メイド服を着て働くわたしを見てそれだけコメントした。

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