73.まりえとティーシャ姫
「来ちゃったけどね。ほんとに顔パスなんだろうか……。なんだお前は! 無礼者! とか言って斬られたらやだな……」
顔パスの称号が得られたのが嬉しすぎたのと、さっさといろいろ済ませたい気持ちが暴走してわたしは直で王宮の門の前まで来て、そこでちょっと我に返った。
衛兵とおぼしき甲冑の人たちがわたしに近づいてくる。お、なんだ。やるか。ピンちゃんもわたしの足元でシュッシュッってシャドーボクシングをしているぞ。
「王宮顧問錬金術師のカラカン様ですね。本日は一体どうされたので?」
「あっ、へっ」
えっ、わたしって王宮顧問錬金術師だったの? 王宮顧問錬金術師って何? まあなんでもいいや。
「えっと~、今日は~。お、お妃様とお姫様に新商品のご婦人用の小物をお勧めしたくて~」
「ああ! そういうことでしたらこちらへどうぞ。本日はお妃様は薔薇の会に出席されていて留守ですので、姫様のお部屋までご案内いたします」
おいおい、そんなに簡単に王族の留守のこととか衛兵が話しちゃっていいのか~? って思うけど、これが顔パスの称号の威力なのだろう。わたしはこれ幸いと王宮の敷地に足を踏み入れた。
「うわ~、絨毯ふっかふか~。ヨワール様のお屋敷より高級だあ……」
「んわんわんわ」
宮殿に入ったあとはメイドさんに案内される。絨毯が柔らかすぎて逆に歩きづらいまである廊下を彼女について歩くわたしとピンちゃん。
「姫様。王宮顧問錬金術師のカラカン様をお連れいたしました。珍しい日用品などをお持ちとのことでございます」
「えっ! きゃ~、待ってましたわ~! 遅いですわよ~、どうして今日まで来なかったんですの~? カラカン~!!」
豪奢なドアの中からキンキンした声が聞こえてくる。あれ? 姫様思ったよりかなり若いな?
「カラカン……あら……? 女の子じゃございませんの……。いつものおじさまのカラカンじゃございませんの?」
メイドさんがドアを開けると中から小学生くらいの女の子が顔を出した。金髪ぱっつん前髪ツインテにピンクのドレス。頭にティアラを頂いて、もう何も説明が要らないくらいのロリっ子姫様がそこにいた。えっと確か、先に相手が喋ったあとならわたしも喋っていいんだよね。よし。
「あ、えっと。お初にお目にかかります。マリエ・ス・カラカンと申します。こっちはホムンクルスのピンちゃんです」
「あら、あなたもしかしてカラカンの娘かしら。いつものカラカンはどうしましたの?」
多分だけど、姫様が言っているいつものおじさまのカラカンというのはマリエパパのことだろう。なんだ~、マリエパパ王宮と繋がりあったんじゃん。探しても全然そんな痕跡なかったぞ……。
「はい、わたしは錬金術師カラカンの一人娘でございます。父は先日事故で儚くなってしまいまして、代わりにわたしが新しく錬金術師カラカンの名を継いでおります」
「そうだったんですわね……だからずっと来てくれなかったんですの。いいですわ。わたくしも次代の錬金術師に自己紹介いたしますわ。わたくしはこの国の国王の娘、第一王女のコケッティーシャですの! ティーシャと呼んでくれていいですわよ! 以後よしなにですわ!」
ロリっ子姫様改めティーシャ姫は小さいながらもきちんとしたカーテシーでわたしの挨拶に返してくれた。平民相手に丁寧な子なんだなあ。
「それでそれでっ!? 今日は一体どんなものを持ってきてくださいましたの~? 早く見せてほしいですわ~!!」
「はい、是非ご覧になってください。まずはこちらの手鏡で……」
そうだ。なんかさっき門の前でまた称号が変わった感じがあったんだよな。姫には悪いけど一旦時間を止めさせてもらう。コンパクトじゃなくても鏡があればステータス画面を見ることができるのだ。
「おお! 変わってる! さっき顔パスになったばっかりなのに!」
わたしの称号は衛兵さんに言われた通り「称号:王宮顧問錬金術師」に変わっていた。慌ただしいな。まあいい。確認できたのでステータス画面を閉じる。
「あら? 今何か変な感じが……」
「そうですか? なんでしょうね。手鏡は赤系、緑系、紫系とカラーバリエーションがございます」
「青いのはないんですの?」
「青いのはあいにく売り切れでして……」
「ええ~、残念ですわ。今度新しく補充しておいてくださいまし!」
姫の部屋のテーブルに作ってきた商品を広げると、姫は椅子の上によじ登り身を乗り出して足をぱたぱたさせている。こうしてると年相応の普通の小学生だな……。
鏡に続いて、ビーズを縫い付けたポーチ、鍵のかかる小物入れ、香水の瓶などを取り出すと姫は目をキラキラさせる。
「どれもとっても可愛いですわ~! この香水瓶なんて小さくて持ち歩くのに良さそうですわね。最近ではお友達との間で持っている香水を小さな瓶に入れて交換するのが流行してますの。こんなのに入れて持って行ったらきっとみんな羨ましがりますわ~!」
姫はあれもこれもぜーんぶほしい! あ、でもお小遣いが足りないかも……。なんて一喜一憂しててとても可愛い。ここに来る前の職場の店でもちょっと背伸びした小学生が小物の前でこんなふうにお財布と相談してたよな~。なんてまたちょっと懐かしくなった。
全部を買うわけにはいかなかったようだけど、姫は大喜びでわたしの作ったアイテムをたくさん買ってくれた。
「わたくしあなたのこと気に入りましたわマリエ! 是非わたくしと一緒にお茶していってくださいまし!」
「お誘いを受けましょう、ティーシャ姫様」
せっかくなので王族のおやつを御相伴にあずかることにする。可愛らしいケーキとお茶がピンちゃんにも振舞われた。
「へええ、18でもう一人前の錬金術師なのですわねえ、すごいですわ」
「いやあ、それほどでも………へへへ」
「カラカン……。マリエのお父様のことだけれど、わたくしのお父様はカラカンにいつも賢者の石を売ってほしいって頼んでたんですのよ」
「ん! え、そうだったんですね」
美味しいお茶を頂いているとご機嫌な姫がマリエパパの思い出話を聞かせてくれた。賢者の石が出来たら王様に売ろうと思っていたのでこの話題はタイムリーだ。
「だけど、カラカンはいつもお父様に賢者の石を売ってくれなかったんですの。そこにいるお大根はホムンクルスですのよね? ホムンクルスを作るのに賢者の石が必要って聞きましたわ。手元にないからとカラカンは言ってましたけど、ホムンクルスを作る分の賢者の石はありますのね」
「え、そうだったんですか? なんで売らなかったんだろ。わたしは何も聞いてませんね……」
「……もしマリエがお父様に賢者の石を持ってきたら、きっとお父様は飛びついて買おうって言いますわ。一億くらいポンと出すかも」
「い、いちおく!!」
びっくりした。目がお金になるかと思った。
「へ、へえ~。あ、でもこの子は別の街に住んでる兄弟子が作ったものなので……。今はうちにも賢者の石はないですよ」
「んわ」
「そうですの……。あのね、マリエ。わたくし、遅く出来た子供ですの」
「そうなんですか?」
「ええ、お父様、実は持病を持っていらして。わたくしがまだ婿を取れる年ではないことを気にしていますの。だから今の統治を続けるためにもっと長生きがしたいとおっしゃっていて……」
なるほど、それで賢者の石が欲しいってわけね。
「わたくし、もうお父様のため息を聞きたくないんですの。だからもし賢者の石が手に入ったら、使ったりよそに売ったりせずに王宮に持ってきてくださいまし」
「……わかりました。もし手に入ったら、持ってきますね」
「ありがとう! マリエ!」
庶民には口に入らないようなケーキのお礼を言ってからわたしは王宮を後にした。マリエパパ、賢者の石を王様に売らなかったんだ。なんでだろ。何か理由があるのかな。
「まあいいか。とりあえずマグマの上を歩く靴! 買って帰らなくちゃ!」
ちょっと気になることもあったけど、わたしは貴族街で目当ての靴を手に入れて一旦マリエハウスに帰るのだった。
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