71.まりえとマグマダイバー
「ここまで潜ってシナバーが出ないってことはたぶん……このフィールドのボスがドロップするって考えた方がいいかな」
こんなに取っちゃ乱獲だろうなってくらい火ネズミの毛皮を取って、わたしはマグマフィールドを奥まで進んでいた。あんまり取ったからしまいには火ネズミもわたしを見ると逃げるようになっちゃったので一旦座ってお茶を飲むなどの時間も挟んだ。ちなみにアイスティーだ。イチゴジャムドレスのおかげで熱さは我慢できるとは言えぐつぐつのマグマの見た目がもう熱い。こんななかで熱い紅茶を飲む気にはなれないだろうと思ってわざわざ冷たいのを用意してきたのだ。
(全部終わったらクリアする前に一回イスマイルとパーティしたいな。店長に頼んでスイーツショップを貸し切るか? それとは別にクッキーもいっぱい焼いてあげたいよ)
イスマイルのことを考えたらやる気が出てきた。わたしは後片付けをしてフィールドの奥へと進む。もうそろそろいい加減ボス部屋にたどり着くんじゃないだろうか。
「うわっ……、もうこんなの湖じゃん……見渡す限りマグマ……」
道なりに歩き続けて、わたしはとうとう行き止まりに突き当たった。行き止まりって言うか、開けた場所に出たのだ。その区画は見渡す限りマグマ溜まりでいっぱいで、歩ける足場の方が少ないくらいだった。
「……何かいる」
ばしゃり、とありえない音がした。わたしはコンパクトを開いてモンスター図鑑を見る。まだ見たことないモンスター名が追加されていれば、そいつが今の水音の主のはずだ。
「……マグマダイバー?」
思い出した。マグマフィールドのボス、マグマダイバー。ノーマニー×アルケミーオリジナルのボスモンスターだ。
わたしはコンパクトを閉じて戦闘に備える。すると背後で「ぼちゃん!」という音がいくつも聞こえた。
「えっ、嘘! 道が……」
歩いてきた道が飛び飛びでぼちゃぼちゃとマグマに沈み、飛び石のようになってしまっている。小島に取り残された私の周りのマグマがばしゃばしゃと飛沫をあげ、サメ映画みたいにぐるぐる回ってる奴がいるのをわたしに教えてきた。
「来るぞ……!」
ざばん!
わたしの目の前のマグマから大男のような形のものが上がってきた。そいつの身体もどろどろと流れ落ちるマグマでできていて、目も鼻も口もない。何か声をあげるでもなくのしのしとわたしに近づいてくる。
「やぁっ!!」
わたしはマグマダイバーに向かって冷気を放つマチェーテで斬りかかった。刃が触れる寸前にそいつはぬるりと流れるように逃れる。わたしはフェイントを交えながら次々とマグマダイバーに向かって剣戟を繰り出した。
ヤンデリカとの戦いを経験し、火ネズミを狩りまくったわたしのレベルはすでにもう五十くらいまで上がっていた。経験上、ギリギリゲームをクリアできるレベルに差し掛かっている。バッティングセンターでバットを振るくらいしかできなかった最初のころと比べたら、わたしもいっぱしの戦士といっていいんじゃないだろうか。
「うわっ、あっつ!!」
対してマグマダイバーはマグマでできた拳での肉弾戦を仕掛けてくる。フィールドのスリップダメージはイチゴジャムドレスで防いでいるけど、マグマの接触ダメージを全部は受け止めてくれない。拳がかすったわたしの皮膚はちりっと軽い火傷になった。
(軽い火傷ですんでるだけでもありがたいけど、いくつも食らったらきついな……)
ただわたしの攻撃もマグマダイバーにダメージを与えている感触がある。おそらくマチェーテに付与した冷気のおかげだ。
(しっかしこいつ、のらりくらりと避けて仕留めづらい!)
イスマイルがいてくれたらな。わたしがこうやって相手を引き付けてる間に魔法で攻撃してもらうのに……!
そんなことを思っても仕方ない。わたしはそのイスマイルを解放してあげるためにこうやって戦ってるんだ。ひとりでもやる!
「おらっ! おらっ! おら~っ!!」
ぬるぬる逃げるマグマダイバーをなんとか痛めつける。わたしも両腕にいくつか火傷を負った。身体の真ん中に穴をあけてやるという気持ちで踏み込むと、マグマダイバーはぐっと膝を曲げて後ろに飛び退った。着地の先に地面はない。ぐつぐつのマグマだ。
「あーっ!! 逃げた! 戻ってこーい!!」
ふたたびわたしの周りをばしゃばしゃと泳ぎ始めるマグマダイバー。マチェーテを構えたままそれを目で追っていると、奴はまるでお風呂で悪ガキがやるみたいに両手で水鉄砲をつくって、私目掛けてマグマを噴出してきた!
「あっちちちち!! あちあち! あち!!! ずるっ!! わたしはそっちいけないのに!」
わたしの抗議などどこ吹く風でマグマダイバーはずっと安全地帯からマグマ鉄砲を食らわせてくる。
「あじゃじゃじゃじゃ、こりゃだめだ。一旦退避!!」
飛び石になってしまった足場をぴょんぴょんと飛んでわたしは撤退することにした。マグマダイバーも泳いで追いかけてくるけど、泳ぎながら水鉄砲は出せまい!
「ばーかばーか! また来るからな!!」
なんとか飛び石を渡り切ったわたしはマグマダイバーにあっかんべーをすると、ケツまくってそこから逃げた。
***
「お、お嬢ちゃんおかえり、お目当てのものは出たかい?」
一旦対策を練り直すため今日は帰ろうと思ってピンちゃんを迎えに行くと、採掘家さんたちもちょうど作業を終えるところのようだった。
「すっげえんだぞこの大根坊や。ありえないスピードでつるはし振るんだ」
「んわわわわわわわ!!」
「すげーっ!」
とんかんとんかんと鉱石を掘りまくっているピンちゃんと歓声を上げる採掘家さんたち。なんかすっかり仲良くなってるな……。
「いやあ……、奥にいるマグマダイバーがいやらしくて……」
「あ~、あれかあ……。あれはなあ、マグマの上を歩く靴を用意しないとだめだぞ」
進捗を聞かれたのでマグマダイバーのことを話すと、採掘家さんはまた新しい情報を教えてくれる。
「え~、そういうのもっと早く教えてくださいよ~」
「馬鹿言うなよ、まさかお嬢ちゃん一人でマグマダイバーに挑むとは思わねえよ」
「豪胆だよなあ、お嬢ちゃん」
「うーん。まあ、確かに教えてくれただけ感謝かな、ありがとうございます」
マグマの上を歩く靴……。そんなのがあるのか。それがあれば泳いで逃げまくるマグマダイバーを走って追い詰めて仕留めることができるってわけね。
「火ネズミの革で作った手袋もあったほうがいいぞ。あれが落とす素材がマグマの中に落ちたら素手じゃ拾えねえから」
「あーっ、確かに! 火傷もうざいし長手袋とかいいのかも」
そう口にしたとたんにわたしの頭に「火ネズミの長小手」のレシピがポップアップした。だけど靴の方のレシピは浮かばなかった。
「マグマの上を歩く靴ってどこで手に入ります?」
「ああ、あれは貴族街じゃないとだめだ。高級品だからな」
「ンガァ~、またお金がかかるう……」
「まあ、ピン坊が頑張って宝石掘ってくれたからよ、これ元手にがんばりな」
「んわ」
宝石でパンパンのカゴを背負ったピンちゃんを連れて、わたしは採掘家さんたちに別れを告げた。
(仕方ない……。この宝石だけを売ってもあんまり高く買ってもらえるとは思えないし、これで何か高見えアイテムを作って貴族街で売るしかないな……手始めに奥さんにプレゼントしたがってる紳士! あの人向けに何か作ろう!)
十日で五割借金が膨れ上がってしまうと思うともたもたしてはいられないけど、わたしは次の目的を見据えて頑張ることにした。
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