70.まりえとマグマフィールド
「よし! 行くぞ! マグマフィールドに!」
あれからわたしは鍛冶屋さんに行って、マチェーテに冷気属性を付与してもらった。お金がかかってしまったけどこれは初期投資。
(利息がトゴになっちゃったからな。あんまりお金使いたくなかったけど武器の属性付与はわたしにはできないから仕方ない)
イスマイルを連れていけなくなってしまった以上、わたしにはアイテムで能力を底上げするしか方法がないのだ。
(今だったらワルブレヒトを同行者にしてもよかったのに、ワルブレヒトはもう攻略対象から退場しちゃったもんなあ)
ワンチャンワルブレヒトがホムちゃん群を引き連れて手伝ってくれないか? とか思ったけど、もう同行者欄にワルブレヒトの名前の痕跡すらなかった。そりゃそうだ。もうあの人はワルブレヒトって名前ですらなくなっちゃったんだから。
「しょうがないね。今のわたしにはやっぱりピンちゃんしかいないか。ピンちゃん、着いてきてね」
「んわ」
ほんのりピンクのホムンクルスのピンちゃんは背中にしょいカゴを背負ってわたしの後ろをよちよちついてきてくれた。足短いのに走ると結構早いんだよな……。
「そりゃなんだい。ああ、ペットみたいなもんか。そいつの運賃はいらないよ、乗りな」
「やった!」
鉱山行きの乗り合い馬車には一人分のお値段で乗れた。ほんとはそのお金すらも惜しいけど、歩きで疲れてフィールド攻略に支障が出たらちょっと馬鹿すぎる。ピンちゃんを無料で乗せていけるだけで大感謝だった。
「おー、お嬢ちゃん久しぶりだな。あれ? 今日は彼氏は?」
「採掘家の皆さん! っていうか、彼氏じゃないって言ってるのに!」
今はお財布に痛い採掘料を払って鉱山フィールドに入ると、今日はすぐに採掘家さんたちに出会った。この人たちいつもイスマイルのこと彼氏って言う……。うわーん、彼氏だったらほんとによかったのに~っ!
「しばらく一人でこなくちゃならなくなりました……」
「なんだい、喧嘩でもしたのかい?」
「そんなんじゃなくてえ、あっちのお仕事の都合ですう、代わりにホムンクルス連れて来たんですけどね」
「んわ」
「あららーっ、ドチタノドチタノ~」
採掘家の皆さんはみんな動物好きだったようだ。ピンちゃんて動物か? まあいいや。せっかくだからわたしはピンちゃんを採掘家さんたちの採掘に混ぜてもらえるようにお願いすることにした。
「わたし今日はマグマの方に探索行きたいんですよ。その間この子が採掘をしてくれることになってるんで、皆さんについて行かせてもいいですか?」
「お、マグマの方っていうことはシナバー狙いか。ちゃんと準備できてんのかよ」
「だいじょーぶ! 熱気避けの服着てきました!」
「へえ~。こんなかわいいおべべがねえ……」
「そういうわけなんで、お願いできます?」
「まあいいぜ。知らない仲じゃないしな。あららドチタノドチタノ、つるはし持ってるの? えらいねぇ~」
「んわわわ!」
ピンちゃんはつるはしを構えていかにも自分やれます! やらせてください! と言わんばかりに採掘家さんたちにアピールした。その仕草が可愛かったらしく、採掘家さんたちはピンちゃんを順番に抱っこしながら連れて行ってくれた。
「よし、採掘はピンちゃんに任せてわたしは探索を頑張るぞ!」
前回イスマイルと一緒にマグマフィールドを覗いた時は足を踏み入れただけで熱気がやばくてすごすご逃げ帰ってきた。貴族のお店で買ったイチゴジャムドレス、性能はいかほどか……?
おそるおそるマグマフィールドへの入り口を通るわたし。ここの曲がり角を曲がると熱気がぶわーっ……。
「おお……全然熱くない……」
イチゴジャムドレスを着ているだけで顔とかは防護してないのに前回と全然違った。前は息をするのも厳しかったのに、まるで草原にいるように呼吸が楽だった。
熱のダメージと息苦しさがないので今回はフィールドを見回す余裕がある。マグマフィールドの名前に恥じないマグマっぷり……。あちこちにぶくぶくとマグマが溜まったり、天井からどろどろと流れ落ちたりしている。これいくらこのドレス着てるからって落ちたら普通に死ぬよな。落ちないように気を付けて歩こう。
「そうと決まればよし、狩るぞ」
今回のお目当てはまず火ネズミの毛皮。もうイスマイルの分の防護服を作る必要はなくなっちゃったんだけど、それでも火ネズミの毛皮は素材として高く売ることができる。
「ヂュッ!!」
「お、いたいた」
しばらく歩いていると真っ赤な毛皮を持った動物がうろちょろしていた。多分あれが火ネズミだ。
「ネズミと言うにはちょっとでかくないか……カピバラくらいあるじゃん」
とはいえ、ハツカネズミくらいの大きさだったらほんとにいっぱい狩らないと商品にも素材にもならなそうだもんな。よし、狩ろう。
「よっと……」
わたしは冷気を付与したマチェーテを抜いた。マチェーテは何もしていなくてもひんやりと冷たく、フィールドの熱気で結露して水がぽたぽたしたたり落ちている。
「おらーっ!!」
事前にスグリジャムのクッキーを食べていたわたしは足が速くなっている。それに加えて、足場が安定している所ではコンパクトで時間を止めて距離を詰めたりもできる。マチェーテの間合いで時間を止めたら、前にスライムと戦った時のようにやみくもに切り払い、手ごたえがあったらコンパクトから目を離して確認。まだ生きていたらとどめを刺す。
そんな方法を繰り返し、わたしは短時間で結構な数の火ネズミを狩ることができた。
「なんかこういうの懐かしいな。最初の草原フィールドでスライムに苦戦させられてたころを思い出すよ」
そのあと湖で水浴びしていたイスマイルに会って、クッキーをあげたら同行者になってくれた。それを思い出すと、隣に彼がいないのがやけにすうすう寒く感じた。
(イスマイルがいない寂しさで風邪ひいちゃいそうだよ……。こんなんでわたし、このゲームクリアした後元居たところに帰れるのかな……)
今隣にイスマイルがいたらこんなわたしに何て言うだろうって思う。バカなこと言ってないでとっとと帰りなさいよって言うかな。
(そうだよね。わたしがクリアしたらイスマイルはまた新しい転生マリエと出会うんだもの。イスマイルだってきっとループから抜け出す方法を見つけ出すとかそういう目的があるはずなんだ。なのにわたしに付き合って性転換までしてくれて……。エルフ椅子なんかにされて……)
ああ~っ、なんかそう思うとわたし、彼のことこき使ってほんとに悪かった気がする~っ!
「うーっ、ダメだ。すぐイスマイルのこと考えちゃう。今はお金稼ぎのことを第一に考えなきゃ……」
マグマフィールドでの目的は火ネズミの毛皮もそうだけど、採掘家さんたちが言ってた通りシナバーが一番だ。また賢者の石を作って王様に売る。賢者の石の単価がいくらかはわかんないけどワルブレヒトは一個売ったら借金なんか返せちゃうって言ってた。利息をトゴにされた今、賢者の石を複数作ることが一番このぬかるみみたいな状況から抜け出す最善策のはず。
「うーん、でもなんか……。マグマフィールドって採掘できるとこすごい少なくない?」
鉱山フィールドでは壁の色が変わっているところを掘ると宝石が出てきたので同じようなところをつるはしで掘ってはみるんだけど、壁をマグマが伝っているところが多くて露出している壁自体が少ない。手あたり次第掘ってもシナバーはでてこなくて、わたしは途方にくれてしまった。
「あ~ん出てこないよ~。あの時なんでシナバーなんか持ってたんだっけ……。そうだ……ダンスバトルの賞品でもらったんだった……」
そっか、あれってあの時点ではイベント報酬じゃないと手に入らないアイテムだったんだな……。ってことはダンスバトルに負けてたらワルブレヒトのこと助けられなかったてこと?
「うひっ……怖い怖い」
熱いマグマのフィールドにいるというのに自分が至った考えがうすら寒くて、わたしは二の腕を激しく擦るのだった。
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