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【完結】すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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69.イスマイルとギラつき

 ふんふんと鼻息荒くまりえさんは事務所を出て行った。彼女はカッとしやすいところがあるが馬鹿ではない。私を助けるためにオンドレアに身柄を投げ出したりはしないと信じていた。その通りになってくれて嬉しい。


「あーっ! 座り心地悪いわ! 男の身体ってのはギスギス硬くてかなわんでほんまに。どうせ乗るなら女子の身体がええわな」


 私の背中からずっしりとしたオンドレアの体重が退けられた。床に押し付けられた膝はもう感覚がないので痛みは感じない。後で痣になるかもしれないが大したことはなかった。


「お粗末様でした……。けれど、彼女を一人で頑張る気にさせるいいパフォーマンスにはなったでしょう。ああ、しかし掌で煙草を消すことはないじゃありませんか。痕になってしまいそうだ……」

「男の手ぇなんか汚れてなんぼや、これだからエルフ様はお綺麗でかなわんな。おい、お前ホンマにマリエのことなんとも思ってないんやろな」

「この間も言ったじゃないですか。私はこれでもボスよりずっと年上なんですよ? あんな小娘、女に見えません」

「ほーん。そんなら闇ギルドで経営してる熟女キャバにでも今度連れてったろか?」

「おかまいなく、性欲は薄い方です」

「つまらん男やのお、心底金にしか興味あらへんのやな」

「ええ、彼女は金になる才能を持った錬金術師ですから、絞れるだけ絞りたいんです。金の卵を産む鶏を殺して食う馬鹿はいないでしょう?」


 もちろんそんなの嘘だ。私はもう後戻りができないほどまりえさんを愛してしまっているし、妄想の中で汚したりもしてしまっている。嘘などもう数えきれないほどつき続けた私だから、今さら人前で彼女への愛を否定したくらいで痛む心は持ち合わせていない。ただ、ここにまりえさんがいなくてよかったなとは思う。私の嘘を真に受けて傷ついた彼女の顔を目の当たりにしてしまったらさすがの私も苦しい。


「しっかしトゴとはなあ。俺も大概やけどニコニコちゃんもえげつないこと考えるわ」

「なるべく長く借金を返し続けてほしいじゃないですか……」


 私はまりえさんにエンディングを迎えてほしくないと思っているのを自覚している。しばらく前までは彼女の目的を果たさせてあげて、そのあとは死のうなどと殊勝なことを考えていた。今となってはその考えは殊勝なのではなく、自己憐憫をたっぷり含んだ戯言に感じる。

 この箱庭の中で、永遠に彼女と暮らしていきたい。私のなかにはそんなエゴが産まれてしまった。


(エゴだけがまりえさんにエンディングを迎えてほしくない理由ではないのだけれど……。それを彼女にまっすぐ伝えるのは私に課せられたルールに反するからな……)


 この世界の仕組みを転生マリエに教えるのはルール違反。だが、転生マリエの邪魔をしてはいけないと言うルールはない。誠実さには欠けるがそれがなんだというのだ。


「俺、ニコニコちゃんのこと誤解しとったわ。俺の目ぇ盗んでマリエのことコマしたろうと思っとるんかと思っとったからな。痛めつけて悪かったな」

「いいえ、思わせぶりな態度をとっていた私も悪いですから」

「それどころか俺の恋のキューピッドになってくれようとしとるやんけ。俺がマリエを手に入れた時にはなんかええ思いさせたるからな!」


 もちろん、この男にまりえさんをむざむざ奪われるつもりも毛頭ない。

 まりえさんは守られるよりヒロイックに戦って誰かを守ることを好むタイプだ。この間性転換してダンスパーティに出た時に私はそれを確信した。今は彼女の側に私がいないほうが彼女を奮い立たせることができる。そのために私はあえて囚われのお姫様を演じたというわけだ。


(王子様気質の女性か……マリエ・ス・カラカンの外見に引っ張られてイメージしづらいけれど、本来の安彦まりえさんは一体どんな女性だったのだろう)


 まりえさんのことを考えると私の全身の血液が下腹に集まって、ハッとするほどに熱くのぼせてしまう。ああ、私は彼女を愛している。彼女のためなら這いつくばって床を舐めようがなんだろうが痛くも痒くもないのだ。恋敵に微笑んで塩を送るような真似ですら、やってのけよう。


「なあ、聞いてくれるか? 俺はな。マリエがこーんなちっちゃかったころに一度会って、そんで一目惚れしたんよ」


 私の思惑など知らず、オンドレアはマリエ・ス・カラカンとの馴れ初めを話し始めた。私は昔からの彼の親友のように微笑んで、それを聞いてやる。


「俺、あのころただの浮浪児やったから、ちっちゃいお人形さんみたいなんがちょこちょこ歩いてるの見て、同じ人間に思えんかった。髪の毛もつるつるのつやつやで綺麗やったし、生まれて初めてやったんや。あないなかいらしい生き物見たんは」

「……」

「次に会った時に渡したくて、あのブローチを盗んできたんや。せやけど、あれからマリエによう会えんくて。それからはずっと肌身離さずあのブローチ持ち歩いとったんよ。もう会えんのやないかと思ってマリエのこと忘れようと思った時もある。そんで他の女に似たようなもんやったこともあるけどな。オリジナルはあれ一つや」

「そうだったんですねえ。純愛ですねえ」


 この男、気持ち悪いなあ。と私は思う。黒い猫のブローチを着けている娼婦が闇ギルドに複数いるのは私だって知っている。マリエの代わりに愛でられ、抱かれていた娼婦たち。この男は好きでもない女の身体をマリエへの情欲と恋慕のゴミ箱にすることを厭わない男なのだ。今まで複数の女に吐き出していたその汚泥を全部まりえさんが受け止めなくてはならなくなるだなんて想像するだけでおぞましい。


「せやろ~。お、もうこんな時間か。俺は外回りの仕事あるからニコニコちゃん書類しばいてくれるか? どうせしばらく店は開けられんやろ? 二階に寝泊まりできる部屋があるから勝手に使こてくれや」

「ありがとうございます」

「ほなな」

「行ってらっしゃいませ……」


 オンドレアは舎弟たちを引き連れてぞろぞろと事務所を出ていく。それから私は一人になるタイミングを見つけて、事務所の家探しを始めた。


(まりえさんの借用書を見つけ出さなくては。ここを探してなければ、貴族街にあるオンドレアの居宅か、もしくは本人が肌身離さず持っているか……。どちらにせよ、私はまりえさんとは違う戦いをしなくては。まりえさんをオンドレアからも、借金からも解放してやりたい。どこにもいけなくなった彼女に手を差し伸べるのは私だ……)


 手洗い場の壁に貼り付けてある汚れた鏡に映った自分とふと目が合った。鏡の中の私の顔もまた、オンドレアに引けを取らず欲望に取り憑かれたギラつきを放っていた。


 面白かった、続きが気になるなどございましたら感想、評価、ブクマ、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。

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