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【完結】すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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66.まりえとグレーアウト

「んわわー、んわ」


 空のボストンバッグを持ってマリエハウスに帰ってきたわたしたちをほんのりピンクのホムちゃんだけが出迎えてくれた。


「一緒に行かなくてよかったの?」

「んわ」


 ピンクのホムちゃんはわたしの問いに一言だけ返事するとそのまま家の奥に入って行ってしまった。昨日まで賑やかだった家は嘘みたいに静かになって、なんだかがらんとしてしまったような気がする。


「さて、私はそろそろお暇しますよ。戻って確認しておきたいことがいくつかあるもので……」

「あ、うん。ほんとにありがとうねイスマイル」


 わたし一人だったらもっとパニクっちゃって何もできないままワルブレヒトを見殺しにしてしまったかもしれない。あんな状態の人体を見た状態で落ち着いて対処できるほどわたしも人間やめてないから……。


「……帰って大丈夫ですか?」

「……あ、うん。大丈夫。気を付けて帰ってね」


 もう一晩泊まっていってほしい。喉元まで出かかった言葉をわたしは飲み込む。そう、イスマイルは昨日わたしを心配して泊まっていってくれた。ワルブレヒトもいたし、マリエパパの部屋で寝てもらったから別になんにもなかったんだけど……。

 でも駄目。ホムちゃんがまた一匹残ってるとはいえ、今夜二人きりになったら多分わたし、告白しちゃう。

 イスマイルはこのゲームの中をループしてる存在なのだ。わたしに告白なんかされて、彼はわたしのことどう思ってるのかはわからないけど、どっちに転んでもわたしがエンディングを迎えて以降の彼の周回の重荷になってしまう。そんなのは嫌だ。


(わたしがいなくなってからもずっと覚えていてほしいだなんて、自分のことしか考えてなさすぎる。そんな女にはなりたくないもんね……)


 そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか。イスマイルはわたしのおでこに綺麗な手をすっと近づけてきた。またチョップかなって思ったけど、予想に反してその手はわたしの前髪をやさしい仕草で避けた。単にわたしの顔が見たかったみたいだ。


「しょぼくれちゃって。もっといつもみたいな馬鹿ッ面で笑ってなさいよ」

「ば、馬鹿じゃないもん! なんでそんなこと言うの」

「うーん。なんででしょうねえ。ああ、そうですね。あなた、笑ってる顔の方がかわいいから」

「……えっ」


 め、メロいやつめ! ひとの気も知らないで~っ!!


「もーっ! からかうなら早く帰って!!」

「はは、悪ふざけが過ぎましたか。元気を出してほしかっただけなんですが」

「まあ、うん。元気出た」

「それはなにより。では、またあとで」

「うん、あとでね」


 イスマイルを見送ってドアを閉めたら、急にどっと疲れが襲ってきてわたしはソファに身を沈めた。スカートを押しつぶして腰掛けた太腿に何か硬い感触がさわる。探ってみるとポケットに入れたままにしていたオンドレアのブローチだった。


「次行くときはつけて来い、だっけ……」


 当初の予定ではこのブローチを着けて早めにオンドレアルートにシフトして、コムギコカナニカを作って荒稼ぎしつつワルブレヒトには自然消滅みたいな感じでフェードアウトしてもらうつもりだったのに、最初にワルブレヒトにこれを取られちゃったからあんなことになったんだよな……。でも、コムギコカナニカを無断で売ったっていう理由で家ごと壊滅させられちゃうなら作らなくてよかった。元のゲームにそんな展開はなかったけど、悪いことをしてお金を稼ぐと言うのはそれだけリスクも高いんだ。現実でもそうだ。


(道具屋のお姉さんとか、バ先の店長。採掘家さんたち、ヨワール様にシキリーヤ様。貴族の老夫婦とワルブレヒト。あの人たちが住んでいる街を変な薬とかで汚したくない。ただのゲームのNPCかもしれないけど、みんなこの中で生きてるんだから……)


 これからわたしのゲームはワルブレヒトじゃなくてオンドレアに借金を返すゲームに変わる。たぶんオンドレアはワルブレヒトほどお手柔らかじゃない。きっと大変だけど、でもイスマイルがいてくれるなら大丈夫だ。何があってもくじけずに頑張っていこう……。


「よし! がんばるぞっ!! とりあえずご飯とか食べて! 貴族街で売る商品をちょっと作って! ゆっくりお風呂入って寝よう!!」

「んわんわ!!」


 わたしが気持ちを新たにしたところでホムちゃんが呼びに来た。どうやらちょうどご飯の支度ができたらしい。優秀~、助かる~。


「二人暮らしになっちゃったね。これからもよろしくね、ホムちゃん。名前つけた方がいいかな? ピンちゃんとかどう?」

「んわ!」

「じゃあご飯にしようか、ピンちゃん」


 ***


 それから、わたしは貴族街に通ってお金を稼いだ。手元に賢者の石はなくなってしまったけど、次に手に入った時に王様に売ってさっさと借金を返すためには貴族の依頼をいっぱい受けて評判をあげないといけない。

 貴族街には相変わらず庶民のお菓子が食べてみたい令嬢とか婚約者に豪華なプレゼントをしたい紳士とかが大声で独り言を言っている。ワルブレヒトを引き取ってくれた老夫婦が彼を連れてお散歩とかしてないかなと思ったけど、今まで彼らが立っていたところには毎回別のNPCが立っていた。会えなくなったのは残念だけど、ワルブレヒトが豪華なお屋敷で優しいおじいちゃんおばあちゃんに蝶よ花よと溺愛されていることを願う。


(オンドレアのところにも早めに行っておかなきゃ……。やだなあ、何するかわかんないんだもんあいつ……。とりあえずまとまったお金を用意してすぐに返せるようにしておかなきゃ。あ、そう言えばイスマイルに借りてたお金、闇ギルドの金貸しなんだからオンドレアの息がかかってる。そっちだけでも返さなきゃね……)


 イスマイルはまだ返さなくていいって言ってたけど状況が変わってきた。老紳士にもらったお金もあるしイスマイルに借りた分と利息の分をすぐに返せるくらいはお財布に入ってるけど、もうちょっと宝石を取りに行く必要がある……。


(もー、いつになったらイスマイル連れて賢者の石の材料を探しに行けるの……! 仕方ない、とりあえずまた鉱山に宝石取りに行くの手伝ってもらおう)


 わたしはイスマイルに同行してもらうためにコンパクトを開く。しばらく街で行動してたから数日ぶりだ。久しぶりにイスマイルに会えると思うと心が躍る。あ~、もう。こんなに好きになっちゃうだなんて。お別れが辛いだけなのに。


「あれ?」


 いつものように同行者の設定をしようとして、わたしは違和感を覚えた。イスマイルの名前の横の同行オンオフの文字が灰色になっている。同行者にイスマイルが……選べない……!?


「えっ! なんで? どうして!? ええ? バグ? 困る……!!」


 予想外の事態に心臓がどきどきバクバクして全身の毛穴が開いた。まさか、まさか死んだとかじゃないよね!? わたしはパニックになりかける。


「いや、待てよ待てよおちつけよ、まりえ……」


 名前が消えているわけではない、選択ができないだけだ。同行者のリストから外れているわけじゃない。どうしてかわからないけど、今イスマイルが同行できない理由があるのだ。きっと……たぶん……そうであって……!


「イスマイル……!」


 わたしは慌てて出かける準備をする。行くのはスラムだ。オンドレアに出くわす可能性も考えて、胸に例のブローチを忘れずにつけた。


(イスマイル、どうしたの? 何があったの……?)


 頭の中を駆け巡る嫌な予感と胸いっぱいの不安を押し殺して、わたしはスラムへの道を急いだ。

 面白かった、続きが気になるなどございましたら感想、評価、ブクマ、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。

 土日は執筆と更新をお休みさせていただきます。

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