50.まりえとひらめき
わたしと話がついたことで、ヨワール様は安心した様子でスイーツショップを出て行った。入れ替わりに店に入ってきたのは会いたかったイスマイルだ。
「おっと、失礼」
「ああ、こちらこそ」
「イスマイル!」
「おや、今日はまりえさんがバイトをしている日でしたか」
イスマイルはいつも真っ白な服を着ているので入ってきただけでその場が光り輝いて見える。もちろん映画スターもかくやといったようなとぅるんとぅるんの金髪とまばゆいおでこも眩しい! 今日もイケメンなんだからっ!!
「今の人、初めて見るNPCですね。なにかイベントでも起きましたか? まりえさん」
「さすがイスマイル、察しがいいねえ。今のはお忍びの貴族だよ。あ、ねえ聞いて! 貴族街の通行証が手に入りそうなの!」
「私の質問の答えになってません。ちゃんと説明なさいよ」
「えっとね。今の貴族に個人的に依頼を受けて、報酬として通行証をもらえるように交渉したの」
「ほお、やるじゃないですか。それで、どんな依頼だったんですか?」
イスマイルを席に通しながらさっきあったことを説明する。最初はふんふんと聞いていたイスマイルだったが、わたしが令嬢のふりをしてパーティでエスコートされるという話をし始めたあたりでなんでかすごく機嫌が悪そうになった。
「おやめなさい! 聞いてるだけでろくなもんじゃない」
「ええ、なんでえ? だってマリエパパ、ぜんぜん貴族とやりとりしてなかったんだよ。ワルブレヒトもいないし……他にどうやって貴族とパイプ作れって言うの!」
今までわりとわたしの思い付きに根気強く付き合ってくれていたイスマイルがここに来て急に反対し始めた。いままでお金を稼ぐ方法について彼が口出しすることはなかったのでちょっと面食らってしまう。
「あなたみたいな粗忽者が令嬢のふりをしたところですぐに尻尾が出るでしょうし、ろくでもない貴族だってたくさんいます。平民の小娘なんてちょっとつまみ食いしても金さえ積めばなんとでもなると思っているようなジジイが山ほどいますよ!」
「え、そうかもしれないけどさ。イスマイル、わたしが盗賊のアジト見つけるのにおとりになる時とか別に反対しなかったじゃん。急にどうしたの?」
イスマイルの様子は明らかにおかしかった。なんかまるで過保護なお父さんみたいだ。
「あの時はあの時、今は今です」
「もー! なんで邪魔するわけ! イスマイル、わたしにノーマルエンドでクリアさせたくないの!?」
「それは……私は転生マリエがゲームを無事にクリアする手伝いをなるべくしようとしているだけで……」
「なんなわけ! もごもごしちゃってさ! イスマイルらしくないよ!」
「マリエちゃん、仲いいのはわかるけどお客さんだからさ。とりあえず注文とってよ、ね?」
お冷出すのも忘れてイスマイルとぎゃーぎゃー口げんかしていたら、店長が様子を見に来てしまった。わたしは店長とイスマイルにごめんなさいしてお冷を取りに行く。一旦頭冷やさないとだめだ……。
(持ってる宝石が換金できないんじゃ文字通り宝の持ち腐れ。貴族街に作ったアイテムの販路を伸ばすのはもう確定事項なんだ。だから偶然知り合った貴族とパイプ作ったっていうのにイスマイルがやめろっていう……)
そんなにわたしに貴族のパーティーに行かせたくないってんならイスマイルが代わりに出てくれればいいんだよ。貴族令嬢としてはちょっと……いやかなり身長がでかいけど美形のエルフだしパフスリーブのドレスとか着せればなんとかなるんじゃないのか……ならないか。お前のような貴族令嬢がいるかってなりそうだな……うん? なんか……あっ!
「そうだよ! だったら代わりにイスマイルが行ってくれればいい!!」
「はっ!? 何がだったらなんですか!!」
「ここじゃなんだからうちに帰ってから説明するよ。とりあえず何食べる~? バイト終わったらうち来てよ」
「まりえさんの家に? 私が?」
「そうそう。いまワルブレヒトいないから。上がってってね」
「はあ……」
お冷を置くと同時に話し出すわたしに面食らいながら、イスマイルはクリームソーダだけ注文した。
***
猫耳メイド服からチョコミントドレスに着替えて店から出ると、イスマイルは壁に寄りかかってわたしを待っていた。
「お待たせイスマイル。じゃあいこ!」
「まったく……なんだっていうんだか……」
ぶつくさ文句を言うイスマイルの手を取って、わたしは自宅への道を歩いた。イスマイルの手は最初はひんやりしているのに、つないでいるとだんだん温かくなってくる。スイーツショップと家は近いのでほんのちょっとの間だけど、イスマイルと手を繋げるのは嬉しい。
「何度も周回してますけど、マリエ・ス・カラカンの家の中に入るのは初めてですねえ……」
「ワルブレヒトが家にいることがほとんどだったでしょ」
「ええ、来れても玄関まででしたね。というか、あなた自分で家には絶対来ないでって言ったの忘れてるでしょう」
「言ったっけ……」
「言いましたよ。ワルブレヒトが嫉妬するから来ないでって。それが急に家に来てねなんて。面食らうのも無理はありません」
「そっか。じゃあ撤回ね。おうちにようこそ~」
「あなたはねえ……」
イスマイルの手を引いたままわたしは自宅のドアを開く。わたしが帰ってきたのに気づいたホムちゃんたちがんわーんわーと騒ぎながらお迎えに来た。
「わっ、なんですかこれ。ホムンクルス?」
「そうそう、ワルブレヒトが置いて行ったホムンクルスだよ。わたしのかわりに家事をやってくれるの。ねえホムちゃんたち。お客さんだからお茶を出して」
「んわわ!」
もうすっかりホムちゃんたちを使役するのに慣れたわたしをイスマイルは不思議なものを見るような目で見ていた。そんな彼をリビングに残し、わたしは工房へ行く。
この間作り方を覚えたアイテムが今回の依頼に役に立ちそうだと思ったのだ。材料を物色したらちょうど揃っていた。宝石素材を使う最初のアイテムがこれだとは思わなかったけど……。
「おまたせ、イスマイル」
「はい。それで私は今日はなんのためにまりえさんの家にご招待されたのでしょうか」
「ねえ、イスマイル。イスマイルはわたしがずるい貴族のおじさんに地位を笠に着て遊ばれちゃうのが嫌なんだよね?」
「別にあなたが遊ばれるのが嫌とかじゃなくて……。このゲームっていわゆるそう言うゲームなんでしょう。だったらこんなの見えている罠じゃないですか。そんなものに頭から突っ込もうとしているあなたを放っておけなかっただけで……」
「でも宝石や宝石アイテムを売るためにはこのイベントは受けるべき。イスマイルはそうは思わない?」
「まあ……このタイミングで見たことのないNPCがいきなり現れると言うのはそういうことなんでしょうね。さっきからなんなんですか? 言いたいことがあるなら率直に言ってくださいよ」
イスマイルは長くて綺麗な指でテーブルをトントンと叩いていらだちを表している。
「さっきも言ったけどさ。そんなにわたしを行かせるのが嫌ならイスマイルが代わりに行ってよ」
「馬鹿じゃないですか? 私は男ですよ。しかも体格もいい方だ。私のどこをどう見て誰が貴族令嬢だと思うんですか」
「今のままだったらそうだろうね。だけど、それをなんとかできるアイテムがわたしの手にはあるんだ」
「なんとかできるアイテム? それはどういう……」
わたしはさっき作ったヘアピンをイスマイルの綺麗な髪の生え際に挿してあげた。宝石で作ったビーズがあしらわれていてとても可愛い。見た感じただの女の子向けのアクセサリーなんだけど。
「ちょっと、なんですか。えっ、ええっ? なんか……なんか身体に違和感が……。ひゃっ! 私の胸が……何をしたんですか!」
わたしの目の前には今、出るとこが出て引っ込む所が引っ込んでいる爆裂ナイスバディの爆美女エルフが、取り乱して自分の身体をぺたぺた触っている。成功だ。
「性転換のヘアピン。わたしもこれで男の子になって従者としてついて行くから。令嬢にはイスマイルがなってよ」
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