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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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49.まりえと不審者

「う~ん……なんか……変な夢見たような……」


 朝が来て、わたしはベッドで目覚めた。ひらひらの可愛いパジャマが汗でしっとしとになっている。よっぽど怖い夢を見たんだろうか。でも全然覚えていないのだった。


「まあ、覚えてないなら大した夢じゃなかったんだろうな……起きるかぁ……」


 ワルブレヒトがいないので寝間着でだらしなくうろちょろしてもいい。ここはわたしの家なんだからわたしが王様である。


「んわんわ」


 階段を降りるとワルブレヒトが置いて行ったホムちゃんがわたしを呼びに来た。いつまで寝てるんだという抗議の圧を感じる。どうやら朝食を作ってくれていたようだった。


「いただきまーす」


 テーブルの上には目玉焼きとトースト、スープのシンプルだけどこれだけあったら最高だよねっていう朝食が用意されていた。ホムちゃんたち料理ができるのすごいよね、作ったワルブレヒトの錬金術師としてのグレードが高いんだろう。さすが兄弟子といったところか。


(うーんしかし……マリエパパの持ってる貴族のパイプ、見つけられなかったな……)


 むぐもぐと口を動かしながら考えるのは昨日の調べもののことだ。どれだけ清廉で無欲なのか、マリエパパは貴族と特別な契約などはしていなかったらしい。街の頼れる錬金術師で生涯を終えたわけだ。愛されヒロインの父親としてふさわしい人物像なのかもねえ。いやしかし、娘のためにはもっと欲出してもらった方がよかったよ?


(欲かいてそうな錬金術師と言えばあと頼れそうなのはワルブレヒトなんだよな……。でもワルブレヒトいまいないし、いつ帰ってくるのかもわかんない……)


 ワルブレヒトは今実家に帰ってしまっている。わたしから今そっちに連絡する方法はない。最後に会った時に肩に乗せてた鳥のホムンクルスがいれば連絡できると思うけどそれもいないし。そのために虎の子の賢者の石をつかうわけにもいかないし。


「困ったなあ~。どうしよう」


 考え事してたら朝食を食べ終わってしまった。これ以上ここで考えていても答えは出ない気がする。


「うーん、一旦気分変えよ! 今日はバイトに行こう!」


 思い立ったら好きな時にバイトできるのがゲームの中のいい所。わたしはバイト先のスイーツショップに行くことにしたのだった。


(イスマイルにも会えるかもしれないしね……)


 そう思って店に来てみたのだけど、今日はイスマイルはいない日だったようだ。制服の猫耳メイド服を着て真面目に給仕をするだけの日。まあ戦闘したりおっかない人と会ったりすることも多かったからたまにはこういう普通の日があってもよかろう。


(……なんかあの人朝からずーっといるんだよな……。不審者?)


 スイーツショップの隅っこの席におかわりのコーヒーを提供して戻ってきたわたしは違和感に眉を顰める。いつもは女の子とかカップルばかりの店なのだけど、今日は帽子にコートの男の人が一人ずっと同じ席に座っているのだ。断っておくけど男の人がスイーツショップにいてもぜんぜんかまわない。イスマイルだってそうだし。だけどその人は見るからに怪しいっていうか……。出入りする女の子をジロジロ見ているようでもあるし……。


(こんどこそ「しゅっ、しゅきなんだよなあ」系の客なんじゃないのか……。店長に相談かな)


 怪しい客のことを店長に話すと、店長が出て行ってくれた。そうでなくてもコーヒーのお代わりばかりして新しくスイーツを頼むでもないので困ってしまうもんね。店長はしばらくその客と話した後、あわあわしながら戻ってきた。どうしたどうした?


「やばい、マリエちゃん。あれ貴族だった」

「へえっ? 貴族?」

「なんでもね、女の子一人雇いたくて候補を探しに来たんだって。それでマリエちゃんに折り入って話したいことがあるらしい……」

「わたしぃ? なになに怖! 断ったんですよね?」

「ごめん。裏で話してもらうようにしちゃった」

「ちょっとお! 勝手に! 店長!」

「だってお金もらっちゃったからあ……」

「てんめえ……。あとでわたしにも分け前よこしてくださいよ!」


 頼りにならん店長めぇ……! けど、貴族とのつながりは今わたしが欲しがっているものだ。うまくすれば通行証を手に入れられるかもしれない。そう思ってわたしはその貴族と話すことにしたのだった。


 ***


「貴族の方をこんな狭いバックヤードに入れちゃってすみませんねえ」

「いえ……ぼくのほうこそ無理を言ってしまってすまない。迷惑をおかけした」


 休憩室に通された貴族の男の人はヨワール・ボッチパーティ伯爵令息と名乗った。攻略対象とまではいかないが、とろりとしたはちみつ色の金髪に青いタレ目がセクシーな紳士だった。


「その伯爵令息が平民のスイーツショップに一体なんの御用があったのですか? ずいぶん熱心に女の子を目で追っていたようですけど……乱交パーティのメンバー探しとか?」

「バッ、な、なんてことを言うんだ。そんなわけないでしょう!」


 不審者改めヨワール様はわたしの品のない冗談に口に含みかけていた紅茶を噴き出した。どうやら彼はそういうスケベな貴族とは違ったらしい。


「冗談ですよぉ。で? こうやって裏に呼び出されてるってことはわたしがそのお眼鏡にかなったっていうことですよね? なんの? わたしは何をしたらいいんですか? 報酬と仕事の内容次第では引き受けないでもないので」

「そ、そうか。ありがたい。話すと長くなるのだが……」


 わたしの態度が好感触だったので安心したのか、ヨワール様は少し早口でここに来た理由を話し始めた。


「ぼくはつい先日ヤンデリカ・ケルナグール侯爵令嬢との婚約を破棄したばかりなのだが……」


 おっほほ来た来た、ここに来て婚約破棄とか言っちゃった。実際の乙女ゲーにはあんまりない、どっからきたんだその共通認識でおなじみ悪役令嬢じゃん。実はその子じゃなくて正ヒロインが悪いとかそう言うベタベタな展開でもあるのかな。あ、いや違うわ。正ヒロインってわたしじゃん。わたし悪くないじゃん。じゃあ違うね……。


「恥ずかしい話、次のパーティで代わりにエスコートさせてくれる令嬢が確保できなくてね。しかしパーティの主催は我がボッチパーティ伯爵家なのだ。主催の嫡男が一人でいるわけにはいかない。男は壁の花にもなれないしね。だから君に他国から留学してきた貴族令嬢ということにして一緒に参加してほしいのだ」

「ええ~、わたしが……他国の貴族令嬢……。無理がない? 大丈夫? ていうかなんで代わりに出てくれる令嬢いないんですか?」


 みんな婚約者がいるとか? と思ったけど、その理由は予想と違った。


「実は……。婚約破棄の理由はヤンデリカ嬢がぼくに異常に執着していたからなんだ。ぼくの周りにいつも監視をつけて、ただ社交辞令で話しかけただけの令嬢がいようものなら次々と闇討ちして手足の骨が折れるような大怪我をさせてしまって」

「うわあ……。悪役令嬢がほんとに悪い奴だあ……」

「そんなわけで、ヤンデリカ嬢は僻地の教会へ送られて婚約もなくなったわけなのだが……。もう彼女はいないのに、令嬢たちがぼくの側にいるのを怖がってしまってね。婚約者のいない令嬢もいるのだが、父親たちも娘を危ない目に遭わせたくないと」

「なるほど……それでね」


 まあ、いいんじゃないのかな。なんかこの流れだとヤンデリカ、教会から脱走してきそうな気がするけど、マチェーテ持ち込みOKだったら返り討ちにできそうな気がするし。


「よし、受けましょう」

「本当かい!?」

「その代わりと言ってはなんなんですけど……。貴族街への通行証を都合してもらえませんか?」


 こうしてわたしは貴族とのパイプを手に入れたのだった。

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