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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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47.まりえと夕暮れ

「へへ、じゃあイスマイル。借りてたお金返すね」


 王都に戻るとわたしはイスマイルを同行させたまま冒険者ギルドに行き、前もって受けていた宝石採掘クエストとコウモリ駆除の報酬を手持ちのお金に加えてイスマイルに渡した。


「今返してしまっていいのですか? 生活が苦しくなるのでは」

「このあと宝石も換金できるはずだからね。それに取り立てがなくてももうイスマイルはわたしの同行者だからさ。これからも一緒に来てくれる……よね?」


 ひょっとしたら……ひょっとしたらお金返しちゃったら同行者から外れちゃうかも、なんて思ったりもした。でももしそうなら寂しいけど、いずれ出ていく世界に残る彼とお別れする覚悟を決める準備を始められるかもしれない。

 これは実は自分がイスマイルのこと好きだってちゃんと自覚できた時から考えてたことだった。だから勇気を出してお金を返したんだけど……でもやっぱり未練があって、口の中でもごもごいいながら彼を見上げてしまう。

 見上げたイスマイルの顔は、なんか苦虫を嚙みつぶしたようなすごい顔をしていた。


「あなたはねえ~……。私のことをそんな言い方されて嫌ですとか言えるような男だと……そう思っているのですか?」

「あはは、違った……かな」

「よくわかりませんが……朝に言っていた『女の子特有のそういう日』とやらがまだ続いているのですか?」

「ん、そだね。そうかも……ははは、あ痛」


 覚悟と未練が戦って、未練のほうに運命は味方してくれたようだった。女性向けゲームのイケメンの立ち絵みたいに頭を掻き掻きして照れ隠ししたら、柔らかいチョップがまたおでこに降ってきた。


「ひとの気も知らないで……」

「え? どういうこと?」

「どうでもいいですよ。で? 今日はここで解散ですか?」

「うーん、もうちょっと……。雑貨屋で宝石換金して、それからマグマのフィールドを行ける装備が売ってるか見てみない? イスマイルのもいるとおもうし」

「なるほどね。まあ付き合いましょう」

「へへ、ありがと」


 イスマイルがこれからも同行者でいてくれると聞いて一番安心したのはわたしのほうだ。彼のチョップは男の人の力だからまあまあずしんと来るけど、やられる度にじんわりと嬉しさがこみあげてしまうようになっていた。

 そんなわけでニコニコ話しながらわたしたちは雑貨屋に来たのだけれど……。


「ごめんね、マリエちゃん。うちは小さい雑貨屋だから宝石は買い取れないんだよ」

「あれぇ~っ……」


 雑貨屋のお姉さんに申し訳なさそうな顔でそう言われて出鼻をくじかれてしまったわたしだった。


「どこだったら買い取ってもらえますかねぇ……」

「うーん。貴族街の宝飾品店だったら扱ってくれると思うよ」

「貴族街かぁ……」


 収入が入ったら装備を新調するつもりでウキウキ来たのに。わたしはしょんぼりと肩を落として、待ってくれていたイスマイルの所に戻った。


「見るからに気を落として。換金できなかったんですか」

「できなかった……。貴族街じゃないと買い取ってもらえないって」


 貴族街のマップがあるのはなんとなく覚えてはいた。そのうち行けるようになるだろうと思って行ってなかったんだけど、そろそろ行く時になったってことか……。


「知らなかったら困るだろうから言っておきますけど、貴族街に行くには許可証が必要ですよ」

「げっ、そうだっけ。そういうシステムだったっけ」

「貴族であるか、貴族の口利きがないと許可証は出ません。あなた、そんなことも覚えてないのに国王に石を売ろうとか思ってたんですか?」

「売ろうとしてましたぁ……」

「粗忽者」

「ひぃん……、気づいてたなら言ってよぉ……」


 イスマイルって、いろいろ親切に教えてくれるわりには早く教えておいてほしいようなこと黙ってる時があるよなあ! でもまあ、そうか。NPCだもんね。聞けば何でも教えてくれるタイプのNPCがいるゲームもあるけど、それだって大体ゲーム開始直後に基本的なシステムのことしか教えてくれないもんなあ。


「そっかあ……うーん。わたしは貴族じゃないし、貴族の知り合い……うーん」

「今日は一旦解散にしませんか。家に帰って、マリエ・ス・カラカンの父親の人脈などをあたってみるのをお勧めにしますよ。街の錬金術師が貴族とのパイプを持っていないとは思えません」

「そっか。そうだよね。そうする……」


 わーん! イスマイルとショッピングしたかったよ~! とか思ってたら、きゅうに手首を優しく掴まれる。


「えっ、なに? イスマイル?」

「それとこれはやっぱりお返しします」


 拡げさせられた手のひらにずっしりと重い袋が乗せられた。さっきわたしがイスマイルに返したお金が入った革袋だった。


「え? なんで?」

「なんでって……。宝石の換金ができないのならそれを使ったアイテムの売買のあてもしばらくないんでしょう。とりあえず利息の分だけは抜かせていただきましたけど」

「ええ……、そんな……。でも、助かるかも……」


 イスマイルの言う通りだった。雑貨屋で今まで買い取ってもらってたアイテムとスイーツショップに卸してるクッキーは引き続き換金できるけど、鉱山で手に入れた宝石はまだお金にならないのだ。今1万マニーが戻ってくるのは正直ありがたい……。


「それにね。あなたが私に全額返してしまったら私は立場上オンドレアにその旨、報告しなければいけないんですよ」

「あー……」

「そうなったら私とあなたは表向き無関係ということになってしまう。それなのに行く所行く所に同行しているのを闇ギルドの息のかかった者に見られでもしたら今度は殴られるだけでは済まないかもしれないので」


 その言葉を聞いて、わたしと一緒に事務所に入ったという理由だけで顔面をボコボコ殴られていた彼の姿を思い出し、顔からざっと血の気が引くのを感じた。

 

「そっか。そうだね。考えが足りなかったかも。ごめんイスマイル」

「別に謝らなくてもいいですよ。とにかく今日はもう帰りなさい。疲れたでしょう」


 いつもスラムと街の間でバイバイしているけど、ワルブレヒトが今いないと言ったらイスマイルはわたしの家まで送ってくれた。


「いいの? こっちスラムと反対方向じゃん」

「いいですよ。ついでに別の家でも取り立てして帰りますので」


 夕暮れの街を二人で歩いていると、小学校からお祖母ちゃんの家まで一人で帰った幼い日々のことをなんとなく思い出した。雲のたなびくオレンジ色の空を一人で見ているとこのまま空まで飛んでって夕日に溶けていっちゃいそうなんて、わたしはそんなことを考えている子供だった。

 見上げる夕暮れの空はゲームの世界のニセモノだけど、もし今夕日に溶けるならイスマイルと二人で溶けていきたいなあなんてことを思ったりして。


「空に何かありますか。ぼんやりして、危ないですよ」

「んーん。ゲームの中のくせに夕日は綺麗だなって思っただけ」

「ああ、そうですね。私はもうこの空は見飽きているけれど、今日は綺麗に感じます」

「そうなの?」

「あなたといると夕日が綺麗だ」

「え?」


 今のどういう意味? と聞こうとしたところでちょうど家にたどり着いた。


「じゃ。私はここで」

「イスマイル」

「また今度」


 わたしの呼びかけにもかまわず、イスマイルは踵を返して行ってしまう。


「……またね」


 今呼び留めたら口に出して好きって言っちゃいそうだったから、わたしは彼を追いかけなかった。

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