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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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46.まりえとスリップダメージ

 安全地帯は採掘しに来た人たちの休憩所みたいになってて、わたしたち以外にもちらほら一息ついている人たちがいた。


「イスマイルお腹すいちゃったでしょ。お弁当また作ってきたから食べてね」

「おや、お気遣いいただきありがとうございます」


 さっきの笑顔が嘘みたいにいつもどおりスンとしてるイスマイルだけど、口角が上がったような声出したのをわたしは聞き逃さない。無表情で器用なことをするよ。そういうとこほんとに可愛げあるよねえ……。

 この間、紅茶はその場で淹れたほうがおいしいかもと話していたので今日はちょっと工夫したものを用意してみた。


「それはなんですか?」

「これ? これはねえ。手作りのティーバッグだよ」

「ほう、ティーバッグ」

「見たことない?」

「エルフは茶葉を生のまま使うことが多いですからね」

「ミントティーとかならわたしもそうすることあるかも」


 そう、わたしは余ったガーゼと糸で茶葉を一人分小分けに包んで携帯用のティーバッグを作ったのだった。魔法瓶には熱湯だけ入れてあるのでこれでお茶を淹れれば……。


「ほう、こんなので美味しく淹れられるのかと思いましたがそう馬鹿にしたものではないですね」

「後片付けも楽だしね……。っていうか馬鹿にしてたことはもうちょっと隠してくれててもいいよ」

「ふ……バレましたか」

「もー。早く食べよ」

「いただきます」


 今日のお弁当はサンドイッチだけじゃなくてチキンナゲットも入れてきた。イスマイルはエルフだからお肉だめかな? ともちょっと思ったけど、お肉も全然好きみたいで興味深そうに口に入れていた。


「エルフってお肉食べるんだ」

「エルフによりますが私は食べますよ。特に鳥肉は好物です。これは潰した鶏肉を油で揚げているのですか? なかなか美味しいですね」

「そっか、よかったあ」


 作ったご飯を美味しいって言ってもらうのがわたしはすごく好き。特にそれが好きな人だったらもっともっと好き。お弁当を頬張りながら顔がにやけちゃうのが自分でもわかった。


「なんて緩んだ顔をしてるんですか」

「だってお外で誰かと美味しいお弁当食べるの嬉しいじゃん」

「顔にマヨネーズがついていますよ、はしたない」

「え、どこどこ?」

「ほら」


 顔の汚れを指摘されたわたしはコンパクトを取り出そうとポシェットをまさぐる。その隙にすっと長い指が伸びてきてほっぺを擦って行った。


「あ、え」


 わたしはびっくりしてとっさに頬を押さえる。イスマイルはわたしの頬からマヨネーズを拭った指をそのまま口元に持っていき、ぺろりと舐めた。


「ふむ」

「わ、わ……」

「おっと。行儀が悪かったですかね」

「そ、そうだよ。ほら、指拭いて」


 わたしがあわててナプキンを差し出すとイスマイルは素直に受け取って手を拭く。いつもどんなにドカ食いしても絶対下品にならない彼の舌が今日は妙に赤く艶めかしく見えて、なんだかどぎまぎしてしまうわたしだった。

 その後お弁当を食べ終わって空の入れ物を片付けていると、イスマイルは食べたりないのか先に渡しておいたクッキーを開けて食べている。ほんとうにたくさん食べるよね……。


「ちょっと採った宝石チェックするね。イスマイルはそのまま食べてていいよ」


 顔を見る必要がなくなったので、わたしは取り出しかけたコンパクトで宝石を検分することにした。宝石のリアル知識はそんなにないんだけど、アイテムの項目にどの宝石を何個所持しているかの数が表示されるのでどれが何なのかはそれで大体把握することができた。


「ギルドで受けてきた宝石採集クエストの分は足りてる。余った分はアイテム作るのに使おう」

「もう少し採掘しますか?」

「うーん、そうだねえ……」


 以前持ち帰った宝石で賢者の石の材料は足りたんだけど、今回は『シナバー』という宝石が出てこなくて足りてない。


「お? マチェーテのお嬢ちゃんじゃないか?」

「あれっ?」


 コンパクトを閉じた瞬間わたしに声をかける人がいた。声の方を見てみたら、前回一緒に行動した国と契約している採掘家さんたちだった。


「その節はありがとうございました! 皆さんの協力のおかげで盗賊のアジトを無事につきとめることができました!」

「いやあ、おかげで俺らも盗賊にびくびくせずに採掘ができるようになったから助かってるよ。今日は彼氏と一緒に採掘かい?」

「か、彼氏とかではないです! 同行者です!」

「ええ。私は彼女の同行者です」


 採掘家さんたちはオジサン揃いなせいかニヤニヤしながらわたしたちを見てからかってくる。わたしもイスマイルもすぐにそれを否定した。実際彼氏じゃないから正しいんだけど、改めてただの同行者って口に出すとちょっとめげるな……。


「なんだ、彼氏じゃないのか」

「もー! しつこいですよ!」

「すまんすまん。で? お嬢ちゃんたちは何を採りに来たんだ? いい石は採れたかい?」

「それなんですけど~、二人で結構頑張ってつるはし振ったのにシナバーが全然採れなくって……」

「ああ、シナバーかあ」

「どこで採れるかってご存知です?」


 採掘家さんたちも商売でやってるし、競合にいい石取られると困るかもしれないけどダメもとで聞いてみる。


「シナバーはなあ。結構奥のほうまで行かないと採れないんだよ」

「奥のほう?」

「ああ。モンスターも出るし、けっこう危険だぞ。盗賊が出る前も俺らみたいな本職じゃない一般の利用者はまず立ち入らないところだ」

「へえ……でもそこにいけばシナバーあるんですよね」

「あるが、今日はやめておいた方がいいぞ。お嬢ちゃんたちの装備じゃ危なすぎる」


 そんなに強い敵がでるんだっけ? とわたしは首をかしげる。ほんとに、この世界に来る直前までやってたゲームとかだったら覚えてられたのにうろ覚えのゲームだから毎回毎回こういう時困ってしまうよね……。


「奥はマグマが流れていてすごく熱いんだ。いるだけで具合が悪くなるぞ。悪いことは言わないからもっとちゃんと準備をしてからのほうがいい」


 マグマのフィールドかー!! 現実だったらそんな危ない所で採掘なんかよっぽどのことがなきゃしないんだろうな……。


「教えてくれてありがとうございました。知らなかったら出ないところを何時間も掘り続けるところでした」

「まあ、お嬢ちゃんには世話になったからな。また今度頑張りな。俺らはもう帰るから」

「お疲れさまでした~!」


 採掘家さんたちはわたしたちに手を振るとぞろぞろと出口に向かって歩いて行った。振り向くとイスマイルはもうクッキーを食べ終わっていたようだ。


「ごちそうさまでした。それでどうします? 今日はもう帰りますか?」

「それなんだけど……奥のフィールドちらっとだけ見て行かない?」

「は? さっきの人たち言ってたでしょう。今の装備じゃ危ないって」

「そうだけどさ、ちょっとだけ。覗くだけしてから帰らない? 何を準備したらいいか考えるためっていうか……」

「はあ……ちょっとだけですからね」


 イスマイルはわたしのワガママに折れてくれた。いやわたしだって危険なのはわかってるよ。でもどの程度危険なのか把握しておきたいじゃん。

 そういうわけで、わたしたちは会話中に採掘家さんが顎でしゃくって示していた方向に進んでいく。確かに人が凄く少ないし、むわっと暖かい気がした。

進んでいくにつれ通路が狭くなっていって……。曲がり角を曲がると、視界に赤い光が飛び込んできた。


「んおっ!!!!」


 わたしはその空間の熱さにヒロインらしからぬ野太い声を出して仰け反った。そしてすぐ後ろにいたイスマイルの胸板に後頭部を打ち付ける。


「駄目です! 帰りましょう!」

「ぶ、ぶえええ」


 イスマイルはわたしをがっしりと捕まえると後ろに引きずってマグマフィールドの出入り口から離した。


「な、なにこれ。足一歩踏み入れただけできつかったんだけど……」

「予想はできてたでしょう。何をやってるんですか……」

「スリップダメージってほんとにあるんだね……きっつい……」

「スリップダメージ?」


 ちなみにスリップダメージっていうのはゲームとかで時間やターンが進むにつれて蓄積していくダメージのこと。


 (熱い空気を吸って肺が痛い。実際にそういうところに足を踏み入れるとこういうふうになるのか……)


 うん、さすがに舐めてました。イスマイルの言う通り帰ることにします。


「今すぐ賢者の石が必要なわけじゃないなら、後回しでもいいでしょう」

「そうだね。一旦帰ろう」


 今の一歩だけでわたしは全身に滝のように汗をかいていた。熱を遮断する装備、イスマイルも一緒に来るならイスマイルの分も必要だろう。確かに今すぐ奥に行く必要はなさそうだ。

 そんなわけで、依頼の分と素材の分の宝石だけ持ったわたしたちは馬車で王都まで帰ったのだった。

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