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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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45.まりえと採掘

「イスマイル起きて、もうすぐ着くよ」

「んっ、ああ……私眠っていましたか」

「うん、大丈夫? 持久力ポーション飲む?」

「いや、平気です。夕べちょっと寝つきが悪かっただけなので」

「そっか」


 イスマイルが眠っている間心の中で彼への気持ちを思いっきりぶつけたら結構落ち着いてきた。そのおかげで鉱山に着くころにはわたしも平静を装うことができている。けどイスマイルも昨日眠れなかったのか。きっと頭を悩ませてることがいっぱいあるんだろうなあ……。


「ほら、足元に気を付けて」

「う、うん」


 がっちゃん、と音を立てて馬車が鉱山近くに停車する。イスマイルは乗るときと同じようにわたしより先に降りてから手を差し伸べてきた。

 

(なんかさあ、昨日スイーツショップで会った時はいつもどおりだったのに、今日は急にお姫様扱いしてくるじゃん?)


 なんて思っちゃうけど。これはわたしが意識してるからそう思うだけでイスマイルはきっと今日もいつもどおりのつもりなんだろうなあ。


(ゲームのコンセプトが悪い男なせいでワルブレヒトもオンドレアも強引系だから、紳士的なの逆にめっちゃ新鮮なんだよな。だから好きになったわけじゃないけどね……)


 いつまでも恋する女の子モードでは仕事ができないので気持ちを切り替えて、わたしとイスマイルは鉱山の方へ少し歩いた。前回は国王と契約した採掘家さんたちしか鉱山に入れなかったせいでスムーズには入れたけど、今は採掘料を払うための列ができていた。


「ひとり2000マニーですって」

「ひえっ、宝石採掘クエストの報酬が5000マニーだったんだけど!」

「純粋な利益は1000マニーですか。あんまり割のいい仕事じゃないですね」

「今後どんどん価値下がるんだろうし。うーん。なるべくいっぱい宝石とろ! イスマイル!」

「やれやれ、頑張りますか」


 採掘料を払って鉱山の中に入ると、すでに先に入っていたひとたちがキンキンカンカン、あちこちでつるはしの音を響かせていた。


「うううう、うるさい。好きになれませんね、この音は……」

「イスマイル耳いいもんね。その耳で宝石が埋まってる場所の音とか聞き分けられたりとかしないの」

「できないことはないですが……」

「え、できんの? 適当に言ったのに……」


 前から思ってたけど、イスマイルってできることが多すぎる! チート持ちでループしてて、イスマイルの方がわたしなんかよりよっぽど主人公だよ!


「土の精霊の声を聞いて宝石のありかのあたりをつけることはできます。けどこうもつるはしの音が大きいと今はちょっと無理ですね」

「そっかぁ。じゃあもうちょっと人が少ない所に移動しよう。これだけみんなが掘ってたらどっちみちあんまり採れなそうだもんね」


 わたしは前回採掘家さんたちの護衛で掘ったあたりの区画にイスマイルを連れて行った。そっちに行くと採掘している人はガタっと減ってくる。その理由と言えば……。


「キイキイキイキイキイ!!」

「ほら出た! コウモリでたあ! イスマイル~っ!!」

「私が蹴散らすので、まりえさんは採掘を始めていてください!」


 緑色のつむじ風がコウモリたちを巻き込んで舞い上げる。こんな大量のコウモリやらでかい虫やらがたびたび襲ってくる中採掘するのが大変なのだ。それは裏返せば手つかずの宝石が一杯残っているということでもあった。


「そーれっ!」


 カァン! カァン! キィン!!

 わたしはちょっと他の岩壁より色が薄いかなあというところ目掛けてつるはしを振り下ろした。


「どうですまりえさん。宝石出ます?」

「うん、出る出る。なんか紫色のが出た」


 リアルだったらたぶんつるはしでちょっとカンカンしただけでこんな簡単に宝石が掘れたりはしないし、ダイナマイトとか使って大規模にやったりするんだろうけどこれはゲームの世界なので出てきちゃうんである。

 イスマイルにモンスターを相手してもらってる間にわたしはあちこちの色が変わっているところをキンキンカンカンほじくりまわすのだった。


「ひーっ、手ぇ痺れる~。イスマイル、交代~」

「できれば私、ずっとこっちがいいんですけど」

「それじゃなんのためにイスマイル用のつるはし用意したのかわかんないじゃん。代わってよ~」

「仕方ないですねえ」


 山になったコウモリの死骸を背にしてイスマイルがこっちに来た。まだ次のコウモリは襲ってこないようなのでわたしは落っこちたコウモリたちからドロップ素材の被膜を剥ぎ取る。手に入るものはなんでも持って帰らないとね。じゃなきゃ元が取れないよ。

 わたしが素材を集めている間にもつるはしの音が聞こえている。イスマイルの様子を見ると、長い腕でつるはしを振り上げて真面目に採掘をしているようだった。いつも後ろに垂らしたままにしている長い金髪を頭の高い位置でくくって、白いうなじがあらわになっている……。


(……っきゅうぅ~ん……♡)


 車の運転してる男の人がバックで後ろを確認するために振り返ってる時の首ってちょっとグッとくるものがあるじゃん? それみたいな感じで、初めて見るイスマイルのうなじについメロってしまった……。それ以外にもつるはしを振り上げる時にぎゅっと中央に寄る背筋の盛りあがりとか、無意識なのか振り下ろすたびに出る「ふっ……! ふっ……!」みたいな声がセクシーでまいっちゃいそうになってしまう。


(いけないいけない、自分の想いを自覚したたびにわたしは~っ! イスマイルの一挙手一投足にいちいちエロがるな~っ!!)


 頬のあたりがまたぽっぽと熱くなるのがわかる。落ち着くためにわたしは素材の収集を再開して……、ん? なんかコウモリにしてはガニガニした感触だな……。


「ってでかい虫じゃん! キッショ!!」


 いつの間にかコウモリと間違えてでかい虫を掴んでいたわたしはびっくりして手の中のそれを壁に叩きつけた。叫んで逃げまどうほどじゃないけど人並みに虫にはぞぞぞってしちゃうのだ。

 わたしは両手にマチェーテとつるはしを一本ずつ持って、コウモリの死骸に集まってきたでかい虫めがけて振り回したけど妙に素早くて当たらない。それでころかマチェーテを伝って腕を登ってきたりして気持ち悪いよ~!!


「ひゃあ! あっち行ってあっち行って! あ~ん、先にイスマイルに掘ってもらってわたしがコウモリ相手すればよかった~!」

「何やってんですかあなたは……。どきなさい」


 わあわあ騒いでいるわたしの声を聞きつけたのか、いつのまにか採掘の手を止めたイスマイルの手が肩に乗せられ、ぐいっと引き寄せられた。


「きゃ」


 イスマイルは肩を抱くようにわたしを捕まえたまま空いた片手を目の前に突き出して氷の魔法を放った。急速に冷やされた虫たちは動きが鈍くなって、コウモリの死骸の山の上からころんころんと転がり落ちて行った。


「あなたはねえ。ゴブリンやジャイアントスライムすら武器一本で倒せるのに、なんでこんな虫ごときにもたくたもたくたと……。前回虫は出なかったんですか?」

「だ、誰にだって向き不向きがあるよぉ……、前回は採掘家さんたちが虫のほうやってくれたからさあ……」

「やれやれ、バランスの悪い人」


 自分でも子供みたいだなと思う言い訳を並べるわたしを見て、イスマイルは眉をハの字にしてクックッと笑った。それはこのゲームの中に来てから初めて見せるタイプの笑顔で、まだこんな素敵な表情を持っているのかと思ったわたしはそれ以上何も言えなくなってしまう。


「ちょっと休憩しましょうよ。モンスターの出ない安全なところでね」

「うん……そうだね」


 別に好きな男の前でかわい子ぶってるとかではないんだよ。イスマイルのこと好きになる前なら下着姿のまま森でゴブリン相手に暴れまくったり、服の下に着てる水着を見せびらかしたりできる、わたしはもともとそういう豪快な女の子なんだけど……。なんかさ。わたしって恋しちゃうとちょっとポンコツになっちゃうんだなあって。

 そんなことを考えているわたしの手をひいて、イスマイルは安全地帯に連れて行ってくれた。

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