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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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44.まりえの独白

「ごきげんよう、まりえさん」

「ん……。おはよ」

「どうしたんですか、顔を逸らして。なんかまたやらかしました?」

「なんでもない……。あとまたっていうほどいつもやらかしてはいない……」


 次の日、水浴びを終えたであろうイスマイルを同行者指定で呼び出したわたしは彼の輝く美貌を直視できなくなってしまっていたのだった。そのくせ白くて長い骨ばった指なんかは凝視してしまったりして……ドスケベ……どすけべまりえ……!


(ううう、純粋な善意で助けてくれる優しいエルフを勝手な妄想で汚してしまうなんて、わたしはなんてヤラシイ女なんだ……)


 スカートの裾をよりよりと弄ってモゾついてるわたしの頭にイスマイルのチョップがとすんと軽く振ってきた。


「こら不審者。何か言いたいことがあるなら早く言いなさいよ」

「……ほんとになんでもないの。女の子特有のなんかそういう日なのっ」

「……うーん。まあ、そういうこともあるのか。いいですけど、今日はどうするんですか。私は何をしたらいいんですか?」

「ああ、ほら昨日言った通りだよ。宝石採掘のクエストこなしながらアイテムの材料集めとあとできたらフィールドの探索やりたいから一緒に来て。イスマイルの分のつるはしも用意したから」

「つるはしとは……、ドワーフのように鉱山でつるはしを振るうエルフなど歴史を記した書物にもそうは出てこないでしょうね」


 文句を言いながらもイスマイルはわたしが前もって鍛冶屋で買っておいた彼専用のつるはしを受け取った。


「あとこれ、昨日作ったクッキー、食べてね」

「いただきましょう」


 イスマイルは自分の予定を曲げてわたしについてきてくれるのに、クッキーの包みひとつ以上のものを要求しようとしない。そのおかげでイスマイルに借りてるぶんのお金を取っておく余裕ができたので、今回の宝石採掘の報酬で利息まで全部払っちゃおうと思ってる。自分が貸してるお金を稼ぐつるはしを握らされるって知ったらあんまり気分良くないだろうからそれは黙っとくけどね。


「じゃあいこっか。鉱山行きの乗り合い馬車の運行が再開したってさ。乗って行こう」

「ああ。盗賊がいなくなったからですね。前回木々の間を魔法で飛んでいくのはなかなか消耗したのでありがたい」

「やっぱ大変だった?」

「そりゃもう。つじつまの合わない金勘定をしながら高所の綱を渡るようなものと言えば想像できますか?」

「……そう言われると確かに大変そう。ありがとうね、イスマイル」

「どういたしまして」


 8人乗りの集合馬車はすでに先客が6人座っていた。肉体労働者の男の人たちを乗せる馬車はわたしにはちょっと乗り口の位置が高い。イスマイルは先に乗り込むと後からわたしの手を掴んで引っ張り上げてくれた。


「ほら、ここに座って」

「う、うん。ありがと……」


 先に乗っていたおじさんの隣に座って、イスマイルはわたしに窓際の席を勧めてくれる。イスマイルと移動するときはいつも徒歩だったから気が付かなかったけど、このエルフってばこういう気遣いができる男なんだ……。やー。イケメンですね。

 狭い座席にきゅうきゅう詰まって座ると、意外と広いイスマイルの肩幅のせいでぎゅっと押されて二の腕同士が密着してしまう。


「狭いですか? 私の身体の上にはみ出していいですよ」

「だいじょぶ……」


 ひぃん、行動までむやみにイケメンなのやめてぇ。身体が勝手にきゅんきゅんするのが止まらないよぉ。

 わたしたちが席に座るとすぐに馬車が動きだして、車輪のガラガラの音のせいでどきどき脈打つわたしの心音はイスマイルに聞かれずに済んだ。たぶん。


(意志激よわメロメロヒロインをあんまり甘やかさないでくれーっ! ただでさえ昨日の今日で身体がなんか敏感なんだ……ぞ……)


 狭い席での密着にはしゃいだわたしの上半身がわたしの意志に反してかーっと熱くなっていくのがわかる。急な体温上昇と発汗で怪しまれてしまうかも、と思ってイスマイルの様子をちらっと伺ったのだけど……。


「ぐう」


 いや寝てるんかーい!! おもわずコテコテな突っ込みをイスマイルの胸板にずびしーっとお見舞いしそうになってしまった。けどまあ、寝てるんなら好都合か……。

 

(もう……わたし一人で意識しちゃってて馬鹿みたいだよ……。涼しそうな顔しちゃってさ……。でも結構疲れてるのかな。そうだよね。闇ギルドで働いてるんだもんね。オンドレア怖いし、いろいろ苦労があるよね……)


 その寝顔からうかがえる疲労に思いを馳せたら、わたしの恥知らずな興奮はだんだん収まってきた。さっき話してた時は直視できなかったイスマイルの顔をじっと見上げるわたし。ガタゴト揺れる馬車の中で意外に図太く眠っている彼のエルフ顔は凄腕の彫刻家が大理石を刻んだみたいに綺麗だった。


(眉間にしわが寄った跡がある……)


 愛しい、と。その跡を見た時胸にこみ上げた感情に名前を付けるとしたらそれが一番ぴったりなのだろうと思った。


(わたし、やっぱりイスマイルのこと好きだよね。いろいろ言い訳並べて考えないようにしてたけど、やっぱりそうだよね)


 イスマイルがイケメンだからとか、ゲームに引っ張られて身体がヒロイン仕様にされてるからとかなんだかんだ否定しても、自分の気持ちに嘘をつけるほどわたしは器用じゃない。


(イスマイル……。わたしイスマイルのことが好きだよ。イスマイルにとってわたしはたくさんいる転生マリエのうちの一人かもしんないけど……)


 元彼と付き合い始めた時、わたしはその頃唯一いた友達に愛想をつかされている。「あんな見えてる地雷を踏みに行くのを黙って見ていられない」と言われて、カチンときたわたしはあろうことかその子とのつながりを切ってしまったのだ。

 気がついたら全部その子が言った通りになっていて、でももうわたしも意地になってて、引き返せなくて。恋愛で頭をぽーっとさせて周りが見えなくなった時の危うさを嫌って程思い知らされて。もう恋愛で頭を煮えさせて馬鹿を見るのは絶対に避けようって決めてたのに。


(落ちる時にはさあ、落ちちゃうんだよねえ……恋)


 言わなくていい。自分を置いて出て行ってしまう女に惚れられてもイスマイルはきっと困ってしまうだろう。だけどわたしの恋心はたぶんもう止められないから、こっそり好きでいるのだけは許してほしい。そう思って、わたしはイスマイルの胸にこてんと頭をもたれかけさせた。目を閉じるとあのすごくゆっくりな心臓の音がとく……とく……とく……と聞こえてくる。


(あったかい。くっついてるとすごく安心するよ、イスマイル)


 わたしはもういちど彼の顔をちらりと見上げた。


(お別れの時に傷つくのはわたしだけでいいよね。だから心の中でだけ言わせてね)


 好きだよ。イスマイル。

 絶対に返事が返ってこない告白は誰にも聞かれることはない。わたしはそれに安心して、彼の寝顔を見ながら何度もその言葉を繰り返した。

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