36.まりえとダンスバトル
「カシラぁ! 俺たちにもダンスバトルやらせてくださいよぉ!」
「ばっかおまえカシラが先に決まってんだろ!」
「だってよお! 俺踊りたくて踊りたくてうずうずしちまってるんだよぉ!」
「オレもオレも!」
目をギラギラさせた盗賊たちが我先にとダンスバトルに参加したい旨を主張してくる。ギラギラしてるのはミラーボールの光のせいかもしれないけど……。
(あー、なんかこのイベント思い出して来たぞ……)
このイベントは連戦イベントだ。本来なら装備をはがされたすっぴんの状態で盗賊全員と戦って最後にボスと戦うやつだ。負けると暗転しちゃって牢屋の中。なんかしらあったんだろうな~って匂わせのある状態で攻略対象が助けに来るやつだ。「わたし汚されちゃった……」「僕が綺麗にしてあげるよ……」的な? 乙女ゲーでそんなことすんなよ。お清めなんとかってやつが受け入れられない女オタクも令和以降はまあまあいるぞ。
とはいえ、素手で戦わされるよりはダンスの方がなんぼかましだ。さっきおやつでクッキー食べてたからスピードやスタミナもある。ダンスは小中学校のころ友達の家でお姉ちゃんの古いダンスゲーム遊ばせてもらったくらいしか経験ないけど、その要領で行けばステップくらいは踏めるだろう。
「よし、なら俺の手下たちと踊って最後まで立っていられたら俺と勝負だ! 勝ったら賞品をやろう! ダンスバトルはフェアにやらないとだからな!」
さすがカシラ! 度量が広いぜ! みたいにはしゃぐ盗賊たち。その中からひょろっとした男が一人前に出た。
「へっへ……おれは片目のヤス……まずはおれと踊ってもらうぜ……」
ヤスはボックスステップを踏みながら片目でわたしを見据えて不敵に笑う……。ダンスバトルって何をもって勝ちになるのかわからないんだけど、ボックスステップくらいならわたしにも踏める!
ギターの盗賊が軽快なメロディーを奏でると、周りで見ている盗賊たちが足踏みでリズムを取り始めた。
(まさかダンスする展開になるとはね……でもやるっきゃないでしょ!)
わたしは音楽に身を任せてステップを踏む。こういうのは楽しそうに笑顔で踊るのがいいのだ。バッティングセンター行くくらいしか運動してなかった本来の25歳のわたしよりもバフアイテムで身体能力を底上げしてる18歳のマリエちゃんの身体は羽のように軽く、よく動いた。
「くっ……どうやらおれの負けのようだぜ……まったく、大したお嬢さんだ……」
何がどうなって勝敗が決したのかわたしにはぜんぜんわかんないんだけど、多分一定時間踊り続けられたとかそんなところだろう。ヤスはふっと笑って頬を伝う汗を手の甲で拭うと一礼して舞台から降りて行った。さわやかだ……。
「やるじゃねえか嬢ちゃん! 次の相手はオレ、両目のタナカだ!」
「もうそれはただの田中さんじゃん!!」
ふたつ名の適当さについ突っ込んでしまったけど、間髪入れずに次の相手が名乗り出てきた。これ何人相手にするんだ? あっちは大勢でもわたしは一人なんだぞ!
田中さんはその普通な感じからは想像できないくらい身のこなしにキレがあった。ちょっとどうやってるのかわかんない感じのステップを踏んで、身振り手振りも忘れない。クルっとターンすると盗賊たちから歓声があがった。
(くっそ~、負けないぞ……)
焦るな焦るな。変に無理して転んだりしたらだいなしだぞ。わたしはアイドルっぽい仕草で観客に露骨に媚びを売る戦法に切り替えた。
「うおーっ! 可愛い!」
「いいぞ~!」
「やっぱ芸術点高いな、美少女ダンサーは……」
最初っからダンスがゲームの主軸にあるなら別だけど、今回のこれはいきなり出てきた要素だからダンスのうまさとかは実はあんまり関係ないんじゃないかと思ってる。本来は戦闘での連戦イベントだったわけだし、おそらくレベルとか持久力、スピードとかで結果が変わるようになってるんじゃないだろうか。
今回イスマイルと同行者設定を結んだまま別行動していたので、身を隠している間のイスマイルが倒したモンスターのぶんっぽい経験値がわたしに流れ込んできていた。だからちょっと嘘みたいにレベルが上がっててもう30近くまで上がってきている。だからそんなに超絶技巧ダンスを繰り出さなくても……。
「ふっ……オレの負けだぜ……」
ほらね! 一定時間踊り続けてれば勝てる!
その後も盗賊たちは次々と名乗りを上げ、そのたびにわたしは踊り続けた。いい加減にしないとクッキーの効果も切れちゃうよ! っていうタイミングで、やっと俺も俺もがなくなった。
「よし、お前らもう満足したか? 最後の相手は俺だ。小夜啼鳥が鳴こうがフクロウが鳴こうがステップを止めない俺のダンスについてこれるかな?」
カシラが舞台に上がると今までいなかったトランペット担当の盗賊とウッドベース担当の盗賊が現われた。カシラ、得意はジャズダンスか。攻略対象たちやイスマイルもそうだけど、基本的にこの世界の男の人って背が高くて体格がいい。カシラも手足が長くて肩幅が広かった。そんな人が踊るジャズダンスは身体全体を使った表現力豊かな迫力あるものだった。
(小娘のわたしじゃ見劣りしちゃうな……これは相手のダンスを利用した方がよさそうだぞ)
わたしはカシラの前に躍り出て、挑発的に笑うとスウィングを踊り出した。一緒に踊りましょ、という意図をすぐに察したらしいカシラも同じスウィングで合わせてくれる。
(なんか普通に楽しくなってきたな、何やってんだわたしはほんとに)
身体を寄せたり離したり、手を取り合ってくるっと回ったり。わたしたちの踊りに合わせて音楽もだんだんピッチが上がってくる。わたしとカシラの髪から玉の汗がばっと散って、ミラーボールの光を反射してキラキラ光って落ちていく。観客に回ったヤスや田中さんもヘイ! ヘイ! と合いの手を入れて楽しそう。踊り続けてることによってわたしもなんかハイになってきた。なんのために踊ってるのかとかも忘れて、ひたすらに体を動かす。
気がつけばわたしはきゃっきゃと笑っていた。それを見たカシラもいい笑顔を浮かべていた。
「はっはぁ! こんなに楽しいダンスバトルは久しぶりだぜ! 勝負はあんたの勝ちだマドモアゼル! そろそろ日付も変わる。今日はもうお開きだな!」
「えっ、やった! ということは?」
「優勝賞品に宝石を一袋やるぜ。今夜はこれを抱いて寝な!」
「わ~い!! ん、あれ?」
ずっしり重い宝石の袋を受け取ってシンプルに喜んでしまったわたしをヤスと田中さんががっしりと拘束した。
「まあそれはそれとしてあんたがオレたちの虜囚なことは変わらないから、牢屋に連れてくぜ。せいぜいネズミと仲良くな」
「うっそぉ! なんでぇ!? どうしてぇ?」
さすがにクッキーの効果が切れたようで、酷使した身体が急にずんと重くなった。抵抗できなくなったわたしは二人がかりでずるずる引きずられ、牢屋として使っている区画に閉じ込められて鍵をかけられてしまうのだった。
「へっへっへ……アジトに美少女囲ってるのって嬉しいな」
「明日の夜も踊りに付き合ってもらうからな。ずいぶん気持ちよさそうだったが、足腰壊れちまわないといいなあ?」
ダンスという要素がねじ込まれたことによりなんか意味が変わっちゃったいやらしい台詞を吐きながら、ヤスと田中さんはわたしを置いて立ち去った。
(ふえ~ん、イスマイル……早く助けに来て~)
こうしてわたしは冷たい石の牢屋の中でただイスマイルの救出を待つしかできなくなったのだった。
面白かった、続きが気になるなどございましたら感想、評価、ブクマ、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。




