35.まりえと盗賊のカシラ
「申し訳ございませんでしたあ!!!!」
「えっ……? おお……、えっ!?」
マチェーテのみねうちで盗賊を三人戦闘不能にしたところで、わたしはその場で地べたにべたっと額をついて土下座をした。盗賊たちも突然のわたしの奇行にびびっている。まあそりゃそうだよなあ。
ノーマニー×アルケミーには負けることで手に入れられる素材もあるので、戦闘中に選べる行動の選択肢の一つに『降参』があるのだ。土下座することで降参の意志を示す。シンプルだよねえ。
(さすがに土下座はしたことないけど、長く接客業してると自分が悪くなくても謝ることなんかザラなんだよね。だから土下座一発でなんとかなるならなんぼ地面に額擦り付けても平気でーす。男の人とかだったら結構抵抗あるかもね)
盗賊たちがわたしの土下座に気を取られてる間にも採掘家さんたちの馬車はどんどん遠ざかって行く。一応これでおとりの役目は全うしたことになるね。さて……。
「な、なんだかわかんねえけど、よくもやってくれたじゃねえかこの女……」
「これはもうただじゃおけねえぜ、もう家に帰れると思うなよ……」
「へへへ、こいつ可愛いな……」
おっとっと、なんて怪しい雲行き。だけどこっちには指輪がある。ちゃんとステータス画面で効果が嘘じゃないかも確認済みだ。
「なんか、ぱ、ぱ、パンツとか、見ちゃおうぜ!!」
「そりゃいい。何色のパンツ穿いてるか当てようぜ! 俺はピンク!」
「ばっかおめー、年頃の女だぞ! 着てるドレスの色に合わせてるに決まってるだろ! 緑か茶色だ!」
「ずるいぞお前どっちかに決めろよ! オレは純白!」
「童貞がよ~」
『どっ』
「どどどど童貞ちゃうし!」
盗賊たちはわたし本人はそっちのけでわたしのパンツが何色なのか当てっこしはじめる。盗賊なら戦利品に美少女がいたらもっといろいろやりたいことはあるだろうに、パンツの色程度でこのはしゃぎよう。なるほど、これが『チョットダケの指輪』の効果ってわけね。
ちなみに今日も下は水着なんだよね。このあと身ぐるみはがされるって予想はついているので……。
「よーし、じゃあ正解を見せてもらおうじゃねえか……」
「え~、やだ~、恥ずかしい~」
「恥ずかしいじゃねえんだよ! 早く見せな!!」
「見せないとスカートめくっちゃうぞ!!」
「きゃー」
あ、あほらし~。思わず棒読みになってしまったぞ。でもわたしはぎりぎりまでもったいぶってぷるぷる震える演技までしてスカートをじわじわめくってみせる。あと、今日の水着はほとんどホットパンツっていうか短パンみたいなやつで男の人が見ても全然嬉しいタイプのやつではない。上もスポブラ状態、水着って言うかフィットネスウェアって感じなのだった。
「うおおおお!! 黒!!」
「大穴!!」
「ちょっと背伸びした大人の装いってやつかよお! く~っ!!」
それでも盗賊たちには嬉しかったようでテンション爆上げだった。わたしに殴られて倒れていた三人もいつの間にか立ち上がり、うえーいいえーいとハイタッチして喜んでいる。なんなんだよ。
「よし、じゃあカシラのところに連れて行くぞ。その前にチョコミントみたいな可愛いドレスも全部脱ぎな!」
ひとしきりパンツではしゃぎ終わった盗賊はわたしに装備を解くことを強要した。確かにチョコミントドレスは高価だもんね。戦利品の一つとして徴収しておきたいらしい。簡単に逃げ出せないようにという意図もあるだろう。でも狙い通り、編み込みの中の指輪には気づかれなかったみたいだ。
「うお~! レース! レースのパニエだ!」
「オレが着る!」
「ずるいぞ! 俺が着るんだ!」
一番年下っぽい盗賊に後ろ手に手を縛られてる半裸のわたしをよそに、盗賊たちは誰がチョコミントドレスを着るかで喧嘩していた。てかお前たちが着たくて脱がしたのかよ! ていうかこれ今もイスマイル見てるよね? そう思ったら急にちょっと恥ずかしくなってきたな。どこに隠れてるかわかんないけど舌打ちしてるのが聞かなくてもわかる。
(ごめんね~、イスマイル。馬鹿馬鹿しいよね~。でも信じてるから助けに来てね~)
わたしは目隠しをされて何かの荷台に乗せられた。馬の気配はないからなんかリヤカーみたいな荷車かな? それはガラガラと走りだし、採掘家さんたちの馬車とは比べ物にならないくらいガッタンゴットン跳ねた。
「いだだだだだ、お尻痛っだ!!」
「うるさいうるさい、我慢しろ」
「お前はもう俺らの戦利品なんだからな!」
「俺の上着畳んで敷いてやるからおとなしくしとけ!」
とほほ~、自分から捕まったとはいえなんてみじめな姿よ。おまけに目隠しされてるからアジトへの道わかんないじゃん。仕方ないな、帰り道でなんとかするしかないね……。
「さあ着いたぞ。さっさと降りて歩け!」
「カシラ喜ぶだろうなあ、女の子久しぶりだもんなあ」
しばらくドナドナされたあと、どうやらアジトについたようだった。目隠しはまだ取ってもらえなかったので入り口がどんな感じなのかもわからない。後ろにくっついている盗賊にぐいぐい押されてわたしは歩き出した。
「おい、カシラに挨拶しろよ」
「うわっ、まぶしっ!」
しばらく歩いて、人の気配が結構ある所まで連れてこられたわたしはようやく目隠しを取ってもらえた。たいまつの灯りが思ったより眩しくてなかなか目が開けられない。ようやく目が慣れてきたわたしは二度三度まばたきして、自分の今置かれている状況を観察した。
ここもどこかの洞窟のようだった。洞窟の中に設備を持ち込んで住めるように改造しているという感じだった。箱や調度品の置いてある部屋に豪華な長椅子があって、そこに赤毛で眼帯の体格のいい男が一人座っていた。おそらくこいつが盗賊のカシラとやらだろう。
(これはこれは……やっぱりフリーゲームとかでよく見るかんじの悪い人のビジュアルだあ……)
カシラはオンドレアと同じようにファー付きのコートをまとってどっかりとソファに身をしずめている。なんなの? 悪いボスの制服なんか? それは。
「ほう……、なかなかいい女じゃないか。お嬢ちゃんお名前は?」
「……わたしマリエよ。マリエ・ス・カラカンっていうの。あなたが盗賊のカシラね。闇ギルドのボスが怒ってるわよ、シマ荒らされて困っちゃうってさ」
「肝まで据わってるのか。おもしれえ。どんな気の強い女でも俺と遊んだら一晩で足腰立たなくなるぜ」
盗賊のカシラはわたしのことを好色なニヤニヤ笑いで舐めまわすように見つめてくる。え、ちょっと大丈夫だよね? 指輪効いてるよね?
「おやあ? 怯えてんのかい? 男ばかりの盗賊団のアジトに女が一人、どんな目に合うかくらい覚悟できてるんだろう? なあお前ら!」
「ぎゃはは! そうだぜ! 若くてピチピチの女が手に入ってやることなんて一つしかねえぜ!」
え、やば。急にガチのやつになってきたじゃん。まさかカシラには指輪が効いてない? まじで? え、どうしよ……。
「盗賊に捕まった女はな! カシラとダンスバトルで勝負するんだ!」
「……は?」
カシラが重たげなコートをばっと脱ぎ捨てる。天井についていたランプがミラーボールになってちかちかと回転し始めた。数人がかりで重そうなテーブルが撤去されるとそこは簡素なダンスステージ。盗賊の一人がギターを担いで躍り出て、アップテンポのメロディーをジャカジャカ奏でだす。
「は? は? はああああああ??」
わたしの拘束が外され、カシラの方に背中をどんと押された。
「シャルウィーダンスだ、マドモアゼル。俺とお前とどっちがタフかな?」
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