34.まりえと襲撃
「出た! オオコウモリだ! お嬢さん!」
「まかしといて!!」
鉱山に入ったわたしはクズ宝石をわけてもらうお礼も兼ねて、採掘家さんたちの護衛をしていた。鉱山はコウモリとかでかい虫の棲み処でもあるので採掘家さんたちももともと武装はしているものの、何か出るたびに戦闘になるのは効率が悪くて嫌だったらしくわたしが戦闘を引き受けたことで採掘がはかどると大変喜んでもらえた。
ゲーム的な事情を考えると、盗賊のイベントがなければここはマリエちゃん用のフィールドの一つでもある。今はイスマイルがいないけど、採掘家さんたちもたまに加勢してくれるので大きな怪我をすることもなくいいレベル上げの機会になった。
「うおおおおお、入れ食い状態~!!」
きいきいと鳴いてばさばさ飛び交うコウモリをマチェーテでばったばったと斬りまくる。手に入る素材はコウモリの被膜。ボンテージスーツを作るのに使う素材みたいだよ。どういうこと?
「お嬢さん、護衛はありがたいが今あんまり体力使い過ぎたらまずいんじゃないのかい。あんたの本番は帰り道なんだろう?」
「確かにそうかも……」
右手にマチェーテ、左手につるはしを持って山盛りのモンスターの死骸の前で息を切らしているひらひらのドレスの女にも慣れ切った採掘家さんたちのお言葉に甘えて、ちょっとだけ休憩させてもらう。
自分用に作っておいたクッキーでお茶にする。魔法瓶のお紅茶は採掘家さんたちにも分けてあげた。
「いい匂いだなあ、早く帰ってかみさんと子供の顔が見てえなあ」
温かいお紅茶を飲んでほっとした採掘家さんの表情は本当に家族を愛してるんだなあってわかるほっこりした表情で、わたしは不意打ちで鼻の奥がツンと痛くなってしまう。なぜって、わたしには今帰っても顔を見せてあげたい相手が誰もいないから。
友達とかがいなかったわけじゃない。だけど大人になるとみんなそれぞれの人生を生きるのが精一杯であんまり会えなくなって、気がついたら孤独になってしまっていたのだ。唯一つながりがあった彼氏もあんなんだったし。
わたしを線路に突き落とした元の彼氏の顔を思い出そうとしてみたけど、なんだかそのイメージはぼんやりとしてしまっていた。イスマイルみたいな超絶美形としょっちゅう行動を共にしてたらそりゃもう好きでも何でもない男の顔なんか記憶から薄れるよねそりゃ……。
(イスマイルも今頃休憩してるかな。あげたクッキー食べてるかな)
普段スイーツショップの可愛くて美味しいキラキラスイーツをお腹いっぱい食べてるくせに、わたしのプレゼントクッキーなんかを律儀に欲しがるイスマイル。わたしの手からクッキーを受け取る彼の顔はスンとした仏頂面だけど、なんだかいつも心なしかうきうきうずうずしているように見えるのだ。
(イスマイルとお別れして元の世界に戻るのは結構辛いかもしれない)
多分わたし、その時が来たら泣いちゃいそう。だけどやっぱりここはゲームの中で、設定されてるエンディングにイスマイルと一緒に生きていくルートはない。それが決まってる以上やっぱり借金完済エンドを目指すしかないのだ。ここから出て、新しい人間関係を築いてわたしの人生を歩みなおす。
(クリアのご褒美にイスマイルを元の世界に連れていければいいのにな。駄目か……。わたしの世界にエルフはいないし、戸籍のない成人男性を囲っておける方法もわかんないしな……)
採掘家さんたちがまた作業を始めた。わたしも考え事をやめて護衛に戻る。時刻は午後から夕方に差し掛かり、今日の採掘を引き上げることになったようだ。
「お嬢ちゃん頑張ってくれたから、ちょっとだけまともな宝石分けてやるよ……」
「ええ~! いいんですか? これ国王様に献上するやつなんじゃないんですか?」
「だから、内緒な……!!」
「へへっ、ありがとうございま~す!」
採掘家さんはごろんとした宝石をこっそりと握らせてくれた。わたしはほくほくしながらそれをポシェットに隠した。
(そうだ。奪われたらまずいものは見えないところに隠しておかなきゃね。またイスマイルに粗忽ものって怒られちゃう)
オンドレアが貸してくれたチョットダケの指輪。こんなの呑気に指にはめてたら盗賊に取られるよね。持ち物を奪われても大丈夫そうなところはないかと考えて、わたしはその指輪を編み込んだ髪の毛の中にむぎゅっと押し込んで隠した。むくつけき盗賊たちはこんなところに隠してるなんて思わないんじゃないだろうか。一応ステータスの装備欄を見てみるとこれでも装備してることになっているから、何かの時には効果が発動してくれるだろう。
「お嬢ちゃん! 馬車に乗るぞ!」
「はいは~い!!」
さてさて……盗賊たちはちゃんとこの馬車を襲ってくれるかな。全然スルーされて普通に王都に帰れちゃう可能性もあるもんな……。
「おい! おいでなすったぞ!」
そんなことを考えてたけど、ちょっと走った先で御者さんが声をあげた。予測はできていたことなので馬車が止まると同時にわたしはすばやく立ち上がり、扉を開けて外に出る。
見れば馬車の進行方向でタルや木箱などを積み上げた簡易的なバリケードを築いた覆面の男たちが道を塞いでいた。
「へっへ……、掘り出し物はあったかい?」
「宝石全部置いていきな……」
え、絵に描いたような盗賊! RPGを作~る感じのソフトで作ったゲームらしく、みんな髪の毛が緑!! あとはなんか紫のバンダナ巻いた逆立った金髪! うわーっ! フリーゲームとかでもよく見る人たち! 本物初めて見た!!
「ちょっと! 今日一日頑張って掘った宝石をかすめ取ろうっての!? 欲しいならちゃんと働きなさいよね!」
自分で言っててそんな正論こんな人たちが聞くわけないだろ……とは思う。だけど目的はいい具合に戦って負けたふりをすることなので馬鹿丸出しの口上をわたしはあえて述べた。
「何だこの女! 地道に働けるくらいなら盗賊なんかやってねんだよ!!」
「ですよね」
「待てよ! よく見たらこの女めちゃくちゃ美少女だぜ!」
「マジか、じゃあ宝石と女と両方置いてきな!」
「わかりやすいねえ! とにかく抵抗させてもらうから!」
盗賊はオンドレアの傘下じゃないから隠語がメルヘンじゃないんだな……と思いながらもわたしは腰のマチェーテを抜いた。そして手の中でくるりと裏返す。
人間と戦わなきゃいけないということに、わたしは夜ベッドの上で結構悩んだ。それで出した結論は、みねうちで済ますという単純な方法だった。
(マチェーテ、使ってみたら思ったよりリーチあるからね。刃で切るほどじゃなくてもこれで殴られたらかなりダメージがあるはず。覚悟が足りないってイスマイルには言われるかもしれないけど、ゲームの中とはいえやっぱり人は殺したくないよ)
盗賊たちは雄叫びをあげて襲い掛かってきた。さっきお昼にサンドイッチも食べたから、大人の男の攻撃も受けきる腕力がわたしには備わっている。鉱山の中でまたレベルがあがったから戦闘のセンスも研ぎ澄まされていた。
こっちの人数はわたしと御者さんあわせて6人で盗賊も6人。馬車だけを逃がす余裕を作るのには相手が多すぎると思った。わたしが戦っている間に採掘家さんたちにはバリケードを壊してほしいんだな! まずはバリケードの周りから盗賊たちを引きはがさないといけないか!
「なんだ? なんか風が……」
「おわああっ!!」
そう思ってたら茂みから不自然な突風がごおっと吹いて盗賊ごとバリケードを吹き飛ばして半分ほど崩した。
(イスマイル!)
隠れてわたしを見守ってくれているイスマイルの仕業だと思った。これならちょっと片づければ馬車を出すことができる。
「御者さん! すぐ馬車を出せるようにして!」
転がった盗賊たちに目もくれず、わたしはマチェーテでタルや木箱を切り払う。これはゲーム内の破壊可能なオブジェクトだ。NPCには壊せないけど主人公のわたしならいとも簡単に壊せる。イスマイルの魔法で壊せたのはきっと彼が同行者だからだろう。
「お嬢ちゃん! 無事に戻るんだぞ!!」
採掘家さんたちを乗せた馬車はガラガラと残骸を蹴散らしてこの場を離れた。わたしは起き上がって追いかけようとする盗賊を後ろからみねうちする。
「あんたたちの相手はわたし! よそ見してると痛い目見るよ!!」
道の真ん中で啖呵を切るかっこいいわたし。さあて、じゃあいっちょ負けますか!
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