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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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31.まりえと見落とし

 オンドレアがくれたあのブローチがなくてもマチェーテ・マリエとして名が通ったわたしを襲おうとする奴はもういなかった。それは安心だけど誰がオンドレアの息のかかった人間なのかわからない。


(あ~、そう思うとチョコミントドレス、目立つなあ。次に来るときはまたマリエパパのコート借りるか……)

 

 闇ギルドはニコニコファイナンスの先にあったので、道なりに戻れば寄ることができる。だけどイスマイルがわたしと連れ立ってただけであんなに怒ってたオンドレアのことを考えると、あそこに入るのあんまり人に見られたくはないよな……。

 わたしはニコニコファイナンスからちょっと離れたところに一旦身を隠し誰もいなくなったタイミングを見計らってから移動して、看板の横の花壇の裏に隠れた。


(イスマイル、帰ってくるよね。あ、そう言えば今別行動してるけど同行者設定どうなってるんだろう)


 地べたに座り込んでコンパクトを取り出す。同行者の欄を見直すとイスマイルの同行者設定は外れていた。


(なるほどねえ、イベントで別行動すると同行者設定は外れちゃうのか。こまめに設定し直さなきゃいけないわけね……)


 早速イスマイルを同行者に設定しようと思ったけど、もしまだ絶賛詰められてる最中とかだったらわたしが外から捻じ曲げてこっちに連れてきちゃったら今後大変なことになってしまうかもしれないのでやめた。


(このコンパクト、結構チート能力の詰まったアイテムだよな。だけど使いどころ間違えると詰みを呼ぶからね。しかしアイスコーヒー飲んだせいでちょっとおしっこしたい気がする。我慢できなくなったらごめんだけど同行者設定させてもらおう……)


 もじもじと落ち着かないままわたしは座り込んでイスマイルを待つ。もうそろそろ尿意がやばいぞって感じになってきた頃、道の向こうにぽつんと見慣れた長身の人影が見えた。

 人影はかなりゆっくりこっちに近づいてくる。イスマイルの耳がいいのはわかっているので、じれたわたしは小声で彼を呼んだ。


「イスマイル。イスマイルーっ、ここ、わたしここにいるよーっ……」


 尖った耳をぴくっと動かしてイスマイルがこっちを見る。その顔を見てわたしは悲鳴をあげそうになった。


「ちょ……イスマイル。え? それ何発殴られたのって……えーっ!」

「うるさいですよ。何のために隠れてるんですか。そんなことより私のポケットから鍵を出してドアを開けてください。両手が使えないんです」


 花壇の所に来たイスマイルの顔はボコボコにされていた。事務所を出た時は鼻血が出てるくらいだったけど、今は瞼も腫れてるし唇も切れていた。


「両手が使えない? って、うわっ!! おえ……」


 イスマイルの言葉を聞いて彼の手の方に目をやると、長く骨ばった優美な指が全部ソーセージみたいに腫れあがって、あっちこっちありえない方向に曲がっていた。それを見た途端思わず吐き気がこみあげてしまう。


「早く、人が来ます」

「わ、わかったよ……これかな、鍵……」


 イスマイルのポケットをまさぐると葉っぱの飾りがついた可愛い鍵が入っていた。わたしは急いでその鍵でドアを開け、先に中に入る。自分の姿が外から見えないように気を付けながらドアを開けたままにしてイスマイルのことも中に入れた。


「イスマイル、大丈夫なの? ひーっ、痛そう!!」

「やかましい……ポーションを飲めばこんなのすぐ治るんですよ……」

「じゃあ先に飲んできたらよかったじゃん!!」

「オンドレアに全部取り上げられました。そうでなくてもこの指では蓋が開けられない。そこの棚にあるのでお手数ですが蓋を開けて飲ませてください」

「わ、わかったよ……」


 わたしはイスマイルに言われるまま、戸棚からポーションを取ってきて蓋を開けてやる。椅子に腰かけたイスマイルは切れて腫れた唇を「うあ」と開けて首を傾け、ひな鳥みたいにそこに注がれるのを待っていた。


「ひどいな……こんなことして何の意味があるってのよ……」


 染みるのか時々眉をしかめながらイスマイルはわたしの手の中の小瓶から滴る雫を口に溜めてはこくりと飲み下す。一口飲むごとに顔の腫れは引いていき、もとの美しく涼やかな鼻筋や形のいい唇が帰ってきた。


「はあ、もう大丈夫。自分で飲めます。ありがとう」

「それはよかったけども……」


 わたしは血にまみれたイスマイルの白い襟を見ながら、次に何を言うべきかわからなくなってしまう。まだ好感度が上がり切っているわけでもないわたしに執着し、そばにいただけのイスマイルをボコボコにしたオンドレア。ワルブレヒトだけじゃなく次はそんな男も相手にしながらお金を稼がなくちゃいけないのだ。ここのところすべてがうまいこと行ってたことで湧いていたやる気に冷や水をぶっかけられるほど、さっきのイスマイルの両手のインパクトはすごかった。なんていうか生々しすぎるって言うか……あっ。


「なんか、そうか。引っかかってたのこれだ」

「何? どうしました」

「盗賊討伐の依頼を受けたときになんか見落としてるような気がしたんだよ」

「見落とし? なんです」

「ワルブレヒトのルートはさ。お菓子作ったり、スライムとかモンスターだけ相手にしてればよかったんだけど……」


 手が震える。腰にくくりつけたマチェーテが急に怖いもののように思えてくる。


「オンドレアのルートが解放された後は、人間とも戦わなきゃならないんだね……」

「……何を今さら。あなたはこのゲームをクリアしたことがあるんでしょう」

「そうだけど……実際これで人間を斬らなきゃならないってなったらゲームでただ倒すのとはかなり話が違ってくるでしょ……」

「はーっ……」


 怖気づいたわたしの言葉を聞いて、イスマイルは大きなため息をつきながら天井を仰いだ。


「何度繰り返しても転生マリエがそれに気が付く瞬間は胸糞が悪いですよ」

「イスマイル……」


 そうだ。イスマイルはこの世界をループしてる。そんなイスマイルだったらもっと早い段階でこういうことをわたしに忠告できたんじゃないの?


「もしかして気が付いてて黙ってた? どうして?」

「……本当は。今の段階でも私はあなたに話しすぎています。今日のこの暴行被害もおそらくですがそのペナルティです」

「ペナルティ? 誰からのペナルティだってのよ」

「言えません。それも禁じられている」

「……」

「私にも私の都合があるということです。この話はここまでで。頼みます」


 そう言われてしまうとわたしもそれ以上聞けなくなってしまう。


「ああ~、もう。やだよ~っ! なんでわたしこんなゲームに転生しちゃったの~っ!」

「ご愁傷様……」

「ご愁傷様じゃないよっ!!」


 他人事みたいなイスマイルの言い草にイラっとしたので、わたしは彼のつるつるで綺麗な白いおでこにビシッとチョップした。


「まあとにかくですよ。今のあなたが考えなくちゃいけないのはどうやって盗賊のアジトを見つけるかでしょう」

「あー、そうだったね……。盗賊は闇ギルドを警戒してるって言ってたから、闇ギルドの関係者だってバレないようにしなきゃいけないんだよね」

「そうなりますね」

「ってことはさ、今鉱山に行ける人たち……。国王の許可を得た採掘家の馬車に乗り込むのが一番いいかなって思うんだ」

「ほう? なかなか冴えているじゃないですか。聞きましょう」

「えっとね……っていうか! わたしおしっこ我慢してたんだったよ! イスマイルの怪我にびっくりしすぎて忘れてた~っ!! ねえ! おトイレ貸してね!!」

「……そっちのドアです」

「ひえ~!! 漏れちゃうよ~っ!!」


 急に蘇ってきた尿意に襲われ、わたしはトイレに駆け込んだ。かなり危なかったけどなんとか無事に人間の尊厳を守ることができた……。


「ああ~……。ふう……さて。いろいろ考えなきゃならないことは多いけど、前に進むために頑張りますか……」


 水桶に溜めてあった水で手を洗うと、わたしはイスマイルに考えていた作戦を話すのだった。

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