3.まりえとイスマイル
しまった、バレちゃった! ドジっ子ヒロインのバレ方すぎるでしょ! ああ~、男装チャレンジ失敗かあ。仕方ない、オンドレアが現われて助けてくれるのを待つか……。金策がある程度軌道に乗るまでルートのフラグ増やしたくなかったのに~。
「へっへっへ……どうしたんだい~、お嬢ちゃんみたいなかーわいい女の子がこんなところに一人で~」
「おいおい~、なんかフルーツっぽい匂いがするぞう~?」
「毎食デザートに星屑果樹園でうさぎ天使が育てた新鮮な朝採り果物なんか食べて育ったぴちぴちピーチプリンセスなのかも知れねえなあ~」
「と、通りすがりの者です~、お気になさらず~」
妙に語彙力がメルヘンなごろつきに囲まれ、わたしはへらへらとやり過ごしながらオンドレアが現われて助けてくれるのを待つ……。
「なあどうする? 食べちゃう? ピーチプリンセス、ここであまあまコンポートにしちゃう?」
「いや、それはもったいねえぜ。プリンアラモードにして隠れ家カフェで売り出そう」
「スイーツ大好き紳士たちに高く売るにはつまみ食いは厳禁ってか……」
ん? これ語彙がメルヘンなんじゃなくて、なんか隠語っぽいな……。えっと……はッ! こいつら、わたしを売って娼婦にする算段を立てている!? ちょっと早くオンドレア来てってば……。え? 嘘でしょ? オンドレア来てくんないの?
(もしかしたら、今の時点でマリエちゃんがここに来る予定じゃなかったから、オンドレアもここを通りかからない? 親切なおじさんとかごろつきは用がなくてもいつも同じところに居る人だけど、攻略対象はゲームの進行によって現れる場所が異なるから……や、やばい!)
ゲームが用意してるバッドエンドは娼婦堕ちオンリー。素材を取るためにモンスターと戦って負けても死んだりせずに自宅のベッドに戻るだけ。だけどごろつきに捕まって娼婦に堕とされるなんてことがあったりしたら……?
「ごめんなさい! 急いでるんで!!」
「おっと待ちなあ」
「いいじゃん、遊ぼうぜ~」
「きらきらの金平糖がポケットいっぱいもらえるお仕事紹介してやるからよぉ~」
「ひっ!」
逃げようとしたわたしの手首をごろつきががっちりと掴んでしまった。マリエちゃんってばリアルのわたしより華奢だから、全然振りほどけない!
「た、助けて……!」
無駄かもしれないと思いながら、わたしは一縷の望みをかけて周りに助けを求めた。だけどスラムはごろつきか浮浪者ばかり。遠巻きにニヤニヤ眺めるとか、興味なさげにちらっとだけ見て通り過ぎる人ばかり……やばい、一日目でわたし、詰んだ……!
「その娘を離してあげなさい」
もうだめだ、と思って固く目を閉じた時、静かなのにすごく質のいい鈴の音みたいによく響く声が聞こえた。男の人の声だ……。
「なんだぁ~? このピーチは俺らのだぜ。横取りお断りだ」
「王都から入ってくる人はうちの客の可能性が高いんですよ。私の商売の妨害になるので、やめてください」
「誰……? 誰でもいいから助け……うっお、超絶美形……!」
助けに入ってくれた男の人はうっすらと笑顔を浮かべていて、ありえないくらいのイケメンだった。ほんとに誰!? こんなイケメン、攻略対象以外にあり得ないんだけど、ワルブレヒトとオンドレア以外にはそんなのいないはず。金髪の長髪が風もないのにそよいでいる……。
「この野郎、邪魔するんじゃねえ!」
「あなたたちが私の邪魔なのです」
ごろつきの一人が金髪イケメンに殴りかかる。イケメンはすっと体の重心を変えるだけの最小限の動きでその攻撃を避けると、優美な手でごろつきを撫でるように払った。
「うわーッ!!」
ちょっと触られただけなのに、ごろつきの身体が弾かれたように吹っ飛ぶ。よく見るとイケメンの手首を腕輪のように緑色の小さな竜巻が囲っていた。
「魔法……魔法使い!」
「この野郎!」
「ふん……」
仲間がやられたことに激昂したもうひとりのごろつきがイケメンに向かって走り出すが、イケメンはちょっと鼻であしらっただけで空中に手刀をびしっと振り下ろす。すると手首に嵌っていた竜巻がごろつきに向かって真っすぐ飛んでいき、二人目も弾き飛ばされて飛んでいった。
「さあ、あなたもお仲間と同じになりたいですか? 悪いことは言わないからその娘を離してあげなさい……」
「ちぇっ、王子様のキスにはかなわねぇや……。あんま一人でフラフラするんじゃねえぞ! ぴちぴちピーチ姫!!」
分が悪くなったと悟った最後のごろつきはわたしの手を離して、仲間が飛んでいった方に逃げて行ってしまった。どうでもいいけど今の人だけ本当に語彙がメルヘンだったな……。
「怪我はないですか? こんなところに一人で来ては駄目ですよ」
「あ、す、すみません。助けてくれてありがとうございます……あっ」
わたしは金髪イケメンに向き直りお礼を言う、そして落ち着いてまじまじと見ると、イケメンさんの耳が長く尖っているのに気が付いた。エルフだ。え? ということは……?
「あなた、王都の人ですよね。ここは危ない。とりあえず近くに私の店があるからそこに来なさい」
「あ、えっと、はい……!」
金髪のエルフの後ろをついて行くと、スラムの中では珍しくよく手入れされた花壇に囲まれた小さなお店にたどり着いた。手彫りらしい木の看板が立っている。わたしはその前に立って掘られている文字を読む。
『森人イスマイルの店』
やっぱりこの人がイスマイルだったーっ!! 嘘でしょ!? ゲームではスマイルマークみたいな顔だったじゃん!! どういうこと? 攻略対象以外は一律モブ顔になってるだけで、この世界にはわたしの知らないイケメンも美女もいっぱいいたっていうわけなのかな。そんなことってあるんだ……。
「お座りなさい。お茶くらいは出します」
「あ、はい。いただきます」
ハーブやポプリがたくさん干してあるニコニコファイナンスの内装は金貸し屋っていうよりどっちかというと薬屋とでも言った方がよさそうな雰囲気だった。
(エルフなんかこんなスラムじゃなくて森の中でお店を出してた方が自然だと思うんだけど)
まあいろいろと事情があるのだろう。わたしのゲームクリアには関係ない……。いやしかし、ほんとに美形だ……出るゲーム間違えてるんじゃないの。ここまでの美形だったら全然メイン攻略対象になれるでしょ……。
「私の顔がそんなに気になりますか?」
「あ、いや……、はい。すごく綺麗な顔だから、すいません。見惚れていました」
「ふうん?」
ゲームではただのニコちゃんだったイスマイルの笑顔は一目見ただけで顔が熱くなって胸がドキドキしてくるほどの破壊力がある。駄目っ、わたしはここにお金を借りに来ただけなのっ。
「あの、ええと。わたし、王都の錬金術師、マリエ・ス・カラカンといいます。実は親の借金を被ってしまいまして。それを返していくためにまずは元手が必要なんです。だからこちらで少し融資していただきたいと思うのですが……」
イスマイルは本当にただのお助けモブキャラなのでこう言えば無条件でお金を貸してくれる。本来のゲームだったらこんな身の上の説明すらいらないくらいだ。わたしはイスマイルが「いいですよ、貸しましょう」とかそんな返事を返してくるのを待つ。だけど、イスマイルが返してきた言葉はわたしの予想していない質問だった。
「マリエさん、あなたは自分で今日私を訪ねてくることを思いついたのですか?」
「え? ええまあ、そうですけど……」
変な質問だ。わたしはイスマイルの意図をはかりかねつつも、素直に答える。すると彼は今度はとんでもない質問をわたしに投げかけてきた。
「次の質問は意味が分からなかったら忘れてくれて構いません。あなた、転生者ではありませんか?」
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