2.まりえとスラム
「さて……とりあえず何ができるのか確認しなくちゃね」
ノーマニー×アルケミーは錬金術師のゲーム。恋愛の傍ら素材を集めてクラフトしてそれを売ったりすることでお金を貯めていくのを楽しもうっていうゲームだった。
「こういうのはだいたいお水と薬草は最初からいくつか持っててポーションが作れるんだよ……お、あったあった」
腰にぶら下げてるポシェットに手を突っ込んだらお水と薬草が出てきた。こんなスマホしか入らないようなののどこにどうやって入ってたんだよっていう大きさ。持ち物はゲーム転生御用達の無限ポケット的な処理がされてるみたい。ありがたーい。重い荷運びがリアルと同じとなると難易度高まるからね。
「それでこの2つをぽいぽいといれて……蓋閉めて待てばできるわけね。電子レンジとか炊飯器の感じだな……」
もともと家にあった錬金釜に材料を入れると、ポーションを三つ作ることができた。確かすぐ近くに雑貨屋さんがあって、そこに売るイベントが起こるはずだった。行ってみよう!
わたしは出来上がったポーション3つをポシェットに入れて家を出ることにする。ドアを開けるとそこにはファンタジーでメルヘンな街が広がっていた!
「すごーい! 外国の街みたい! かわい~い!」
元のゲームはほら、RPGを作~る感じのソフトで作られた同人ゲームだったからさ、昔のRPGでござ~いってドットの上から見るマップだったけど、実際歩いてみると石畳が敷き詰められた街道にファンタジーもののゲームとかアニメででよく見るあれだ、テューダー様式? っていうの? 土台がレンガで白壁に木のパターンがあしらってあるやつ! あれで作ったお家がいっぱい並んでてすっごくかわいい!
「全然そんな場合じゃないのにファンタジー世界に転生したことを観光気分で喜んでしまった……」
軒先に可愛いお花が咲いているのなんか見ながら雑貨屋にたどり着き、中に入るとお店を切り盛りしているお姉さんが挨拶してくれた。
「あらいらっしゃいマリエちゃん。いろいろ大変だったみたいね……」
設定上両親を亡くしてお葬式を終えたばかりってことになってるわたしにお姉さんは気づかわしげに話しかけてくる……けど……。
(ちゃんと人間の顔してる……!)
酷いこと考えたわけじゃないよ! 違うの! ゲームではマリエちゃんと攻略対象以外のキャラクターはみんな簡単な記号で作った絵文字みたいなシンプル顔面だったんだよ! だけど今目の前にいる道具屋のお姉さんはマリエちゃんとおんなじ、ちゃんとした人間の顔があるの!
「うちは小さい雑貨屋だからあんまり力にはなれないけど、今までマリエちゃんのお父さんが卸しててくれた商品はマリエちゃんが作ってくれたら買い取るからね」
わたしの動揺をよそに、お姉さんは商売の話を始めた。そうだった、ポーションいくらで売れるのか知りたかったんだよね。
「ポーションを3つ持ってきてくれたのね。これなら15マニーになるわ」
「じゅっ」
「どうしたの?」
やっす……! ポーション1個で5マニー……。これは、小さいものをちんたら作ってたんじゃ間に合わない!
ポーションの買い取り額の安さにショックを受けた瞬間、突然わたしのおなかがぐうと鳴った。
「お腹がすいてるのねマリエちゃん。売り物のサンドイッチをひとつあげるわ」
「あ、ありがとうございます……」
優しいお姉さんはサンドイッチを1つくれたけど、売り物の料金表を見たらサンドイッチは50マニーだった……。ポーション三つで15マニー、サンドイッチ一個買うのにポーションは10個作らなきゃいけないわけだ……。
「え、結構大変かも……」
そうだ、空腹。錬金は集中力を消費するから、それをなんとかするために食事で回復する必要があるんだった。ただ借金返済に必要な錬金だけしつづけるだけの生活でも食費がかかるんだ……。実際この中で生きてるから食べなきゃ餓死するし……。
一旦うちに帰って、もらったサンドイッチをありがたくいただいた後わたしは今後どうするかを考える……。
「確か本屋さんでレシピを買ったりイベントで覚えたりして錬金できるものは増えていくんだよね……」
多分出来あいの料理を買うより小麦粉とかだけ買って自分で作った方が食費は安くつく。基本レシピで作れるポーションとかマジックポーションを売るよりもっと単価が高いものをさっさと作れるようになったほうが効率がいい。
「うーん……うーん……。も~、こういうのってチュートリアルを教えてくれる女神様的なやつがだいたいいるもんなんじゃないの? まあ……ものによるか……」
わたしはノーマニー×アルケミーをプレイした記憶を必死で手繰る。今気づいたけど多分これ、最後にプレイしたゲームに転生する系のやつなんじゃないだろうか。だったら死に覚えゲーとかじゃなくてよかった……。それは今はいいんだ。思い出せ思い出せ、序盤に困窮しないでいい方法を……。
「そうだ! 追い借金ができるはず!」
おいおい! って自分で突っ込みたくなっちゃうよね。でもこれは方法としては全然ありなんだよ。今わたしがしている借金はワルブレヒトの100万。それ以外に、別の人に借金することはできるの。ただそれをやるともう一人の攻略対象と縁ができてしまうから一長一短ではある。
今わたしが住んでいるのは王都。王都の隣のマップはスラム街になっている。そこにあるエルフの金貸し屋で最初の1万マニーを借りるのだ。今の段階ではまだスラム街の探索はできない。イベントで行くことになる前にマップに入るとごろつきに絡まれて、襲われちゃうかも! っていう所でもう一人の攻略対象に助けられて無傷で王都に強制送還されるのだ。
もう一人の攻略対象、最終的に個別イベントでマリエちゃんを一生ベッドつむりにしてしまう悪い男は名前をオンドレアという。スラム街闇ギルドの長。悪い悪い男だ。ごろつきに絡まれずに金貸し屋までたどり着ければこいつに遭わずに済むはず……!
「たしか女の子一人で歩いてたって理由で絡まれるんだった。ってことは男の格好して、通行人と目を合わせずに出来るだけ速足で通り抜ける! これだ!」
そうと決まればわたしは二階のパパ部屋のクローゼットを開けて、男物のコートと帽子を引っ張り出した。ゲームで開かなかった棚とか開けられないかもって思ったけどちゃんと開けられる。長い髪を帽子に押し込み、コートを着込むと中年男性の持ち物の匂いが襟元からふわっと香る。
わたしはなぜだか泣きそうになった。設定にだけ存在する死んだお父さん。マリエちゃんの脳みそがきっとそれを覚えていて、懐かしさで涙しているのだ。
「マリエちゃんの身体を守るためにも、お借りします、お父さん!」
王都からスラムのマップに行く道には親切なおじさんがいる。ゲームでは「女の子が一人でスラムに行ったら危ないよ、それでも行くのかい?」って聞いてくるはずなんだけど、男装して行ってみたらその人は話しかけてこなかった。よしよし、うまくいってる!
「このまま誰とも話さずに、ニコニコファイナンスにたどり着く……!」
ニコニコファイナンスってのはわたしがゲームプレイ中に勝手に金貸し屋につけてた名前。ニコニコファイナンスはエルフのイスマイルがやっている金貸し屋で、イスマイルは何があってもずっと笑顔をはりつけているモブキャラなんである。名前も多分「いいスマイル」のダジャレだしな。いいスマイルのイスマイルがやっている金貸し屋だからニコニコファイナンスってわけ。
スラムは薄汚れたバラックが立ち並んでいて、すえたような臭いの悪そうな人がうろうろしている。
(ひ~っ! みんなモブ顔じゃないから普通にすごい怖い!)
わたしは早く通り抜けようとして足を速めた。次の瞬間、ちゃんと舗装されてない石畳につまづいて転びそうになり……、ゆるい男物の帽子が外れて、ピンク色のふわふわロングヘアがこぼれだしてしまった!
「あ? おい、あいつ女だぞ!」
「よく見たら上玉じゃねえか!!」
「や、やばっ」
「待て!!」
わたしがヒロイン級の美少女だってわかったとたん、ごろつきが何人も追いかけてきた、やばいやばいやばい!! 逃げなきゃ!!
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