28.まりえと盗賊ボス討伐依頼
そのまま夢とかは見ずに、わたしは朝までぐっすり眠って起きた。髪の毛が寝癖でボサボサなので鏡の前で整えながら、今の自分のステータスを確認する。
「マリエ・ス・カラカン、18歳。称号:マチェーテ・マリエ」
マチェーテ・マリエって何?
説明を読むとどうやらマチェーテを装備した状態でボスモンスターを倒すともらえるレア称号らしい。錬金術師はどうしたんだ。
昨日はなんかふわふわ浮足立っちゃったけど、今日のわたしはわりと冷静だった。ジャイアントスライムに取り込まれて酸欠になりかけてたし、戦いに勝ってハイになってやっぱなんか変な脳汁でちゃってたんだろうな。
(も~、ほんと恥ずかしい。今の肉体は18だけどわたしもう中身は25なんだぞ……、別にいい感じの男が現われるくらい今さら動揺するようなことでもないよ。真面目にやんなきゃね)
服を新しくしてまたお金使っちゃったからさっさと次の金策に取り掛からなきゃならない。この間イスマイルに「出遅れている」と指摘されてしまったし、次のワルブレヒトの徴収は5万だ。
何日ごとに徴収がくるかの目安はない。ワルブレヒトが教えてくれてないから。本来だったら自分でセーブやロードを繰り返してこのくらいの時期にこれくらい溜まってないとやばいって覚えていくはずなのに、セーブロードがないから一発勝負、一度でも失敗したら詰みなんだもんな……。
「新しい依頼を冒険者ギルドで探そうっと」
他のゲームでもよくあることだけど、ノーマニー×アルケミーではボスを倒すと次のランクの依頼が解放されることになってたはずだった。
「ジャイアントスライム大変だったな。あそこまできて引き返すの時間もったいなさ過ぎて突っ込んじゃったけどイスマイルいても死ぬとこだったし、次はボスとかじゃない依頼やりたいよね」
わたしは家を出て、冒険者ギルドに向かいながら今後の方針を考えていた。記憶が確かならおそらく次に行けるようになるフィールドは鉱山。鉱山で宝石が採れるようになるとそれを加工したアイテムを作れるようになるのでかなりお金が稼ぎやすくなるはずだった。宝石を取りに行くお手伝いみたいなクエストあるかな~?
「こんにちは~。鉱山に行ってみたいんですけど~」
ギルドについたわたしはさっそく受付さんに尋ねてみる。わたしの顔を見ると受付の人は愛想よく挨拶してくれた。
「マリエ・ス・カラカンさん! 新しい依頼が受けられるようになりましたよ! ですが、今は鉱山に入れないのです」
「ええ~っ! なんで? どうして鉱山に入れないんですか?」
が~んだぞ。出鼻をくじかれた。がっかり顔で立っていたら受付の人が丁寧に入れない理由を教えてくれた。
「現在鉱山への道に盗賊が出没していまして……。鉱石を採掘した帰りの馬車を次々襲っては掘り出した宝石などを奪っているんです。現在採掘に行けるのは国王の許可を得た採掘家だけになっていまして」
「そんなあ」
「その代わり、盗賊のボス討伐の依頼が出ています。盗賊が討伐されれば依頼達成報告後に入山制限が解除されるでしょう」
「おっ?」
なるほどね。ボスとかはしばらく辞めようと思ってたけど、そういうことなら討伐の依頼を受けるべきだろう。報酬もそっちのが高いだろうし。
「ボス討伐依頼の報酬はいくらですか」
「盗賊のボス討伐依頼の報酬は5万マニーになりますね」
やっぱりね。ジャイアントスライムの時と一緒でワルブレヒトの徴収に備えて必要な分の高額依頼が入るようになってる。今度こそ出遅れてるなんて言わせないぞ。
他にもいくつかまとめて依頼を受け、わたしは持ち歩いていたコンパクト鏡を開いてステータス画面を見た。クエストの欄に未達成のクエスト、達成済みのクエストが記載されている。未達成の欄の中に盗賊ボス討伐と、盗賊退治、モンスター退治のクエストなどの文字が追加されていた。
「盗賊がどんな相手なのか、どんな攻撃してくるのか見極めるために何人か倒しておきたいからね。20人倒して5000マニー。せっかくやるならお金がもらえたほうがいいし」
そこまで呟いて、わたしは何かが引っかかってるような気がした。なんだろう。今の所思いつかないし、多分大したことではないのだろう。コンパクトをしまいこみ、わたしは冒険者ギルドを後にしようとした。
「ちょっと待ってください、カラカンさん!」
「ん? え、ああ。わたしか。なんですか?」
カラカンさんって呼ばれることあんまりないから自分のことだってわかんなかった。わたしは振り返って受付まで戻る。
「盗賊のボス討伐依頼には依頼者との面談が必要になります。依頼者の所に行ってもらって、そこで契約を結んでもらう形になるんです」
「へえ、そんなのあったっけ……?」
てっきりここの手続き一回で受けてそのまま討伐に行けるもんだと思ってたのでちょっと肩透かしに思ってしまった。そういえばなんか……詳しくは依頼者に話を聞きに行ってくださいねみたいなことRPGではまあまああるもんな……。
「この依頼って誰が依頼したクエストなんですか? どこに行ったらいいんでしょう」
採掘の許可は国王から得るっていってたから国王とかだったらちょっとすっごい緊張しちゃうな、うっかり失言して無礼討ちとかされないように気をつけよう……とか思いながら受付さんに聞くと、帰ってきた返事はわたしが全く予想してない言葉だった。
「ボス討伐依頼を出している方のお名前はオンドレア様です。スラムの事務所に直接出向いてきてほしいとのことです」
「……」
「カラカンさん?」
一瞬目の前が真っ白になった。なにて? わたし聞き間違いした? 依頼者がオンドレアで? スラムにある事務所に直接面談に行かなきゃいけない?
「わ、ワカリ……マシタア」
やっとのことでそう答えて、わたしはぎくしゃくとした動きでギルドの外に出た。そしてまたコンパクトを開いて、同行者欄にあるイスマイルの名前をタッチした。
*
「昨日の今日で……もう呼びますか……」
「ひーん、ごめん! イスマイル! ちょっと緊急事態なの!」
ギルドの前でちょっと待ってると、人ごみの中から背の高い尖った耳が現われた。
「いったいどうしたと言うのですか?」
「鉱山に行くのに盗賊のボスを倒さなきゃいけないんだけど~、その依頼相手がオンドレアで、事務所に行かないといけなくなっちゃったの~!」
「なんですって? その依頼って今までのマリエだったらスラムに来るようになる前に終わってるイベントのはずですよ? マリエがスラムに来れるようになるきっかけがオンドレアとの出会いのはずなので……」
「そ、そうだよねえ~! わたしの記憶でもこの依頼、オンドレアじゃなかったはずなんだよ~! なんで? どうして?」
わたしが泣きつくと、イスマイルも驚いていたようだった。
「一日目に私の所に来てしまったせいで整合性が狂っているのでしょうか……」
「どっちでもいいよ! まだワルブレヒトからブローチ取り返せてないから一人でスラムいけないよ~! 事務所までついてきて!」
マチェーテの使い手になったわたしならごろつきとも戦えると思うけど、スラムでオンドレアの部下を切り倒しまくったらその後の立ち回りに支障が出る。パニックになりかけたわたしに両手を掴まれ、イスマイルは綺麗な眉根をぎゅっと寄せてちょっと気まずいような顔をした。
「はいはい、わかった。わかりましたよ。私が闇ギルドの事務所まで連れて行きますよ……」
「やったね、頼りになる!」
「やれやれ……。まあ本来なら私もオンドレアに金貸しの収支の報告に行く予定でしたから、偶然一緒になったということにしましょう」
「あとでクッキーあげるからね」
「そりゃどうも……」
そんなわけでわたしはイスマイルを伴って、再びスラムに足を踏み入れることになったのだった。
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