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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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24.まりえと森の奥

「それで、あなたここから先どうやって進むかの対策はできたのですか?」


 前回と同じようにスライムやゴブリンを蹴散らしながら草原を進み、湖に来て一休みしている時にイスマイルが尋ねてきた。


「できたできた、ばっちりだよ。ほら、見てこの武器!」

「ほう、マチェーテですか。いままでのマリエの中でそれを使っていた者は見たことないですね」

「見た目いかついもんね。でもこれなら食人花と戦いやすいと思うよ。あとはもう一つ……」


 わたしはポシェットから小瓶を取り出す。うっかりポーションと間違えて飲まないようにわざとらしいドクロマークのラベルを貼ってある。


「ほら見て、これをマチェーテの刃のところに丁寧にとろ~りと塗り付けて……」

「なんですか? これ、毒ですか?」

「いやあ、人体に害はないと思うよ。でもこれで植物を斬ると……、やっ」


 ちょっとかわいそうだけどそこらに生えてたお花を一輪、マチェーテで薙いでみる。すると刃が触れたところからお花の茎がじゅっと溶けた。


「スライムの酸で作った除草剤。服も綿とか大体植物だからね。服だけ溶かす酸で植物が溶かせるんじゃないかと思ったんだ」

「はあ、あれってそういうものなんですね」

「シルクとか着てたらわかんないけど、野っぱらで戦うのにシルク着てくる人いないと思うし」

「毛皮も残るかもしれませんね。まあそんなことはどうでもいいですが、素晴らしいです。これなら食人花を恐れずに奥へ進めるでしょう。よく頑張りましたね」

「え? えへへぇ……」


 イスマイルって憎まれ口叩く割には素直に褒めてくれるときあるから、ついわたしも顔がにやけちゃうんだよな……あんまり大人になってから褒められることってないから、自己肯定感爆あがりっていうか……。


「ではいきましょうか。もたもたしてるとまた日が暮れますよ」

「わかった、行こう!」


 鞘にしまうと砥石に除草剤を削がれてしまいそうなのでわたしはマチェーテを抜き身で手に持ったまま立ち上がる。湖にくるまで使っていた仕込み傘をポシェットにしまった。

 さっき休憩中に食べた今日のお弁当はスグリのジャムのサンドイッチ。これで素早さと腕力にバフがかかっている。森の深部入り口にたむろしているゴブリンを前回よりも楽々倒し、わたしたちは食人花の生息地に足を踏み入れた。


「まりえさん!」

「早速来たねっ!」


 シュルル! という音がしてまたわたしの足元目掛けて蔓が伸びてきた。前回は何もできずに巻き付かれたけど今回のわたしは違う!


「せいやっ!」


 さっきまで立っていたところを食虫花の蔓が空振りする。それが足元に届く直前にジャンプしていたわたしは着地と同時にマチェーテを振り下ろし、蔓を切断した!


「すっごい、ゼリーみたいにサクサク切れる!」

「まだ来ますよ、油断しないで!」


 思惑どおりにうまくいった快感で脳がめちゃくちゃ興奮した。次々伸びてくる蔓をわたしがばっさばっさと切り払っているうちに、イスマイルが食虫花の本体を見つけて魔法を放つ。

 イスマイルの魔法はいつもの風の輪っかを大きくしたもので、放った先で小さめの竜巻になり相手を切り刻むようだ。茂みの向こうで花びらやおしべめしべがみじん切りになって巻き上がる。わたしは食人花の赤い花びらを目視で初めて見た。まるで飛び散る血のようだった。


「イスマイルの魔法こーわっ!」

「どうせ言うのなら怖いでなく『凄い』とおっしゃい」

「すごいすごい、頼りにしてるよっ!」

「っふ」


 ひと株倒せばまたひと株、食虫花は道に沿っていくつも生えているようだった。わたしたちは二人で協力して邪魔な食人花を一つ一つ潰していく。ドロップアイテムとして蔓と花の蜜が大量に手に入った。

 いったいいくつ食人花を潰しただろうか。やがてわたしたちを狙って伸びてくる蔓は一本も現れなくなった。


「どうやら見えるところの食人花はすべて倒したようですね」


 じわりとこめかみに浮かぶ汗を拭うイスマイルを見ていたら素朴な疑問がわいてきた。息を整える合間にわたしはそれを口にする。


「イスマイルってさあ、エルフじゃん。勝手なイメージだけどエルフって森を大事にするじゃん。森の植物めちゃくちゃにするの嫌じゃないの? 自然に親しまないとニキビできちゃうくらいなのに」

「……ああ、まあ。嬉しくはないですけど。どうせ帰りにはまた復活してますよ。そういうものなのでもう割り切っています」

「へー……」


 さっきわたしが除草剤のパフォーマンスとしてお花を切った時も別に何も反応してなかったもんな。


「同行者になるのは今回が初めてらしいけど、一人でモンスターしばきながら森に来ることはあるわけじゃん。イスマイルにもレベルとかってあるの?」

「レベル……。それこの間も言ってましたし、以前のマリエからも聞いたことあるんですけどよくわからないんですよね。経験値とかなんとか。まあ語感から察するに経験からの成長が数値化された単位なのだろうと思っていましたが」

「そっか、イスマイルは主人公じゃないからステータス画面とかないんだね。だとしても、その魔法とかって成長につれて使えるようになったんじゃないの?」

「今使える魔法は最初から私が習得しているものですよ。何度周回しても使えるようになったり使えなくなったりということはなく、ずっと同じです」


 ってことはイスマイルにはレベルはないのか。じゃあ今わたしに流れ込んでくる経験値ってイスマイルの分をまるまるもらってることになるのかな。


「すっごく強い敵にたどりついた時、いつかイスマイルが一緒でも苦戦するときが来るかもしれないね」

「そうかもしれませんね。そうなった時は私を置いてお逃げなさいよ。どうせ私はやり直しが効くんだ」

「そんなこと言わないでよ。その時はわたしがイスマイルよりすっごく強くなってて、イスマイルのこと助けるからさ」

「期待してますよ……、む、まりえさん、静かに」

「何……?」


 イスマイルが耳の先をぴくっと動かし、口の前に指を立てて声を落とす。何かと思ってわたしも黙ると、遠くで小さくワオォーン……、という遠吠えが聞こえた。


「これって……狼?」

「そうですね。群れで囲まれてはかなわない。ボスとやらがいるところまで駆け抜けましょう。私が火の魔法で牽制します。飛びかかってきたときには諦めて戦いましょう。行きますよっ!」

「オッケー!!」


 わたしはイスマイルの合図とともに駆け出した。走っている間にも遠吠えの数は増えている。右からも左からも聞こえてきて、一体何頭いるのだろう。二手に分かれて追いかけてきているようだった。


「離れないでまりえさん! 狼は遅い者や弱い者のほうを狙いますよ!」

「そんなこと言ったってさ! 歩幅コンパスの差ってのがあるんだよぉ!」


 イスマイルとわたしは同じスグリジャムのサンドイッチを食べているから二人とも素早さのバフがついているけど、単純に足の長さの関係でイスマイルの方が走るのが早いのだ。


「仕方ないですね!」

「わっ! ひゃあ!!」


 急に長い腕が身体に巻き付いてきて思わず悲鳴を上げてしまう。視界がぐるっとひっくり返って、気づけばわたしはイスマイルの肩に担ぎ上げられていた。


「がうっ!!! ぐるるるるっ!!」

「きゃあああっ!!」


 担ぎ上げられた瞬間にわたしを狙っていた狼の一頭が飛びかかってきて、もし立っていたならわたしの首があったあたりの空間をがちんと噛んだ。悲鳴を上げる前にイスマイルが地面を蹴って駆け出す。


「まりえさん怪我は!?」

「む、無傷!」

「上等!」


 イスマイルが指を鳴らすとさらに追撃しようとしていた狼の鼻先で小さい火の玉が弾けた。爆風で吹き飛ばされた狼がもんどりうって倒れる姿が遠ざかって行く。


「忌避剤は持ってますか?」

「香水! のこと? 付けてる! けどお!」

「あなたケチってちょっとしかつけてないでしょう!」

「だって! 高かった! んだもん!!」

「出しなさい! すぐ!」

「待って待って、うう、あった!」


 イスマイルの肩の上でがくがくなりながらもわたしはポシェットから香水を取り出し、イスマイルごと自分に吹き付けた。シュッという音と共にミント主体の爽やかな香りが広がった。

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