23.まりえと鍛冶屋
気がかりな夢を見て気分が悪いとはいえ、今日のわたしがそれに影響を受けるいわれはない。だから予定通り、街に買い物に出た。
「武器も高いなあ。この分を補填するためにもボスは倒さなくちゃね」
鍛冶屋さんのラインナップの前でぶつぶつと武器を物色するひらひらアリスドレスの美少女わたし。鏡の前で得物を構えては取り換えを繰り返している。
「本来こんな美少女が武器なんか握るべきじゃないでしょうに……。でかい武器と美少女もオタクのロマンではあるけどね……」
ポシェットに何でも入るとはいえ、できるだけ武器を持ち換えたりしたくない。突く攻撃が食人花と相性が悪いだけで、仕込み傘はスライムには最適だった。
「突くと斬るが両方できるといいよねえ……。なぎなたとかいいと思うけど……」
昔読んだ漫画にも女性にはなぎなたが適しているって書いてあったもんな。でもこのフリフリ可愛い西洋ファンタジーのゲームになぎなたがあるか? まあ、日本製のゲームだ。西洋風の世界観なのに唐突に日本刀が出てきちゃったりすることなんてまあまああるけどね。
「西洋武器で長くて槍じゃなくて……っていうと、槍斧とかもいいよね」
ハルバード。槍の穂先に斧と突起がついている長ーい武器。一応持ってみたけど、ほんとにすごい長いな……2メートルくらいあるんじゃない? これ。武器の方じゃなくて、まるでわたしのほうが付属品みたいだ。
朝サンドイッチを食べてきたから楽々持てるけど、出先でバフが切れるとやだなあ……。食事とポーション、ゲームならいくらでも食べれるけどマリエちゃんの控えめな胃袋じゃすぐお腹ぽんぽんのちゃぷちゃぷになっちゃうだろうし。
「これは男の人向けの武器だね。イスマイル……は武器持たないんだよなあ。背はでっかいけどあんまり腕力ぶんまわす系じゃないみたい、エルフだしね、あのひと」
アリスドレスとハルバードの組み合わせはかなりロマンありだったので惜しいけど、持ち歩く候補から外す。あと、単純に値段も高かった。使いこなせない武器を高いお金払って買うのは賢くないよね。
考えてみれば、仕込み傘が都合よかった理由は突き攻撃だけじゃなくて、スライムの服を溶かす酸を防ぐのに都合がいいというのもかなりある。森の奥のボスはジャイアントスライムなのだ。また酸を吐かれる可能性はでっかいじゃないか。雑魚スライムよりも強酸だったらアリスドレスでも溶けるかもしれないし。
「独りっきりならスライムにしか見られないから最悪全裸で戦ってもいいけどな……。でもイスマイルがいるところでそれはさすがに……」
攻略対象だけが同行者として設定されているのは、出先でえっちハプニングがあって、しゅきぴの前で恥ずかしいカッコになっていや~ん、そしてエキサイトする攻略対象……みたいなコンセプトの意図があるから……これそういうゲームだから……。あっ、なんか急に恥ずかしくなってきた!
「わたしの裸でエキサイトするイスマイル……うーん。想像できないってえ……」
想像できないって言いながら頭の中にはしっかり雄丸出しの表情で迫ってくる超絶美形エルフの姿が浮かんでしまった。いや許してってば。浮世離れしたイケメンに迫られるシチュエーション好きなんだってば、わたしはもともと~っ。
「違う違う! ここには乙女ゲーをエンジョイするためにいるんじゃないんだよ。生き残るために来たの! 真面目に選ばなきゃ……」
傘は手放せない。というか武器、ふたつ持ってもいいんじゃない? 小さめで取り回しが良くて突くって言うか刺すのと切るのと両方できるやつ。
「となると斧は除外で……やっぱ剣になっちゃうのかなあ……」
いろいろ手に取ってみるけれど、西洋の剣って鈍器っぽくてあんまり切れ味期待できないっていうか……。
「お嬢ちゃん、さっきからずっと悩んでるねえ。何探してるんだ?」
あんまりにわたしが悩んでるから鍛冶屋さんが声かけてきた。そうだよね。お客さんがこうなってたら「何かお探しですか~?」ってわたしでも行くわ。懐かしいな、ショップの仕事。
「食人花を退治するのにちょうどいい武器を探してるの。わたしみたいな女の子でも扱いやすい武器ってありますか?」
「ああ、お嬢ちゃんはあそこの錬金術師のうちの娘さんか。一人で採集に行かないといけないから大変だねえ」
「そうなんですよう」
もう一人で行かなくてよくなったけどそういうことにしておく。
「植物系を相手にするなら何も武器にこだわることはないぜ。ほら、これなんかどうだい。山刀だ」
マチェーテ。頭の中を昔見た映画の髭のメキシコ人の顔がよぎって行く。おお。こういう方向に世界観崩壊させてくるか……。
「もともと草なんかを薙ぎ払うためのものだが、この辺はモンスターとしての植物がいるからな。戦闘にも使えるように硬く改良したもんだ。それでいて疲れにくいように軽く作ってある。おまけに鞘に砥石が仕込んであるから抜き差しするたびに研がれるぜ」
おじさんが鞘からマチェーテを抜くと、シャコっと音がして長めの刀身が現われた。大体全長60センチくらいだろうか。先に行くほど幅広になって行く独特の形をした刃物だった。
「へえ~、そっか。武器って劣化するもんね。お手入れ簡単なのはいいなあ~」
「今後鉱石とかも取ってくるようなら強化もできるからな。その時はうちに持ち込んでくれればやってやるよ。どうだい?」
値段を聞いてみたらけっこうお手頃だった。一人で考えてても決まらなそうだし、わたしはマチェーテを今後の相棒に決めた。
「ベルトはおまけしておいてやるよ。急に一人になっちゃって大変だろうからな。ここで装備していくかい?」
「おじさん~、優しい~!! がんばります~、うう~、装備する~」
借金のある身からするとここで節約できたのはありがたい。腰にベルトを巻いてマチェーテを装備すると、可愛いアリスドレスを着てても急に武闘派アリスって感じになった。
「よしよし。じゃあさっそくイスマイルを呼んでフィールドに繰り出すとするか!」
わたしは鍛冶屋備え付けの鏡に指をタッチした。これはセーブポイントがあった名残で、どこの鏡でもステータス画面が開けるようになっている。
「同行者にイスマイルを選択してっと……」
一度ステータス画面に同行者として登録された相手とは待ち合わせなどする必要がない。画面上で名前を選択すればすぐ合流できるはずだった。鍛冶屋のドアを開けて道に出ると、遠くからひょろっと背の高い金髪エルフが歩いてくるのがすぐ見えた。
「おはようございます、まりえさん」
「イスマイル、おはよっ!」
「はぁ……本当は私、今日この時間は取り立ての仕事するつもりでしたのに、なんらかの力で行動を無理やり捻じ曲げられてここに向かわされました」
「え、そうなの? なんかごめんね……?」
「まあ、同行者になるというのはそういうことなのでしょう。食事中や入浴中でなくてよかったですよ。できれば呼ぶ時間は決めておいてもらえると嬉しいですね」
「わかった、そうするね」
イスマイルはため息をつきながらも怒ったり嫌がったりはしてないようだった。
「なるほど、鍛冶屋ですか。ということは武器の準備をしたのですね」
「うん。新しい武器を買ったの。それ以外でも対策したし、今度は大丈夫!」
「そうですか。ところで今日はクッキーはないのですか?」
「クッキー? あ~、プレゼントクッキーじゃないけど、途中で食べるために一応持ってるよ」
「ひとの予定を捻じ曲げるのですから、プレゼントクッキーは毎回用意してください。また緑のリボンがいいです」
「え~、そんなにあれ気に入ったの? いいけど……」
今日はプレゼントクッキーは持ってなかったので、普通のクッキーをいくつかイスマイルにあげた。それでも嬉しいのか彼はあんまり見せないニコニコさんの表情でそれをポケットにしまうと、「では行きましょう」と街の出口に向かって歩き出した。
「ホントに甘いもの好きだよねえ、イスマイルはさ……」
足の長いイスマイルに置いて行かれないように、わたしは急いでそれを追いかけた。
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