22.幕間『あくまのよめいり』
むかし、ある粉やがおくさんとむすめと一緒に住んでいましたが、だんだんと貧乏になって、とうとう暮らしていくのがむずかしくなってしまいました。
もう財産といえるものはおくさんとむすめばかり、しかし愛する二人を手放すなど考えられない。しかたなく森で木の実などを摘んではそれをなんとか食べていました。
その日も粉やは森へ木の実を摘みに来ていました。そんな粉やをおおいおおいと誰か呼ぶものがありました。
「粉やさんや。どうしておまえは粉もひかず、小鳥みたようにちんけな木の実などつまんでいるのだい」
すがたをあらわした声の主はとても背丈がおおきく、あたまから二本の角がにょっきりと生えている男でした。どうみても悪魔でした。
その恐ろしさに粉やさんは身がすくんでしまいましたが、なんとかおのれの貧しい身の上をつっかえつっかえ悪魔に話しました。
「お金がないのです。むすめの婚礼が近いのに、お祝いをしてやることもできない。毎日少しばかりの木の実を食べるのが精いっぱいです」
「それはとても大変なことだね。おれはおまえを可哀そうに思う。どうだろう。おれはおまえに金貨をめぐんでやらないでもないよ」
思ってもいない悪魔の申し出に、粉やさんは両手をあわせて感謝をしました。
「ただし、おまえがこれから家に帰って来た時、おまえの粉ひき風車のとなりに立っているものを代わりにおれに寄越すのだ。それでおまえはちょっとした金持ちというわけだ」
粉ひき風車のとなりに立っているものと言えば、もう実をつけることもない古ぼけたりんごの木が一本生えているばかりでした。粉やさんはそんなものでよいのならと悪魔の申し出を受けました。
悪魔に会ってしまった恐ろしさと、金貨がもらえるという期待でどきどきしながら、粉やさんは我が家へと帰りました。
「おかえりなさい、おっ父さん。よい木の実はとれましたか?」
粉やさんを迎えたのは、粉ひき風車の横に立ってそうたずねてきた、愛するむすめの姿でした。
粉やさんがそれを見たしゅんかん、木の実を入れていたかごがずしりと重くなりました。かごのなかみはすっかり、ぴかぴか輝く金貨に変わっていたのでした。
これで飢えずに済むとむすめは喜びましたが、粉やさんは泣き出しました。
「この金貨は、粉ひき風車のとなりに立っているものと交換するという約束で悪魔にもらったものだ。わしはりんごの木をやるつもりで約束をした。なのに風車のとなりにおまえが立っているなんて!」
金貨を返して約束をなかったことにしたくても、悪魔がどこにいるのかすらわからず、むすめはいつ来るかわからない悪魔の迎えを恐れ、泣き暮らしました。婚礼をひかえていたむすめの婚約者はむすめから話を聞いて、とても腹を立てました。
「わたしの花嫁を悪魔にやってしまうだなんて、そんな話はない。まっていろ。わたしが悪魔を退治してくる」
婚約者はそう言って出かけていきましたが、悪魔との一騎打ちにあえなく負けてしまいました。悪魔は婚約者をちいさな箱に閉じ込め、二度と出てこれないようにしてしまいました。
「おとなしくおよめにこないと、この男だけでなくおまえのおっ父さんやおっ母さんも同じように閉じ込めてしまうよ」
そう言われてしまえばむすめになにもできることはなく、おとなしく悪魔によめいりするしかありませんでした。
はじめはひどい目にあうのではと怯えていたむすめでしたが、悪魔はおどろくほどむすめに優しくしました。毎日煮たもの焼いたものを食べさせ、鳥の羽をつめたお布団で寝かせ、むすめが嫌がるようなことをむりやりすることもありませんでした。そんな悪魔のことを、むすめはだんだん好きになっていきました。
悪魔にむすめをよめいりさせるなんてと泣いていた粉やさんとおくさんももらった金貨で生活をたてなおすことができ、だんだん賢い約束をしたのではないかと思うようになっていきました。
悪魔とむすめのあいだに子供が産まれ、むすめは幸せになりました。だけど心のどこかでちくちくと痛むとげがあるのも感じていました。
「ねえあなた。あたしはあなたに感謝をしているわ。あなたはとてもやさしいし、子供たちもかわいい。おっ父さんもおっ母さんも飢えることはなくなりました。だけどあたしはどうにも、箱に閉じ込められたあのひとがかわいそうでならないの」
ある夜、むすめは悪魔にそう話しかけました。それを聞いた悪魔は角を倍の長さにのばして怒りかけましたが、むすめのことがあんまりかわいいので我慢して答えました。
「まだあの男のことを忘れられないのかい? おまえはもうおれのおくさんなのだよ。あいつを出してしまったらおまえとまたいっしょになってしまうかもしれないじゃないか。そんなことをするわけにはいかないぞ」
「もうあたしはあなたのものです。もうあたしと会えないくらい遠くの国ででもいい。あのひとを出してあげて……」
かわいいおよめさんに涙をうかべてねだられると、悪魔はむげにはできなくなりました。悪魔はなやんだあげく、閉じ込められている男に箱の鍵を中から開けられる条件を教えてやりました……。
*
「何この夢……」
わたしはおかしな夢から目覚めて、天井を見つめながらそうつぶやいた。夜にこうやって夢の形で情報を見せられるのはこれで三回目だ。一回目はワルブレヒトと、二回目はオンドレアとのマリエちゃんのなれそめ。攻略対象の生い立ちというかエピソードだった。だけど今回のは……。
(これってあれだよね。昨日マリエパパの本棚で見つけた『あくまのよめいり』っていう童話の内容……)
しかもなんか全然途中で終わった。箱の鍵を中から開けられる条件ってなんなんだよ、地味に気になるじゃん。
(ノーマニー×アルケミーの本編でこんな夢見せられるイベントがあった記憶はないんだけどな……まあわたしの記憶あんまり当てになんないんだけど……)
特にゲームクリアとは直接関係なさそうな内容の本。実際に手に取ったページは真っ白で何も書かれてなかったのにこうやって夢でわたしに見せてくるって何か意味があるんだろうか?
(なんか、時々誰だかわかんないけど第三者の意図みたいなのを感じる時があるんだよな。イスマイルと話してる時とかいろいろ……。今見た夢もなんか関係あるんだろうか……)
寝起きの頭でいろいろ考えてみたけど、結局今わたしにできることは予定通りこのゲームを攻略していくしかなさそうだった。
「あー……起きようっと」
裁縫セットを使ったアリスドレスは今日も新品同然に清潔。わたしはそれに袖を通して、ピンクでふわふわの髪の毛をくしでとかしてリボンを付けたら今日も完璧超絶美少女。
やるべきことはたくさんある。まずは今日の朝ごはんを作る。そして昨日園芸の本で取得したレシピで除草剤を作る。武器も新調しなくちゃいけない。
「今日も頑張ろう。絶対にクリアして自由になるぞ」
わたしはそう気合を入れて、自室のドアを開けた。
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