16.まりえとスライムリベンジ
こんな細腕のお嬢ちゃんが!? とかお嬢ちゃん悪いこと言わないからやめときな! みたいななんやかんやもなく、わたしは冒険者登録をすんなり済ませた。この王都では普通のおばちゃんが薬草を摘んだりするクエストを受けたりすることもザラだからとかなんとか……おばちゃんも服溶かされていや~んとかになってるのか? ていうか老若男女いや~んになってるんだろうな……。
「よしよし、これで採集だけでなくおつかいクエストもやりに行けるわけだ。じゃあさっそくいこっと」
この間イスマイルについててもらったのがめちゃくちゃ効率よかったからまたついてきてほしいんだけど……。わたしはコンパクトを開いてステータスを確認する。ステータス欄には「同行者」という項目がある。好感度が高い攻略対象……ワルブレヒトとオンドレア、やりようによってはその両方か。一緒に連れて戦闘を手伝ってもらえるシステム。そこにイスマイルの名前はない。彼が攻略対象じゃないからだろう。いないんじゃ連れてけないよな。この間は特例だったのかも。
「てか、同行者欄にワルブレヒトもういるな~。多分だけど最初からまあまあ好感度高いんだろうなこの人は……」
あの湖とか本来なら攻略対象と水浴びしてドキドキとかそういうスポットのような気がするぞ……。そこにイスマイルいるのなんなんだよとも思うけど。そういうわけで今は一人で行くしか選択肢がないのだ。
「この間イスマイルに怒られたばっかだからね。今日はちゃんと準備してきたぞ」
フィールドに入る前にわたしは前もって作っておいたスグリジャムのクッキーをお口にポイする。アリスドレスの裾にシュッシュと噴くのはモンスター忌避効果のある香水。ポシェットの中には入り口まで戻ってこられるアイテム、ウェイストーンを一個しっかりと忍ばせている。
「香水とウェイストーンが高かったんだよなあ……、ほんと1万残ってて命拾いしたぜ……」
ほんと何度も言うけど無計画に散財したわけじゃないんだって! 戦いの準備しっかりしたら思ったよりお金なくなったの!! もうあんなヒヤヒヤしたくないからしっかり稼がなくっちゃね。
そう言うわけで、仕込み傘をブンと振って気合を入れるとわたしは再び草原のフィールドに足を踏み入れるのだった!
「来た来たっ! 服だけ溶かすスライム! 今度はこないだのようにはいかないんだからねっ!!」
入り口近くでスライムを難なくさばけるようになれとイスマイルに釘を刺されていたのでその通り、あまり奥へ行かずに薬草やベリーを摘んでいると早速スライムたちがやってきた。この間は集団で囲まれてしまったからピンチになってしまったのだ。一匹ずつなら負けないはず! 今は忌避剤が効いているようで、スライムたちは少し遠巻きにしながらわたしの周りをうろうろしている。
とはいえ無鉄砲な個体はいるもので、一匹のスライムがじりじりとにじり寄ってきている。
「ジャムの材料にゼラチンが必要だからね。こっちからもしっかり狩らせてもらうから」
仕込み杖の持ち手をぐりっと捻ると、先っちょのとこ、石突きっていうの? そこがじゃきっと変形して鋭利な刃が姿を現す。わたしはそれを体の前に構えて、腰を落としてスライムに対峙した。
「ぶしゅっ!!」
「させるかっ!!」
例の服だけ溶かす酸が発射された。わたしはすかさず傘の柄にあるボタンをかちりと押す。バンと音がして傘が開き、布地の部分に酸がかかった。
「よし、さすがちょっと高かっただけある! 酸にもしっかり耐性あるねっ!! そんじゃこっちからも失礼して……だらっしゃああああ!!!!」
わたしは傘を開いたまま短く持ち、身体全体でスライムに体当たりした。また酸が飛び散ってドレスの裾にちょっと飛んだけど、布を溶かすことなく玉となって弾けて散った。そのまま傘をぐいと前に押し出すとぶぎゅると刃が刺さる感触がする。勝ったっ!!
「ふふんっ!! 見たかっ! アリスドレスにもスライムの酸に耐性がある布地が使われているのよっ! もう服を溶かさせはしないんだからねっ!」
傘をぶんと振り上げると、布地の上をスライムゼリーがぬるりと滑って落ちた。スライム一匹討伐完了!
ちなみにさっき冒険者ギルドに登録した時、スライム10匹ぶんのスライムゼリーの納品依頼が出てたから受けてから来たのだった。その分と自分が使う分。使ったお金が無駄にならないくらいにはしっかり狩らせてもらうんだから!
「おらっ! おらっ! おらっ! しゃああ!!」
気合を入れながら傘をぶんぶん振り回し、三匹ほど倒したところでわたしははたと気が付いた。
「あれ? そう言えばレベルとかって自動で上がるんじゃ……ない?」
そうなのだ。経験値が入っているような感覚はあるのに、レベルが上がりました的な通知がない! ちょっとこれ確認しないといけないぞ! わたしはコンパクトを開いた。
「あーっ! やっぱりだ! これ、手動でレベル上げるやつ! なんでこんなめんどくさいシステムにすんだよ! わたしみたいなうっかりやさんは見逃しちゃうでしょう!?」
前回はめちゃくちゃ慌ててたのと、そこでイスマイルに守ってもらった安心感とか薄布一枚でイケメンの側にいる緊張とかでつい確認するのを忘れてたけど、これあれだよね! 苦戦して服とかなくなったりピンチになるのを誘発するための制作者のトラップ!
(何が何でもヒロインにえっちハプニングを起こさせようという執念を感じる……。まんまとそれに引っかかったわけだけど……)
わたしは急いでレベルアップの手続きをした。うーん、経験値が少ないな。前回の帰り道はイスマイルがほとんど倒してくれてたのでわたしに経験値が入らなかったんだな。おそらく同行者として登録されてればわたしにも経験値入るんだろうけど……。
(まあいい。レベル1が2に上がった程度だけどそれでもぜんぜんまし。今日はこのフィールドでスライムを倒しまくってせめてレベル5くらいには上げたいね)
そう思うとがぜんやる気が出てきた。忌避剤の効果で好戦的ではなくなっているスライムに片っ端から近づき、仕込み傘で仕留めていく。ぶぎゅるぶぎゅる。生き物の命を奪う感触はずっと気持ち悪いけど、そうしないとわたしが大変なことになるんだから仕方ない。一心不乱に刺し、殺し、回収する。
「ふーっ、スライム10匹討伐完了。もう帰ってもいいけど自分が使う分もうちょっと狩るか……」
そう思って周りを見回したけど、なんかもうスライムいないな……?
「そっか。シンボルエンカウント。表示されてる分の敵は全部倒しちゃったのか」
RPGって敵の姿が見えてないけど急に戦闘が始まるやつと、うろちょろする敵に主人公が触れると戦闘が始まるやつがあるよね。ノーマニー×アルケミーは後者。おそらくこのフィールドから出てもう一回入り直すとまたスライムは復活するはずだ。
「移動すると多分時間も経過しちゃうけどな……今日はスライム狩りに一日を捧げるか。一旦出てっと……」
わたしは草原から出るなりまたすぐに入り直すという現実なら何やってんだこいつみたいな行動をした。どうだ? いけるか?
「いた! スライム復活ぅ!」
ぶぎゅるぶぎゅるぶぎゅる。うぉォンわたしは人間スライム殺りく兵器だぞ。倒してスライムゼリーを拾い、経験値を得て、溜まればレベルを上げる。その戦法を繰り返し、わたしは夕方まで草原を駆け回った。
「よしよし、レベル5まであがったし、帰ろう。帰り際にギルドに寄って納品もするぞ」
ポシェットいっぱいにスライムゼリーと、ついでに薬草やベリー類を詰め込んでほくほくと街に帰り、スライム討伐の報告をするわたし。その報酬は1,000マニーだった。
(スライム10匹でサンドイッチ二人前か。しょっぱいな~。だけどやんないよりはましだ。もっとでっかい依頼受けられるようにレベル上げるぞ)
レベルが上がって疲れづらくなったとはいえ、朝から夕方まで戦ってお腹も減った。明日からも頑張れるようにまたクッキーを量産しようと思った。
(イスマイルに会えたら、クッキーのプレゼントもしたいしね。もしかしたらそれで同行者になってもらえるなんてことがワンチャンあったらいいんだけど)
そんな風に思いながら、わたしは帰路につくのだった。
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