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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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15.まりえと取り立て

 その夜また夢を見た。セピア色の幻影が眠りの中のわたしにまたも誰かの好感度アップを知らせに来たのだ。


『お嬢ちゃん、こんなところでうろうろしてたらあかんやないか。悪ぅい大人に捕まって売り飛ばされてしまうで……』


 夢の中でまだとても小さいマリエちゃんが泣いている。そこに黒髪の男の子がやってきて優しく声をかけた。


『お使いに出たら迷子になっちゃったの……』

『だからってなにもスラムん中まで来ることあるかいな……。しゃーないのう、お兄ィちゃんが王都まで送ってやるから……』


 マリエちゃんよりちょっとだけ背の高い男の子はまあどう見てもオンドレアだろう。まだ顔の傷も首の入れ墨もない、着てる服はちょっとボロくて汚いけどこの頃の彼は普通の少年だった。マリエちゃんはオンドレアに手を握られ、王都まで戻ることができた。


『買い物ってなんやったの。こないな小さい子ぉに一人で買い物いかすなんて親御さんも随分スパルタやないけ』

『違うの。わたしが一人でお買い物いけるもんって言ったから……。お母さんが風邪ひいちゃって、それで果物屋さんに元気になる果物を買いに行きたいって言って……』

『果物ぉ? 果物ってピーチかいな』

『ピーチ?』


 ピーチ、と口にするオンドレアの目が急にキラキラと輝き出す。


『せや、果物ん中で一番うまいのはピーチやで! 俺は生ごみン中から拾った種んとこしか食うたことないけどな、甘ぁくて舌がトロけるかと思うたわ。また食いたいわぁ』

『美味しそう! わたしも食べたぁい! お兄ちゃんも一緒に食べようよ!』

『そうしたいのはやまやまやけどなぁ……。ピーチはちょお、今の俺にはぜいたく品すぎるんよ』

『うーん。食べさせてあげたいけど、お母さんの分しかお金預かってないから今日は無理かも……』

『ちびすけがよけいな気ぃ回すんやないんよ。子供は自分が一杯食うてすくすく育つことだけ考えてればそれでええ……』

『ちびすけじゃないもん! わたしはもうお買い物も行けるレディだもん!』


 ぷんすか、とむくれるマリエちゃんの頭をがははと笑いながらオンドレアはぐしゃぐしゃ撫でた。


『悪い悪い、せやな。立派なレディに失礼なこと言うた。堪忍な。まあええんよ。俺も今は冴えないただの浮浪児やけど、今に立派になって毎日食い散らかすほどたくさんピーチが買えるようになるから、そん時に一緒に食べような。約束やで』

『食い散らかすのはだめなんだよ! ピーチだって作った人がいるんだからちゃんと感謝して食べなきゃってお父さん言ってたもん!』

『そっかそっか。レディは眩しいなあ、まともなお父んに真っ当に育てられて……それこそピーチみたいやで……。大きいなったらさぞイカしたお姉ェちゃんになるんやろなぁ』


 ああ……。マリエちゃん……。こんなに小さいころからオンドレアに縁を繋いでいる……。

 しかしオンドレア、このころはずいぶんまともだな。危ないスラムに迷い込んだ知らない女の子を見返りなしに送り届けてあげるような純粋さがあった……。それが今や闇ギルドの王か。

 いや闇ギルドってなんなのかよくわかんないけどね。特にゲーム中に説明もなかったし。ざっくりと反社みたいなもんだと思ってるんだけど。

 こんなに小さいころに会ったマリエちゃんがまたこの時と同じようにスラムに入り込んでピンチになっているのを見つけたオンドレアはさぞ驚いただろう。おんなじことにならないようにブローチを渡したくなる気持ちもこの夢を見た今ならわかる。まあ今回はイスマイルがその役を取ってしまったわけだけど。

 

(子供のころに会ったきりの女の子の思い出を心の中で大事に育てて大人になってから迎えに来るイケメン、フィクションだったら相当なメロさがあるけど実際自分がそれに晒されてみるとかなりヒヤっとくるもんがあるよな……)


 オンドレアエンドではマリエちゃんはベッドのある部屋に閉じ込められて毎日オンドレアに愛され続けて、そこから一歩も出ずに一生を終える。やっぱ怖すぎ、事件被害者すぎる。なしなし……。

 そしてまたセピア色の風景は白くぼやける。朝が来るのだ。


                     *


「うーん……。さわやかでない朝よ……。おはよう」


 前もそうだったけど夢を見た朝は精神的にぐったり疲れている。昨日のハンバーグがちょっと胃にもたれているとも言う。結局またわたしはワルブレヒトお手製のハンバーグを食べてしまった。まあ作り置きの解毒剤ちゃんと飲んだから何が混ぜられてても平気なんだけど、気のない相手なのに手作りゴハンはしっかりいただくというのは我ながら食い意地が張っていると思う。


「だってこの世に生まれいでたハンバーグが食べてもらえないくらい悲しいことって他にあんまりないでしょ。うまかった。ワルブレヒト、料理うまいよな……」


 顔を洗い、アリスドレスに着替えて玄関に向かうと当のワルブレヒトが笑顔で待ち構えていた。


「おはようマリエ。そろそろ借金返済の徴収を始めようかと思うよ。前に言った通りまずは1万。ちゃんと揃えられているかな? もし足りなかったら君には返済能力がないと見なして、愛人として実家に迎えさせてもらう。さあ、お財布を出すんだ」

「ひ……え……」


 そっか~! 「次に来るとき揃ってなかったら」って言いつつ家に住み着いちゃったからなあなあになった気がしちゃったけど、こういう感じで来るのか! 今日って転生してえーっと、五日目か? やべ、今いくら持ってたっけか……ひいふうみい……。やった、足りる!


「ある! あるわよ! 1万マニー! これでいいでしょ?」

「ふーん。なるほど。随分頑張るね。わかったよ。とりあえず返済能力があるということは認めよう。次は5万だ。引き続き励むんだよ。じゃ」


 わたしのなけなしの1万マニーを奪ってワルブレヒトは自室に引っ込んでいった。一階で財布を広げたまま立ち尽くすわたしのアリスドレスの下は全身汗でびっしょりになっていた。財布の中に残ったお金は500マニーぽっち。ほぼすっからかんみたいなもんだ。あっぶね~! 最初に借金行っておいてほんとに良かった~!!


(べ、べつに考えなしにお金使ってたわけじゃないもん。今日徴収が来ると思ってなかっただけで、ちゃんと家計簿もつけてたし!)


 わたしは自分の胸にそう言い聞かせたけど、胃がぎゅーっと縮んで吐き気がした。錬金術師が借金返すゲーム、フリーのインディーズゲームとかも学生時代結構やってたからいろんなゲームの記憶が頭の中で混じってたな。

 ノーマニー×アルケミーは100万たまったら一括で返すタイプのゲームと勘違いしてたけど、これ違う、小刻みにお金持ってかれるほうのゲームだったんだ。


「おえ……」


 錬金と小売りとバイトだけじゃだめだぞ……。別のアプローチもしないとだめだ。思い出せ。行ってない施設とかはないか?


「メインのストーリーにかまけて探索がおろそかになるの、わたしのゲームプレイの癖だよね……。見落としがある気がする。ちょっと街をうろついてみよう」


 買ったばかりの仕込み傘を日傘にして、わたしは外に出た。天気がいい。少しだけ気分が良くなってきた。今日は街並みを楽しむだけじゃなく、ちゃんとどんな施設があるのか確認しながら歩く……。

 最初に薬草を売りに行った雑貨屋さん、バイトしてるスイーツショップ、教会なんかもある。お手伝いしたらシスター服がもらえたような気がするぞ。確かゴースト系の敵のドレインタッチ……生命力吸収攻撃とかに強い。あとでもらっておこう。鍛冶屋さん。鉱山のフィールドで採った鉱石を買ってくれたり宝石加工もやってくれて……ん? 


「あっ! 冒険者ギルドある!! そうだよ!」


 そうだそうだ。モンスター駆除クエストとかをここで受けてお小遣い稼ぎできるんだ。


「うわー、こないだイスマイルと一緒に帰って来た時もったいなかったな~、スライム駆除依頼受けておけばよかったんだ。よし、今受けちゃう!」


 そうと決まればすぐ行動。わたしは冒険者ギルドの扉を開いた。

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