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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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14.まりえと売り子バイト

 次の日。わたしは作ったクッキーをたくさん持ってスイーツショップにやってきた。リアルだったら毎日来ないで適当な時間にふらっとやってくるバイトとか即クビだと思うけど、ゲームの世界だからそこらへんは都合よくできてるんだよね。


「へえ~、この包装、マリエちゃんが自分でやったの? 器用だねえ、かわいい~」


 出勤してすぐ制服に着替えると、わたしは店長さんにクッキーたちがいくらで売れるか確認した。

 

「えへへへ~、どうですかね? これ、売れますかねえ」

「いいよいいよ~、包装してないクッキーなら10マニーだけど、包装してる奴は150だね」

「150!? いきなり15倍!? 大丈夫なんですか!? それ!」


 店長さんが口にした『クッキーのプレゼント』の売値が思ったより高かったので、嬉しいより先にどうしてが勝った。


「もちろん、普通に売ったら高い! ってちょっと怒られるかもねえ。でもマリエちゃんが店頭に立って手売りすれば付加価値が付くと思うよ。『わたしがまごころ込めて作りましたニャン♡』って言いながらね」

「うわあ。その手があったかー」


 その売り方はもはやお菓子というよりも地下アイドルの物販! 確かにマリエちゃんはさいつよ美少女だ。ゲーム内ではNPCとして存在すらしないファンがついていてもおかしくない。


「猫耳メイド店員マリエのミニスカに目がくらんだお客が『ドフゥ、マリエちゃん、しゅ、しゅきなんだよなぁ。おや、こ、これはマリエちゃんのまごころ手作りクッキー! おやおや拙者、これは是非賞味せねばなりますまいなぁ……』ってなってクッキーバカ売れ、がっぽがっぽ大儲けと言うことですね!?」

「おおむね合ってるけど大事なお客さんを勝手にキモくしないでね」


 そうと決まればさっそく売っちゃうもんね。おっきなバスケットにかわいいナプキン敷いて、そこにクッキーの包みを丁寧に並べて……。


「は~い♡ 猫耳メイドマリエのまごころ手作りクッキーで~す♡ わたしが一個一個まごころ込めて作りましたニャン♡」


 うっはー! 恥ずかしい! 恥ずかしいが正直一度やってみたかったことではある! 異世界の恥はかき捨て! 誰も安彦まりえのことを知らないんだからやるならここまでやってやる!


「え~、なにこれ、かわいい~。おリボンがキラキラ~」


 店頭で声を張って道行く人々に媚びまくってると、ドフゥコポォフォカヌポォみたいな男ファンじゃなくて王都のおしゃれな女の子たちがきゃっきゃと集まってきた。おっとこれは売り方変えたほうがよさそうだ。


「中身のクッキーも美味しいですよ、はい、これ試食でーす」

「あ、おいし~!! え~買おっかな」

「あたし好きピの分も買ってく~」

「まいどあり~っ」


 客層を見定めて売り方を変える! ふふふ、女の子は可愛いものが好き! おいしいものも好き! 可愛くておいしいものなんか最高だよね!


「売れた売れた。幸先いいな~、さてと。当初の売り方も続けるぞ。猫耳メイドマリエのまごころ手作りクッキーで~す♡」

「おや……。家で錬金もしないでどこをほっつき歩いてるのかと思ったら、君はいつ猫耳メイドなんかになったんだい? マリエ?」

「えっ……げえっ!!」


 女の子たちがいなくなったからまたニャンニャン呼び込み営業に切り替えたら今一番見つかりたくない奴の声がした。


「え、え? ワルブレヒト……兄さん、なんで外にいるの?」

「何を言ってるんだい、僕だって外にくらい出るよ。なんでは僕のほうのセリフだ。いくら借金で困ってるからってこんなふうに立ちんぼするだなんて、なんという……」

「た、立ちんぼ言うなし! ただの売り子だし!!」

「マリエ、僕が食べる前に傷物になったりしないでよ。そのクッキーは僕が全部買い取ろう……」

「えっ、うーん」


 一瞬考えたけど、駄目だ。これは攻略対象に渡したら好感度あがっちゃうアイテムだ。全部売ったりなんかしたらルート確定して詰んじゃう! とはいえ店員として完全拒否もできないし……。


「や、全部は駄目。他の人の分がなくなるから。一個ならいいよ」

「そう。じゃあ君の『まごころ手作りクッキー』、大事に味わって食べるよ。ほどほどにして早く帰ってきてね。今夜はハンバーグだよ」

「はんばーぐ……」


 うう~、ワルブレヒトと食事するのあんまりよくないのに、ハンバーグと言われるとめっちゃ食べたいと思ってしまう……。


「……はい、まいどあり。もー、早く帰って!!」

「ふふ、その恰好可愛いよ、マリエ。じゃあまた」


 嬉しそうにクッキーの包みにキスするワルブレヒトをしっしと追い払ってから、わたしはまた道行く人に営業を続けた。


「まごころ手作りクッキーで~す。猫耳メイドマリエがまごころこめて作りましたぁ~」

「お? ピーチちゃんやないけ。なんやねん、せっかく俺が印つけてやったのにあれから俺のシマにぜんぜん来ぉへんで、こーんなところで立ちんぼやっとんのかいな。ニコニコちゃんの取り立てきついん? 話聞こか?」

「お……」


 オンドレア~ッ!! ワルブレヒトの次はオンドレアが来ちゃうの~!? てか、二人とも攻略対象が自分で好感度上昇アイテム買いに来ちゃうの、ありなの!?


「よぉ、どしたんや。久しぶりに会うたんやから挨拶くらいしーや」

「こ……こんにちわ……」

 

 オンドレア、この間イスマイルの店で見た時はコテコテの裏モノ感あるファー付きコートとか着てて危なそうな感じだったのに、今日はスッキリした黒シャツにアンダーリムの眼鏡なんかかけて、危険そうだけど割とさわやかな装いでかっこいいな……。やめて……チョロヒロインの心臓は予期せぬギャップで簡単にどきどきしてしまうんだぞ……。


「若いのにそんなに金に困っとんのかいな。お兄ィちゃんがもっと稼げる仕事いくらでも紹介したるで。一緒に来るか?」

「い、イィ~っ、いやいや、そこまでではないですーっ! これはただのバイトでクッキー売ってるだけなんで~!!」

「クッキーなんかよりもっといいもん作ってきたら俺が買うたる……ん? おい、ピーチちゃんよ。俺が前あげた黒猫ちゃんつけてへんやんけ。あれどうした?」


 えっ、やばっ! そうだ、スラムに行くための黒猫のブローチ、まだワルブレヒトから取り返せてなかったんだった。


「えっと~、あれはスラムに行く時だけ……なくしたら大変だから、普段は自分の部屋に大事にしまってあるんです……」

「なるほどな。安心したわ。もしなくしたりなんかしたら俺、悲しくて何するか自分でもわからへん……」

「ひいい……」


 眼鏡の向こうで紫色の目がすぅっと細くなって、すごく怖い……!!


「まあまあ。そういうことなら頑張りや。可愛いクッキーさん、お兄ィちゃんが一個買うてったるから」

「あ、ありがとうございます……」

「おリボンのとこにチュッてキスのおまけもよろしくな」

「へえっ!? そ、それは別料金で!!!」


 ポンポンとテンポよく飛び出すオンドレアの言葉にとっさに変んな返し方してしまうわたし。そんなサービスなんかしてないのに、何言ってんの? わたしはっ!


「くっ、ふははははっ、おもろいなあピーチちゃんは……。冗談や冗談。ほなな。れっ」

「ぎゃあ! またほっぺ舐めたぁ!!」


 涙目でしゃがみ込んでしまうわたしにひらひらと手を振って、オンドレアは人ごみの中に消えていった。も~、怖いよ~、メロ怖いよ~っ!!


(だめだぁ……これ、売れるけど攻略対象が現われちゃう……。自分の首絞めるようなものだ……。手売りはやめさせてもらおう、セクハラされたからとか言って……)


 ぺちょぺちょのほっぺを押さえながらわたしはしょんぼり店に戻る。結局残りは普通のプレゼント用クッキーとして店頭に並べることになった。

 

(イスマイルに愚痴りたい……こんな日に限ってイスマイル店にいないんだもんなあ……)


 もしかしたらイスマイルもクッキーを買いに現れるかとちょっとだけ思ったけど、彼はこの後も来なかった。やっぱりイスマイルは攻略対象じゃないんだね。

 これ以上対象が増えてもたいへんなだけだからそれでいいんだけど、なぜかわたしはちょっとそれがさみしいような気がしてしまうのだった。

 面白かった、続きが気になるなどございましたら感想、評価、ブクマ、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。

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