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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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13.まりえとクッキー作り

「じゃあ本当に、くれぐれも気を付けなさいよ」

「うん、今日は本当にありがとうイスマイル!」


 王都に戻って、イスマイルとはスラムの入り口でバイバイした。笑顔で手を振ると、イスマイルはなんでかまた一瞬苦虫を噛み潰したような表情をする。


(やっぱぜんぜんニコニコちゃんじゃないんだよなあ……。まあいいや。この世界での唯一の味方だ。入れ込み過ぎないように仲良くしておこ)


 イスマイルが見えなくなったので、わたしはまだ一杯残っている今日の時間を有効活用するため街に繰り出した。


(男物のチュニック一枚で家に帰ったりなんかしたらワルブレヒトが絶対なんか勘づくからな……。逆切れ壁ドンイベントなんか起きたら嫌だ。とりあえずこの格好を何とかしなくちゃ)


 何のために金を借りたのかとイスマイルに叱られたばっかりだ。必要経費としてちょっといい防具……このゲームではマリエちゃんの防具は鎧とかじゃなくて服だ。思い切って買うべきでしょう! わたしは洋服を扱っているショップのドアをくぐった。


「ひゃー、可愛い~。どれもひらひらでゆめかわ~」


 街には老若男女存在するだろうに、主人公であるマリエちゃんのために用意された可愛いワンピースの数々がわたしを迎える。このあと武器とか食材とかも買うから無茶な背伸びはせずに、お手頃な商品を選んで……、ああ、前世ショップ店員のサガで拡げた服をきっちり整えちゃうぜ。試着室で着替えて外に出ると~?


「じゃーん! アリスドレス! オタクを殺す美少女の服すぎるねっ! ふっ、似合いすぎる、自分が怖い……」


 わたしが選んだ新しい防具は水色のエプロンドレスに白黒ボーダーのニーソックス、でかい黒リボンのカチューシャのセットアップ、『アリスドレス』なのだっ!

 新しい服でご機嫌のまま次に買うのはいい武器だ。服も武器もそのうち自分でもっと強いのを作れるようになるんだけど、その材料だってフィールドに取りに行かないといけないからね。そのためには買える範囲でいい武器を手に入れなくちゃ。


「マリエちゃんの武器は基本的に傘なんだよな~」


 売り場に吊り下げてある傘を手に取る。武器としての傘なので、ギミックが仕込んであるものがいろいろあった。わたしは持ち手をぐるっと捻ると先端から刃が出てくる仕込み傘を選んだ。

 服以外にも服飾系のアイテムの材料としてリボンや綿、布なども売っていたのでそれも買い込み、わたしは店を出た。


「おお、なんか身体が軽い! 新しい服着た日ってそんなもんとはいえ、気分だけじゃないぞこれ」


 お金をかけた分だけ自分を守ることになるんだな。やっぱお金だわ。頑張って増やさなきゃ。そうと決まれば今すぐでもお金に換えられるものをいっぱい作ってみるぞ! わたしはるんるんとした足取りで買い物を続け、工房兼自宅に帰るのだった……。


「おかえり、マリエ。おや、見たことのない服を着ている。とっても可愛いね。僕の気を引くために着替えたの?」

「は? 違うし。そんなこといいからブローチ返してよ」


 帰るなりワルブレヒトに出くわしてしまった……。なんでこいつはわたしに嫌われてることを全然認めないんだよ……。


「あんなのもう捨てちゃったよ。君にふさわしくないから」

「嘘なの、わかってるからね」

「どうしてそう思うの?」

「馬鹿正直に言うわけないでしょ」

「ふーん。わかった。じゃあ返してほしかったらキスしてよ」

「は?」


 玄関から工房に続く廊下に行こうとしたわたしの目の前にワルブレヒトの優美な腕がにゅっと伸びる。あっ、これ壁ドンだ。柔らかめの壁ドン! 本物初めて見た……って、内心はしゃいでいる場合ではない。


「ねえ、キスしてってば」

「やだよ」

「しないと返してあげないよ?」

「しつこっ!」


 だめだめ、ゲームの中でよわよわのチョロボディに変えられてるわたしが攻略対象とキスなんかしちゃったらそのままいうこと聞かされちゃう可能性あるんだから。わたしはその場でばっとしゃがんで横合いに飛び、壁ドンホールドから逃れることができた。


「そんなにいやなの? 傷つくなあ……」

「自分の普段の行動振り返ってね! それじゃ!」


 本気で追いかけられるとたまらないので工房までダッシュすると、わたしは鍵をかける。ふーっ、怖い怖い。わたしを狙ってる奴と同居すんのほんとに怖いよな……。

 まあそれはいい。ひとつため息をついてポシェットを逆さにすると買ったものがどさどさと作業台の上に溢れる。どこにこんなに一杯収まるんだろう。不思議なポシェットだよなあ。これだけのものを買ったのでまあまあ持ち金は減った。最初にイスマイルに借金しててよかったし、ワルブレヒトの分に食い込まないように賢く増やさなきゃ。


「とりあえず、基本のポーションと毒消しは作りためておく。そのために空腹ゲージをすぐ回復させないといけないから最初に作らなくちゃいけないのは……」


 スイーツショップでもらったレシピ集を手に取り、わたしはぶつぶつと独り言を言った。服を溶かされながらもフィールドで集めたベリー類や柑橘とスライムゼリー、買ってきたお砂糖を錬金窯に入れてスイッチポン!


「じゃーん! ジャムが出来ました!! お次は小麦粉とお砂糖と油と卵と入れてと……よし、できた。クッキー生地!!」


 そう、わたしはクッキーを作ることにしたのだ。錬金しながらお腹がすいたらぽいぽい食べるためのおやつに最適だろう。ただのバタークッキーよりもジャム付きのやつのほうが回復量もいい。さらにたくさん作れば売ることができる。これが賢いでしょう~。

 ただ、クッキーの成形はスイッチポンではできないみたい。ジャム付きクッキーのレシピを見ると材料が『焼く前のクッキー』『ジャム』になってるんだよな。ちょっとめんどいけどしばらく冷蔵庫で冷やしたような状態で出来上がってきてるし、オーブンあっためたりする必要もないし贅沢言ってられないよね。


「型とかはないからなんとか美味しそうに見えるように……、コロコロして……棒状に丸くしてからスライスして、はい、焼く前のクッキーのできあがり~」


 さらにさっき作っておいたジャムと一緒にスイッチポンで……よし、できた!


「ジャムクッキー、美味しそう! これ作っただけでもちょっと小腹すくなあ。味見しちゃお、作った人の特権ね」


 丸い生地の真ん中にジャムがキラキラしている可愛いクッキーを一個口の中に放り込む。出来立てのクッキーはちょっと柔らかい。歯で噛んで潰すとお砂糖とジャムの甘さやバターの香りが口の中に広がり、うーん、おいしっ!

 つい立て続けに三つほどぽいぽいと食べてしまってから、わたしはレシピに『クッキー』とは別に『クッキーのプレゼント』という項目があるのに気が付いた。


 「クッキーのプレゼント? あ、あーっ! そうだ、そんなのがあった!」


 クッキーのプレゼントという文字列を見た瞬間、わたしの脳裏に記憶がよみがえる。クッキーのプレゼントというのは好感度アップ用のアイテムの一つなのだ。攻略相手にあげたりNPCにあげると得するやつね。


「攻略相手にプレゼントなんかしないけど、美味しいお菓子だからイスマイルにあげたら喜びそう……」


 急にイスマイルの顔が思い浮かんで、わたしはレシピから顔をあげる。


(いやいや、いくら好感度アイテムとはいえ借金まけてもらえることなんかないから。ゲームでイスマイルにプレゼントした覚えなんかないしな。でもさ、世話になってるからお菓子の一つくらいあげたいっていうか……)


 どうしてか変な気分がした。そんな自分への違和感に蓋をして、わたしはもう一度レシピに目を落とす。

 

「えっと、さっき服と一緒に買った布とリボンがあれば作れるんだね。ていうかただ梱包してるかどうかだけじゃん……。まあいいや、見た目可愛いと高く売れるかもだし作ってみよう!」


 これもクッキーの生地とかと一緒で自分でやらないといけないやつのようだった。ショップでお客様に頼まれてアイテムをプレゼント用に包んでた時のやり方でいいだろう。わたしは工房に入り浸り、夜までクッキーのプレゼント作成にいそしんだ。

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