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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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12.まりえと井戸端会議

「……む、あなたよく見たらまりえさんではないですか。いったい何がどうなってそんなみっともない格好をしているのですか? 服は?」

「い、イスマイルこそ、なんで湖で泳いでんの? お風呂家にないの?」


 全裸のままざぶざぶと近づいてくるイスマイルを指の間から盗み見しながらわたしはちょっとまぜっかえすような言い方をした。だ、だってイスマイル美しすぎる。美術館に飾られててもおかしくないくらい均整の取れた体に水滴が流れて滴って、あわわわわ……。


「赤面するくらいならせめて後ろを向くとかしたらどうなのですか。見られていてはいつまでも水から上がれないのですが?」

「そそそそ、そうだよね、ごめぇん……」


 言われてぐるりと後ろを向いたまま、わたしは心臓のドキドキが鎮まるのを待つ。これはスライムとゴブリンの道を走ってきたからドキドキしてるの! いくらイスマイルがイケメンだからって吊り橋効果に左右されるな! わたし!


「ほら、服着たからもう振り向いてもいいですよ」

「うん、えっと……うわ」

「うわってなんですか」


 イスマイルは確かにもう裸ではなかったんだけど、超エルフでございますって感じの薄手のチュニックを一枚素肌に着ているだけで、濡れた肌にそれが貼りついてなんか裸よりセクシーになっちゃってる……!


「脱いでも凄い、着ても凄い、エルフって凄い……!」

「ブツブツ言ってないであなたも何か着なさいよ。何もないんですか?」

「スライムに溶かされちゃったぁ……」

「……っはぁーあっ」

「そんなでかいため息つかないで……ひん」


 心底呆れたといった顔をしながらイスマイルは予備の着替えを貸してくれた。イスマイルにはトップスのようだけどわたしが着るとシンプルなワンピースみたいになる。頼りない下着姿を晒さずに済むようになった安心感で、わたしはその場に座り込んでしまった。イスマイルも隣に座ってくる。


「イスマイルに会えてよかった……」

「まあ、最近よく会いますね。行動範囲が被っているから当たり前なのですが」

「うん。それでさっきの話だけど、なんで湖で泳いでたの?」

「なんでって……湖で泳ぐのに理由がいりますか?」

「まあそうか。泳ぎたかっただけだよね。ここ気持ちいいし」


 モンスターが入ってこない安全地帯で裸になってのびのび泳ぐの、確かにやりたくなるかもしれないと思った。


「私はエルフなので」

「え?」

「私はエルフなので、時々こうやって自然に親しむことをしないと体調が崩れることがあるのです。特に昨日みたいにドカ食いした次の日などは……」

「ええ? 太ったってリセットされるから気にしないみたいなこと言ってなかったっけ?」

「まあ、確かに言いましたけど、別の問題が……しまった。こんなこと別に言わなくてよかった」

「なになに? 途中でやめないでよ、気になるんだけど」

「ちっ」

「え? 舌打ち?」


 笑わないでくださいよ、と前置きしてイスマイルは結局話を続けてくれる。


「……ニキビができるんですよ」

「ぎゃはっ!!!!」

「ちょっとくらい笑うの我慢できませんか!?」

「ごめん! できなかった!! だって太るのは平気なのにニキビ気にしてんの、ひゃはっ! 面白いもん! ひーっ!」


 ノーマニー×アルケミーにはヒロインの女友達みたいなポジションのキャラがいないので、わたしはこの世界に来てからどうでもいい雑談をすることがなかった。だからか、こうやってイスマイルと話すのは友達ができたみたいで楽しいと思った。裸の男と下着の女が出くわしたのにえっちなイベントが始まらなかったこともかなりリラックスに拍車をかけていた。


「あなた、ニキビ面で過ごすことが確定している周回がそうでないターンと比べてどれだけ憂鬱かわかってないでしょう!」

「ごめんごめんわかるよ、顔のニキビ憂鬱だもんね、鼻とかにできちゃった日にはドカ鬱だよね、わかるわかるよ」

「まったく……」

「スキンケア用品作れるようになったら作ってあげるね。着替えのお礼。それでいい?」

「まあ……はい」


 ちょっとエキサイトしかけたイスマイルだったけど、わたしの提案がお気に召したようですぐにスンと落ち着いてしまう。そういえばイスマイル、ゲームの顔アイコンみたいにいつもニコニコはしてないよなー。ちゃんと怒ったり恥ずかしがったりするし。


「私の肌の話はどうでもいいんですよ。あなたは何しに来たんですか」

「え? いやあ、錬金の材料を集めようと思って初めてフィールドに出てきたんだけど、モンスターが思ったより悪質で、逃げてたら出口と逆方向に来ちゃって……」

「うん?」


 わたしの話をしばらくふんふんと聞いていたイスマイルだったが、途中からどんどん眉間に皺が寄って行く。


「ウェイストーンは持ってなかったんですか?」

「ウェイストーン……入り口まで戻るアイテムだよね。作ってなかったんだよね」

「というかその銀色の棒みたいなやつ、傘の骨ですか? 初期武器? 武器屋に行きましたか?」

「行ってない……」

「なーんのためにあなたは私に金を借りたのか! なんでその状態で採集に出ようと思ったんですか!?」

「ゲームの時はそんな苦戦しなかったから、入り口近くならこれでもなんとかなるかなーと思って……えへへ」


 はぁーあ、とイスマイルはまたクソデカため息をついた。


「あなたが一日目で私の所に来た時、今度のマリエはなんて大胆で行動力があるのかと思ったのですが……あなた大胆とかじゃない! 単にうかつで軽率なんだ! 悪いことは言わないからもっとちゃんと準備してから行動なさい。そんなことではすぐに終わってしまいますよ」

「ふえーん、ぐうの音もでない」

「とりあえず今回は王都まで送ってあげるから……。ちゃんと装備を整えて、入り口付近でスライムをなんなくあしらえるようになってから先に進みなさい。いいですね」

「はーい先生……」


 イスマイル先生はてきぱきと身支度を整えると、わたしと一緒に帰り道を歩いてくれた。スラムでごろつきにやったように、飛びかかってくるゴブリンやスライムを片手ひと振り、魔法一発で蹴散らしていく。


「私から離れないように。送ると言った手前、モンスター共に指一本触れさせませんからね」

「あ、ありがとう……」


 ねー、これさあ。もしイスマイルが攻略対象だったらこのルート行きたいよなあぁ。でもイスマイルはあくまでNPC。イスマイルエンドなんてのはない。わたしがノーマルエンドを迎えて元の世界に戻るならお別れしなくちゃいけないし、そしたらイスマイルはまた次のマリエの世界に残される。

 

(あんまり好きになり過ぎたらいけないのかもな……異性としてっていうか、友達、個人として……。本当に、本当にイスマイルはいいやつなのに)


 誰? こんな残酷な空間にわたしと彼を放り込んだのは。こんなことして何が楽しいの?

 理不尽すぎる境遇の犯人がわからないまま、その憤りのせいでイスマイルの魔法に弾かれて飛んできたスライムを傘の骨で打ち返すわたしの手にもつい力が入る。


「少し慣れてきたんじゃないですか?」

「そうかも。こうなるとちゃんとした武器欲しくなるね」

「そうこなくっちゃね」


 スライムやゴブリンが落っことしたアイテムを素早く拾う。せっかくイスマイルがついててくれるんだから取り漏らしがないようにしないと。


「次こそちゃんと準備して、一人で奥まで探索するぞ!」

「がんばりなさい」

「はあい先生!」

「なんですかさっきからその先生っていうのは……」


 入り口が近づいてきた。途中かなりピンチだったけど、イスマイルがいてくれたおかげでわたしの初めての採集はおおむね成功と言ってよい結果になった。

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