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すっからかんのマリエ☆攻略対象が絶倫しかいない乙女ゲーに転生したので抱き殺されないエンドを目指します  作者: ケロリビ堂


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10/11

10.まりえとフィールドワーク

 その夜わたしは夢を見た。セピア色に染まった画面にまだ幼さの残るワルブレヒトと子供丸出しのマリエちゃん、そして死んでしまった錬金術師のお父さんが映っている。わたしこれ知ってる。攻略対象の好感度が上がると1日の終わりに起こる過去の思い出イベントだった。


『今日からうちにワルブレヒトくんが修行のため、下宿することになる』

『げしゅく? おうちに一緒に住むってことなの? お父さま』

『そうだぞ。お兄ちゃんだと思って仲良くしなさい』

『ええ。よろしくね、マリエちゃん』

『わーっ! マリエにおにいちゃんができた! おにいちゃんおにいちゃん!』


 ああ、とわたしはため息をつく。あんなにわかりやすく拒絶しても好感度上がっちゃうんだな……。

 思い出イベント中は動けないので、ただ流れる映像を見つめるしかない。次に見えた映像はもうちょっとだけ成長したワルブレヒトとマリエちゃん。ピクニックで行った丘の上の大きな木に備え付けられているブランコにワルブレヒトが座って、その膝の上にマリエちゃんが座ってゆらゆら揺れていた。


『ワルブレヒトお兄ちゃん、マリエ、ワルブレヒトお兄ちゃんのことだーい好き』

『僕もマリエのことが大好きだよ』

『マリエがもっと大きくなって素敵なレディになったら~、きっとマリエのことをお嫁さんにしてね!』

『素敵なレディになるには、ニンジンもピーマンも好き嫌いなく食べるようにしなくっちゃ』

『え~! うーん。わかった。頑張って食べてみる!』

『よしよし、マリエはいい子だ』

『えへへ~』


 そっか。マリエちゃんとワルブレヒトってもともとこんなに仲が良かったんだ、とわたしは思った。この時はたぶんワルブレヒトにはまだ婚約者はいなかったんだろうと思う。ゲーム中に出てきた情報を繋ぎ合わせて推理すると、ワルブレヒトのうちは相当なお金持ち。多分だけど、上級貴族とパイプがあるとかそう言う感じだろう。だからよりいいおうちのお嬢さんと息子を結婚させる必要があるわけだ。ワルブレヒトはそれには逆らえないけど、愛人は持ってもいいのかな。だって正妻いるのに愛人のマリエちゃんと12人も子供もうけるとか半端じゃないでしょ。

 今のワルブレヒトはああいう感じで、妻がいるのに愛人を囲うスケベ野郎みたいな印象だけど、実際の所本心はマリエちゃんが本命なんだろうな~。婚約者と結婚することを覆せないなら愛人に本気になるとか駄目だよ~。跡目争いが泥沼になっちゃう。なんとか説き伏せて避妊してもらって12人出産を免れたとしても、うっかり男の子なんか1人産んだだけでも絶対わたし苦労するでしょ。正妻さんとバチバチしちゃったりしてさ。ごめんだけどやっぱなしだな。ワルブレヒトは。

 わたしがそう思う間にセピア色の思い出はうっすらと白くぼやけていく。朝が近いのだ。


                  *


「……うーん。さわやかな目覚めとはほど遠いな……」


 目が覚めて、身体に異常はなかった。イスマイルの薬が功を奏したのか、夕食に細工なんかされてなかったのかどっちだかわからないけどとりあえず無事のようだった。


「まあとにかく。行動を始めなきゃ。まずはなにからやろう」


 服を着替え、鏡の前に立つ。そうだ。鏡の前以外でもステータスって見られるのか? ゲームでは出先でもステータス見れてた気がするけど、脳内にポップアップが出るのはレシピを手に入れた時とかだけだし……。


「もしかして手鏡とか持ってる? あ、あった!」


 ポシェットを探ると小さくて可愛いコンパクト鏡が入っていた。開いて覗くと鏡台と同じくステータスを見ることができる。


「これってもしかしてこの鏡を見ながらだったら時間を止めたまま活動できるんじゃない?」


 もしそうだったらこの状態のままワルブレヒトの部屋を家探しできるかもしれない……。そう思って部屋を歩き回ってみたけど、鏡台のほうでは目を離しても時間が止まったままなのに、コンパクトの時は目を離すと容赦なく時間は動き出してしまうようだった。


「だめか~! そりゃそうだよね。コンパクトで自由自在に時間を止められたらチートすぎる」


 とはいえ視界が使えなくても時間止めるといい場面もあるかもしれないから、上手に使おうっと。

 わたしは初期武器の日傘を手にして部屋を出た。今日はフィールドに錬金材料の採集をしに行くつもりだったのだ。今朝はワルブレヒトに会うことはなかったが、2体のホムちゃんがティッシュ山盛りのゴミ箱2つをえっちらおっちら運んでいるのは見た。うわお、ワルブレヒト、すーごい抜くじゃん。

 もしかしたらなんかいやらしい薬が効いてへべれけになったわたしが「助けて~」って部屋に来るのをめちゃくちゃ期待してたのかもしれないな。もしくは効いてないのを不思議に思って自分で薬を舐めてみたとか? まあいいや。ほんとに解毒剤は切らさないようにしないといけない。材料を取りにいくぞー。

 そんなわけで、わたしは王都を出て森に続く草原にやってきたのだった。


 「おお~、いい天気。必要に駆られて採集に来るとかじゃなくて、ピクニックで来たいよね~」


 季節はざっくり春って感じ。あちらこちらにいろんな色の花が咲いている。実際に植生を目で見てただの雑草と材料になる植物の見分けがつくかが心配だったけど、採集の対象になる植物の周りに虹色の光がちらちらと散っているのが見えた。よしよし、これを摘めばいいんだね。

 草原の入り口あたりに生えているのはみんな基本のポーションに使う薬草ばかりだった。解毒薬の材料はもっと奥に行かないと見つからなそうだな。ちょっと先に進んでみるとキイチゴとかが生えていたからそれも摘む。これはジャムとか作ってお菓子作りに使えるね。

 るんるんとお花摘みをしていると自分が赤ずきんにでもなったような気がしてくる。実際ふわふわピンク髪の美少女だしな。その姿、おとぎ話のごとし。ああでも、赤ずきんは花摘みなんかしてないでさっさとおばあさんの家に行ったほうがいいんだったよね。寄り道してるとほら、悪い狼なんか現れたりしてさ。

 そこまで考えたところで、しゃがんで草を摘んでいた私の目の前の茂みががさがさと動いて、何かがわたしの目の前に勢いよく飛び出してきた。


「うわっ!!」


 わたしはとっさに飛びのいて距離を取る。さっきまでわたしがいたところに半透明でぷるぷるとした水まんじゅうみたいな何かがわだかまっていた。


「出たーっ!! スライム! わかりやすい雑魚モンスター!」


 予想していたことだけどなんか嬉しくなってしまう。生死がかかってなければゲームの中に入るってオタクの夢みたいなところあるからね。わたしは日傘を閉じて、身体の前で剣みたいに構えた。休日は運動のためにバッティングセンターに行くこともあったわたし。スライム一匹くらいなら簡単に打ち返すくらい朝飯前だもんね!

 ぽよんと飛んで来たら打ち返してやる。そう思ってじりじりと待ち構えていると、スライムはぷるぷると震え始めた。なんらかの予備動作だ。よーし来い、ホームラン打っちゃるからな。

 そう思っていたのに、スライムの行動は予想とは違っていた。スライムの身体の真ん中がイカとかタコの口みたいに尖って、びゅっと何か液体が射出された!?


「わーっ!!」


 わたしはとっさに日傘を開いて身体の前に突き出した。なんなのかわからない液体は傘にぶっかかり、え、うそ。傘に張ってある布が溶け始めてるんだけど……!


「さ……酸だッ!!」


 そうだった。このゲームって普段男性向けエロゲー作ってるサークルのゲーム。普通のゲームのスライムだったらまずありえない攻撃が実装されてるんだ。


「こいつ……こいつは、『服だけ溶かすスライム』ッ!!」


 やっば! 舐めてた。早く倒さなきゃ丸裸にされちゃう! わたしは骨だけになった傘をまた閉じて尖らせ、酸の追撃が届かない位置まで後ずさった。

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