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箱入り魔王♀は失恋(鬱)エンドを許さない~争わない世界で魔物は人に恋をする~  作者: たーたん
第2章 テイマーと献身的な恋

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9話 絆は匂い。一緒に嗅いでくっつくの。

 きっと私という魔王の存在に人間が対抗して造り上げたホムンクルスとか、コピーとかそういう存在だと思う。どこかの怪しい集団が私の細胞を培養してとか、そんな人間の悪だくみによって生まれた存在に違いない。


 ただ姿形はそっくりだけど私とは色が違う。私は黒髪の赤瞳だが、向こうは銀髪で金色の目をしている。私の肌は真っ白で、向こうは日焼けしたような焦げ茶色だ。銀色とのコントラストでより目立つ。私はどちらかというと闇の中にいると溶け込むように目立たなくなる。だからどうだという話だが。


「あっ、このにおい。またあの子来てるよ! 魔物のにおいだ!!」

「――!」


 私は気配を殺してフードに身を包んでいるにも関わらず毎度、こいつに見つかってしまう。こいつが出かけているときは思う存分に勇者を観察できるのだが、気づかれてしまっては出て行かざるを得ない。


「仕方ない。見ろ、あれが勇者だ。なんとも締まりのない顔だろ?」


 私はバッグに手を添えてマリアンヌに教えてやるとしぶしぶ茂みから出た。


「シルナ、そんなに警戒しなくても大丈夫」


 相変わらずのほほんとした声だ。気が抜ける。


「この子が魔物だとしても、悪い魔物の感じはしないよ」


 わ、悪い魔物だと……。私は魔物の王である魔王だ! と、名乗り出たくなる気持ちを必死に堪える。毎度まいど間の抜けたことを……勇者め。


 シルナと呼ばれたケモ耳は、猫の臨戦態勢のような姿勢を崩さない。「落ち着いて」と勇者に制されると、少しずつ放たれている殺気が収まっていくのを感じる。いくら私といえども、このまま殺気を浴び続けていたらお返しをしたくなってくる。しかしそれではマズい。戦いは私の望む始まりでも終わりでもないのだ。


「どうしたの? また迷子になったのかな?」

「あ、ちが……わ、私は迷子になどならん! た、たまたま寄っただけ、です!」


 勇者は首に掛けたタオルで汗を拭きながら私に近づいてくる。

 

「あるじさま! 近づいたらだめっ!」

「ははは。大丈夫だよ。だってシルナと同じ姿じゃないか。シルナは知らないって言うけど、本当はシルナと同じ種族かもしれないよ?」


 勇者が一歩、一歩、私に歩み寄って来る。私の体は勇者に見つめられると縛り付けられたようにその場から動くことができなかった。フードを被って姿を見せないようにはしているが、私の姿はこのケモ耳に探知されたせいで知られている。


「今お茶を淹れたところなんだ。良かったら一緒にどうかな? うちで採れたハーブティーなんだ、ほんのり甘くてすっごく美味しいんだよ」


 顔はそれといった特徴もなく、そこら辺にいる人間の男と大差ない。配下の評価では「ちょっといい」レベル。にも関わらず私は見入ってしまう。身長が高いので、近づいてくると私は上を向かなくちゃいけなかった。ずっと見てると首の後ろが痛い。


「えっと……」


 勇者が私を微笑みながら見つめている。後ろの日差しが明るくて、輪郭が光って見えた。


「そんな……あの、迷惑じゃないですか?」

「ぜんぜん迷惑なんかじゃないよ! さ、日の当たるいい場所にベンチがあるんだ」


 うわああ! 勇者と喋ってしまった!

 しかも誘いに乗ろうとしている。それに、迷惑じゃないですか、だ? 

 また敬語なんてつかってるー!! 私ー!?


 と、私はなぜか敬語になってしまうのだ。こんな姿ライトには見せられない。


「あるじさま! シルナはやだよ! この子ぜったいあやしいもん!」


 ケモ耳はとてとてと駆け寄って来て勇者の腕に体をくっつけた。


「む……! あやしいのはお前だろう!」


 私が牙を剥くと、シルナはギュッと勇者の腕に両手を回してよりくっついた。

 

「声もシルナそっくりなんだね!」


 勇者は見えない火花を散らす私とケモ耳の雰囲気に気付いているのかいないのか、のほほんとした感想を述べた。しかし気になる内容だった。


 声もそっくり? 私がこんな子供みたいな声だとでも?

 私は魔族としてとっくに成人している大人の女性の声だ!


「……」


 この種族は一体何なんだ。人間の人工物でないのなら獣人か? 獣人種は世界にいるが、ここまで人間に近い姿をしているのは私が見た限りのデータベースにも図鑑にもない。あぁ、そうだ。これはあくまで視察だ。勇者が本当に冒険を開始する気がないのか、このケモ耳は何者でどういった関係なのかを知る機会なのだ。


 私の正体はバレていない。あくまで迷い込んでしまった可愛らしい少女という設定を崩さずにいれば、知りえなかった情報だけ持って帰れるという私に得しかない状況じゃないか。


「ほらほらー! こっちだよ、おいでー!」

「……(こくっ!)」


 すでに勇者はさっきまで座っていたベンチの方に向かっていて、手招きされて呼ばれる。私は頷くと、駆け足で勇者のもとへ。決して「おいで」の言葉に尻尾を振って反応したわけではない!


 ――マリアンヌの件は消化しきれてはいなかった。今も胸の奥が痛む。それを感じないように目を背けていた。数日前の報告で、ライトが忠告してくれていた『人間界に誕生した新職業・テイマーの件』という不穏な事態も考えたくはなかった。


 人間など知るか。平和を崩さないのなら勝手にやっていればいい。


 そう、思っていた――

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