7話 恋は崩れる。私たちは人間じゃない。
「マリアンヌ。少し待っていろ」
好き放題言ってくれたなあ、栗毛。待ってろすぐにマリアンヌの前に引き戻して目の前で殺してやるからな自分がガラクタになっていく瞬間を見ながら死んでみるか? それこそお前に相応しい最後かもしれないな。別の何かに体を乗っ取られたような、冷たい感情が私の神経を支配していた。
「お、お待ちください魔王様! アルバート様は悪くありません! 悪いのは私なんです! どうか、どうかアルバート様を悪く思わないで下さい。お願いします魔王様、彼を行かせてあげてください!!」
一歩進むだけで栗毛の正面に回り込めるだろう。感情に身を委ねて考えるのを止めようと意識を手放そうとするも、マリアンヌの声に我に返った。
「あの栗毛はお前を愚弄したのだぞ。それは私に対して吐いたのと同じだ」
化け物。私たちは魔物だ。そうほざくなら、私たちから見た人間が化け物だ。それに、ガラクタだと? 人間風情が……!
「私が悪いのです……。人間になりたいだなんて、彼の理想をはき違えて、都合のいいように解釈してしまった、ただの化け物。ガラクタの妄言でした」
「違う! お前は間違ってなどいない!」
私はマリアンヌに近づいて切り裂かれて露出してしまった箇所に触れる。
「くそ、縫わなくちゃな。せっかくのドレスが台無しじゃないか。だが安心しろマリアンヌ。こう見えて私は裁縫も得意なんだ。兎のワッペンでも貼ってやる」
「本当に申し訳ございませんでした。魔王様の時間をいただいて、畏れ多くも力も貸していただいたのに、貴重な魔王様の時間を、こんな私のために……」
マリアンヌの体は氷のように冷たい。魔導核が稼働していれば脈動も感じられるのだが、反応は停止するのではと思うくらい微弱だった。
「いいんだ。マリアンヌ、考えすぎるな。あの栗毛のことは忘れろ。もっといい相手がいる。あいつはお前に釣り合うような男じゃない」
「……申し訳ございません、でした。本当に……本当に、私はばけもので、あああ、ああ……も、申し訳ございません、でした……」
マリアンヌは座り込んだまま、だらんと腕を落としたまま顔だけを天に向けた。どこからか彼女の慟哭が聞こえる。その苦しみは私の動きを封じるほど強く絡みつき、締め付け、肉に食い込んでくる。
「違う、違うぞ。お前は化け物なんかじゃない。謝るな」
マリアンヌを抱きしめた。どうしてこんなに体が冷たいんだ。
「謝るなら……」
私の方だ。と、言いかけたときだった。
「フフフフ。でも私はアルバート様が好き」
ゴリゴリとマリアンヌの頭が左右に揺れ始める。
「好きなのです愛しています。好きです好き、好きスキスキスキ」
今度は上下。ゆっくりとした動きだったが徐々に速度が上がっていく。私は咄嗟にマリアンヌの顔を両手で抑えた。手の中で激しく振動するマリアンヌを完全に止めることはできない。
「アアア、アイシテます。すきすき、スキ。あああ、アルバートサマ」
マリアンヌは自我を失っていた。いくら私が謝ったとしても、その言葉は彼女の気休めにもならない気がした。そう思うと、右目からなぜか涙が出て来た。
――来るな、化け物!!
「くっ……!」
私の脳裏にその言葉が突き刺さる。脳に刺さったはずなのに胸が痛い。痛い痛い痛い。
「魔王様!」
ライトの光が右目でぼやけて見える。
「へ、平気だ……」
私はマリアンヌから離れ、ライトから隠れるようにして目元をコートの袖で拭う。
「それよりもマリアンヌのケアをしろ。魔導核が暴走してしまうぞ。あのままでは、本当に壊れてしまう。絶対に壊すな。」
「承知しました」
私は何をやっているのだろう。
ミスリルゴーレムが、あの栗毛のことを好きだというから。凄く楽しそうに、幸せそうに私に語るから。つい、私も同じような気持ちになってしまった。正確には違うけど、一緒になって恋をしている気分を彼女と味わった。感覚を共有した。ドキドキした。その次の楽しみのことしか頭になかった。
だから拒絶されるとは――思ってもいなかった。
考えてもなかった、否定されるなんて。
私は誠心誠意マリアンヌを仕立てたし、心を込めて顔も描いた。きっと気持ちが和むだろうと思ってあの顔にしたんだ。だって笑顔はそういうものだろう?
その私たちの努力を一切見ようともしないで、一瞬だけの判断で化け物と断じるのか人間は。彼女がどんな気持ちで栗毛に会おうとしていたか。どんな決意で人間の好みに合わせるために自分の体を捨てたか。
何も、私たちの気持ちを知りもしないで……!!
――私のやり方が間違っていたとでも言うのか?
「アハハ、アルバートサマッタラ、ソンナポーズハズカシイデス」
彼女の鳴き声が空に響く。雨を呼んで欲しいと心から願った。私が描いた彼女の笑顔を消してやりたかった。でも消えやしないのだ。そういう力の込められた絵の具だ。でも。雨が降れば、自然と私の頬を流れる何かの雫は隠し通せるとそう思った。
うわごとのように呟き続けているマリアンヌの声はしとしとと丘陵を湿らせた。
アルバート様。
私はあなたのことを愛しています(´,,•ω•,,`)
いつまでもマリアンヌの言葉は陽だまりのように暖かかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
第1章 ミスリルと反射的な恋 となります。
次回から第2章 テイマーと献身的な恋 が始まります!
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それでは次話以降もよろしくお願いします!




