表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱入り魔王♀は失恋(鬱)エンドを許さない~争わない世界で魔物は人に恋をする~  作者: たーたん
第3章 最強と転生的な恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

23話 好きは煌めき。儚く戻らないもの。

 どさり、とコハクだった塊が落ちる。

 真っ赤に染まったファントムは同じように血の雨を浴びていた斧を持つと、虚ろな目で私を捉えた。


「魔王様! なにやら様子が」


 ライトは私を振り落とし前に出る。眩く光を放った瞬間、ファントムの姿が消え、音も消えた。


 ほぼ同時に金属と金属がぶつかり合う火花が飛び散った。 ファントムは、私の体より大きな刃を持つ斧を容赦なく振り落としていた。すんでの所でライトの障壁がその一撃を防ぐ。地面がひび割れて、ライトを中心に大きな窪みを生む。衝撃波は後からごうっと生まれ、大地が段階を踏んで凹み、窪み、陥没していく。


 コハクが遺した数々の氷像は粉々に砕け散った。


「ガアアアア!!」


 ファントムの咆哮に頭が押しつぶされ、鼓膜が破れそうになる。ライトは次のファントムの真横を世界ごと断裂するような一撃を防いだ後、その方向へ吹き飛ばされ私の前から姿を消した。対峙する私とファントムは一瞬だけ目が交差した。


「!!」


 考える間もない。体を捻ったファントムは、振り払った方向から戻るように横方向の一撃を低位置から放ち、私の体を切り裂こうと襲い掛かる。叩き潰すと言った方が正しいかもしれない。私は重心を左側に傾け、瞬時に右足を地面に突き刺すように伸ばして体勢を固定する。左腕に力を込めてファントムの轟刃を受け止める。


ガィィィンン!!


「(ぐっ、なんだこの力は……っ!、増幅されているのか!?)」


 私の知るファントムより遥かに速く、遥かに重い一撃だった。ファントムの刃をなんとか弾き返すが、私も大きくバランスを崩し左半身が空になった。


「や、やめろ、ファン――!」


 言い終わるより早く、ファントムは斧を弾かれた反動を利用し体を回転させた。右足の蹴りを繰り出そうとしているのが見えた。全身が防御しろと叫んでいる。視界が真っ白に染まる。私の体よりも大きいファントムの脚が迫る。速すぎる!


 左腕を構えようとしたが――動かないことに気づく。


 左腕は自制を失ってぶらりと垂れていた。あの一撃を防御しただけで骨が断たれ、ただ体にくっついているだけの状態になり下がってしまった。


「なんだ、と……、――っ!」


 蹴りを無防備に受けるだけになった私は、ライトが吹き飛ばされた反対の方向に射出されるように飛ばされる。


 岩肌に激突したことで私の勢いは緩和された。その反動で左腕は千切れてなくなっていた。即座に再生しようと力を込める。しかし——応えない。くそ、魔王城が遠すぎる。


「か、は……っ」


 ここまで痛いのは久しぶりだ。肺も圧し潰されているようで、刹那の間に見るスローモーションの中の私の血の雫は、真円を描いて水風船のように弾けた。


 悶えるようなかすれた声しか出ない。意識が飛びそうになるが、目を閉じてはいられない。壁にめり込んだままファントムを見る。状況の理解よりも追撃に備える必要がある。どうする、どうする。


 しかし、ファントムは次の一撃を繰り出すことはなく、ぴたりと動きを止め、ライトの方も私の方も見ていなかった。容易くライトを吹き飛ばした重厚な両刃の斧をおもむろに捨て、空いた口を閉じることなくコハクがあった方を見ていた。


「コ、コハク? コハク!!」


 ファントムはコハクの前で膝を崩し、震える巨椀で抱きかかえようとするも、出来ずにいるようだった。


「おい、コハク……。コハク」


 自分の体や腕が真っ赤に染まっていることに気付いたのだろう。


「ど、どうして……なぜだコハク!!」


 完全にファントムの動きが止まった。


「アアアアアア――!!」


 ファントムは峡谷を吹き飛ばすほどの唸り声を上げた。





「魔王様。あの場に隠れていたグラヴァルド兵がようやく口を割りました。魔王様が署名したあの書物は、テイムという勇者のスキルを強化するための補助的な道具だったようです」

「……」


カチャカチャ


「テイムとはやはり、魔物を意のままに操る魔法のようですね。人間と関係性を結び、対象となった魔物は妄信的に人間に従うようです」

「ファントムは?」

「コハクと共に地下におります」


 ファントムはライトによって拘束された。私たちがコハクの元へ出入りした付近に人間もライトが動きを封じていた。手に持っていたのはあの日、森林Fで私が親指を噛みきって血判した書物だった。正確にはその写しだ。


カチャカチャ


「襲ってきたというオークたちも、この複写された書物によって精神を操られた魔物だったのでしょう。魔物はそれを恋や愛だのと勘違いする。私たち魔物には薄い感情であった、新たな感情を芽生えさせることで中毒性を帯びた快楽的な余韻に浸り他のことが考えられなくなる。こんなところでしょうか」


 薄暗くまるでドラゴンでも座るんじゃないかと思うくらい大きな玉座。金の刺繍が入った赤のニットタイツを脱ぎづらかったのでライトに脱がしてもらった。


「コハクは?」

「死にました」

「…………」


カチャカチャ


「グラヴァルドに転生枠が一つ戻ったことになりますね」

「そうだな」


 さっきからマリアンヌの瞳を魔導核コアに戻そうしているがコロコロと転がるように逃げていくのでうまく嵌らない。左腕があれば押さえつけて簡単に取り付けられるのに。


カチャカチャカチャ!!


「もう一つ、重要なことが」

「ああくそ!」


 ついイライラして声が出てしまう。つい強く当たってしまったマリアンヌの瞳を見てハッとする。


「ご、ごめんっ、マリアンヌ」


 傷ついたりしていないだろうか。ぶつけた箇所を裏返したりして見ていると手が滑って落としてしまう。


「ああっ、しまった……!」

「魔王様……。今は安静にすべきですね。魔王城からのエネルギー供給で魔王様の傷も癒えます。ファントムも魔王城に籠ることで元に戻っていくでしょう」


 床に転がるマリアンヌの瞳はライトの念力でふわふわと漂い、カチャッと魔導核コアに装着される。ヴンと軽い振動で起動するがすぐに停止する。


「あの紙を処分するまでは休めない」


 私はホログラムスクリーンを起動して地図を確認する。アブの報告が入っていて、グラヴァルドは森林Fを通ってレスティア王国に進軍を開始したとのことだった。グラヴァルドの動きが計算されているのではと思うほど早い。


 聞けばハーピーのみならず、森林Fに配置している強力な魔物が次々と人間と行動しているらしい。その様子に警戒している他の魔物たちも手を出せないでいる。私が攻撃を命じないからだ。


 レスティア王国を守るために近隣諸国が援軍に入っていたり、別方向から帝国に攻撃を仕掛け気を引いたり状況は混沌としてきている。


 それとは別に、他の地域からの魔物の恋愛相談が山のように来ていた。どうでもいい内容から切実な内容まで。その感情は自発的なモノなのか誘発されたものなのか判断がつかない。どれも人間が仕組んだ罠に見えてしまう。


「……アベルはどこにいる……」


 くるくると画面を切り替えながら各地の様子を見てみるが、特定の人間を探すことは不可能だ。

 左から気配がする。ホログラムの光で照らされた緑色の触手が、玉座の横からにゅるにゅると這い出てくる。スロウが幾つもの義手を持って現れた。


「にゅるる……?」


 器用に触手一本ずつに様々な義手を持ち、どれがいいか聞いてくる。スロウの配慮に爆発しそうな頭が少しずつ冷静になっていく。


「ありがとう、スロウ。……どれもよくて今すぐには選べないな。後でじっくり考えるから、部屋に置いて来てくれるか?」

「にゅる!」


 嬉しそうにスロウは私の部屋のある玉座の裏へ消えて行った。


「魔王様。ここは私とアブ、スロウにお任せください。私たちで処分してみせます。魔王様はしっかりと体を休め万全の状態にしておかなくては」

「……だめだ!!」


 ライトの提案を私は謁見の間を貫くような大声で却下する。


「だめにきまってる! ファントムを見ただろ! お前たちまで操られてしまう! 私が一人でやる。元はと言えばこれは私が招いた結果だ。あの紙に血判なんてしなければこうはならなかった。コハクを死なせることだって、ファントムを壊してしまうこともなかった。マリアンヌを壊したのも私の好奇心のせいだ!」


 ファントムは強力な魔術によって操られ暴走した。

 術者の命令を強制的に実行させる呪いの類いかもしれない。


 だとするなら――


「けど、ファントムがコハクに抱いていた感情は紛れもなく本物だ。本物だったのに、それすら私は壊してしまった……!!」


 その魔法の正体。魔物が人間に好意を抱くようなものであったとしたら。

 この世には、操られるような偽物の恋と、そうじゃない本物の恋がある。


「魔王様……!」


 ライトが眩く光を放つ。目に痛みが走り白い世界に包まれる。スロウにもライトにも、こうやって私の身を案じるように庇ってもらっている。


 恋も愛も知らない。魔物の感情すら理解してやれてない。

 全部、私が……中途半端なばかりに。


「そうだ、ハピコはどこだ。ハピコとは連絡が取れるだろ」


 目の痛みで涙がにじむ。そのぼやけた中でホログラムスクリーンを操作してハピコを呼び出す。

 

「あの紙を燃やす。原本はアベルが持っているに違いない」

「魔王様がアベルに近づくのは危険なのです!」

「何度も言わせるな、お前らが近づく方がよっぽど危険だ! 私はお前たちがファントムのような姿になるのは見たくないんだ!」

「アベルは勇者なのです!」


 ――!?


「口を割った兵が言うにはですが。アベルも転生者でありながらグラヴァルドの指揮官になっており、魔王様よりもグラヴァルドの支配に重きを置いている将軍なのです。テイマーとなる大元のスキルをアベルは持っているはずです」


 アベルはすでに魔王様を殺す力を手にしているかもしれない。

 ライトの声が木霊になっていつまでも反響している。


『やっぴ! クロさ、じゃなくて魔王様でいいんだよね! どしたの~? ハピコに用事? くふふ。もしかしてえ~魔王様も恋、しちゃったとか~?』


 ライトの反響音は、ハピコの突き抜けるような陽気な声で掻き消された。

 アベルが勇者でテイマーのスキル持ち?

 だったらこんな好都合なことはあるか。


「ハピコ。今どこにいる。アベルはどこだ」


 アベルを殺す。

 それで世界は元通りに戻るはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ