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箱入り魔王♀は失恋(鬱)エンドを許さない~争わない世界で魔物は人に恋をする~  作者: たーたん
第3章 最強と転生的な恋

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20話 好きは共存。始まりは打算でも①

 自分の感性に従って芸術に没頭した一生だった。売れず、騙され、追い込まれ、何度も傷ついた。それでも私は木を削り、私の想像を形として残し続けた。生きていく金も力も無くなったが、意欲だけはどうしても消えなかった。


 私は本当に身を削って、ひたすらに私という生を刻み続けた。しかし、その形は誰にも見られず、ただの私が吐き出しただけの偶像だと自覚したとき、私は力尽きた。



 見知らぬ場所で目が覚めた。中世ファンタジーで見るような格好の男たちに世界の説明を受けた。グラヴァルド帝国、転生、勇者、スキル、目的。一つも理解できず、まるで夢の中で彷徨っているような浮遊感のまま、無意味な夢が終わるのを待とうと思った。


「はやく、こんなどうでもいい夢から醒めないかな」


 発する私の声が若いことに驚いた。

 鏡で私の姿を見ると、中学三年か高校一年の頃の私だった。


 私は造り上げた氷像に力を与え、自在に操ることができた。私は打ち震えていた。私の彫刻は「生」を生み出すのだと。


「私が命を生み出している……」


 神様になった気分だった。「素晴らしい」「まさに芸術だ」「稀代の天才彫刻師」、グラヴァルド内での私の高い評価に感動して涙した。初めての『賛辞』だった。


 最初の数年は閉じ込められていたが、彫刻に没頭できたし、飢えることもなく私にとっては天国のような環境だった。


「私はここで成功できる。私の成果は、人々に認められる……!」


 すんなり世界も受け入れられた。ここでは私の芸術は評価される。そしてそれは、生きるのだ。若返った自分はなんでも出来る気がした。


 グラヴァルド兵として、私の名誉と更なる高みに上るため魔物も多く殺した。私の造った氷像たちは魔王が造った物より強い。魔物の造形を模して同じものを造ったとしても。


 堂々と外を歩く自分に優越感で満ちていた。芸能人にでもなった気分だった。持てはやされた自分に酔いしれていたある日、私の氷像で小さな街を滅ぼしていたことに気付いた。魔物だと思っていて戦った相手は人間だった。


「これは水じゃなくて、血だった」


 青色で満ちていた世界が赤くなったとき、金縛りにあったみたいに急に動けなくなった。


 その日から私の評価は最初から無かったようになり、人々の見る目が変わった。様々な環境で氷像を造るように強制されるようになった。いくら氷像と言えども所詮は氷だ。熱に弱く、短時間で消えてなくなる。


 争うために作り出したんじゃない。氷像とはそういうものだ。そう弁解するも、彼らにとっては今さらだった。有頂天になった私は、喜んで何度も戦いに送り込んでいたのだから。


 周りに大量の水がないと作り出せず、大気中の水分のみで氷を生み出す技術は何度やっても失敗した。私の限界がその程度だと評価されると「C」だった。これ以上望めないことが分かると、私はここでも不要になった。


 いや、まだ『普通』だっただけでもマシだったのかもしれないけど。


 ある日、屋外に呼び出されると、見知らぬ男が私と同じ条件で氷像を生み出した。それを見せつけられた瞬間、私は殺されるのだと本能的に察した。


 転生者はサイクルする。彼らは私という枠を空けようとしている。


 必死で逃げ、手あたり次第の水を使って追手を払い川を北上していった。近くに水源があれば私は強い。追手は来るが難なく撃退できるのだが次々とやってくる。


「ここで死んだら……本当に消えてしまう。いやだ……いやだ」


 二度目の生で求められる喜びと快感を堪能してしまった私は死ぬのが恐ろしくなっていた。がむしゃらに北上し続け、雪原に覆われる魔法都市アコマを抜け、アコマクト大峡谷に辿り着いたとき、巨大な戦斧を持った熊よりも遥かに大きい獣を見た。


 向こうは私に気付いてはいないようだった。


 私はその姿を見た時、逃げることも、息をすることも忘れていた。


 その雄々しい獣の頂点のような風格。荒々しいまでの毛並み。それでいて、相反するように深い慈しみが宿る瞳。私が見てきたどの生命よりも存在感も生命力も溢れている。その姿を模して形を残したいと思うのは必然だった。


 この雪と氷に覆われる土地柄は私にとってメリットしかない。グラヴァルドの追手も弱まっていった。幸いにも私の氷像の力は、研究価値としてアコマに売ることができ、なんとか食いつなぐことはできた。


 アコマから離れた場所から更に北上し、簡素なテントで野宿する生活を続けながら、私はあの時見た獣の姿を想像しては彫り続けた。


 気づけば周りはその獣の像で溢れ、まるで私を護る騎士のように見えた。力を使えば動かすことはできたがしなかった。動き方も知らないのに、私の想像だけで動かすのは冒涜だと感じてしまったからだ。


 没頭し過ぎた私は寝食も忘れ、無我夢中で彫り続けた。彫り続けていかないと記憶から薄れてしまいそうで怖かった。


 数時間、何日と過ぎていくうち、ああこれは最初に死んだときと同じ感覚だ、とようやく自分の体調の変化に気付き手を止めた瞬間、ぷつんと私の意識も途絶えた。



 ――次に目覚める時は天国か地獄か。


 私は人も魔物も殺してしまっているから、まだ行き着く先があるのなら地の奥底で間違いないだろう。そう思って目を開けると、あの獣に抱きかかえられていた。


「ああ、動かないで。光の当たり具合が最高なんだから。まだ腕の毛並みが彫り終わってないの」


 どうせ死ぬのなら、あの気高くて恐ろしくも、美しくて逞しい獣の王を完璧に彫り上げてから死にたかった。


「――私は、あなたを待っていた。あなたしか彫ってない。私は、あなたに恋をしてしまった」


 私の口は感謝よりなにより、私の欲求を発していた。

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