12話 絆は証明。わざわざ形で残すから。
~ハピコとの会話ログ~
【ハピコ】
「彼ぴがぁ、『ハピコのこと本気で愛してるから、ハピコの魔王様に挨拶して公認の仲になりたい』って言っててぇ! マジで誠実じゃない!? だから魔王様、ちょっとだけ彼ぴに会って『娘をよろしく』的なこと言ってくれない? そしたら、もうめちゃハッピー! 魔物と人間が魔王様の許可で結ばれるなんて世紀の一大イベントじゃない!? 幸せ過ぎてガチで平和になるって!」
【魔王】
「魔王である私が行けるわけないだろ」
【ハピコ】
「じゃあじゃあ変装するのはどうかな! うーん、そうだ! ハピコの上司とか、この辺りを指揮してるリーダー的な役? 『私は魔王とも直接会話できるから、私が認めたら魔王が認めたのも同じだ!』 とか、『マントばさぁー! フハハハ!』なノリでさ! それなら彼ぴも納得するし、マジこの辺り平和になる!」
【魔王】
「お前、テイムとかいう魔法に掛かってるんだろ? 騙されてるだけなんじゃないのか?」
【ハピコ】
「テイム? あー、この婚約首輪のこと言ってる? さっすが、よく知ってるね魔王様! もしかしてえ、魔王様も首輪にキョーミあったり? へへーっ、見える? ほらほら、銀色でピカピカしててハーピー好みの宝石たくさん付いてるんだよおお!」
【魔王】
「なんだそれは? 今すぐその首輪を外せ」
【ハピコ】
「ええーっ、絶対ヤダ! 彼ぴが『ハピコのためだけの特注だから、一度はめたら絶対に外さないでね』って言われてるの! 『片時も離れたくないから』って! マジ愛重めで最高っしょ♡」
【魔王】
「少しくらいなら外したっていいだろ。これは魔王命令だ。外せ」
【ハピコ】
「やーだやーだ!】
【魔王】
「くっ、駄々っ子しおって!」
【ハピコ】
「それにね、これつけてると彼ぴの声がずっと頭の中で聞こえる気がして、超安心するの! 彼ぴったら心配性だから、ハピコがどこにいるかいつでも分かるように魔法かけてくれてるんだってぇ!」
【魔王】
「その男の目的はなんだ。お前を、その、そんな風にして何がしたいんだ」
【ハピコ】
「だからぁ、ハピコと彼ぴの永遠の愛を魔王様に認めてもらいたいんだよお! そういえば彼ぴ、ハピコたちの群れの他の子たちにも『家族の証』としてお揃いの首輪を配りたいって言っててぇ! でもハピコだけじゃ勝手に決められないから、群れを管理してる一番エラい上司の許可が欲しいんだって!」
【魔王】
「……」
【ハピコ】
「お願い魔王様! ちょっとだけでいいから挨拶しに来て! ミスリル鉱山にも行ったんでしょ! ハピコのとこにも来てよ~、ね? お願い~魔王様~~!」
【魔王】
「ああもう、わかった! 行くからそのピーピー鳴くのを止めろ! その高い声を聞き続けていると頭がおかしくなる! その馴れ馴れしい口もちゃんとしろ! 私が舐められるだろうがっ」
【ハピコ】
「やったああああ!! 魔王様マジ神! 大好き! じゃあ彼ぴにも『ハピコたちの群れを仕切ってる超エラい上司が来るよ』って伝えとく! 場所と時間はあとでメッセするから! いやこれもうハピコたちの時代くるっしょ!」
【魔王】
「聞いてないなこいつ……」
*
あの首輪を調べる。ライトもアブも私と同じ意見だった。怪しすぎる。グラヴァルドで新しく生まれた職業・テイマーの秘密がきっと隠されている。魔王城の記録を調べてもらったが似たような事例は引っかからなかった。私たちの知らない未知の魔法道具を作ったか、人間。
「しかし、ハピコは魔王様と呼んでいましたね。魔王様が主だという認識は変わってないように見えます」
「それ自体が演技かもしれんぞ。なにせギャルなハーピーなのだ。心の中でざ~ことか足を組みながらバサバサと羽ばたきながら思っているに違いない。……くっ、なんたる侮辱。た、たまらん……っ!」
「あなたの嗜好は相変わらず理解できませんねアブ。しかし、演技という指摘はありえますね。どちらにせよあのハーピーと首輪。油断しないことです」
「勿論だ。我が輩に舐めた口を利くのなら、その場で叩き切ってくれるわ。さんざん我が輩をなぶってもらった後にな!」
「いいから黙ってくれお前ら」
ライトとアブのやりとりが耳障りで仕方がない。私を呼ぶこと自体が大きな間違いだ。私が二人の関係を認めるとでも? 目の前で拒否して、その首輪を破壊してハピコの呪縛を解いてやる。
いくら寛大な私でもこれが見過ごせない。魔物を辱めるような行為は人間側に抗議しなくては。場合によっては武力を使うことも考えなくては収まりがつかないかもしれない。万が一これがきっかけで戦争でも始まったりしたら……。
私は平和を望んでいて人間もそうだと思っていた。実は私の勘違いで、人間たちの裏では私たちの支配を目論んでいた可能性が出てきた。想定したくないが、事実なら後手に回るわけにはいかない。
正直気が重い。どうしてこんなことになってしまったんだ。
「あれがグラヴァルドの拠点ですか。しかしこれは……」
木々を掻き分け、獣道を進み、時には木々をなぎ倒して私たちは到着する。視界一杯に広がる建造物。グラヴァルド特有の波の細工が壁に施され、尖塔じみた突起物の装飾が目立つ。
はずなのだが。
視界が開けた先にあったのは異様な光景だった。
本来ならば規則にうるさそうなグラヴァルドらしい、テントや小屋が整然と隊列を組むように並んでいるはずなのだが見る影もない。全ての人工物が、まるで血管のように脈打つどす黒い太い蔓によって縛り上げられていた。
そして、その中心には――周囲の針葉樹林すら飲み込むほどの、デタラメに巨大なドーム状の「塊」が鎮座していた。
「ああ……。ハーピーの巣だ」
鳥の巣、と呼ぶにはあまりにも歪で、生々しいくらいの美しさがある。拠点全体を胃袋に収めた、巨大な繭のようにも見えた。
「前に見た時の何倍も大きくなっている」
巣の上空では十数匹のハーピーたちが群れになって旋回していた。
「魔王様だ!」
「だめだめ! 魔王様って言っちゃだめ!」
「クロさま! うさ耳のクロさま!」
「あはは! かわいい! クロさまかわいい!」
真上から風を切り、土煙を巻き上げて一匹のハーピーが舞い降りた。
一際目を引く七色にデコレーションされた翼は、動くたびにジャラジャラと巻かれた金属音を立てる。長い金髪が胸元を覆い、本来ならば羽毛で包まれているはずの下半身はヒラヒラとした極端に短いスカートを穿いていた。
「クロさま! やっぴ!」
その裾から伸びる猛禽の脚は、人間の頭など一瞬で捻り潰せるほどの膂力を秘めている。だが、武器であるはずの鋭い鉤爪はピカピカに磨き上げられ、あろうことか色とりどりの花や星の飾りが貼り付けられていた。
「やっぴ! じゃないわ! な、なななんだその恰好は!」
「あーコレ? 彼ぴにデコってもらったの、めっちゃ可愛くない?」
バササっと低空飛行で私たちの周りを飛び回るハピコ。髪に隠れて時折現れる首輪の影を私は見逃さない。ハピコの首に隙間がないくらいきつく嵌められているように見えた。




