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今日も雨が降る中で  作者: 金沢俊夫 


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第四章 後悔と激励その2

                   

                1

 神崎修一は、紀子の言葉に渋い表情で答えた。

 「私は何も君を貶める目的で、最近の女性編集者の批判をしたつもりはない」

 紀子はなぜか笑顔になり、衣裳部屋のある二階へと階段を上るのだった。

 部屋に入り、ずらりと壁一面を埋めるコスチュームを眺める。家も部屋も暖かな空気に満ちていたが、毛糸のセーターに、ジーンズを身に纏った。

 「コスプレで何を着るかは、私の自由だったはずよね」

 紀子は、悪戯な笑みを浮かべた。

 紀子の姿は、光栄書店のエース編集者というより、伯父さんの家に遊びに来た姪という雰囲気を醸していた。

 「リベンジしなくちゃ」

 鏡に向かって呟くと、階段を降り書斎に戻った。

 再び現れた紀子を見て、修一は目を疑った。

 「き、君は…」言葉が出ない。

 「前回のリベンジです。どう、似合ってます?さ、神崎さん原稿進めてくださいね」

 神崎修一は、ぐうの音も出ないほど驚き、同時に篠崎紀子という女性編集者の度胸に感心した。

 (完敗だな。大した度胸だ)修一は負けを認めるのだった。



 紀子は、木製の高級ロッキングチェアーに座る。前回座ったときは、揺れにバランスを崩しかけたが、揺れが心地よく、普段出版社の回転椅子に座り慣れてる彼女には、心地よい揺れだった。

 ザー!音がする。雨が降り出したようだ。

 「雨だわ」紀子は呟くように言った。

 「雨がどうした?苦手なのか」

 修一は、パソコンに向いたまま尋ねる。

 「苦手ではありません。嫌いなだけです」

 紀子は、我知らず拗ねたような言葉になっていた。

 「似たようなものじゃないか。なぜかは聞かないでおこう。だいたい想像はつくがな」

 「何か気に障る言葉ですね」

 紀子の目は鋭くなる。

 修一は、パソコンの画面から紀子に顔を向ける。

 「気に障ったのなら謝るが、学生時代の恋愛だな。大方初デートで失敗したというところか」

 紀子は口を大きく開けそうになって手で隠す。

 「どうしてわかるんですか、せ、神崎さんには…」

 「君の倍近く生きてきてるんでね。私は」

 修一は、皮肉な笑みを浮かべる。

 紀子も負けずに皮肉な口調で言い返す。

 「神崎さんはさぞ女性を泣かせたのですね。今も私の心にずかずかと踏みこんでくるのですから」

 二人はしばらく黙して睨みあった。

 「ふん、断っておくが、私が女性と交際したのは、結婚した妻だけだ。その妻にさえ逃げられたがね」

 紀子は言葉がなかった。修一に同情を覚えながらも、結婚に失敗したという事実にうなずいてしまう。

 (先生、あなたが純粋過ぎるのですよ)

 彼女は心のうちに呟いて目を閉じて首を振った。

 紀子は、ふと腕時計を見る。午後六時だった。

 「いけない、帰社しないといけないのに、今日は原稿を受け取るだけで帰るつもりでした」

 紀子は、チェアーから飛び跳ねるようにして立ち上がった。

 ザー!!

 雨の勢いは収まるどころか増してきていた。

 「どうしよう。傘も持ってきてないし」

 紀子はおろおろと動揺していた。

 修一は、スマホで交通情報を調べる。

 「だめだね。電車も止まってる」

 修一は、素早く光栄書店の書籍編集部に電話した。二、三回のコールの後、

 「はい、こちら光栄書店書籍編集部ですが」

 機械的な女性のハスキーな声が返ってきた。

 「神崎修一だが、編集長の吉村周はいるかね」

 「は、あの…。どちらの神崎様、あ。」

 「貸せ!」吉村周の乱暴な声が、スマホの向こうでした。

 「神崎か!篠崎紀子がおまえのところに行ってるはずだが、まだ彼女はいるのか?」

 周の声には焦りと不安があった。

 「ああ、いるよ。今夜はうちに泊まらせるから、安心してくれ」

 紀子は蒼くなった。

 「困ります。なに勝手に決めてるんですか!へ、編集長。何とかして帰りますから」

 紀子は、修一のスマホに口を寄せて答えた。

 「ばかやろう!怪我でもしたらどうするんだ。それに電車も止まってる。今夜は、修一の家に泊まれ!これは業務命令だ!」

 受話器の切れる音がした。


               2                   


 「周もたまには正しいことを言うな。無理をせず泊まりなさい」

 修一の声は、優しいが有無を言わせぬ響きがあった。

 紀子は怯えた表情で、

 「どこで眠ればいいんです?」

 「二階の衣裳部屋の隣が来客用の寝室になってる。ベッドもある。そこで

 眠ればいい。衣裳部屋には、ナイトガウンもあるぞ」

 「で、でも安心できません。神崎さんがいるじゃないですか」

 神崎修一は、溜息をついた。

 「ふー、それもいい考えだな。君は魅力的だし抱き心地も良さそうだ。

 そんなに一人で寝るのが怖いなら、私といっしょに眠るかね」

 紀子は、恐怖で言葉もなく、首を振るだけだった。

 「私は、担当編集者を餌にするほど女に飢えてはいない。いいから今夜は二階で眠りなさい」

 紀子は肩を落としてうなずいた。

 「わかりました」


               

 



 



 

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