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のっとり魔王の冒険譚  作者: 阿井川シャワイエ


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第31話 魔族反乱(1)

 浮遊島。それは言うまでもなく魔族の本拠地である。


(レイリのヤツ、気が逸ったのか? なぜこんなタイミングで来るんだ……)


 当然リオンとしてもいずれはレイリ達を招こうとは思っていたが、それにしても異常に早い。

 手順をきちんと踏まなければ襲撃と勘違いされることくらい、彼らも分かっていたはずだ。

 

(くそっ、嫌な予感がする)

 

「浮遊島が? それはいったいどういうことだろうか」


 冷や汗をたらりと流すリオンを見つめ、穏やかな口調で問いかけてくる国王。

 さすがに場慣れしているようで慌てた様子は無いが、先ほどまでとは違いその視線には疑いの感情が露骨に含まれていた。

 

「ダルルグの街に向かうという話は聞いていましたが、こちらに来るとは何も……」

 

 リオンは動揺を抑えつつ答えるが、結局は不安を拭うことができなかった。


「失礼、実際に確認させてください」

 

 そう断りを入れてから、兵士の脇をすり抜け外に出た。

 

 外の兵士たちは、配置こそ乱していなかったが、チラチラと視線が東の空に向かっている。

 リオンも同様に東の空を眺め――唖然とした。


 そこには兵士の報告の通り、浮遊島が浮かんでいる。

 

 王宮から数キロメートルは離れているだろうか。

 浮遊島のサイズと移動スピードを考えれば、もはや間近と言っていい。

 

 じわじわと、だが確実にこちらに迫ってくる巨大な浮き島。

 その異様な光景にリオンはぞわっと総毛だつ。


「ふむ……」


 続いて出てきた国王もその光景に眉をひそめていたが、周囲の兵士たちが動揺していることに気付いたのだろう、声を張り上げた。


「案ずるな、こちらには防御シールドがある! 魔族といえど、近寄ることさえできん。各々、持ち場を離れることなく――」

 

 皆を鼓舞するように、国王が告げる途中で。


『10、9――』

 

「……!?」


 突如、頭の中で少女の声が響いた。

 一瞬ベルに呼び掛けられたかと思ったが、明らかに彼女の声ではない。


「こ、この声は一体……?」


 リーリアや国王たちも、驚愕の表情で周囲を見回しているが。


『8、7――』


(これは……)

 

 頭の中で減っていく数字に、くらりとめまいがした。

 誰の声かは分からないが、狙いは分かった。分かってしまった。

 それはかつてリオン自身が使った必殺の技。


(――デスカウント!)


「全員耳を塞げ!」


 鋭く叫ぶリオン。


 リーリア達の反応は機敏で、即座に彼の指示に従う。

 だが重臣たちの大半は何が起きているのか分からないようで、耳を塞ぎもせずに呆然と立ち尽くしている。


『6、5――』

 

 カウントダウンは平然と進んでいく――耳を塞いでいるにもかかわらずそれが認識できることにリオンは慄然とした。

 

(くそっ、ダメだ! テレパシーだから耳を塞いでも意味がないのか……!)

 

 自身の迂闊さを呪う――その瞬間、呪文が脳裏に浮かんだ。


(ベルのサポートか!)

 

 すかさずそれを読み取り、リオンは叫んだ。

 

「暴風よ、狂乱を呼べ!」


 王宮の庭を襲う強烈な風に身体ごと吹き飛ばされそうになりながら、狙い通り脳裏に響く声はかき消される。

 もっとも極めて物理的な形での対処であり、これで聞こえていないという判定になるのかは疑問ではあったが……。


 なんにせよ風は短時間でおさまり、カウントダウンが再び耳に届く。


『――ゼロ』

 

 カウントダウンが終わって――。

 けれど、その場に倒れる者はいない。


(よし、何とか切り抜けた!)


 そう思った次の瞬間、頭上でパリンという音がした。

 

 クロウが空を見上げ叫ぶ。

 

「シールドが剥がされたぞ!」


 ギョッと宰相殿が目を剥いた。


「バカな!? あれは巫女姫も含めた複数の術者による、多重魔法だぞ!」


「王宮に詰めていた魔法使いが、全滅したとでもいうのか!?」


(くそっ、本命はそっちか!)


 重臣たちが焦りの表情を浮かべるのを見つめつつ、リオンは思わず歯噛みした。

 デスカウントダウンはリオンたちではなく、王宮の魔法使いたちの殺害が目的だったのだ。

 

 すべては魔族の侵入を防ぎ王都を守る、防御シールドを破壊するため。

 当然この後は浮遊島に控えている魔族たちが全面攻勢をかけてくるのだろう。その中に魔王がいることはもはや疑う余地が無い。

 

 重臣たちに連れられ王宮へと避難していく国王たちを見つつ、リオンは大慌てでベルにテレパシーを送る。

 

『ベル! シールドを張りなおすことはできるか!?』


『もう張りなおしました!』


『マジかよ早えな!』


 慌てて空を見上げると、いつのまにか近寄ってきていた魔族たちが、シールドにはじき返される姿が見えた。

 本当に今の一瞬で対応してしまったらしい。


『でも、これは急ごしらえなんで、弱い魔族にしか効果が無いです! 強いやつは普通に入ってきますよ!』


『つまり魔王の侵入は防げないというわけか。いや、ザコが来ないだけでも充分だ。それより、死んだ連中を生き返らせたい。うまくいけばシールドを正式に張りなおせるはずだ』


『それは直接魂を押し込まないと無理です。……わたしが行ってきます!』


『ベルが?』


『はい、今のわたしでも魂を肉体に戻すくらいはできますし、死神への対応も慣れてますから。その代わりリオンさんは魔王への対処をお願いします! そっちはわたしにできないんで!』

 

 躊躇はあったが、黒いモヤが王宮に降りて行くのが見えた。

 もはや考える余裕すらないらしい。

 

『……分かった。だがお前だって安全じゃないんだ。気をつけろよ』


『リオンさんもお気をつけて!』


 王宮へと向かう半透明のベルを見送る。

 と。

 

「――空から炎の塊がきます! 五天魔です!」


 背後で響く、ユナの鋭い叫び。

 慌てて天を振り仰ぐと、燃え上がるような炎を全身にまとった男が上空から突っ込んでくるのが見えた。


「おらああああ!」


「……ガウシバ!?」


 彼はベルが張ったシールドを苦も無く突破すると、他の連中には目もくれずまっすぐリオン目掛けて突っ込んでくる。


 その瞳は濁っているように見えた。

 

(こいつ、正気を失ってる!?)

 

 状況が理解できないものの、リオンは咄嗟に両手を掲げた。


「闇より生まれし暗黒の(つるぎ)よ! 望むがままに命を喰らえ!」

 

 それは唯一覚えていた、必殺の呪文。


 ガウシバの燃える拳がリオンの身体に打ち込まれる寸前に。

 リオンが打ち出した暗黒剣がガウシバの身体に深々と突き刺さっていた。


「ぐ、うう……」

 

 動きが止まったガウシバは生命エネルギーを吸い取られ、力なく落下する。

 リオンは仮死状態で地面に伏したその巨体を呆然と見つめた。

 

「……なんでこいつが襲い掛かってくるんだ。魔王が復活したからって、素直に従うタイプじゃないだろ。まさか……洗脳?」

 

 つぶやくと同時、脳裏に閃く言葉があった。


 それはかつて【銀河の書庫】において、夢うつつに聞いた、【センパイ】の言葉。

 

 ――視認モードじゃない貴方の姿が見えるというだけで異常なのに、強制誘導まで無視できるなんて。


 そのときは理解できずに聞き流してしまったが。

 

(……もしかして、導き手には相手を無理やり従わせる力があるのか? だとしたら、まずい……。五天魔全員が敵に回った可能性がある。さすがに強力すぎる魔法だし、発動条件が厳しいことを願いたいが……)


「リオンさん!」

 

「……!?」


 リーリアの切羽詰まった声が聞こえると同時、背後にぞわりとした気配が漂った。

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