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のっとり魔王の冒険譚  作者: 阿井川シャワイエ


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第28話 召喚魔法(2)

「そもそもなぜ妹御の身柄を王都から奪った。脅迫目的だろ?」

 

「先ほども言ったが、それは先代の魔王がやったことだ。私に聞かれても答えようがないよ。ああそうだ、それに関連して君にも伝えておかないといけないことがある」


 クロウの言葉は低く沈んでいるが、リオンはあくまでも穏やかに想いを伝える。


「邪悪な魔王は、今も魂という形でこの世界をうろついている可能性が高い。君たちとも協力して、()の者の悪しき野望を打ち払わねばならん。だからこそ、王都に向かいたいんだ。いろいろと思うところはあるだろうが、同行してもらえないだろうか。そしてゆっくりでもいいから、私が平和的な生き物だと分かってもらいたい」


「……」


 こちらを見るクロウの顔に。

 ――怒りが満ちた。

 

「そうやって俺を騙し、王都に侵入する足掛かりにしようというわけだ。ふん、これ以上の言葉は不要のようだな」


「いやいやいやいや!」


 慌てて首をぶんぶん振るリオン。

 比較的うまく説得できていると思っていたが、言い逃れに聞こえたらしい。

 紳士の仮面を剥ぎ棄て、全力で善良性をアピールする。


「まだ言葉は必要だろ、思い切りよすぎだって! ほら見て! 俺たちのこの幸せそうな感じ! 悪い魔王には出せんだろ、このハッピーな雰囲気は!」


 リーリアとユナの肩を抱き寄せ、二カッと笑顔を作る。

 だが、馬鹿にされたとでも思ったかクロウのこめかみがぴくぴくと震えていた。


 そして。

 

「かあっ!」


 クロウは謎の雄たけびを上げながら切りかかってきた。


 ――ところをリーリアのロングソードが真っ正面から受け止める。

 火花が飛び散る中、クロウはニヤリと笑った。

 

「ふんっ、魔王に屈した今でも、剣の腕は落ちていないか。だが――」


 呼吸が変わった。

 クロウは大剣の柄を両手で力強く握りしめると、勢いよく横薙ぎに振るう。

 それはロングソードの刃を削ることが目的としか思えない異常な動きで。


 ――ギイィィン!


「……!?」

 

 刃と刃がこすれ合う妙に甲高い金属音が、いつまでも耳の奥に反響していく。

 

『これです! 特殊な音で脳機能に異常を与え、詠唱を妨害する技!』

 

 脳裏に響くベルの声に、リオンはハッとした。

 

「…………」


 顔を歪めながらもクロウに対し攻撃を仕掛けていくリーリアに言葉を伝えようと思ったが、声にならない。


『なるほど、声が出せないっていうのはマジみたいだな』


『どうします、リオンさん! さっそく攻撃魔法でやっちゃいますか!?』


『いや――ここは召喚魔法を使ってみよう。さっきユナを復活させたことを聞いたときのこいつの反応が、妙だった。恐らく大切な人を、聖王国と共に失ったんだと思う。こいつにとって大切な存在を呼び出して、説得するんだ』


『なるほど! 説得という名の脅しをかけるんですね!』


『……まあそうだな』


 渋々ではあるが、認める。


 あまりにも時間が経過しているため、ユナのように肉体を復活させることは難しいかもしれないが、それでも呼び出した魂に仮初の身体を与えるくらいのことはできるだろう。

 その場合、クロウが味方になってくれる可能性は極めて高いが……はっきりいって脅しに近いやりくちではある。

 

 と、身体の中に力の奔流を感じた。

 召喚魔法のためにベルが魔力を集めているのだろう。

 

 直後、彼女の叫びが脳裏に響く。


『【(ルル・ファクト)よ、その記憶を呼び起こし、絶対なる時の支配者に不可避の一撃を与えたまえ!】』

 

(ん? 無詠唱とか言ってたわりに、呪文は唱えるんだな……)


 そんなことを思いつつ、クロウの反応を見守る。

 

「な、なんだ?」


 なにかを察したのだろうか、彼は大剣を構えたまま動揺していた。

 どうやら本人は封魔の渦中にあっても声を出せるらしい。


 リーリアから距離を取り困惑の表情を浮かべるクロウに、リオンは自信たっぷりにつぶやく。

 

『貴様の大切なものに会わせてやる』


 その言葉は魔法でかき消されたはずだが、読唇術でも使えるのかクロウの表情がハッと変わり。

 

 そして――周囲一帯に黒い影がさした。


(ん?)


 恐ろしいほどの圧迫感にリオンは恐る恐る上空を見上げ、予想外の光景に口をあんぐりと開けた。


 遥か頭上に浮かんでいたのは、空を覆いつくさんばかりの超巨大物体。

 土と木の根っこらしきものが見えたことから一瞬浮遊島を連想したが、それとは比較にならないほどでかい。

 

 クロウも頭上を見上げ、驚愕の叫びを上げている。

 

「あれは一体何だ!」


『いや俺も知りませんけど!?』

 

 それは魔法でかき消された、声にならない叫び。


『まじでなんだこれ! 土と根っこしか見えねえ! おまえの大切なものってなんだよ! 土で作った宇宙船かなにかか!?』

 

『わたしちょっと、あれがなにか見てきます!』

 

『お、おい! ――ぐっ!?』 

 

 リオンの返事も聞かず、魂状態のベルが上空へと舞い上がっていく。

 それを止めようとするリオンだったが、押しつぶされそうなほどの重みが全身にかかり、身動きが取れなくなってしまった。

 どうやら頭上の飛行物体を、リオンひとりで受け止める形になったらしい。

 

 そして姿を消したベルと入れ違うように、上空から落下物。

 それはこぶし大の粘性のある土で、クロウの足元にぽとりと落ちた。

 

 彼はこちらを警戒することさえ忘れたような怪訝な表情でその物体を手に取ると、まじまじと観察。

 呆然とつぶやく。

 

「この特徴的な黒土と砂利石が織りなす、ミルフィーユのような美しき地層……」

 

 そしてハッとした様子で頭上を見上げた。

 

「まさか! 跡形もなく消滅したはずの聖王国を召喚したというのか!?」


『なんで土を見ただけでそんなこと分かんの!? おまえ地質学者かよ!』


 リオンの叫ぶ声はやはり魔法でかき消され、男の耳には届かない。


『ぐっ!』

 

 それどころか全身に掛かる重さはだんだんと増えていき、もはや耐えがたいほどの負担だ。


 歯を食いしばり懸命に踏ん張っていたが、クロウはそんなリオンをキッと睨みつける。

 

「どこまでも性根が腐った奴め! 俺たちを……聖王国で必死に生きた人々を侮辱するのか!」


「!」


 クロウが勢いよく地面を蹴り、猛烈なスピードで迫ってくる。

 身動きが取れないリオンは、彼の攻撃を身体で受け止めるほかなかった。


 覚悟を決めるリオン……だかそこに突風のような勢いでリーリアが突っ込んできた。

 

 ――キイン!


 クロウが放つ怒り任せの鋭い薙ぎ払いを、リーリアは危なげなく弾き返す。

 

 クロウはその場から飛び退りながらも、彼の瞳はリオンだけを見ていた。

 

「魔王! なんとか言ったらどうだ!」


『お前の魔法で何も言えねえんだよ! さっさと解けよ! あと重すぎ!』


 歯を食いしばり心の中で叫んでいると、ベルがふらふらと戻ってきた。


『リオンさーん! このでっかい島、聖王国でした!』


『やっぱ聖王国かよ!』


『ちょっと様子を見てきたんですけど、みんな慌ててましたよ』


『そりゃそうよ! 急に地面ごと召喚されて空に浮いてるんだもん、そりゃそうよ!』


 全力で叫ぶと、ベルはしょんぼりした。


『国王様なんて泡吹いて倒れてましたし、王妃様はその傍らでしくしく泣いてました。天国でようやく落ち着いて暮らせると思ったのにって』


『なんか申し訳ねえ! よろしく伝えておいてほしい!』

 

『わかりました、魔王がよろしくと言っていたと伝えてきます』


『待って待ってやっぱやめて!』

 

 身をひるがえそうとする彼女を、リオンは慌てて呼び止める。


『このタイミングだと、犯行声明にしか聞こえないから! 魔王死すべしってみんな思っちゃうから!』


 ベルはふよふよと浮いたままこちらを振り返り、首を傾げた。


『でも実際に犯行しましたよね? 天国から無理やり召喚したじゃないですか』


『しましたけども!』


 ウソもつけずに答えると、彼女はこくんと頷いた。


『じゃあよろしく伝えてきます』


『ノオオオオオオオ! というかせめてこっちを手伝ってくれえええええ!』

 

 悲痛な叫びも気楽そうに飛んでいくベルには届くことは無く。


『くっそお、どうやったらこの聖王国は消せるんだよお!』 


 クロウとリーリアの戦闘が眼前で続くなか、どうにかこの状況を脱しようと喚いていると。


(ん? 重みが……急に減った?)


 ふと視線を下げると、ユナがすぐそばに来てリオンのローブをギュッと握っていた。


 どうやら支えるのを手伝ってくれているらしい。

 

「……」

 

 こちらを見上げるユナのまっすぐな瞳。

 魔法のせいで、言葉は通じないが、それでも気持ちは伝わってきた。


『ユナ、ありがとう!』


 そんな思いを込めて、ユナに頷きを返す。

 ユナは少し照れたように、親指を立ててきた。

 「当然のことをしたまでです」とでも言いたいのだろう。


(ユナのおかげでまだ耐えられそうだ! だが……)

 

 クロウとリーリアの激しい戦闘はいまだに続いていた。


「おらあっ!」


 クロウは強く踏み込みながら、大剣を勢いよく振り下ろし――。

 リーリアは華麗なステップでそれをかわすと、すれ違いざまクロウの胴に柄を勢いよく叩き込む。


「ぐっ!?」


 うめきつつ、距離を取るクロウ。

 はっきりいって力の差は歴然だった。


 決着がついていないのは、リーリアに止めを刺す気が無いからだ。

 その程度のことに、かつて騎士団長を務めたというクロウが気付かないはずもない。

 彼は苦笑すると、戦意を失ったように大剣をだらりとぶら下げた。


「……さすがは【勇者】だ。剣の腕も王都を出た頃とは比較にならないほど成長している。――くすぶり続けた俺とは比べ物にならんな」


 その言葉には率直な感嘆の響きがあった。


「……」


 リーリアも魔法の影響で言葉が出せない様だが、それでもその瞳を見れば言いたいことは伝わってくる。

 これ以上の戦いはやめましょう。そう言いたいのだ。

 

 クロウはそんなリーリアを見つめ、口元を歪めている。


「分かってる。こんなのただの八つ当たりだ。リーリア姫。あんたに伝えなきゃならんことがある。今までずっと言えなかったことだ」


 そしてわずかに肩を振るわせ。


「俺は……罪を犯したんだ。どうしようもない大罪を」


「……?」


「聖王国が魔王によって滅ぼされたあの忌まわしき日。魔族たちの襲撃を受ける中で、俺は陛下直々にこの世界の未来を託されていた。リーリア姫とユナ姫を()()()()()グランリュート王国の王都まで送り届けるようにとな」


「!?」


 リーリアがハッと表情を強張らせた。

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