第56話 後始末は大変だぁ。
Side:結依
スライムに逃げられる実依を眺めながら探索に勤しんだ私と姉さん。
実依のお陰か比較的簡単に迷宮最深部に到着する事が叶った。
しかも!
「今度はボスが撤退したしぃ!」
「「迷宮神、パねぇ!」」
出現したはずのボスが実依を見るなり怯えを示し、本来ならば倒さないと現れないドロップ品を献上して消えていったのだ。
「私も戦いたいよぉ!」
「滲み出る迷宮神の権能が悪さしたかな?」
「多分、そうだと思う」
そう思えるくらい魔物達から怯えられる存在。
迷宮管理を担う女神様だと改めて認識したよ。
「しくしく」
「まぁ地下神殿に入れるみたいだし」
「少し覗いてみない?」
「うん」
私達はかつて夏音姉さんが入ったであろう地下神殿へと入っていく。
そこには迷宮核が置かれていて奥に姪っ子の裸婦像が鎮座していた。
そこに近づいて、わざわざスマホを取り出して撮影する姉さん。
そんな真下から撮らなくても。
「こうやって見ると姪っ子って」
「エロい身体付きだよね」
「まさにエロフかな? 吸血鬼だけど」
「中身はエロフだから間違ってないよ」
「そうそう。中身はエロフだしね」
「権能的に吸血鬼なだけだったね」
「ん?」
その最中、裸婦像がピクリと動いた気配がした。
気配というか、私の視線の先で目が開いた的な不可解な動きを示した。
姉さんが近くに居るから避けたい的な挙動。
「どうかしたの? 結依ちゃん」
「いや、裸婦像の目が開いたような」
「目が開いた? 石像だよ? これ」
「そうだよね。石像だから開くなんて有り得ないよね」
私の見間違いかな?
だが、疲れ目になるような夜遊びはしていないはずだけど?
精々、若結の裸を覗き見たくらい⦅何処を見てるの!⦆おっぱい。
姉さんが裏に回った途端、
「「あっ!」」
石像が動いた。
どう動いたかと言えば身体を倒したのだ。それも斜め四十五度に。
姉さんが離れた途端に垂直に戻れば何かが憑いているって分かるよ。
「ねえ? 実依」
「うん。結依ちゃん」
私と実依は目配せし撮影に夢中になっている姉さんが離れる瞬間、
「「確保!」」
石像そのものを空間隔離で閉じ込めた。
この石像は魔力経路の要石でもあるのだが気にしていられなかった。
それくらい違和感が仕事をしていたからね。
「あれ? どうかしたの?」
「姉さん。気づいていないの?」
「何が?」
「この石像、何か憑いているよ」
「何か憑いている? ん? あっ」
姉さんもようやく気づいたらしい。
姪っ子の裸婦像が可愛いからって撮影に夢中になるの、姉さんと父さんが同一に見えたよ。これも親子だから仕方ない話だけどね。
「そうきたかぁ。これは調査が必要だよ」
「姉さん。何が憑いていたか分かったの?」
「邪神の眷属」
「「ふぁ?」」
えっと、中心核で滅したはずだよね?
何故それが、石像の中に入っているの?
「これは深愛達に追加報告だね」
すると姉さんはスマホをカメラモードからメッセージモードに切り替えて管理神器経由で報告文を打ち始めた。
「追加報告って?」
「迷宮に潜っている事を伝えてる。実依の実況を含むけど」
「姉さん? 今すぐお尻預かって花瓶にしていい?」
「ごめんて!」
実依が困惑している姿とか珍しいもんね。
それを妹達へと伝えたいのは分かるかも。
でもさ、それを本人に伝えたらダメだと思うな。
姉さんは報告文を打ちつつ撮影した写真を改めて眺めていく。
そこで不意に違和感の感じた写真を抜き出して拡大して頬を引き攣らせた。
「あらら。これはなんていうか」
「姉さん。何が写っていたの?」
「えっとね。反応に困る代物だった」
「「代物?」」
私と実依は姉さんのスマホを覗き込み呆気にとられてしまった。
(これは反応に困るね)
裸婦像であろうが場所が場所だから女の子として気分の良いものではなかった。
「邪神の眷属って変態?」
「ド変態かもしれないね」
「こうやって見るとキモいね」
「「キモい!」」
それが率直な感想だ。
その後の私と実依は裸婦像の空間隔離を解除した。
魔力経路に問題が発生すると困るから。
すると姉さんが熊手のような道具を創り石像にあてがった。
「今から徹底洗浄するね」
直後、膨大な量の神聖力が熊手から石像へと流れ込む。
「徹底洗浄って邪神の眷属が汚物みたいな扱いよね。汚物そのものなんだけど」
「汚物は洗浄だぁって言わないだけマシかな」
「いつもの姉さんなら言うもんね?」
「私だって時と場合くらい考えるよ」
「「え? そうなの?」」
「そうなの! 失礼しちゃうなぁ」
姉さんは注ぎ込みながら利き手でメッセージを打っていく。
それは深愛達への調査と隔離の指示でもあった。
すると夏音姉さんからも連絡が入り、
「良くやったって。隔離した餌は妹に与えていいとか言ってるよ」
「「餌って」」
姉さんは深愛へと追加の指示を飛ばした。
邪神を食えるのはあの姉妹と姪っ子と兄さんだけなんだよね。
実際に美味しいのかな? 美味しいとか聞いた事あるけど。
「実依でも邪神は食べたい?」
「ド変態を食べたいとは思えないよ」
「だよね」
「仮に食べるなら食材に作り替えてからかな」
「あらら。結局は食べるんだね」
「ド変態のままだとキモいじゃん」
「確かに」
その間も姉さんの神聖力は惑星の魔力経路に浸透していく。
すると各所から邪神の眷属の悲鳴のような声が響いてきた。
それは魔力経路を通じて聞こえてきた眷属共の断末魔だ。
「姉さんの力は邪神にとっての毒だもんね」
「私の力もある意味で毒なんだけどね?」
「闇だから邪神の力になるかと思えば」
「逆に取り込んで消滅させてしまうもの」
対邪神戦では姉さんと私。
深愛と由良の神力が邪神を滅するのに丁度よい力だったりする。
⦅……⦆
ん? 夏音姉さんが沈黙した?
食えないけど消すくらいなら出来るからね。
もったいないとか思って⦅それが?⦆やっぱり。
「私達が直接相対する事が無い事を願うよ」
「結依ちゃん。それ、フラグだよ」
「あっ」
丁度、管理室でも深愛が建てたし、二重の意味でフラグになったか。
「やっちまった感がするよ」
「「これは仕方ない」」
その後の姉さんは要石から裸婦像を取っ払い新しい石像を据えていった。
それは僧衣を着た姪っ子の石像だった。裸はダメってことだね。
「古い石像は魔力還元で処分してっと」
「空間も浄めたからしばらくは大丈夫かな?」
「深愛と結依の立てたフラグを回収するまで維持出来れば万々歳かな」
「……」
それを言われたら気まずいったらないね。
「さっさと回収が出来るといいよね」
「「ほんそれ」」
地下神殿をあとにした私と姉さん達は迷宮内を進み地上を目指した。
だが、途中で不可解な大扉がある事に気づく。何だ、これ?
「あれ? こんな扉あった?」
「無かったと思うけど……仁菜に聞いてみようか?」
「それがいいかもね。ここで何かしらの干渉を受けていたら破壊しないとだし」
実は不必要な代物がある場合、迷宮神自らが破壊しないといけないのだ。
自動生成の迷宮って時々不要品が出来てしまうからね。
不意に繋がった扉の先が保管庫。魔物の住処的な話も聞いたりするし。
「それで仁菜はなんて?」
「上からは確認が出来ないみたい」
そんな大扉はありませんよって?
「ふぁ? そんな事ってあるの?」
「無いと思うよ。あるとすれば」
「「すれば?」」
「眷属の置き土産的な?」
「「あー」」
それならあり得るかもね。
要石の近くには迷宮核がある。
権限がなくとも弄るくらいはするだろう。
強引に脆弱性を突いて弄るくらいはね。
私達は意を決し大扉に触れてみた。
すると大扉は一瞬で消え去って、私達の目前に大空間が拡がっていた。
「一種の転移門かな?」
「そうかもしれないね」
「地点情報は分かる?」
「えっとねぇ。ここは洋上にある小島だね」
「大陸の中心部から小島に飛ぶ?」
「私達を封じるつもりで用意したのかもね」
「分割体のつもりで?」
「「つもりで」」
邪神の眷属は何を考えているのやら?
私達が大空間で周囲を探索していると、
「あ、魔物が出てきたよ」
「へぇ。人形型か珍しいね」
「少々、エロい見た目だね」
中央付近より素っ裸の人形が出てきた。
その人形は⦅あっ⦆夏音姉さんが反応した?
もしかすると関係があるのかもね、きっと。
「よく見ると邪神の眷属が入り込んでいるね」
「ここでもかぁ。これは複数の魂魄が混じっているし、私が滅していい?」
「それがいいかもね。浄めるだけだと滅する事は出来ないから」
「私もボスと戦いたいけど」
「絶賛、怯えられているよ?」
「悲しいな。せめて魔法くらいは当てたいよ」
「なら実依が関節を取っ払ったらいいんじゃないの?」
「いいの? 私がやって?」
「いいでしょ。さっさと片付けたいし」
「おっけぇ! 覚悟してね!」
元気になった実依は地面に杖を突き、神力を迷宮に注ぎこむ。
迷宮神が迷宮を直接操り始めると、地面からツタが伸びてきて人形の腕や脚を引きちぎっていく。
「!!?!!?」
「断末魔すら発する事が出来ないか」
「迷宮神が相手だと発音制限を喰らうもの」
そういえばそうだったね。
迷宮神が潜ることなんて稀だから。
引きちぎられた手足は魔力還元を引き起こし迷宮の糧となった。
残った身体は魔力的な力で宙に浮いていた。
それを視認した私は間髪入れず闇属性の神力を最大放出し、
「後は時間との勝負って事で」
人形の身体を覆った⦅凄まじいわね⦆紫の霧にも見えるよね。
「倒した魔物はどうする?」
「中身の魂魄を完全統合して人形として宿らせるかな?」
「邪神の眷属が宿れないように隙間なくね」
「もちのろん!」
すると複数個の魂魄だけが放出された。
無事に邪神の眷属は消え失せたね。
実依は迷宮から伸ばしたツタを操って魂魄を纏めあげ魂魄の性質から女性型の人形を作って宿らせた⦅調が勝ったのね⦆ん?
私はその人形の顔に見覚えがあった。
「なんだろう? 何処かで見た顔だけど」
「私も思った。誰だっけ?」
実依が首を傾げつつ人形に近づきお尻の形から正体に気づいた。
「このお尻? あ、残念バカップルの片割れ!」
「「残念バカップルの片割れ?」」
それって、確か? あの?




