第55話 フラグを建てた。
Side:深愛
私の怒りから急遽自壊させた第零浮遊大陸。
その余波は地上を管理する姉達にも及んだ。
『帝国領が海水塗れにぃ!』
『小国の島々が水没したぁ!』
『洋上国が崩壊したぁ!』
『南極はさざ波程度ね』
『そこは対極だからね』
第零が北極に落ちたはいいが周辺海域では余波を受け甚大な被害が出てしまった。
「女神の力を示すには丁度良い案件だったけど」
「流石に地上から召喚するとか想定外ですって」
今回は地上に出向いていた実菜達が不運にも召喚陣に巻き込まれてしまい、結依姉さんも知らない管理者不要の陣の存在が明らかになった。
まさか管理外の術陣を第零の魔導士長が開発しようとは思いも寄らないだろう。
一体、どのようにして、そのような奇抜な発想に辿り着いたのか、頭を割って検証したくなった程である。あれも結局は管理神器の拡張枠を利用された結果らしい。
実菜が穴を放置して⦅異常無しだよ⦆何かしらの原因がありそうだ。
「割を食ったのは浮遊大陸だけか」
「元々崩壊間近でもありましたし、速いか遅いかの違いでしょうけどね。資源が取り尽くされて余所の国を奪おうと動いていましたし」
自壊後はもしもの備えで用意していた予備大陸を投入した。
これは新しい管理神器になってから思いつくままあれこれ追加した新大陸だ。
「あれは新零とでも呼称するけど、資源は以前より数十倍多くしてあるから既存の種族が喜ぶわよね? そうじゃないと創った意味が無いし」
「喜ばない者達は居ないでしょう。ただ、国家としての体裁が無いのでしばらくは内乱が起きるかもしれませんが」
「奪い合いね。分け合おうという気概を持つ種族は居ないのかしら?」
現在把握出来ているのはドワーフ達が穴掘りに邁進している事。
新大陸という事で新零以下に住まう人族国家が覇権狙いで押し寄せている事ね。
「流石にそれは無理では?」
「そうよね。困った話だわ」
「それこそ奪い合いを行うなら第零と同じ目に遭わせると脅しますか?」
「流石に大義名分が無さ過ぎるわ。今回は侵略者を召喚した事が原因だったし」
安易に脅そうものなら信仰心が揺らいでしまう。
そうでなくても無関係な巫女達が『お許しを』と、延々呪文を唱えているのだから第二の自壊は控えるべきだろう。
それに亜衣達が睨みを利かせている以上、
『するなら先に言ってよね!』
『事前通告が無いままの天災は止めて下さい』
『迷宮の事もそうだけど、空気は読もうね?』
『経緯はどうであれ、ドンマイと言っておく』
『王都から召喚された姉さん達が気の毒だわ』
私達は何も出来ないでいた。
神としての立場を考える姉と妹達。
損害が少なかった姉と問題児と送り込むはめになった姉の気分は微妙だろう。
あの召喚で呼び出された者達もタイミングなのか知らないが、探索者ギルド本部の周囲に居た者達だった。実菜達もそれに巻き込まれてしまったが。
傍らで死傷者リストを纏めていた由良が私に紙束を手渡してきた。
「姉さん。宮殿内に居た者達の死傷者リストが出来ました」
「結構、居たのね。死んだ者達」
「ほぼ王侯貴族です。召喚された勇者もとい侵略者、侵入者が正しいでしょうか?」
「どちらでもいいわ。害悪には変わりないし」
「その中に姉さんの胸を揉むと言った先輩も居ました」
「ふぁ?」
ど、どういう事なの?
あの先輩は私が蹴りを入れた後、本土の病院に移送されたはず。
感触を覚えないように積層結界で脚を護って思いっきり蹴り上げた。
(死んではいないけど重傷だった)
母さんにお願いして事故として処理してもらったのは記憶に新しい。
事故の経緯は不発弾の爆発に遭遇した事になっていたが。
と、ともかく! それを聞いた私は取り乱してしまった。
「じゃあ、なに? 告白してきた先輩は死者ってこと?」
それなら私は死体蹴りした事になるわよ?
意味は違うけど本当に死体を蹴ったから。
でも生きていて不死という訳でもなかった。
「そういう訳ではないみたいですね」
「どういう事よ?」
すると隣の管理室から一通の通知が入る。
それは現在不在となっているはずの地表の管理室からだった。
「外出中の実菜から?」
「地上から連絡を入れてきたと」
私は通知を開き中身の文章を読み上げる。
「迷宮内から失礼……え? 迷宮に潜ってる?」
「仁菜の管理迷宮に地表の迷宮神と探索中みたいですね」
「それって探索とか出来るの?」
「魔物が本能的に逃げるのでは?」
「そうよね。迷宮神が同行していたらね」
『絶賛、逃げられていますね』
「「やっぱり」」
何を思って女神達が迷宮に潜るのか?
見た限り単なる資金稼ぎに思えるけど。
一先ずの私は文章の続きを読み上げる。
「えっと。何々? 元世界の島内に……は?」
「何が書かれていたので?」
「いや、これは。え? マジで?」
「姉さん?」
読み上げると少々信じられない事象が書かれていた。
私達へと報告が遅れた事は詫びると記されている事から、母さんには伝わっている事が分かる。島内の事だから私達へは事後報告となっても仕方ないしね。
だが、
「分校生徒。百二十人以上が汚染の疑いあり」
「はい? ど、どういう事です?」
「例のゲームのインストール済みが、それくらい居るってことみたい」
「そ、それってつまり?」
『『『『『クラスメイトが疑似魂魄!』』』』』
「まさにそれみたい。昼休憩の列も邪神の眷属に誘導された結果だって」
「あれが?」
『私も実菜姉さんに結界を張って応じてと言われた時は何事かと思ったけど』
『私も列が出来る事は分かっていましたが』
『そのような状態になっているなんて』
『想定のしようがないわね』
『現状はどうなっているの?』
私は玲奈の質問に対し、書かれている文章を改めて読み上げる。
「母さんに報告後、夏音姉さんと姪っ子が魂魄置換に動く事になった。上の片付けは至音姉さんが指揮を執るから気にしないように。だって」
「至音姉さんが指揮を?」
『適材適所か。今回は滅するだけだから』
『島内は魂魄置換だから夏音姉さん達が妥当であると。母さんの采配は半端ないわね』
「死神だもの。自分にとってきつい事案だと無駄に感じてド変態に化けるけど」
「あれも少しは落ち着いてきているそうですが」
「ドMは何処までいってもドMでしょ?」
変化が訪れたらそれはそれで恐い⦅何よ?⦆覗き見てないで仕事⦅……⦆感じた?
「その魂魄置換も今晩中に終わらすって」
「そうしないと無駄に増えるだけですもんね」
「通信網を母さんが一時遮断して時間停止下に置くみたい。そのまま置換を実施と」
「魔力糸または神力糸による一括置換と」
「置換後は魂魄にプロテクトも加えるみたい。二次被害が出ないように」
「でも待ってください。経路は封じたはずなのに、どうやって送り込むので?」
私達は由良の発した一言に愕然とした。
「『『『『『……』』』』』」
「もしかすると見えない穴がまだあるのでは?」
それを聞いた私達は顔面蒼白になったと思う。
するともう一通、通知が届く。
「また実菜姉さんから? えっと」
由良は私に代わり文章を読む。
読み込む内に焦りが滲み出てきた。
「仁菜!」
『ふぁ、ふぁい!』
「各迷宮。守護者の間がある場所を徹底調査して!」
『ふぁい! 調査?』
「最深部に入った実菜姉さんから邪神の眷属発見の報が入ったの!」
『!!?』
私は慌てて通知の文章を読み上げる。
それは夏音姉さんが交換した女神像が関係していた。
「交換して退出した矢先に穴を穿って宿ったのね」
『ど、何処を穿ったの?』
「これは知らない方がいいわよ」
『ど、どういう意味?』
亜衣達は知らない方がいいと思う。
私がイヤでも経験している場所だから。
まさかここで黒歴史が活きるなんてね。
まさに皮肉でしかないわ。
「お股の緩い姉さんが例えです」
「ちょっ!? 何でそういう事」
間違ってはいないけど例に出さないでよ……しくしく。
『ああ、それは何というか』
『姪っ子が酷でしかないですね』
『戻ったら慰めましょうか?』
『きょとんとするオチが見える』
『美加が言うとオチにならないわ』
いや、本当に。未来視だから余計にね?
文章には続きがあって現状は実菜が最大出力で自身の神聖力を惑星の魔力経路に流し込んでいるらしい。その影響で惑星の魔力が逆流するかもしれないと連絡が入った。
「逆流? なるほどね」
それは邪神の眷属が神聖力を嫌がってその場から出て行こうとする性質だ。
仁菜には眷属が出没した矢先に隔離で捕獲するよう指示が入っていた。
「捕獲後は至音の餌にしていいと」
餌って誰が⦅カノンね⦆やっぱり。
空間は私の神聖力で浄めるようにとあった。
実菜と同系統だから私も神聖力はある。
だが、どの程度なのか不可解だった。
「最大で込めたらいいのかしら?」
「おそらくそれでいいかと。封じ込めですし」
「それなら、仁菜?」
『準備出来ました。お願いします』
「分かったわ。送り込むわね」
指示にあるとおり逃げ果せる場所へと神聖力を最大限で送り込んでおいた。
久方ぶりの放出。ステーションの維持以外で神力を最大放出するとはね。
何が起きるか本当に分からないわね。
「しかしまぁ。油断は本当に命取りよね?」
「まさか交換が終わった女神像に入り込んで隠れているなんて」
「中心核に居た眷属の分身かしら?」
「おそらくそうでしょうね」
片付いたと思って油断した矢先に潜むか。
場所が場所だけにド変態と言いたくなる。
それが女神像の中といえど行動がキモい。
『捕獲! 片道切符だから出られませんよ!』
「神聖力に絡め取られて弱体化すればいいですが。こればかりは魔力経路から吸い上げた魔力量が影響するでしょうね」
「始めの内は防御に徹するでしょうけど」
「魔力ではなく神力が相手ですし」
『結界への浸透は直ぐですね』
与えた密度からして違うもの。
邪神の眷属の弱体化は必至よね。
「島内と同時にこちらの経路を完全に塞ぐと」
「これで完全に空間の穴が無くなったわね!」
『『『『『フラグを立てたらダメ!』』』』』
「あっ!」
「姉さん?」
「ご、ごめんなさーい!」




