第57話 事情は聞こう。
Side:実依
「このお尻? あ、残念バカップルの片割れ!」
「「残念バカップルの片割れ?」」
私はその人形のお尻の形に見覚えがあった。
それは私立高校で目撃した身の毛もよだつ事案⦅目撃者だったか⦆いや、もうね。
校内に用意した人気の無い隠れ家、私がお菓子を食べるために拵えた場所。
その場所で腰を振ればイヤでも覚えるよね?
「あの時の先輩がこの世界で人形になっているとはね」
「先輩? あ、あー。それでか!」
「そういえばこの壁胸には見覚えがあるね」
姉さんも本を読みながら歩いていてドンッと胸の下敷きになったんだよね。
階段上から裸で飛んできて姉さんを巻き込⦅遭遇率高くない?⦆本当にそう思う。
結依は遭遇した事は無いが遠目に嫌悪していた事をよく覚えている。
自分ではノンケと言いつつ百合の気があるのが結依なの⦅同志!⦆は?
「しかしまぁ。あの変態が人形か」
「これって寸分違わず創ったの?」
「そうだね。魂魄の形状から採寸したし」
「そうなんだ。でもこれだと人形よりも」
すると姉さんは何を思ったのかその場に人骨を拵える。
人骨の胸骨だけを抜き出して加工した魔石に置き換えた。
そして人形から魂魄をヒョイッと抜き取り魔石へと宿した。
「ホムンクルスとした方がいいかもね」
胸骨の魔石の魔力で心臓が完成し、血管やら神経やらが次々と生成されていく。
上から下までの消化器と呼吸器が生成され、生殖器までも出来上がっていった。
「人形だと破損した亀裂から邪神の眷属が宿るかもしれないからさ」
「なるほど。それは盲点だったよ」
流石は姉さん。眷属の特性を理解しているだけはある。
無駄知識の宝庫もバカに出来ないね。
「無駄知識で悪かったね?」
「ごめんごめん」
次いで眼球と脳、筋肉等が生成されると褐色の皮膚に覆われていく。
胸は薄く腹は細く小尻が出来上がる頃には先輩の種族が判明した。
「ここで人造人間のエルフかぁ」
「しかも正真正銘のエルフと」
「それも闇エルフか。もしかして私の神力が影響したのかな?」
「多分?」
「分類上は結依ちゃんの眷属だよ」
「ふぁ?」
「なるほど」
姉さんは人形に疑似魂魄を宿してダンジョンボスとして再配置した。
(まさか先輩を連れ帰るつもりで?)
ドロワーズと黒いゴスロリ衣装を銀髪金瞳の闇エルフに着せていく。
「この人も一応、召喚被害者だしね。こうなった経緯がどうであれ尻拭いはしないとだし。この後、地表へ連れ帰って、あの子の補佐にしてもいいでしょ? 本人の好みは置いておくけど」
「そのつもりで?」
「これに宿らせたか」
「うん。一応不死としたから痛い目に遭う事はあっても、絶対に死なないから」
姉さんが用意した闇エルフは果菜を彷彿とさせる幼⦅童女!⦆だった。
身長を七十センチに留め、成長速度を極端に遅めとしたようだ。
中身の人格は計算高い先輩なのでバカではないだろうけど。
「それと男を誘惑しようとすると身体の内側から激痛が発生する罰も設けたよ」
「ビクッ! ガタガタガタガタ……」
「こんな感じで手酷い脂汗が出るんだよね」
「これはなんというか、生理痛より酷い?」
「酷な罰だね。性格を考えれば妥当だけど」
一定時間が過ぎると脂汗も引き、辛そうな表情のまま腰が抜け地面に座り込んだ。
若干、涙目なのが微妙に可哀想だけど。
「それと生殖器は魔王の子を孕むための代物ね。魔王以外に男妾を作ったらこれ以上の激痛が襲い来るから覚悟してね?」
「ウンウン」
それで生殖器を用意したと。
姉さんも息子には甘いよね。甘々だ。
でもま、魔王の子孫が残らないのは姉さんも困るもんね。
魔王も一応は神の眷属だし。
私は幼女を立たせながらお尻の埃を叩き、
「それで名前はどうするの?」
姉さんに問うてみた。
幼女とか闇エルフと呼ぶのは違うしね。
「魔物名から取って、メグリでいいでしょ」
「魔物の残滓を少しだけ残す的な?」
「残さないと人族だと誤認するしね。本人が」
「それは誤認するかもね。元々異世界人だし」
「ああ、そうか。召喚被害者で残り者だから」
「これも後始末ってことで」
「「なるほどね」」
これは姉さんなりの慈悲なのかもね。
「残念バカップルの片割れでも召喚被害者なのは変わらないからね」
「「確かに」」
するとメグリがプルプルと俯いて呟いた。
「バカップルって言わないで」
声の感じは過去に聞いた声と違うね。
今が幼女だから仕方ないけども。
「およ? イヤだった?」
「だって、あれは、私の本意ではなかった」
「「「は?」」」
本意ではなかった? あれが?
「私はアレから付き纏われて仕方なく交際していただけ。本当に愛しているなら奴に忌避感なんて持つ訳無い」
「「「忌避感なんてあったの?」」」
「我慢していたの」
「「「はい?」」」
「他の男性としたのはアレから加えられた嫌悪。不快感を消そうとしていただけ」
「「「……」」」
何やら私達の想像していた人物ではないのではと思えてきた。
思考を読んで記憶を覗き込む限り、それが嘘ではないと分かった。
そういえば⦅混ざり合っていたのに分離したわね⦆そうそう。
あれは嫌悪から離れたのね。
(そうなると……あ。男の魂はっけーん!)
岩陰に隠れてやり過ごそうとしているね。
(迷宮を操って男の魂を捕獲してっと!)
こいつの罪を罰するのは後回しで!
今は事情を聞く方が最優先だもの。
「奴は変なところで鈍感になって苦情は『何だって?』と聞く耳を持たなかった」
「朴念仁と聞いていたけど?」
「意外と外道だった?」
「じゃあ、計算していたのは?」
「そうしろと言われていたから。私が女子達に嫌われれば嫌われるほど陰でゲラゲラ笑っていたクズだったのよ。この世界に呼ばれた時も、言う通りにしろと脅されてきた。そもそもの話……」
容姿が標準的な自分を愛する感情。
奴にはそれが皆無だったらしい。
「本来の私は大人しい性格だったから」
「「「ああ」」」
それは一種の当て馬的行為。
本命を落とすために利用していた。
盛りに盛った胸も奴の言いなりで着け、居ない時は極力外していたのだとか。
(だから姉さんが壁胸ドンを顔に喰らったと)
それと行為は一度きり、道具で犯された。
肉体関係は本命のみと宣言されていたとか。
奴は豪華部屋。自分はボロ部屋だったとか。
もうね。クズ魂を滅したいと思ったよ。
姉さんは大変複雑な表情をしつつ問うた。
「で、その本命って?」
「天災児」
ん? そのあだ名は⦅殺す!⦆ああ、姪っ子のあだ名だったね、そういえば。
⦅捕獲した魂魄要る?⦆
⦅届けて! 今すぐ!⦆
⦅りょ! 送ったよぉ⦆
奴を罰するのは姪っ子にお任せだね。
どのように調理されるか気になるが。
「本当はイヤだったのに、黙り姫と天災児に意識を混ぜ合わされて……グスン」
本命から受けた多大な神罰。
様々な裏事情と複雑な感情。
迷宮に囚われて辛かったと。
⦅何か、悪い事をしたみたいね⦆
夏音姉さんも困惑中っと。
「ま、今回は離れる事が出来ただけ」
「救いではある、かな?」
「これからは別個体だし長生きして色々経験してみたら? 男性経験は魔王以外は許されないけど」
「……」
正直に言えば男とは重なりたくないって感情が顔に出てるね。
そうなると姉さんの思惑が完遂するとは到底思えないね。
「姉さん?」
「うん。これは無理っぽいかな?」
「どうするの? 魔王の妻でしょ?」
「そうなると……」
姉さんは思案しつつメグリの胸部。
魂魄が宿った胸骨に触れ魂魄を分割した。
「え?」
そして今より幼い憑依体を作って宿らせた。
幼女も闇エルフでありきょとんとしていた。
「「そうくるか!」」
「名前はメグね」
「メグ! 分かった!」
よく見ると、その魂魄は記憶の断片を消した別人格だと分かった。
つまり、メグリはメグリで連れ帰るが嫁は嫁として与えるつもりと。
「それとメグリの罰は取り払ったよ。その代わり、同性で子を成す本来の機能に戻したから」
「そ、それって?」
「ここで百合かぁ」
「そうきたかぁ!」
「その分、一生男性とは重なる事が出来ないから覚悟だけはしておいてね。身体に触れられたら嫌悪感が沸き立つよう戻したから」
結依ちゃんが興味を持っている気がするけど見なかった事にした。
(というか傍から見ると闇エルフの姉妹だね)
片や、憑依体の銀髪幼女。
片や、人造人間の銀髪幼女。
違いは不死か不死ではないか。
すると姉さんはメグリの背中に触れ、
「とりあえず、成長しようか」
「成長? わぁ!?」
成長を促して私達と同じ背格好に変えた。
「身長が九十センチ、プラスされた?」
「そんな感じかな? てか、めっちゃ綺麗!」
褐色肌に銀髪が合わさってエルフの美麗さが表に出ているね。
胸は薄いけど。
「衣服が破れて素っ裸に戻ったね」
「壁胸が少しだけ育っているかな」
「平均的な闇エルフの体型なのね」
「え? え? え? 一体何が?」
混乱するメグリに対し、姉さんはドロワーズを穿かせたのち黒メイド服を着せた。
召使いのつもりで雇う予定と。
「丁度、人手も欲しかったしね」
「もしかして上とコロニーの出前役?」
「そうそう。あのコロニー内には調理スペースはあるものの、人員が常に居る訳ではないから食事の出前で呼び出される事があるじゃない?」
「「あるね」」
主に由良が呼び出されてラーメン五人前を届けていたりする。
女神を顎で使うのはどうなのって思うけど。
「何度も届けてと言われるし。それならって事で。給金も出すから安心していいよ」
「そうなると旧友と出くわしそうだね?」
「旧友しかいないと思うけど?」
「旧友?」
特に百合の気配に敏感な旧友達が。
「今の顔立ちで気づける人は居ないと思うよ」
「そういえばそうだね。前が普通過ぎたし」
「今は美人さんだもんね」
「び、美人? 誰が?」
「「「メグリが!」」」
「わ、私が?」
これは追々、自覚を持たせる必要があるかもね。




