第七十六話 エピローグ
結局、女神の姿をはっきりと見たのは俺とアグナユディテ、ベルティラの三人だけだったが、今は王都が守られたという事実だけで充分だ。
俺たち三人は急いで王宮のベランダに戻り、女王様にエンシェント・ドラゴン・ロードを倒したことを報告した。
王都を脱出した民衆も、王宮を圧するかのように現れた巨大なドラゴンの姿とその墜落する様子、そして王宮から発した眩い光を目撃していたようだ。
アグナユディテの精霊魔法の力で王都周辺まで届いた女王様の声によって、ドラゴンが倒され、危機が去ったことを知らされた彼らは、すぐに歓声とともに王都へと引き返して来た。
数日後、俺は謁見の間で女王様から新たな爵位を賜った。
「カーブガーズ大公」
それが俺に授けられた領地と新しい爵位だ。
王宮での叙爵の儀式や、その正式なお披露目が盛大に行われた。
その後も王室からはじまって、大貴族、大商人、教会やギルドがそれぞれ主催する祝賀パーティーに山ほどの贈り物と、魔王を討伐したときと同じか、それ以上の光景が繰り返された。
それらがひと通り済んだのを見計らって、俺たちはパーヴィーの背中に乗って、俺の領地となったカーブガーズへと向かった。
パーヴィーと言えばロードが滅んだあの晩、遅くなってから王都の上空に姿を現わし、王都がパニックに陥りそうになったのも、まあご愛嬌だ。
すぐに騒ぎに気づき、取り敢えずアンヴェルの姿になってもらって事なきを得た。
俺たちを心配してやって来てくれたようだが、王都が無事なだけでなくロードが滅んだと聞いて、彼はとても驚いていた。
カーブガーズへの途中、ベルティラは彼女が治めるカルスケイオスの上空で、パーヴィーの背中から瞬間移動の力を使い、ひとまず自分の屋敷へと戻ろうとしたのだが、その時、俺たちは信じられない光景を目にした。
「何だ? あれはいったい……」
驚きの声を上げた彼女の、いや俺たちの目に映ったのはカルスケイオスの大地を横切って流れる、これまではなかった大河の姿だった。
「そうか。あの金色の光……」
ドラゴン・ロードが放った金色の光によってカーブガーズとカルスケイオスを隔てていた『黒い壁』が消滅し、エレブレス山を水源とする大きな河が流路を変え、カルスケイオスを潤していた。
キラキラと輝く水の流れはかつての魔王の統べる地を東から西へ横断し、赤いドラゴンが切り裂いた西側の『黒い壁』の切通しの手前で大きな湖を作った後、そこを通ってシューアギアン地方に抜け、最後は南のアギアン海に注ぐようになっていた。
「あの湖は魔王様の城の跡か」
ベルティラが言ったように、カルスケイオスの中心にあったかつての魔王の城の跡も水没して湖になってしまっているようだ。
だが、これまでかの地になかった大河は、それを補って余りある恵みをもたらしてくれるように思われた。
「では、私はここで行くぞ。世話になった」
そう言ってベルティラが向かったそのカルスケイオスだが、王国も彼女を統治者として正式に認め、『女王の同盟者』の称号で呼ぶようになっていた。
人間である女王陛下が彼女を臣下にすることは、王国の側にも反対者が多いだろうし、誇り高い魔族も彼らの統治者が人間の臣下では納得できない者も多いだろうから、まずはこの称号は妥当なところだろう。
お互いに信頼を醸成することは、これから長い時間を掛けて取り組んでいくべき課題なのだから。
俺たちはカーブガーズの東、エレブレス山を望む湖の側の草原に降り立った。
まずは雨露をしのぐ場所が必要だよなと思っていると、トゥルタークが「わしに任せておけ」と言って、パーヴィーの背中に乗って飛び立って行った。
「やあ。良い岩をたくさん運んできたよ」
しばらくして、そう言いながら戻って来たパーヴィーは、その言葉どおり背中に大量の四角い岩を乗せ、脚でも何だか重そうに同じような岩を運んでいた。
そしてそれを俺たちの側に降ろすと、またトゥルタークと飛び立っていく。
何度かそれが続き、俺たちの周りが四角い岩でいっぱいになったかと思うと、トゥルタークはパーヴィーから降りて呪文を唱えた。
彼の呪文によって岩が整然と列をなして、次々と積み上がっていった。
その後、沢山のコテが忙しく動いて漆喰を塗り、シヴァースの賢者の塔にそっくりの建物を一気に築き上げてしまった。
目を瞑っていた俺は気づかなかったが、用意周到なトゥルタークは、パーヴィーに頼んで王都から漆喰を運んでもらっていたようだ。
「材料さえ揃えばこんなものじゃ。アスマットよ。敵を打ち倒す大魔法など、普段は何の役にも立ちはせぬぞ。まあよい。これからはそなたも、こういった魔法をしっかりと練習することじゃな」
俺の得意な魔法は、闇魔法を筆頭に攻撃系ばかりだから、そう言われると耳が痛い。
確かにトゥルタークの言うとおり、これから領主として領地を治めるなら攻撃系以外の魔法も練習する必要がありそうだ。
俺からすると、トゥルタークにいいように使われていたように見えるパーヴィーだが、みるみるうちにでき上がる塔の様子に目を輝かせていて、大いに満足したようだった。
「魔法で建物を建てると早いんだよね。王都でも何度か見たけれど、でも、こんなに凄いのは初めてだなあ」
やはりトゥルタークはこの世界の魔法の第一人者のようだ。
翌日から、パーヴィーは俺の屋敷の建設に獅子奮迅の働きを見せてくれた。
「パーヴィー。ありがたいけど、さすがにもう充分なんじゃないか?」
「まだまだ足りないね。もっと大きな建物が建つのを見たいんだ」
俺の言うことを聞かず、次々に岩を運んで来る。
どうも積み木やブロックで遊ぶのと同じ感覚らしく、むやみに岩を切り出して来るので、湖の周りが岩で埋め尽くされてしまうのではと心配になったくらいだ。
「アスマットよ。まあよい。このくらいで音を上げるそなたでもなかろう」
屋敷の建設にはトゥルタークも力を貸してくれたので、俺は彼の教えを受けて、魔法による建築の方法を会得していった。
結局、俺の屋敷は漠然と考えていたものよりずっと大きく立派なものになった。
トゥルタークはそういった魔法の面だけでなく、知識も他の人の追随を許さぬくらい豊かで、大賢者と呼ばれていたのは伊達ではなかったようだ。
「これまでわずかな伝承でしかその存在を知られておらなんだカーブガーズを探訪できるとは、長生きはするものじゃな」
逆に好奇心が旺盛なのは若返った身体の影響なのかもしれない。
トゥルタークはカーブガーズの各地を訪ねては、その度に新しい発見を俺たちにもたらしてくれた。
その中でも特に有り難かったのは、湖の北を走る山脈の中に見つかった鉱脈だった。
「ほかではまず見られぬ大鉱脈じゃな。まあよい。魔法石まで掘り出されるとは、わしも思っておらなかったがの」
その鉱脈では金や銀などの貴金属のほか、最近では有力な鉱山がほとんど掘りつくされてしまった魔力を宿す魔法石まで見つかったのだ。
トゥルタークによれば、その埋蔵量はおそらく、これまで産出されたすべての魔法石の総量を大きく上回るのではないかということだった。
この発見で多くの人が一攫千金を夢見てカーブガーズまでの距離をものともせずにやって来るようになり、また、その人たちを相手に商売する人々も続々とやって来て、これまでまったく人の住んでいなかったこの土地はみるみるうちに活気ある場所へと変わっていった。
住民の増えてきたカーブガーズには住居や商店の建築ラッシュが起きていたが、俺も領主として、それ以外にも必要な施設を次々に建設しなければならなかった。
その中のひとつに教会もあったのだが、アリアがその司祭を務めてくれることになった。
「立派な聖堂を建てていただいて。感謝しています」
アリアはそう言って微笑んでくれるが、彼女の聖女としての名声は既に王国中に響き渡っていて、彼女が主宰する聖堂を建設するという話が伝わると王国各地から驚くほどの浄財が集まり、領主としての俺はほとんど資金を出す必要がなかったのだ。
それに、聖女様を慕ってカーブガーズへ移り住んで来る人が増えていて、本当なら俺の方がお礼を言うべきなのだろう。
エディルナは家族のいる王都に残ると思ったのだが、俺たちとともにカーブガーズに来てくれた。
まあ、トゥルタークがシヴァースから移って来たから、エディルナも彼女の「エリスちゃん」と一緒にいたくて来たのだろうと思ったのだが、彼女は、
「アマンにはお目付け役が必要だからね」
そんなことを言っていた。
確かに俺には領主としての経験などないし、貴族としてもまだ駆け出しだが、彼女にだってそんなものはないはずなのだが。
彼女はリューリットやベルティラ、果ては女王様がいらっしゃった時などに同席して会話を繋いでくれるので、そういう面ではとても助かっていた。
リューリットはカーブガーズで俺の屋敷の警備と町の治安維持の役割を担ってくれていた。
「申し訳ないな。俺も領地をいただいたし、できる限りのことはさせてほしいな」
彼女ほどの腕の持ち主にその程度の役なんてと思い、俺はそう申し出た。
「できる限りのこととは報酬のことか? ならば、食事と住む場所を提供してもらえれば、ありがたい」
「リューリットは相変わらずだな。ほかには何かないのか?」
そんな俺の問い掛けに、彼女は珍しく躊躇するような様子を見せた。
「ならば住む場所は、アマン。そなたの屋敷の一角に部屋を用意してほしいのだ。できるか?」
「お安い御用だ。屋敷はむやみに広いからな」
主にパーヴィーのおかげで、元が庶民の俺からすると部屋が余って仕方がないと思えるくらいだったから、俺は何の気なしにそう答えた。
だが、それを聞いた彼女は、これまで見たことがないくらい嬉しそうな明るい表情をしたので、俺は少し驚いてしまった。
彼女はずっと実際の年齢より大人びて、クールな表情を崩さないイメージがあったのだが、だいぶ髪が伸びてきていたから、そのせいもあって、そう見えたのかもしれない。
そう言えば、屋敷を中心に開発が進みだした頃から、女王様がカーブガーズにご視察にいらっしゃるようになった。
なんとベルティラが瞬間移動で女王様をお連れするようになったのだ。
女王様はいらっしゃる度に「賢者様。何かお困りのことはありませんか?」と優しく聞いて下さるのだが、資金面も人材の面も充分すぎるほどご配慮いただいているので、いつも申し訳なく思ってしまう。
最初はその日の内にお帰りになられていたのだが、このところ数日ご滞在されることも多く、クレスタラントの王宮で政務が滞ったりしていないか俺の方が心配になってしまう。
だが、その点は問題ないらしい。
「エルクサンブルクのティファーナ様を宰相府にお呼びしましたから。彼女は本当に優秀で、素晴らしい活躍をされているのです」
宰相府と言えば王国の政務の中枢といってよい組織なのだが、彼女はその一員となっているらしい。
(いや。いくら何でも若すぎるし、そんなことあり得るか?)
俺は俄かには信じがたいのだが、女王様によれば、彼女は既にエルクサンブルクの統治に並々ならぬ才能を見せていたようだ。
そんなものは、彼女の臣下のうちの小利口な者たちがやっていたのではないかと思うのだが。
彼女に対しては、どうしてもあのアンヴェルにメロメロだった様子しか思い浮かばず、中に誰か別の人が入っているとしか思えないのだが、いずれにせよ王国の統治が滞りなく進められているのなら慶賀すべきことだろう。
女王様はこれまで苦労の連続だったから、たまには政務から離れて、王都とは違って静かなこの土地でゆっくりされるのもいいかもしれない。
ベルティラも女王様と一緒にやって来ては俺の屋敷に結構滞在しており、こちらもカルスケイオスの統治は大丈夫なのかと思ってしまう。
だが、どうやらそちらは順調なようだ。彼女によれば、やはり大河によってもたらされる豊かな水が貧しかったあの地を一変させつつあるようで、未来は明るいように見える。
「我が主のおかげで、今や女王と私は同盟者だからな。互いに手を携えてエルフに対抗すべきだろう」
いや、エルフとも仲良くしてもらわないと困るのだが、こちらはさらに時間がかかる問題なのかもしれない。
「ベルティラ・デュクラン。あなたいつの間に、アマンのことを『我が主』って呼ぶようになったのかしら」
アグナユディテが不愉快そうにベルティラにそう問い掛けた。どうやらバセリスが嵌めた首の枷を外した俺は、ベルティラに懐かれたようで、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。
「私が我が主をどう呼ぼうが、お前には関係ないではないか。別に減る物でもなし。それに我が主と知り合ったのは、私の方がお前より先なのだからな」
そう言って彼女は涼しい顔だ。
確かにそう言おうと思えば言えるのかもしれないが、あれは知り合ったというより、襲われたと言った方が正確だと思うのだが。
そして、アグナユディテは今までと変わらず、いつも俺の側にいてくれる。
考えてみれば、彼女が俺に「真の名」を告げたことが、この世界を滅びの運命から救ったとも言える。
「私は以前、あなたをどこまでも追いかけるって言ったけれど、グリューネヴァルトから連れ出されて、まさか伝説の地まで来ることになるとは思いもしなかったわ」
そう言いながらも、俺は「変わっているから、退屈しない」ので、まだ俺を追いかけてくれるそうだ。
「王都の占い師が言っていた『連なる枝』って、あなたと私のことだって、私はあの時、気づいていた気がするわ。エディルナは『始まりから始まり、終わりで終わる者』はアンヴェルのことだって言ったけれど、あなたも、そして私もそうだって、私にだけは分かっていたから」
ある時、彼女は静かにそう言った。
あの時、彼女は占いを聞きたくなくて耳を塞いだと言っていたのだが、耳のいい彼女には結局、占い師の言葉がすべて聞こえてしまい、それで怯えていたのかもしれない。
そう言った彼女はとても幸せそうで、その様子に俺にもその気持ちが広がってくるような気がした。
出会った時からゲームのキャラクターとの違いに戸惑ってきたけれど、今ではゲームの彼女より、この異世界で出会った彼女の方がずっと親しく、そして愛おしく感じられる。
これからも俺は許される限りアグナユディテと、この世界の年代記を紡いでいきたい。そう思っていた。
【第二章・完】
夜になって屋敷に戻り、ちょっとした空き時間のできた俺は、久しぶりにラノベとRPGのことを考えていた。
RPG『ドラゴン・クレスタ』の世界で過ごしてきた俺の経験って、前の世界だったらラノベにできるんじゃないかとふと思ったのだ。
俺もかなりお世話になっていた日本最大級の小説投稿サイトに投稿してみたら、それなりに読者の方たちに読んでいただけるかも知れない。
(でも、投稿サイトに小説を投稿しても全然読んでもらえないと結構凹むって言うし、アクセス数やポイント、ブックマーク数が気になって、他のことに手がつけられなくなったり、厳しい感想や指摘に落ち込むこともあるみたいだしな)
所詮はB級RPGだったから、シナリオだってラノベにして読んでみたら面白いか分からない。俺って結構繊細だから、辛辣な評価を受けたりしたら立ち直れないかもしれないんだよな。
そうなったら、またラノベを読んで、物語の世界に現実逃避すれば大丈夫かも知れないが。
それに正確に言うと、俺の経験ってRPGのリプレイみたいなものだから、それをラノベにするのはちょっとずるいのかも知れない。
だけど、もう『ドラゴン・クレスタ』のことなんて覚えている人もほとんどいないだろうし、異世界の現実はゲームと異なる点も多かったから、何とかなりそうな気もする。
俺も魔王を倒し、古竜王を倒して女神にも会ったから、派手に脚色を施せば、それなりのサーガができあがるんじゃないだろうか。
だが、俺が書く分には、俺の文才を別にすれば、いかようにでも美しい物語に事実関係を糊塗することができるが、何らかの手段で俺のことを知ってしまった奴に、実際の不甲斐ない俺の姿をそのまま書かれてしまった日には堪ったものではない気がする。
俺がトゥルタークによってオーラエンティアに召喚されたことを考えれば、何らかの要因で前の世界に俺の情報が伝わることもあり得るのではないだろうか。
そう思うと俺は急に不安になった。自分のみっともない姿がネットでさらされるなんて悪夢以外の何ものでもない。
俺が格好良く魔族にさらわれた王女様を助け出し、強大な魔王を滅ぼす。だが、それによって引き起こされた伝説の古竜王による侵攻。その世界の危機をまた颯爽と救う俺。
うん。使った修飾語はともかく、事実としては概ね間違ってないよね。できれば是非そんな物語にしてもらいたいものだ。
そして、そんな俺の傍らにいるのは……
「やっぱり可憐でお淑やかなエルフの姫君だよな」
俺はそう妄想をたくましくしていたのだが。
「アマン。エルフって聞こえたけれど。私を呼んだ?」
異世界の現実が容赦なく俺にそう声を掛けて来た。
「い、いや。ちょっと考えごとをしていただけだから……」
俺がそう言って誤魔化そうとすると、アグナユディテが目を細めて厳しい表情になった。
「可憐でお淑やかなエルフの姫君のことでも考えていたのかしら?」
やっぱり全部聞かれていたようだ。
アグナユディテはため息をつくような表情を見せると、俺に向かって言った。
「アマンは何だか私のことを誤解しているみたいだから、言っておくわ。私たちエルフには長となる家系が五つあって、私の家系はその中のひとつなの。
今はアルプナンディア様が長を務めていらっしゃるけれど、将来は私の父か、もしかしたら私が長を務めることになると思うわ。エルフは長命だから、かなり先のことでしょうけれどね」
「ええっ。じゃあ、ユディはエルフのお姫様だったのか?」
「まあ、面と向かってそう言われると少し恥ずかしいけれど、そう言っても間違いではないわ」
そう言われてみると、どことなく気品があって、可憐でお淑やかな気が……全然しないけれど、エルフはもともと高貴な種族だし。
でも、俺が持っていたその印象をことごとく覆してきたのは、アグナユディテとアルプナンディアなんだよな。
「いや。だってお姫様なのに俺の護衛として危険な魔王討伐に向かったり、エンシェント・ドラゴンと戦ったりしたのか?」
「アマンはノブレスオブリージュって言葉を知らないのかしら? 長となる家系だからこそ、率先して危険な役割を果たすのよ。アルプナンディア様だって、魔王を封印するためにカルスケイオスまで赴いたのよ」
それにしたって最終的にはマジックアイテムの力で事なきを得たとはいえ、一度は命を落としているし、ちょっとハード過ぎないかと思う。
だが、彼女がエルフのお姫様だと聞いて、役に立つかは分からないが、やっておこうかと思いついたことがあった。
「じゃあ。そのエルフのお姫様にお願いがあるんだ。俺が渡す文章を声に出して読んでほしいんだ。今、サッと書いてしまうから、ちょっと待っていてくれないか」
「えっ。まあ、別に構わないけれど……」
俺は彼女の気が変わる前にと、慌ててデスクのメモ用紙にペンを走らせる。確かこんな文章だったはずだ。
そうして俺が書いた文章をアグナユディテは読み上げてくれた。
「最後までお読みいただき、有り難うございました。
よろしければ下の星(★★★★★)を押して、ご評価をいただけると大変励みになります。
また、ブックマーク、ご感想もいただけると、とても嬉しいです」
もう少し心を込めて読み上げてほしい気もするが、まあ、いきなりだからこんなものだろう。
もしもこの世界のことをラノベにする奴がいたら、エルフのお姫様が読者の皆様に直接伝えてくれたのだから、少しは気持ちに余裕を持って、俺のことを格好良く書いてくれたらいいのだが。
だが、冷静になって考えてみると、俺がアグナユディテに渡したセリフは慌てて書いたこともあって最終回しか使えないものだ。
これだとすべては手遅れになってしまうのかもしれない。
「って、アマン。いったい何なの?」
俺がそんなことを考えていると、当たり前だが訳の分からないアグナユディテは、そう言って不満の声を上げた。
「いや。俺の元いた世界では、物語がめでたしめでたしを迎えたらこう言って、読者の皆様にご挨拶する風習があるんだ」
だがもちろん、それで彼女が納得するはずもなく、両手を腰に当てて不満もあらわにさらに俺を追及してきた。
「アマン。あなたまた嘘をついていない? それに、めでたしめでたしって。物語がそうなって末永く幸せに暮らす前に、その……言うべきことがあるんじゃない? ねえ。アマン。聞いているの!」
そう言うアグナユディテの声を背中で聞きながら、俺は窓から夜空を眺めた。ひんやりとした夜風が心地よく感じられる。
空にはオリオン座の三つ星ならぬ横に並んだ五つの星が美しく輝いていた。




