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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第ニ章 カーブガーズの古竜王
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第七十三話 王都の危機

「あーあ。残念だったね」


 呆然と立ち尽くす俺にパーヴィーはそう声を掛けて来た。

 だが、すぐに別の声が俺の耳に届く。


「いいえ。まだ終わっていません。終わらせる訳にはいきません」


 そう強い口調で言ったのはアリアだった。


「賢者アマン。すぐに王都へ向かいましょう。まだ間に合うかもしれません」


 彼女はそう言うが、俺はまだ茫然自失といったところだ。

 どうしたら間に合うと言うんだ。それに、間に合ったからといってどうするんだ。そう思った。


 アリアの言葉を聞いてパーヴィーは、


「王都で暮らしていたときも思ったけれど、人間って本当に諦めが悪いよね」


 そう呆れたように言った。今見たとおり俺はそうでもないから人によると思うぞ。


 彼は続けて、


「ロードは慌てていたのか、僕に留守番していろって言わなかったからね。よかったら王都まで送ってあげるよ。でも、僕も速さには自信があるけれど相手はロードだからね。ちょっと追いつけないかもしれないな」


 王都の絶体絶命の危機なのに、相変わらずなんだかのん気にそう言っている。


 パーヴィーに送ってもらうのを諦めるとなると、あとはベルティラのブレスレットの力で王都まで跳ぶしかない。

 だが、彼女を除くと行けるのは俺とあと一人か二人くらいだろうか。


(アグナユディテは一緒に行ってくれようとするだろうし、また前衛なしなのもな……)


 俺は王都の西の離宮で不安だったことを思い出した。

 あの時は相手が王国の兵士だったから、前衛のエディルナやリューリットがいなくてもなんとかなったが、魔法使いが護衛なしで戦うのってかなり無理がある気がする。


「では、途中までパーヴィーに全速力で送ってもらって、そこからベルティラの瞬間移動で王都まで跳んではどうじゃ」


 トゥルタークがそう言ってアイデアを出してくれた。やっぱり亀の甲より年の劫だ。


「さすがに七人となると、ここからは無理だが、魔力も増えたからな。おそらくチヤナカラ海峡まで行かなくても王都まで跳べるはずだ」


 ベルティラがそう言うと、


「海峡まででいいのなら、もっと速く飛べるかな。それでもロードには追いつけないかもしれないけどね」


 パーヴィーの言葉に俺は慌ててレビテーションの呪文を唱え、アグナユディテとベルティラと三人で彼の背中に乗った。


「じゃあ行くよ。しっかり掴まっていてね」


 パーヴィーはそう言うと大きく羽ばたき、西へ向けて一気に飛びだした。



 パーヴィーは最大速度で真面目に飛んでくれているようで、いつもの軽口は出て来ない。

 皆も彼の背中で黙って行く先を見詰めているようだ。


 俺は相変わらず目を閉じて彼の鱗にしがみつきながらも、これまでの出来事を思い返していた。


 すると今もあるストーリーが進む感覚。これがあるうちは大丈夫なのではないか、ゲームが詰んでしまった訳ではないのではないかと思えてきた。


 なんだか現実の異世界とゲームの世界をないまぜにしているようだが、そう思うことで俺は少しだけ気力を取り戻すことができそうだ。


 ベルティラが賢者の塔に瞬間移動してきて、同じようにエディルナが塔を訪れた。

 エルフの聖地では古竜王とコンタクトを取り、俺がその眷属であることを教えられた。

 王都に行くと王女様が行方不明になり、王宮ではアリアに、ドゥプルナムではリューリットと再会した。


 アグナユディテの『生命の人形』の使い方が分からずに困っていると、元はアンヴェルだったドラゴンのパーヴィーが俺たちの許を訪れた。

 パーヴィーに案内してもらい『生命の祠』に行って、そこで手に入れた『生命の石板』でカルスケイオスを支配していたエンシェント・ドラゴンを倒した。


 そして今、俺たちはドラゴンの背中に乗って王都を目指している。


 ここが『ドラゴン・クレスタⅡ』の世界だとすれば、ストーリーは間違いなく進んでいる。


(どれだけやり込んだと思っているんだ。『Ⅱ』も必ずクリアしてやる)


 そう思うことで、俺は精神的な再建を果たすことができたような気がした。


 そう思ってみれば、ロードとの戦いについても考えるべき点がある。

 俺たちがロードと戦えたという事実についてだ。


 ゲームにもよるが、『ドラゴン・クレスタ』のような初期のRPGでは、そもそもボスキャラと戦うためには、そのためのフラグが立っていなければならない場合が多い。


 レベルは別にしても、そいつを倒すために必要なアイテムや装備、重要な情報などが揃っていないとボスのいる部屋の扉が開かなかったりして、戦闘までたどり着けないのだ。


 必須アイテムのひとつはきっと『生命の石板』だ。

 初めて石板を見たときの奴の焦りよう、パーヴィーとの目を瞑っているという約束さえ忘れ、驚きの声を上げた。あれは演技などでは断じてなかった。


 これが奴を滅ぼすアイテムであることは間違いないはずだ。

 だが、どうすればそれが叶うのだろうか。


 そのために必要なのがもうひとつ、情報だ。奴を倒すための情報なんて、俺はどこかで得ているのだろうか。


 魔王を倒してからここまでを回想してみても、それらしいことは思い浮かんでこない。

 だが、どこかにあるはずだ。きっと本筋とは関係なさそうなエピソードに隠されたりして。


 俺がそんなことを考えているとベルティラが、


「そろそろ王都まで跳べると思う」


 そう言ってくれたので、俺は目を開けて彼女の手を握る。


「いくらロードでも、さすがにまだ王都には着いていないと思うよ」


 パーヴィーはそう言ってくれるが、急ぐに越したことはない。


 左手はパーヴィーの鱗をがっちりと掴んでいたので、アグナユディテは俺の左肩に手を添えてきた。

 そうして全員が数珠繋ぎになったところで、パーヴィーの、


「じゃあ。がんばってねー」


 という声が合図であったかのようにベルティラが右手を掲げ、俺たちは一気に王都へと跳躍したのだった。



 王都へ着いた俺たちは、手分けしてドラゴン・ロードの来襲を各所に知らせた。

 アリアは大聖堂へ、エディルナは冒険者ギルドに、リューリットはトゥルタークとともに魔術師ギルドに、そして俺はアグナユディテとベルティラを連れて王宮に乗り込んだ。


 王宮で俺は「伯爵のアスマット・アマンだ。女王陛下に火急の用だ。通らせてもらう」と言って、門も衛兵の詰所も押し通った。


「ここでしばらくお待ちを」とか言ってくる衛兵や文官もいたが、当然無視して進む。

 少ないながら盾や槍で実力阻止に出た者もいたが、そういう身の程知らずたちは俺の「スリープ」や、アグナユディテの「眠り妖精の砂」、ベルティラの「ダークネス・フォグ」の魔法で排除した。


 魔力がもったいないが、今は時間の方がより貴重だ。


 大きな扉を開け、俺たちは謁見の間に到着した。

 そのまま赤い絨毯を踏んで玉座を目指す。


 俺たちの殺気立った様子に武官たちが玉座を守るように立ちはだかり、文官たちが女王陛下を玉座から奥へ導こうとしている姿が目に入った。


 だが、女王陛下は玉座を立たれることなく、俺の話を聞いてくださるようだ。


「陛下! エンシェント・ドラゴン・ロードが、王都を焼き払うと言ってこちらに向かっています。奴は間もなく王都に到着してしまいます。すぐに全住民に避難命令を!」


 だが、謁見の間の反応は鈍い。確かにいきなり全住民の避難命令なんて、おいそれと出せるものではない。

 だが、事は一刻を争うのだ。


「すでにディヤルミアの町はドラゴン・ロードの襲撃によって壊滅しました。ディヤルミアでドラゴンは次は王都を襲うと宣言しています。そして、私は奴が王都へ向かうのを目撃しました。陛下、すぐに避難命令を!」


 俺の必死の訴えを、女王様は玉座から動かず聞いてくださってはいるが、さすがに事の重大さに判断を迷われているようだ。


 だがその時、以前聞いたよく通る大きな声が謁見の間に響いた。


「ディヤルミアの壊滅でしたら、バール湖畔の我が父からも未確認ながら情報が入っております。第二報を待っていましたが、伯爵もおっしゃるのであれば間違いないかと。そのドラゴンが王都に来なければ幸い。まずは住民に避難命令を出されるべきです」


 ハルトカール・フォータリフェン公子は女王様にそう進言してくれた。


 女王様は「では、すぐに住民に避難を命じましょう」とおっしゃり、謁見の間は俄かに慌ただしい空気に包まれた。


 女王様の許から、またあの侍女が俺のところへやって来て、「女王様はこの後、王宮のベランダにお立ちになります。その折には伯爵様にも、ご一緒いただきたいとのことです」と言ってきた。


 俺は侍女に承知の返事をして、すぐにハルトカール公子を捕まえた。

 お礼を言いたかったのもあるが、もしかしたら俺たちの知らない情報を得ているかもしれないと思ったからだ。


 だが、俺がお礼を言い「すでにディヤルミアの一件をご存じとは、驚きました」と言うと、彼はとぼけた顔で「何のことでしょう」と言い出した。


 驚きを隠せない俺に彼は、


「まさか『半神』である伯爵が嘘をおっしゃったわけではないでしょう。これでわが家は伯爵と一蓮托生(いちれんたくしょう)。父も褒めてくれると思いますよ」


 そう言って笑い出した。

 フォータリフェン公爵よりもその息子の方がさらに豪胆なのかもしれない。



 俺は侍女に四人の仲間がそれぞれ後から王宮に来ることになっていると伝え、彼女は別の侍女に彼らが到着したらベランダに連れてくるよう手配してくれた。


 俺たち三人は侍女に導かれ、王宮の建物の中を広場に面したベランダへと進む。


 歩きながら俺はフォータリフェン公爵のことを考えていた。

 俺はこれまで彼の情報収集力に驚かされてきた。

 そして、その的確な分析と迅速かつ大胆な判断に舌を巻いてもいた。


『ドラゴン・クレスタ』で彼は間違えない存在、その言葉に従っていれば正しい道を進める存在だった気がする。


 だが、このところの彼は精彩を欠いているように見える。

 いくらなんでも早すぎるとは思ったが、彼の息子の言葉も今回も所詮はブラフだった。


(やっぱりイベリアノか)


『Ⅱ』で『ドラゴン・クレスタ』での公爵の立ち位置のNPCを求めるとしたら、彼以外にはいないだろう。

 彼はすべての面でフォータリフェン公爵の上を行っていたと思う。


 ナヴァスター公爵の事件なんて、言っては悪いが彼を俺たちと接触させるためのイベントだったとさえ思えてくる。


「初めに戻って考える。縦の物を横にするように様々な角度から物事を見る」


 アドバイスを求める俺に彼はそう言った。それは今考えてみても、やはり安っぽいビジネスセミナーで言われるような内容だと思う。

 だが、彼が俺に残したものはそれだけだ。


(もう一度考えてみる必要がありそうだな)


 俺はそう思った。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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