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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第ニ章 カーブガーズの古竜王
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第七十話 二度目の接触

「パーヴィー! どうして分かったんだ」


 俺は確かにパーヴィーのことを考え、話を聞きたいと思っていた。だが、ただそれだけだ。

 会う約束をしていた訳でもなければ、ましてエルジャジアンの町に来ていることも知らせていない。


 だが、パーヴィーにとっては当たり前のことのようだ。


「だってアマンもドラゴンだよね。ドラゴン同士ならどんなに離れていても、本当に話をしたいと思って声に出せば、相手に伝わるよ」


 そう言って、逆に不思議そうにしている。


 いや、俺は人間なんだがと思ったが、やはりアルプナンディアが言っていたように、実体としての俺はドラゴンのようだ。

 どうやらそれはパーヴィーにも分かっていたらしい。


 あのジャーヴィーとか言った赤い鱗のエンシェント・ドラゴンも、俺がドラゴンの眷属だと言ったら、それ自体は否定しなかったから、彼にも分かっていたのかもしれない。


 そうしてパーヴィーと話していると、パーティーの皆が集まって来た。


「パーヴィー。聞いてくれ。ドラゴン・ロードが……」


「パーヴィーさん。あなたにお願いが……」


 エディルナとアリアはパーヴィーの姿を見て、そう言って駆け寄って来た。二人とも(わら)にも(すが)る気持ちなのだろう。

 だが、それを制してベルティラが言った。


「それよりも、このままだと騒ぎになるぞ。まずはその姿をどうにかした方が良いのではないか?」


 冷たいようだが彼女の言うとおりだ。


 近くの町がドラゴンに襲われたのに、町の側にドラゴンがいたらパニックが起こりかねない。

 それでなくても空を飛んできたパーヴィーの巨大な姿は、多くのエルジャジアンの町の住民たちに目撃されているはずだ。


「ねえ。アマン。あったのは面白いことじゃなくてなんだか面倒なこと? じゃあ、僕は帰ろうかな」


 おまけにパーヴィーは相変わらずこんな調子だ。


「パーヴィー。とりあえずアンヴェルの姿になってくれないか。それからゆっくり話したいな」


 俺がそうお願いすると、それでも「うん、わかった」と言ってパーヴィーの身体が鈍い銀色に輝いて地上に降り立つ。

 そしてアンヴェルの姿になってくれた。


 俺は念のためと思ってアグナユディテに頼み、俺たちに「インビジブル」の魔法を掛けてもらった。

 程なく町から派遣されたのであろう衛兵がやって来て、ほんの少しの間、辺りを捜索していたが、すぐに別の場所へと去って行った。


 あんな大きなドラゴンは居れば見落とすはずがないと考えるだろうから、また、こことは別の場所を探すのだろう。


「秘密の会議だね。ワクワクするね。精霊魔法もすごいんだなあ」


 衛兵と押し問答になったり、下手をして同行を要求されたりすれば、パーヴィーが速攻で逃げ出しかねないだろうから、やはりアグナユディテにお願いして正解だったと思う。

 とにかく今は彼を逃がさないことが重要だ。


 俺はそう思ってエディルナとアリアに目配せすると、彼女たちもさすがにそれを悟ったのか、俺を見て頷いてくれる。

 当たり前だが二人とも顔色は冴えないが。


「パーヴィーはあの後、どうしていたんだい?」


 俺がそう聞くと、彼は少しつまらなそうに、


「うん。珍しくロードが出掛けると言うから、エレブレス山のロードの巣穴で留守番をしていたよ。いつもは面倒ごとは僕やジャーヴィーの奴に押し付けるのにね。あっ。アマンたちがジャーヴィーを倒してしまったから手が足りないのかも」


 パーヴィーは続けて、


「すぐにまた今度はもっと遠くへ出掛けると言い出したから、先に少しの間、僕がお出掛けしたいってお願いしたんだ。ついこの間まで彼の命令で三百年も人間の世界で暮らしていたのに、今度は退屈な留守番ばかりなんて、ちょっとひどいと思わない?」


 彼の言葉を聞いて、アリアはもう立っているのもやっとという様子だ。

 彼自身は気づいていないのだろうが、どうやら王都はひとまず彼のわがままに救われたらしい。


「じゃあパーヴィーが巣穴に戻らなければ、ドラゴン・ロードは出掛けられないのかな?」


 エディルナがそう聞くが、彼女の声は震えていた。


「どうかなあ? ロードは気まぐれだから。僕が帰らなくても出掛けちゃうかも。でも、そうなると後で怒られちゃうし。そうだ。アマンが呼ぶから遠くまで来ちゃったし、そろそろ帰った方がいいかな」


 そう言ってパーヴィーは首を傾げている。

 そんなことになったら大変だ。


「まだ大丈夫なんじゃないか。友だちに会ったから、もう少し居たいってロードに伝えられないかな。ドラゴン同士はどんなに離れていても話ができるって、さっきパーヴィーが言っていたじゃないか」


「伝えられないことはないけれど、それはね……」


 彼の答えを聞きながら、俺はそのことに気がついた。


「じゃあ、もしかしたら俺もドラゴン・ロードと話すことができるのかな?」


 俺がそう聞くとパーヴィーは、


「もちろんできるよ。でも、あまりお薦めはしないけどね」


 そう言って渋い顔をする。


「どうしてなんだい?」


「だってロードと話して面白いことなんて何もないもの。いつも面倒ごとを押し付けられるか、大人しくしてろって言われるくらいだから」


 エルフの聖地での会話を聞いただけではあるが、ドラゴン・ロードはハラスメント体質みたいだったから、話をして楽しい相手ではなさそうだ。


 だが、パーヴィーの答えを聞いて、エディルナとアリアの顔には明らかに生色がよみがえって来ていた。

 これまでいくら求めてもその方法がなかった古竜王との交渉が、まさかそんなに簡単にできるとは。


「実は俺たちはロードにお願いしたいことがあるんだ。ここにいるトゥルタークが三百年前、彼と盟約を結んだんだ。アンヴェルの家が絶えたことで、その盟約を破ったことになってしまい……、それで彼は次は王都を焼き払うと言っているんだ」


 俺がそう言ってもパーヴィーはあまり興味がなさそうに、


「ああ。僕も知っているよ。盟約の代償だよね。だって、その盟約のおかげで僕は三百年も人間の世界で暮らしたんだもの。アンヴェルが死んでしまった時も、あーあって思ったよ。

 でも、ロードもオーラエンティアの支配なんかして、どうするつもりなんだろう? 僕だったら罰ゲームは、人間たち全員でバール湖の水を飲み干してもらうとか、ディーヌ川をせき止めて王都の周りを水浸しにしちゃうとかかな。みんなもその方が面白いと思わない?」


 なんだか恐ろしいことを平気な顔をして言っている。ちっとも面白くなくて反応に困るのだが。

 ドラゴンの考えることは人間には非常識とアルプナンディアも言っていた気がするが、本当にそのとおりだ。


「じゃあ、俺はロードと話してみる。彼と話したいと念じて口に出せばいいんだな」


 俺の言葉に彼はまた渋い顔をした。


「えー。まあそうなんだけど。本当に彼と話すの。止めておいた方がいいと思うけど」


 パーヴィーはそう言うが、ドラゴン・ロードと直接交渉することは、これまでその手段がなくて散々悩んできたことだ。

 それがこんなに簡単に叶う方法があったなんて驚きだし、王都の危機が迫っているのだから、ここはすぐに交渉すべきだろう。


 俺は古竜王と話したいと念じて、少し大きめの声を出す。


「エンシェント・ドラゴン・ロード。聞こえますか? アスマット・アマンです」


 すると、すぐに俺の頭の中に響くように声が聞こえた。


(なんだ、いきなり。誰なんだ、お前は)


 どうも俺以外にはロードの声は聞こえていないようだが、それでも俺の反応で会話ができたことが分かったのだろう、パーティーの皆に喜びの表情が浮かぶ。


「はじめまして。あなたと以前、盟約を結んだ人間の魔法使いトゥルタークの弟子のアスマット・アマンと申します。以後、お見知りおきを」


 俺はひとまずそう挨拶するが、返って来たロードの反応はぶっきらぼうと言っていいものだった。


(ああ。あの盟約を破ったどうしようもない奴か。で、どうしてドラゴンのお前が人間の弟子なんだ。本当にドラゴンなのか?)


「はい。このようにロードともお話ができていますし、どうもそのようです。で、私の師のトゥルタークもロードとの盟約が守れなかったこと、大変反省しております。私が彼に代わって謝罪いたします」


(なんでお前が謝罪しているんだ。今さらそんなことをされても意味はない)


 ロードがそう言うが、俺もそのとおりだと思う。でも、俺はここで引き下がる訳にはいかない。


「おっしゃることはごもっともです。ですが先日、あなたの眷属である私を王国の伯爵にしていただきました。勝手な言い分で恐縮ですが、これを以て、三百年前の盟約が復活ということにしていただけませんでしょうか。そうしていただけると大変有り難いのですが」


 前世のサラリーマンのときだって、こんなに丁寧に謝罪したことはあまりなかった気がする。

 俺は救国の英雄のはずなのに、なんでこんなに情けない姿をアグナユディテやパーティーの皆の前に晒しているのだろうと考えてしまう。


 それなのに、ロードの答えはにべもないものだった。


(断る!)


 俺はグッと我慢して、彼から少しでも譲歩を勝ち取るべく重ねてお願いをする。


「では、先ほどの当方の対応に免じて、せめて王都を襲うことだけは思い止まっていただけませんか……」


(いやだ)


「王都の人々は日々平和に暮らしているだけで、ロードにご迷惑をお掛けすることはしていませんし……」


(ダメ)


「後日、トゥルターク自身にも直接、謝罪させますので」


(絶対、ダメ)


「そこをなんとか」


(うるさい)


 古竜王はそう言ったかと思うと、もう俺の話を聞く気がなくなったのか一切、反応がなくなった。


「あれ? ロード。聞こえていますか? 返事をしてください。お願いします」


 俺は何度も呼びかけたが、やはり反応はない。それを見ていたパーヴィーは、


「あーあ。たぶんブロックされちゃったね。面倒な相手からの連絡は、そうしておかないとかなわないからね。僕もジャーヴィーはブロックしてたし」


 そう残念そうに言った。


 確かにかなりしつこかったとは思うけれど、ブロックって。

 そんなものがあるのなら、先に教えてほしかった。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
― 新着の感想 ―
[一言] 駄々っ子かよw ☆\(゜ロ゜ ) 結局ロードもジャーヴィーと同じで、 話し合いできる相手じゃなかったな 戦って倒すしかないのか?
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