第五百五十七話 古竜集結
「アンヴェル。あなたも気がついていたのですね。何かがおかしいと」
俺がアンヴェルと握手を交わして悦に入っていると、アリアがアンヴェルに尋ねた。
確かに彼はそんなことを言っていた。
「ああ。あれ以来、騎士の詰所でも何度か気を失ったし、家でもティファーナに心配を掛けたことがあったからね」
その返事に俺は思わずぎくりとしてしまう。
「朝の日課にしている馬に乗って駆けて来た後、急に意識を失ってね。そうだ。あの時もアマンとユディが駆けつけてくれたんだったね」
彼はそう言ってくれて、俺を恨む気持ちなんてなさそうだ。
だが、俺がパーヴィーに呼び掛ける度に、彼は気を失ってトラブルが起きていたのだろう。
「あ、ああ。そんなこともあったな。時々、アンヴェルの依り代になっているドラゴンが意識を取り戻すことがあって、その影響だな」
俺はちょっと慌てたが、あれは俺のせいではなく、ランシムさんが不用意にパントロキジアに乗れなくなるなんて伝えたからなのだ。
だが、そこまで話したところで、俺は今回の本題である彼の依り代について説明していなかったことに気がついた。
「ドラゴンが僕の依り代になっているのかい?」
案の定、アンヴェルは驚いたようで、そう問い返してきた。
「ああ。申し訳ないが、もう肉体は滅んでしまっていたからな。ドラゴンに依り代になってもらったんだ」
随分と酷い言い種だと思うが本当のことだ。
さすがにアンヴェルもショックを受けるかなと思い、俺はチラリと彼を見たのだが、
「そうか。それなら致し方ないね」
なんて平気な顔をしていて、やはり彼は物事に拘らない大物らしい。
「それに生き返らせてもらったおかげで、僕はティファーナと一緒になれたのだからね。本当に感謝の言葉もないよ」
彼はさらにそう続けて俺の心を一気に冷めさせた。
ティファーナだってドラゴンと暮らしてるなんて知ったら、気持ち悪いと思うかもしれないぞなんて思ったが、そんなことは絶対にないんだろうな。
俺でさえ確信を持ってそう言える。
「い、いやあ。それほどでも……」
答えた俺の顔は引き攣っていたかもしれなかった。
皆のところへ戻るとアンヴェルはあっさりと、
「僕の依り代はドラゴンだそうだ。セヤヌス神の眷属としての資格があるみたいだから『聖域』へ行って宝珠を捧げてみるよ」
なんて自分がドラゴンであることを皆に告げた。
俺だったら「えっ? アマンってドラゴンだったの? キモッ!」とか言われたらどうしようって考えてしまいそうだが、彼にはそんな懸念はないらしい。
「そうなると残りは二頭だね」
エディルナも気にする様子もなくそう返すが、本人を前にして「二頭」とか動物扱いはどうかと思う。
俺もそのうちの一頭だから余計にそう思うのかもしれないが。
彼女の指摘にララティーが、
「ユディには心当たりがあるの? あと一頭」
そう尋ねたのにエディルナも頷いていたが、二人が考えている残り一頭は違っているはずだ。
「ええ。でも、まずはクルーブの町ね。アマン。すぐに行くのでしょう?」
俺は「ああ」と答え、
「ベルティラ。クルーブまで頼む」
続けて瞬間移動を依頼した。
「どうしてクルーブなのですか? まさか我が主はダークエルフでもああいった子どもを産んだ女性が……」
ベルティラは相変わらず何か勘違いしていたが、ペルティリャがあっさりと、
「私のお母さまはドラゴンを依り代としているのです」
ベルティラにそう告げたので、俺は慌ててしまった。
「皆に教えていいのかい? その、お母さんがドラゴンだってこと」
ペルティリャに尋ねると彼女は一瞬、考えていたがすぐに、
「はい。ご主人様にいただいた生命です。お母さまも理解してくれるはずです」
そう答えてくれた。
どうもこの世界の人たちはドラゴンが依り代であることにそこまで違和感を抱いていない気がする。
やっぱりゲームの世界だからか?
瞬間移動で戻ったクルーブの町で、ペルティリャの母親はすぐに俺の申し出を受け、聖域へ赴いて宝珠を捧げることに同意してくれた。
「私もペルティリャもお世話になってばかりで心苦しく思っていたのです。是非お手伝いさせてください」
彼女はそう言ってくれて、現実世界の俺よりも礼儀正しい常識人て気がする。
相手はダークエルフだから「ふははははは! この大陸の人間どものことなど知ったことか! 断る!」とか言われたらどうしようと思っていたのだが、単なる偏見に過ぎなかったようだ。
「よし。さっさと戻るか」
俺はそう言って左手をアグナユディテに差し出した。
彼女もペルティリャたちもさすがにお互いに手を繋ぐのには抵抗感があるらしく、親子二人はベルティラの向こうにいた。
だが、アグナユディテは俺の差し出した手を取らず、
「アマン。このまま戻って大丈夫なのかしら?」
なんて不安そうだ。
「大丈夫って?」
俺の答えに彼女は呆れた顔を見せる。
このパターンは本当に多いから、俺はもう慣れてしまってあまり悪いと思わなくなってきた。
「だってアンヴェルの依り代のパーヴィーと彼女の依り代のジャーヴィーは仲が悪いでしょう。そのために船でも苦労したんじゃない」
言われてみればそのとおりだ。
アンヴェルには船首に近い部屋からあまり出ない窮屈な船旅をお願いすることになったのだ。
「そうだな。どうしよう?」
ジャーヴィーの方は何とかなりそうだが、ララティーたちの世界でもパーヴィーはジャーヴィーと一緒に居たくないと言ってララティーを放って逃げ出したのだ。
この世界でもロードは滅んでしまっているからパーヴィーに言うことを聞かせることは至難の業だろう。
「ララティーが使っていたペンダントならドラゴンを抑え込めるんじゃない?」
「ああ。あのコーンウィルジーからもらったやつか?」
アグナユディテの意見に俺は半信半疑って思いだった。
あのペンダントの効能は定かではないが、所有者が意識を失うことなくドラゴンに変化できるってもののようだ。
「ええ。あれを使えば相手はアンヴェルだから話が通じるのではないかしら?」
その論だとパーヴィーは話が通じないってことになりそうだが、予測不能であることは確かだ。
いきなりドラゴンの姿になって何処かへ飛んで行ってしまうなんて、如何にもありそうだし。
「そうか。でもララティーがあれを渡してくれるかな?」
俺はどうも彼女は苦手なのだ。
ずっと偽者扱いされてきたし、彼女は王女なのにちょっとデリカシーに欠ける点があると思う。
俺はこう見えて結構、繊細だからな。
「そこは私からお願いするわ。きっと大丈夫よ。ペンダントを貸す相手はアンヴェルなんだし」
アグナユディテは自信がありそうだし、彼女の頼みならララティーは聞いてくれそうだ。
しかも尊敬すべき「アンヴェル王」にお貸しするのだとあれば、否やはない気もする。
相手が俺だったら拒否されそうだけどな。
「よし。それじゃあ戻ろうか」
そう言った後、俺はペルティリャとその母親に瞬間移動が終わったら少し俺たちと離れていて欲しいとお願いした。
「アンヴェルの依り代のドラゴンはジャーヴィーの奴と仲が良くなくてね。顔を合わせるとまずいかもしれないんだ」
俺は正直に本当のことを伝えたが、二人とも特に苦情を漏らすこともなく。
「そうなのですね。ドラゴンの世界も難しいのですね」
なんて理解を示してくれる。
こうなるとさっさと本当のことを言っておけば良かったって気もするが、それこそ重要な個人情報の開示だからな。
いや、俺が小心者なだけか。
「ララティー、ディヤルミアの西の祠で手に入れたペンダントを持っている?」
ペルティリャの母親を連れて元の場所へ戻ると、アグナユディテはすぐにララティーにペンダントについて尋ねてくれた。
「ユディ、おかえりなさいって、いきなりどういうこと?」
アグナユディテも乱暴だなって気がしたが、彼女もあまりララティーと長く会話を交わしたくないのかもしれない。
ララティーとは俺以上に話が噛み合わないことが多かった気がするからな。
「ペンダントよ。あのドラゴンに変化する時に使う、色の変わるペンダント。持っていないの?」
アグナユディテの剣幕にララティーは驚いたようだが、それでも相手が魔王を倒した英雄だからだろう、不愉快な顔を見せることもなく答えてくれる。
「もちろん持っています。でも、もう使えないんだけど」
ちょっと淋しそうに言った彼女にアグナユディテは、
「それをアンヴェルに貸してあげてほしいの。アンヴェルはドラゴンを依り代としているでしょう。だからきっと役に立つと思う」
やっぱりかなり乱暴なことを平気な顔で告げていた。
プロメイナが持っていた先を見透す紫色の水晶球だったら、その人の為だけに与えられるものだから、そう易々と人に貸したりできないと思うぞ。
「えっ。アンヴェル様に?」
だが、やはりララティーたちにとってアンヴェルは特別な人のようで、彼になら宝物であるペンダントを貸すことも特に厭わないようだ。
「アンヴェル様がドラゴンと深い関係があるなんて。やっぱりさすがは王の血筋なのね」
彼女はそう言って俺の方を冷たい目で見てきた。
彼女からしたら俺はアンヴェルが即くべき王位を簒奪した悪者ってところなのだろう。
アスマット・アマンなんてどこの馬の骨とも分からない魔法使いだからな。
でも、俺がそうしたわけじゃないし、それに俺だってドラゴンとはとても深い関係にあるのだが。




