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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第八章 新大陸
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第五百五十六話 生存の真実

「町の側に棲みついていたドラゴンです。倒さねば人々が安心して暮らせませんよ」


 ヨランが弁解していたが、彼女の言うとおりだろう。

 普通は倒すことができないから、何とか共存と言うか怯えながら暮らすのだ。


「あれのおかげで周辺の町の住民たちが私たちを見る目が大きく変わったのよね」


 ヨランの言葉に力を得たのか、ララティーも先ほどまでとは打って変わって自慢気だ。


「いや。でも滅ぼす必要はなかったんじゃないか?」


 シナリオとしてセヤヌスの眷属であるドラゴンの助力が必要なのだから、こてんぱんにやっつけておいて許してやるくらいの余裕が必要なのだ。


「アマンに言われたくはないね」


 アデーレが言ってきて俺はどう言う意味だって思ったが、言われてみれば身に覚えがあり過ぎる。


 俺にララティーのやらかしを責める資格はなさそうだ。


「でも、そうは言ってもどうしたらいいのかね?」


 俺に嫌味を言ってきたアデーレにも妙案があるわけでもないらしく、そう続けて困ったって顔を見せる。



「あの。ララティーさんがドラゴンになられては如何でしょうか?」


 黙り込んだ皆に向かって遠慮がちに意見を述べたダークエルフの女性はベルティラ……じゃなくてペルティリャだった。


 かなり慣れたつもりでいたが、やっぱり彼女は子どもだって先入観があるから、いきなりだとちょっと面食らうのだ。


「私の中ではドラゴンと言えばララティーさんですから」


 ペルティリャの発言に皆の注目がララティーに集まる。


 確かにこことは別の世界から来た彼女たちにとってドラゴンと言えばララティーだろう。


 でも、そう考えて俺は彼女はドラゴンについて別に悲しい記憶を持っているはずであることに気がついた。


「そうね。ララティーはドラゴンになれるものね」


 アグナユディテが優しい声でそう言った後、俺の方をじろりと見たのは、余計なことを言うなってことだろう。


 俺はそう思って黙っていたのだが、皆の視線を集めたララティーは、


「あの。それがね。この世界へ来てからドラゴンになれないの。皆にも協力してもらって何度も試したのだけれど……」


 焦った様子でそんな答えを返していた。


 考えてみれば元の世界での彼女の最大の武器は、ドラゴンへの変化だった。

 最強の魔獣であるドラゴンに姿を変え、その力で敵と戦ってきたのだ。


 この大陸へ来て敵と対峙する中で使ってみようとしたのだろう。


「やはり三百年前の世界では、あの魔法は使えないのではないでしょうか?」


 ヨランは原因をそう考えていたようで、その認識はララティーたちにも共有されているようだった。


「そうね。三百年前だし、そもそも元の世界とはかなり違いがあるものね」


 ララティーがそう言ってアンヴェルを見たのは、彼が王になっていないってことだろう。


 彼に分かるはずもないのだが。


 だが、彼女がアンヴェルを見たことで、俺はあることに気がつくことができた。


「アマン。そうなの?」


 そしてアグナユディテが俺に尋ねてきたのも、別の理由があるんじゃないかと思ったからだろう。


「ああ。そうなのかもな。俺に分かるはずもないけどな」


 自分で言っていて白々しいなと思うけど、ここで「あれは俺が呼び掛けないとダメなんだ」とか言うのは勘弁してほしい。


(ほかにも影響があるしな……)


 俺が考えたのは、この世界ではパーヴィーはアンヴェルの依り代になってしまっていることだ。


 そう考えるとララティーが依り代になっていたあちらの世界のパーヴィーが、ペルティリャの母親の依り代になっているジャーヴィーと出会い、ララティーの身体から逃げ出したのは幸運だったのだろう。


 パーヴィー同士がこの世界で出会ったらどうなるかは定かではないが、良い影響があるとは思えない。


 俺もセヤヌスから、あの世界の『アスマット・アマン』には会いに行くなって言われたしな。


(パーヴィーに俺に、あとはペルティリャの母親か!)


 俺はそんな目算を立てたが、そうなるとこの世界のパーヴィーと、別の異世界から連れてきたジャーヴィーに協力してもらうことになる。


「ペルティリャ。ペルティリャのお母さんはクルーブの町にいるのかな?」


「あ、はい。あの町で私の帰りを待ってくれています」


 俺のいきなりな質問にペルティリャは素直に答えてくれたのだが、


「我が主よ。どうして彼女の母親なのですか? ダークエルフならここにこの私もいるではないですか?」


 なんてベルティラが俺を責めるように言ってきたのには閉口した。

 俺が協力を必要としているのはダークエルフではなくてドラゴンなのだから。

 

「いや。彼女はドラゴンを依り代としているんだ。だからそのドラゴンに協力してもらおうと思うんだ」


 俺はそう皆に説明しようとした。

 でも、そこで現代日本人の意識がふと頭をもたげた。


(これって重要な個人情報の開示ってやつなんじゃないか?)


 現実世界にドラゴンを依り代にしている人なんているはずもないが、もしそういう人がいたとしたら、それを皆に知らせていいかと聞かれたら微妙な気がする。


 俺の勤め先でも情報漏洩にはやけに厳しいし、それでなくとも自分がドラゴンを依り代にしているなんて知られたくないかもしれない。


 勝手にアウティングとかしてはいけないのだ。

 くどいようだが現実の世界にはそんな人いないんだけどね。


「いや。彼女の母親に協力してもらってだな……」


 俺の中途半端な回答ではベルティラが納得するはずもなく。


「協力なら私がいくらでもいたします。それこそ身も心も捧げ……」


「アマン! それならまずはアンヴェルじゃないの?」


 俺がベルティラに詰められそうになっているところを、アグナユディテが珍しく救ってくれた。


 考えてみれば俺以外で、エンシェント・ドラゴンを依り代としている人がこの大陸に三人いるって知っているのは彼女だけだろう。


 もちろんララティーたちは元の世界でジャーヴィーの背中に乗って王都消滅の難を逃れたからペルティリャの母親がそうだと知ってはいる。


 でも、彼女たちは逆に俺やアンヴェルのことは知らないのだ。


「そうだな。アンヴェル。ちょっといいか?」


 俺が呼び掛けると彼は驚いたようで、


「いや。構わないが、いったいどうしたんだ? ここではできない話なのか?」


 なんて尋ねてきた。

 俺は別に構わないんだが、あなたの秘密に関わることですからって言っても分からないよな。



 俺は迷った末にアンヴェルと一緒にアリアに馬車の陰になる場所まで移動して来てもらった。

 俺の言葉の信頼度は何故か低い気がするから、アリアに助力を願ったのだ。


「アンヴェルは『生命の祠』で意識を取り戻した時のことは覚えているよな?」


 馬車の陰だから視界も完全には遮られていないし、耳の良いアグナユディテなら俺の声は聞こえるかもしれない。


 でも、ララティーやほかの兵士たちもいる中で話すべき内容とも思えなかった。


「ああ。もちろんだ。あの時は皆に本当に迷惑を掛けた」


 彼は申し訳なさそうな顔をしたが、それは問題ではない。


「賢者アマン。アンヴェルに本当のことを教えるのですね?」


 アリアは俺の考えを察してくれたらしく、自ら説明役を担ってくれた。


「アンヴェル。あなたはカルスケイオスで生命を落としたのです。私たちはあなたをその地に葬り、一度王都へ戻った上で改めて魔王バセリスを倒した。それがあの時に起きたことです」


 アンヴェルは黙って聴いていたが、さすがにすぐには信じられないのだろう、反論してきた。


「いや、僕はこうして生きている。神の御下へ旅立った者を呼び戻すことはできない。だから与えられた生命を精一杯生きるのだと常々教えてくれているのはアリアじゃないか」


 そりゃあそう思うよなと俺は思ったのだが、


「だが、アリアがそう言うのならそれが真実なのだろう。いや。僕も何かおかしいとは思っていたんだ」


 アンヴェルはすぐに静かにそう言って何度か頷いた。

 やっぱりアリアに来てもらって良かったよな。俺なら嘘つき扱いされて終わりだなと思った俺にアンヴェルは、


「そしてアマンがそうしてくれた。そうなんだな?」


 俺に向き直ると真っ直ぐに俺の目を見て、そう訊いてきた。


「い、いや。俺は何もしてないから……」


「そうです。賢者アマンがアンヴェル、あなたを甦らせたのです。人には禁忌とされるあの場所を訪れて」


 俺の弱々しい反論とは逆に、アリアは力強くアンヴェルの言葉を肯定した。


「そうか。まさに奇跡だな。そしてそのおかげで僕はこうして生きている。アマンには感謝してもしきれないな」


 彼はそう言って頭を下げた。


「いや。俺は本当に何もしてないんだ。それをしたのはパシヤトさんで……」


 アンヴェルに改めてお礼を言われて、俺は焦ってしまう。

 だって彼は俺が青春を捧げた『ドラゴン・クレスタ』の主人公の英雄騎士なのだ。


「賢者アマン。謙遜も過ぎると美徳ではありませんよ」


 アリアが珍しく俺を諭すように言ってきて、俺はますます慌ててしまう。

 でも、彼女は笑みを見せていて、俺にもっとこのことを誇るべきだって言いたいようだった。


「そうだな。でもアンヴェルは俺の仲間だからな。当たり前ことをしただけだって、俺は思っているから」


 本当にそうなのだ。

 俺が十代のころに最も親しくしていたのは、彼らPCたちなのだから。


「そうか。ならば僕もこれからもアマンの仲間として、できることは何でもするよ。ありがとう」


 アンヴェルはそう言って笑みを見せると右手を俺に差し出してくれた。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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