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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第八章 新大陸
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第五百五十一話 大艦隊出現

「陛下!」


 ポーンと傀儡の来襲に備え、突貫工事で町の前に空堀を作ったり城壁を補修したりしていた俺の前に突然、ランファートが姿を見せた。


「ああ。ランファートか。どうして町にいるんだ?」


 彼は無用の混乱を招かぬよう、『サンタ・アリア号』を沖に停泊させていてくれたはずだ。


 港に入れたらこの大陸から逃げ出そうとする人が殺到してパニックになるかもしれなかった。


「それが、大軍が現れたのです!」


 いつも冷静な彼らしくない報告だ。


「もうポーンがって、ええっ! 海の方からか?」


 考えてみれば奴らは空を飛べる。


 これまで律儀に傀儡どもと進軍をともにしてきていたが、最後になって俺たちを包囲しようと背後である海に回ったのかもしれなかった。


 俺はそう考えて背筋に冷たいものを覚えたのだが、


「ポーンではありません。大艦隊が現れたのです!」


 俺は彼の言っていることが理解できなかった。


「大艦隊って。そんなのどこにあるんだ?」


 この大陸はずっと閉ざされていて、北に俺たちの大陸があることさえ知られていなかった。


 陸地の側で魚を獲る漁船くらいならあるかもしれないが、彼がそれを指して「大艦隊」なんて言うとは思えない。


「アマン! 船だよ! 船が来るよ!」


 エディルナもやって来て俺にそう告げたから、どうやら本当に船が現れたらしい。


「とりあえず行ってみるか」


 俺は周りにいた仲間たちと港へ向かったのだが、沖に現れた艦隊は既に町の噂になっていたらしく、港への道はごった返していた。


「私もアマンたちのところまで戻るのは大変だったからね」


 エディルナは人の波を見ながらそんなことを言っていたが、俺は真面目に防御施設を設置していたのに彼女は何をしていたんだろう?


「大陸中の人が集まっていますから」


 アリアはここでも病や怪我に苦しむ人たちを魔法で癒してくれていた。

 多くの人が集まる町で疫病でも発生したら大ごとだからな。


「仕方ないな。レビテーション!」


 俺はいつもの要領で皆を浮かべる。


「はい。インビジブルね。それから風の精霊に呼び掛けるから」


 アグナユディテも慣れたもので、俺が竜巻系の魔法を発動するまでもない。


 俺たちはゆっくりと港へと近づいて行った。


「あれです!」


 ランファートの声に沖を見ると、確かに驚くほど多くの船が海に浮かび、こちらに舳先を向けてやって来ているようだ。


「わたしたちの船に似た作りだね」


 エディルナはそんなことを言ったが、俺には船なんてどれも同じように見える。


 まあ『サンタ・アリア号』と同じタイプの帆船であることは間違いない。


「あの紋章は、シャンルーファ王国のものじゃないかしら?」


 アグナユディテが指差したのは先頭近くにいる船で、その帆に何か紋章のようなものが描かれているらしい。


「いや。それは別の世界の話だろう? シャンルーファ王国なんてもう存在しないし」


 この世界ではプロメイナがアルスウィードを統一した際、シャンルーファのステファダ王は捕虜となって退位した。

 その後の紆余曲折を経て、今はシトラがクリュナミアの力を借りながら彼の地を統治しているはずなのだ。


「でも、あの紋章はきっとそうよ。アマンも見覚えがあるでしょう?」


 俺は別の異世界でグリフィンの紋章の付いた馬車に長い間、お世話になったのだ。

 もちろんその紋章は覚えてはいるのだが。


「いや、グリフィンの紋章なんてありふれているじゃないか。この大陸にもそんな貴族がいるかもしれないし」


 俺はそう答えつつ、それはあり得ないなって気がしていた。


 この大陸では人間は被支配層で貴族階級なんて存在しない。


 そしてポーンや傀儡が船を操っていると考えるのも不自然だ。


「あの獅子の紋章はクリュナミアのものじゃないか? アマン。援軍が来たんだよ!」


 今度はアンヴェルが貴族らしく船のマストに掲げられた旗に紋章があることを教えてくれた。


 確かに翩翻とひるがえるその旗に描かれた紋章は獅子のように見える。

 こちらはプロメイナにベラヴィーンから来る手紙とか、彼女の手回りの品などに記されているから俺にも見覚えがあった。


「えっ。えっ。どうしてクリュナミアやシャンルーファの船が来るんだ?」


 こうなるとさすがに援軍の到着を頭から否定することは難しい気がしてきた。

 俺にはちょっと理解不能だが。


「アマンが知らせてくれたんじゃないの?」


 アグナユディテが不思議そうに尋ねてきたが、残念ながら俺の手柄ではない。


 そもそもこの大陸はオーラエンティアやアルスウィードのある北の大陸からは遠すぎて、女神たちとさえ交信ができないのだ。


 面倒を避けたいメーオの策略って疑いは拭えないが。


「いや。俺じゃないけど。でもそうなると誰が知らせたんだ?」


 一瞬、ティファーナが俺がいつまでも帰らないのに業を煮やして船で皇宮へ連れ帰りに来たのかと考えてしまったが、それならあんなに多くの船団は必要ないよな。


 まさかあの船の中には大量の未決裁の書類が……なんてこともあるはずもない。


「もう船が港に着くから、直接聞けばいいじゃないか」


 エディルナの意見はもっともで、こんなところでいらぬ想像を巡らしたところで、真実に近づくことなどできはしないのだ。




「おどろいた。本当に援軍だな」


 自分で援軍が来たと言っていたアンヴェルも、船から重武装の兵たちが続々と降りてくるのを目の当たりにし、言葉を失っていた。


「皇帝陛下。臣ジョバターキ、ただいま参上いたしました」


 上陸してくる兵たちを眺めていた俺に、銀色の鎧を揃えた部隊が近寄って来たかと思うと、その先頭にいた指揮官が突然、挨拶をしてきた。


「えっ。ジョバターキ将軍……なのか?」


 呆気にとられ「どうしてここに?」と聞くこともできない俺に向かって将軍は片目を瞑ってみせる。


「はい。イアーク・アラガンの奴もおりますぞ。陛下の危機と聞き、嬉々として駆けつけました」


 相変わらずのふざけた物言いだが、彼の変わらぬ様子に、俺は何となく安心感を持った。


「ジョバターキ。陛下に失礼ではないか。それに勝手に謁見を賜わるなど、殿下に叱られるぞ」


 彼の後方から背の高い将軍がやって来て、それは間違いなくイアーク・アラガン将軍だった。


「えっと。殿下って?」


 彼らがそう呼ぶ人物なんてほとんどいない。


「私は叱ったりしませんわ。苦情を言わせていただくならアマンにですし」


 イアーク・アラガンの背後には簡素ではあるが戦場には不釣り合いなドレスを着た女性の姿があった。


「プロメイナ!」


 どうしてこんなことになっているのか理解不能だが、エディルナの言ったとおり、ここは彼女たちから事情を聴くしかなさそうだった。




「アドゥーアの聖女から報せがあったのです。このままでは南の海から恐ろしい怪物が大挙して現れ、大きな被害が出ると」


 クルーブの町の政庁に場所を移し、艦隊を率いてここまでやって来た理由を尋ねた俺にプロメイナはそう答えた。


「アドゥーアの聖女って?」


 俺には心当たりがあったから黙っていたが、エディルナはプロメイナに尋ねていた。


「パサルの大寺院にいるトラコーン侯のご息女ですわ。神聖魔法の使い手で、最近では『聖女』と呼ばれているのです」


 エディルナも足を挫いたお婆さんを案内しつつ大寺院を訪ね、二人に会っているはずなのだが、そこまでの印象はないらしい。


「ああ。あのお二人か。息災なのだな」


 リューリットの記憶に残っているのは、彼女が二人を襲った暴漢を捕らえたからだろう。


 俺にはもちろん強烈な印象が残っているぞ。

 その多くは別の異世界でのものだけどな。


「セルティア様があの力を得たと言うの?」


 アグナユディテには分かったらしい。

 だが、俺の認識とは微妙に差異があった。


「セラディア様ですわ。彼女は『海の彼方、遥か南の地、シューアギアンの美しき山に似た稜線の麓の町に数奇な運命(さだめ)に抗わんとする英雄王がいる』と教えてくれたのです。その方とともに戦って禍いを未然に防ぐべきだと」


 アグナユディテは絶句していたが、気持ちは分かる。

 あの悪役令嬢が『先を見通す力』を持っただなんて悪夢としか言いようがない。


「アマンのことだとすぐに分かりましたわ。私が置いていかれたのも、きっとこのためだったと。やはり私とアマンは運命で結ばれているのです!」


 プロメイナは話しているうちに興奮してきたのか、顔も上気したように赤くなっていた。

 でも、俺は冷静に、


「いや。俺のことじゃないな」


 そう返した。

 今度はプロメイナが絶句していたけどな。


「俺のことだったらその時点で水晶球が割れているはずだ。だからその英雄王ってのは俺以外の誰かだろう」


 心当たりはある。

 それはおそらくララティーのことを指しているのだろう。


 自分の暮らしていた世界が滅びを迎え、間一髪でその三百年前によく似た世界に転移して、そこに新たに現れた大陸で王位を目指すって、それを「数奇な運命」と言わずして何と言おう。


「そ、それもそうですわね」


 プロメイナもそれと気づいたらしい。

 彼女は二回も水晶球を壊しているのだから当然だよな。


 だが彼女はそれで落ち着きを取り戻し、さらに説明を続けてくれた。


「彼女は賢明にも父であるトラコーン侯を通じ、ベルに報告を上げてくれましたから。ベルもすぐに私に知らせてくれたのです」


 どうしてプロメイナなんだと思えるのだが、それは彼女が『姫巫女』として同じ力を持っていたことがあるからだろう。


「私はすぐにパサルに向かい、彼女から話を聞きました。部屋にあった水晶球を見て、すぐに彼女の予言は本物だと確信しましたわ」


 どうやら例の『時の女神の祠』を使ってパサルの町まで跳んだらしい。


 普段は人質だからクリユナマーレには帰らないなんて言っているくせに、パサルなら気楽に往復するようだ。


「それですぐにベルに頼んで、兵を出してもらいましたの。カスモート公国も出兵に応じてくださいましたわ」


「クロンビーエにまで声を掛けたのか?」


 何だか話が大きくなっているなと思ったが、彼女はすぐに掻き集められるだけの兵を港に集めて、船を出してくれたらしい。


 それにしてもセフィーリアは『先を見通す力』をセラディアが得たことには誰も気づかないようにすると言っていたと思うのだが、状況が変わったってことなのだろうか?


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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